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☆図書館にでも行きましょうか。☆
☆図書館にでも行きましょうか。☆
最近ロクに更新していないので、又新たなコンテンツを立ち上げたりして。
万年金欠な小手鞠萌はよく図書館に行く訳ですが、そこでよく借りる本の中でも、面白かったり資料としてなかなか良い物を紹介するコーナーです(安上がり)。
因みに基本は“十九世紀”。本物のメイドさんが生きていた時代っすね。でも読んでいる本、かなり偏りあり過ぎです。しかも実はあんまり小説読まない事、バレバレ。大層なもんでは無いけれど、ある意味“裏ヴィクトリアン・ガイド”かも(^_^;)。
第一回〜第十回/第十一回〜第十五回/第十六回〜第二十回/
第二十一回〜第二十五回/第二十六回〜第三十回/第三十一回〜第三十五回/
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第五十一回〜第五十五回/第五十六回〜第六十回/第六十一回〜第六十五回/
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第九十六回〜第百回
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資料をまとめてみました。
→メイドさんに関する資料・一覧表
第十五回(2004.04.12現在)
若桑みどり『お嬢様とジェンダー』ちくま新書
副題は『――アニメで学ぶ男と女のジェンダー学入門』。ディズニーのアニメに登場する三人の“プリンセス”、『白雪姫』『シンデレラ』『眠り姫』を通じて、男女差別とジェンダー学を語る書籍。
下の『ガヴァネス』を借りる時に同じ棚にあったので、面白気な副題につられて暇つぶし用にと借りた書籍。前書きを見ると「おじさま」にも読んで貰いたいとか書いてありますが、内容がどー見たって女性向けなんで、「おじさま」連中は絶対読まない気もしますが、そういうツッコミはまあ置いておいて。“プリンセス”を中心に、メデイアの中に潜む女性差別に付いて論じているので、男性陣は耳が痛い事かと思われます。繰り返し繰り返し似た様なメッセージを述べているので、そんなにメッセージ性を強くガンガン言うと読者が引く気もしますが、一方では初心者向けに結構柔らかく簡単に書いている気もするので、あまり聞き慣れない“ジェンダー”を述べる為には、ガンガン五月蝿く言うのも仕方が無い事なのかも知れません。
最近“ヴィクトリア朝時代”関係の本ばっかりなので、その“お口直し”の為に借りただけなので、本当は紹介するつもりでは無かったのですが、所々“美しい召使い女”とかそんな感じの言葉があちこちで見られるので、一応紹介。実の所、この本で述べられている“プリンセス”とは、正に現在の“理想的な萌えるメイドさん(ドジであろうと完璧であろうと)”と似たり寄ったりなイメージなんですよ。少し引用すると……。
シンデレラに対する学生たちの批判はそれぞれに個性があるが、およそ四点にまとめることができる。
第一は、シンデレラが王子に愛されたのは彼女の何らかの人間的なよさのためではなく、身体と衣服の美しさという外見だったことへの批判である。第二は、シンデレラが身分が高く外見のよい男と結婚して社会的階級を上昇しようとしていた点では、継母や義姉と同じ価値観をもっていたにすぎない、という批判である。第三は、何ひとつ自分で努力せずにすべてを他人にやってもらったというその受動性への批判である。第四は、彼女が召使い女のように屈辱的な状況に甘んじていることである。その中でユニークなのは、シンデレラを「召使い女」の類型とみた批判だ。
(中略)
この学生たちには、そういう「美しい召使い女」が「玉の輿にのる」というストーリーは、しんから虫酸が走るのである。学生たちの批判している四つの点を裏返すと、彼女らが望んでいる愛のあり方はこうなる。
