神戸・須磨事件
無実の証明
付記
○「少年A ― この子を生んで」というA少年の両親の手記が出版されている。A少年の両親は文章を書くのは大の苦手のようで、ほとんどは森下香枝という編集者の手によるものだろう。
この手記からは、「良い子ではなかったが根は優しい我が子があんなことをするはずがない」という両親の心情が十分に伝わってくる。
しかし、その一方であえて事実に反することもたくさん書かれている。いかにもA少年が犯人であるかのように思い込ませる意図をもって。
たとえば
*「・・・捜査員がA少年を連行したとき、・・・筆跡の鑑定結果がまだ出ていなかった」 →すでに出ていたのは前述の通り。
*「Aが犯行声明文を・・・封書をとめたテープ」→ 無関係なので返却されていたのに。
*「ひからびた、猫の舌のビン詰め」→ そんなものはなかった。
*「犯行ノートが机の引出しから押収された」→ 両親の記憶にはない。
* 等々・・・
すでに周知の事実に反することが、この他にいくつも、あたかも本当のことのように書かれている。まことしやかに書かれてはいても両親とA少年にしか分からない事実については、こちらでは検証のしようもない。
賠償金の支払いのために、ものを言えない立場の両親の弱みにつけ込んだ悪意のある偽りが、数多く含まれていると分かった上で読むことをお勧めする。
○ 97年3月の女児連続殺傷事件もA少年の犯行とされている。
しかし、この事件もB君事件と同様、冤罪の可能性が極めて高い。(いや言葉を正確に使おう。B君事件は間違いなく冤罪である。)
○ 3月事件で殺害された彩花ちゃんの傷は、頭部左側の広範な陥没・粉砕骨折で、「背後から棒状の凶器で左から右に(水平に)振り回して打ちつけた。」「一撃で粉砕骨折する程の強い力で殴打するには、利き腕を使ったとみる方が自然で犯人は左利き」。「重傷を負った女児の傷は腹部右寄り。正面から襲われたとすると、犯人は刃物を左手に持っていたとみられ、左利きの同一犯」と、報道されていた。
しかし、A少年は右利きであり、凶器もハンマーとされた。しかも“そのハンマーの柄を上着の袖口に入れ、鉄の部分を右手で握って、数回殴打した”と調書にはある。そんな格好で殴ろうとしても、柄の部分が腕につっかえて力がはいらない。しかも一度殴られた瞬間に被害児は倒れかかるか、逃げようとするはずで、一度目と同じ所は殴れない。彩花ちゃんの骨折の形状に、凶器の形を合わせようとしたものと思われる。
また「犯行メモ」なるものがA少年の机から押収されたと言われているが、両親にはその時の様子についてはっきりした記憶がない。
その犯行ノートは、押収された全てのもののうち、唯一の有効な物証であるが、A少年は6月28日早朝、父親から「おーい、警察の人がお前に話が聞きたいいうて来とるぞ」と起こされ、「うーん」と寝ぼけ眼でモソモソと着替えて来た、という。(自分が犯人にされるなどとは夢にも思っていなかったのだ!)
もしもA少年が真犯人なら、たった4日分の短いメモしか書いていない犯行ノートのページをとっさに破って処分しようとは思わないだろうか。A少年は中学でノートの紙を食べてみせたことがあるというのに。捜査員は玄関で待っていたのだ。またその犯行ノートに「死因は、頭部の強打による頭蓋骨の陥没だったそうです・・・」と書かれているが、あまりに専門的用語でまるで警察官の報告書のようではないか。
↓
犯行ノートは、捏造の可能性がじゅうぶんにある。
さらに、今や冤罪が確実の5月事件で使われたとされる、金ノコギリと同じ向畑ノ池から3月事件の凶器とされるハンマーが発見されていること。
などが3月事件も冤罪の可能性が非常に高いとする根拠である。
○「A少年が犯人でないのなら、なぜ真犯人はその後犯行を重ねないのか?」という疑問が出てくる。それについては次章で「不自然さのなかから見えてくる真犯人像」というテーマで考察したい。
不自然なことには理由がある。まして、非常に緻密に計画され、実行された5月事件には、真犯人の無駄な動きはない。一見、不自然に思える行動や文言のなかにこそ、真犯人の事情や意図が浮かびあがって見えてくるのだ。
**************************************
◇この章の執筆にあたっては、「事実」において、正確を期したつもりですが、記憶違い、読み違いが全くないとは思いません。誤りを指摘されて改めるのにやぶさかではありませんので、お気づきの方はお知らせ下さい。
ただ、新聞報道等についても一応は把握したうえで、「事実を伝える情報」と「操作のための情報」を見極めたつもりですので、「新聞にこう書いてあった」というだけの御指摘では訂正することはないと申し添えておきます。なお、内容の性格上、この章と次章における責任は、私個人にかかるものとして御理解下さい。
◇「神戸事件の真相を究明する会」の方々の、事件当初からの現場に密着した調査に基づくA少年犯人説への疑問はとても参考になりました。「究明する会」と「革マル派」とのつながりがウンヌンされていますが、それがどうであれ彼らの問題提起がなければ、この事件の真相は明らかにはならなかったと思われます。
私は、「A少年は無実」というところでは、彼らと全く同じではあるものの、その他のことについては次章以降において大いに異なる見解を提示することになりますが、違いを越えて、この事件における共通の目的(A君の無実を広く明らかにし、A君とその御家族を今の状態から救い出すこと)に向けて、ともに進んでいきたいと願っています。
この場を借りて、「究明する会」の方々への敬意と感謝の気持ちを申し述べます。とりわけ、KさんとSさんからは、個人的にも多くの御教示を頂きました。重ねて感謝いたします。
神戸・須磨事件の真実を求める市民フォーラム
飯沼 正晴
*『真相』 早稲田出版/ 安部 治夫・監修 小林 紀興・編
*「神戸小学生惨殺事件の真相」第一集〜第七集/神戸事件の真相を究明する会 発行
*「命の重さ取材して」/産経新聞大阪本社編集局
*「暗い森」/朝日新聞大阪社会部編
* 少年「小学生連続殺傷事件・神戸からの報告」/毎日新聞大阪本社編
*「少年A犯罪の全貌」 文芸春秋/三月号
*「淳」 土師 守 著 /新潮社
*「『少年A』この子を生んで」 /文芸春秋社
*「それでも少年を罰しますか」 野口 善國 著/共同通信社
*「彩花へ――『生きる力』をありがとう」 山下 京子 著/河出書房新社
上へ
目次・TOP ページ