第一に、外見や身体の美しさだけではなく、人間の全体を愛してほしい。性的なオブジェ(小さい足)にされるのは耐えられない。第二に、自分は、外見や身分の高さではなく、人間としてすてきな人を愛したい。第三に、自分の力で運命を切り開きたい。第四に、召使い女になりたくない。
……だそうです。前述は正しくヴィクトリア朝時代から続く“家庭の天使”的な女性像であり、又現在の“理想的な萌えるメイドさん”像でもあり、後述は理想と現実が軋み始めた現在においての悲鳴じみた女性の本音であります。こう見ると、“メイドさん”なるものを理解するには、以外と“ジェンダー学”や“女性史”を勉強しなくちゃいけなくなりますね。
川本静子/著『ガヴァネス(女家庭教師)』中公新書
副題は『ヴィクトリア時代の〈余った女〉たち』。十九世紀の大英帝国では、未婚の女性がレディとしての体面を保ちつつ金銭を稼ぐ仕事は、住み込みの家庭教師であるガヴァネス以外には無く、しかも低賃金で雇われ、本来の仕事では無い縫い物をさせられ、その扱いはさながら家具の如く、上流階級のステイタスとしての只の添え物でしか無かった。そういったガヴァネスの歴史と歴程を、様々な資料と小説から論じた書籍。
上の本を紹介した後では、女性史絡みでもあるので、結構キツいネタではありますが、ある意味ではヴィクトリア朝時代を理解するには必要である、日本人からすれば特殊な存在“ガヴァネス”を知るには持ってこいの一冊。雇われた先ではそれこそ召使いの如く扱われ、召使いからも見下され、家の中では孤立し、だがその一方で、レディとしての自身の虚栄心から、他の職に就く事を考えようともしない彼女達の虚々実々を、分かり易く書いてあります。ガヴァネスがレディでありながら雇われた存在である以上、矢張り雇われているメイドさん絡みの話も幾つか述べられています。
上野千鶴子/著『家父長制と資本制 マルクス主義とフェミニズムの地平』岩波書店
マルクス主義フェミニズムの先駆者である著者が、マルクス主義フェミニズムの理論と分析から現在の女性問題に付いて述べた書籍。
実は“MaIDERiA”のブックコレクションで紹介されていたので、読み始めたのですが、かなり難しいです。その分読み応えもありますが。“資本論”も“家父長制”も“フェミニズム”も勉強した事が無く、単なる一趣味で読んだ私にとっては、難しい用語を交えた文章を理解するのに一苦労しました。諸問題をかなりビッシリと詳しく提示し論じていて、本格的にフェミニズムを勉強したい人にはお勧めします。
メイドさん関係は、直接的には『第三章 家事労働論争』内の『3・3 ドメスティック・フェミニズムの逆説』で少しだけ取り上げられていますが、全面的に目を通しておいた方が、ヴィクトリア朝時代のメイドさんに取り巻いていた環境を理解し易いかと思います。
L・C・B・シーマン、社元時子+三ッ星堅三/訳『ヴィクトリア時代のロンドン』創元社
フェミニズム続きなのもアレなんで、気分一新にヴィクトリア朝に戻りましょうか。題名そのまんまな内容で、ヴィクトリア朝時代のロンドンには何が存在していたのかを述べた書籍です。シーマンって言っても、人面魚ぢゃ無いよ(ぉぃ)。
ハードカヴァーですが、初心者向けです。ヴィクトリア朝全般のロンドンに付いて、簡単に書いてあります。各年代で変化が激しいヴィクトリア朝と言う時代を理解するには、やや簡単に説明している感がありますが、それでも必要とする知識を仕入れると言う事では非常に役に立ちます。
メイドさん関連では『第七章 家族の団欒』が該当します。この章では、中産階級の家族のどの様なものか述べていますが、三分の二程がメイドさんなど使用人に付いて書いています。特に後半の、とある日記魔の紳士の記録は、ヴィクトリア朝後期のロンドンで雑役メイドを雇うと言う事が如何に難しいかを物語っています。
第十四回(2004.04.05現在)
W.H.ホジスン、田沢幸男・他/訳『幽霊狩人カーナッキ』国書刊行会(ドラキュラ叢書)
最近全然小説読んでいないので、偶には何か読んでみようかと手にした、二十世紀初頭の怪奇恐怖小説。九つの短・中編が収められています。二十世紀初頭のイギリスを舞台にした科学対心霊現象もので、“心霊的探偵”であるカーナッキが友人に自分が体験し解決した事件を語ると言う体裁を取っています。
カーナッキが依頼される事件は、トリックによるものも実際に心霊現象であったものもありますが、真空管を使った霊的防御機械“電気五芒星”などの一応科学的な方法の他、シグサンド写本なる書物を引用したりと心霊的アプローチで事件を解決に導きます。やや強引ですが、科学と心霊両方の理論から合理的な解釈を下す所など、正に“心霊的探偵”の面目躍如って所ですね。でも、話の途中に、紹介していない事件の話を引用するなど、やっぱり『シャーロック・ホームズ』を意識してる様ですね。
フランソワ・オゾン/脚本、マリナ・デ・ヴァン/共同脚本、佐野晶/著、ロベール・トマ/原案『8人の女たち』BOOK PLUS
題名を見れば分かりますが、この小説は映画のノヴェライズです。でも映画は見た事が無いんですが。一応の粗筋を述べると、クリスマス・イヴに、雪に閉ざされた大邸宅で一家の主人の刺殺体が発見された。容疑者はその妻、妹、娘、メイドなど、主人を取り巻く八人の女性達。密室状態の屋敷の中で、推理小説好きな末娘を中心に犯人探しが始まり、疑心暗鬼の中、八人の女性達の秘密が次々に明らかにされていく……。
メイドさんは二人登場しますが、一人は素っ気無いお着せのおばさんですが、もう一人は可愛い衣装に身を包んだコケティッシュな娘さん! と言う訳で、このメイドさん・ルイーズさん関係から良さ気な部分を引用したいと思います。
………………
(中略)そこには美しい女が立っていた。小さな顔の輪郭は完璧なハート型、潤んで艶やかな瞳、小ぶりで細く可愛らしい鼻、まるでラファエロが描く天使のようだった。ただ、肉感的でセクシーな唇だけは天使のそれとは言い難かった。服装は黒いロングドレス。きっちりと編み上げたブロンドの髪の上に乗ったキャップとエプロン、そしてカラーがついた胸当てはすべて純白。間違いなくメイドの服装だったが、その布地はまぎれもなくシルクの光沢を放っていたし、足元の編み上げのブーツも高価そうだった。驚異的なほど細く見えるようにシェイプされたドレスは、シャネルの実用一点張りの服装とは明らかに違っていた。彼女の顔には何も浮かんでいない。ただ初めて紹介されるシュゾンをうつむきがちに見ているだけだった。だが、その表情には美しさだけではなく彼女のコケティッシュな一面が隠しようもなく現れているとシュゾンは思った。
「新しいメイドのルイーズよ」(初登場シーン)
………………
「大丈夫よ。注射で元気になるわ。ルイーズ、注射器が入ってる救急箱を持ってきて」
ルイーズはマミーの頼みをはねつけた。
「私がですか? 私はメイドですよ。看護士としては雇われていません」
「だって注射器を扱えるのはお前だけじゃないの」
なぜルイーズが注射を拒むのか、マミーにはさっぱり分からなかった。
「メイドの仕事は家事、洗濯、料理です」
「見殺しにしたら裁判所か、刑務所行きよ」
ピエレットの言葉に、ルイーズはますます態度を硬化させた。
「できないものはできません。判事に医者がつとまらないのと同じです」
ついにギャビーがしびれを切らした。
「ぶつくさ言わないで! 注射くらい打てばいいじゃない。メイドが偉そうにしないでちょうだい」
「差別するんですか?」
ルイーズの挑戦的な視線からギャビーは顔を背けた。
「命令なさるんですね。でしたら私は奥様に従うしかありません」(中盤、オーギュスティーヌが心臓発作で倒れたシーン)
………………
「どうすれば、その……、男の人を誘惑できるのかしら?」
「マルセルをどうやって誘惑したかを聞きたいの?」
「ええ、教えて」
身を乗り出すオーギュスティーヌにルイーズは艶然と微笑んだ。椅子から立ち上がると、その場でくるりと一回転する。シルクのロングスカートが大きく広がって持ち上がり、すらりと伸びた足があらわになった。
「いい? 女のセクシーな魅力は学ぶものじゃないわ。あるか、ないかなのよ。でも、まずその髪型を変えてみたら? それとそのメガネもね。外見を変えてみるのもひとつの手よ」(オールド・ミス風のオーギュスティーヌが後半印象を変える寸前のシーン)
………………
「この家はめちゃくちゃよ。女主人が軽薄で威厳のかけらもありゃしない。そのせいよ」
「私を批判するつもり? 使用人のくせに」
「旦那様に仕えるためにこの家に来たんじゃないの。あなたのためよ」
ギャビーは唖然としてルイーズを見ていた。
「なのにあなたにはがっかりしたわ。私なりにいろいろチャンスをあげたけど……。あなたは風格のない無能な女主人よ」(クライマックス寸前)
……登場する八人の女性達はそれぞれ個性的ですが、やっぱりルイーズさんは格別ですね。清楚でありながら可愛らしいお着せに身を包んだメイドさん、実は一番妖艶なキャラだったりします。もう駄目です。後書きを見ると、このお着せのデザインは『小間使の日記』のものをモデルにしている様です。
服部まゆみ『一八八八 切り裂きジャック』東京創元社
今度は“ヴィクトリア朝”末期を舞台にした小説。題材は、ずばり題名そのもので、日本人留学生の目から見た“切り裂きジャック”事件を描いています。
非常に面白かったです。数多くの文献を元に、緻密に話が進んで行きます。どんでん返しに次ぐどんでん返し、最後のオチは“まさか”とは思っていましたが、“そう来ましたか”って感じです。百人以上いる登場人物は、七人の架空の人物以外は一応実在していたそうな。単純に『凄いなー』です。無理です、私には無理です(T_T)。その才能、単純に羨ましいです。
メイドさん関係は殆ど無いですが、中産階級の生活ぶりが所々描かれていて、結構参考になります。メイドさん関係で興味深いシーンは、第一部の『十一 三人……そして四人目……』の冒頭で、下宿の女将と下宿を用意してくれた主人公の友人の台詞。引用しますと……。
夫人はテーブルに盆を置き、「今日は聖ミカエル祭ですわ」と僕を見た。反応のないのも気にせず、「四季支払い日に当たりますのよ」と、カップに珈琲を注ぐ。「賃借料の支払い日、賃借期間の始まり、召し使いの雇われる日……つまり清算の日ですわ。家も階級、それに家の大きさからみても、召し使いの一人くらい置いてもよろしいのですけどね。現にお隣のスティーヴン家など、お子様方の家庭教師から召し使いも五、六人と、使用人も大勢おりますわ。でも家は部屋の数にしてはお客様は貴方と鷹原さんだけ、お二人とも紳士でお世話も殆ど入りませんし、家族も私と主人だけですもの。私だけでも家事は充分、時間を持て余しているほどですわ。でも、もし……私のお世話が行き届かないとお思いでしたら、置きますけど……」
(中略)
「賃借料の支払い日だとも云っていたよ」と僕。「部屋代の新規契約……つまり値上げしたいと仄めかしたのじゃないか?」
「心配無用。平均以上に払っているよ。それより夫人はなぜあんなに召し使いにこだわったか? なぜ弁解じみたことをくどくどと云ったか? 平均以上の間借り代に対して召し使いもいない下宿という、いわば僕らへの云いわけだよ。次いで社会的体面と、使用人を置くことによって増える支出との板挟み……聖ミカエル祭で彼女なりに悩んだのだろう。『この辺りで召し使いを置いてないのは家だけだわ』とかね。中流の中……もっとも体面に気を取られる階級だからね、早めに粉砕しておいた方がいい」
……如何にも、階級に一番こだわる中産階級の中程の家族って感じが出ていて、良い感じです。因みに上記の“聖ミカエル祭”は九月二十九日で、残りの“四季支払い日”は三月二十五日の“み告げの日”、六月二十四日の“夏至祭”、そして十二月二十五日のクリスマスです(一寸デカい英和事典で調べると載っています)。
ディケンズ、中野好夫/訳『二都物語(上)』新潮文庫
ディケンズ、中野好夫/訳『二都物語(下)』新潮文庫
最後に紹介するのは、ヴィクトリア朝イギリスを代表する作家ディケンズの歴史小説。これが書かれたのは一八五九年ですが、物語は十八世紀後半のフランス革命が舞台となっています。パリとロンドン、二つの都市を舞台に、フランス貴族の子でありながら家名を棄てイギリスへと渡ったチャールズ・ダーニー、人生に絶望した放蕩無頼の弁護士シドニー・カートン、そして罪無くしてバスティーユに投獄されたマネット老人の娘ルーシー。三人は運命に導かれるまま、血塗られた革命の毒牙に掛かっていく。
文学と言うよりも、小説と言った方が正しい書籍。次から次へと事件が起こっていくので、時々訳が分からなくなります。人間の野蛮さ加減とか凶暴さ加減を書きたかったらしく、ある種の悲劇となっています。でも、そのせいで、安っぽい正義感がそこはかと無く漂っている気がしますが。
メイドさん関連では、ヒロインのルーシーを育て上げたというミス・プロスの話から。『この小さな家庭の切りまわしは、もっぱらミス・プロスが台所のほうをひっかまえてやっており、しかもそれを見事な手ぎわでやってのけていた。食事はむしろごく質素なほうだったが、イギリス風とフランス風とを折衷して、料理がうまく、出し方がうまく、しかもなかなか気のきいた趣向を凝らして、ほかにちょっとお呼びがないほどのできばえだった。彼女の交際というのは、一にも二にも実利を考えてのうえのことで、したがってソーホーや、そのあたりをくまなく捜しまわっては、金に困っているフランス人を見つけ出すのだった。つまり、彼らをシリング銀貨や半クラウン銀貨でやらしこみ、巧みに料理の秘訣を伝授させるのだ。こうして落魄したゴール人(訳注 フランス人の古語)の末孫たちから、いわばすばらしい魔術を覚え込むのだから、しぜん召使いの下婢、小女たちは、まるで彼女を魔法使か、シンデレラの教母扱いにしていた。とにかく一羽の鳥、一匹のうさぎ、そして庭からほんの二、三種の野菜でも持ってこさせると、たちまちそれらを何にでも変えてしまうのだった』とあります。
第十三回(2004.03.29現在)
小林司+東山あかね『図説 シャーロック・ホームズ』河出書房新社(ふくろうの本)
第三回に続き、シャーロッキアン夫婦が記した書籍をご紹介。内容はシャーロック・ホームズ縁の場所の案内、ホームズと言う人物に付いての簡単な紹介と分析、舞台背景であるヴィクトリア朝の更に簡単な紹介、年表や作品名のリストです。
第三回の『ホームズのヴィクトリア朝ロンドン案内』、第十二回の『シャーロッキアンへの道』同様、この手のホームズものの解説本は、ヴィクトリア朝の資料とするにはやや不向き。何しろ、ヴィクトリア朝時代の紹介がたったの三ページ。只、『わが友シャーロック・ホームズ』の3〜6、コラム欄や見開きに付随した当時の地図などは参考になります。特にコラム欄『貨幣制度と物価』は、当時の貨幣制度や日常に使われる単位が記載されているので、非常に便利です。
メイドさん関係では、上記の『貨幣制度と物価』に『これが、メイドとなると三六名も登場しているのに、事件の進展に欠かせない役割の者はわずかに八名で、しかも、メイドと呼ぶだけで姓名もつけてもらえない者が一九名にのぼっている』と載っているだけで、他にめぼしいものは見当たりません。やっぱり『ホームズ物語』では、メイドさんは冷遇の扱いな訳なんですな。
それよりも、コラム欄『寛容なハドスン夫人』で紹介されているシャーロック・ホームズ博物館や、同じくグラナダ・テレビのスタジオ・ツアーで、ハドスン夫人に扮した案内役がメイドさんな格好をしている事とか、『わが友シャーロック・ホームズ』の『3 ホームズの食卓』で紹介されているシャーロック・ホームズ博物館の一階に併設されたレストラン『ハドスン夫人のレストラン』のウェイトレスさんが当時の衣装を身に着けて給仕してくれている写真とか(因みに“ベノア・ティールーム”みたいなデザインの制服でした)の方が重要(爆)。うむ、萌える!
小林司+東山あかね/編『優雅に楽しむ新シャーロック・ホームズ読本』フットワーク出版社
再びシャーロッキアン夫婦の編集による、シャーロック・ホームズ研究書。以前出版された『名探偵読本1 シャーロック・ホームズ』の改正版で、内容は『ホームズ物語』の読み方、『ホームズ物語』内の矛盾点、ヴィクトリア朝時代の知識、登場人物の架空座談会、世界のシャーロッキアンを紹介したコラムや巻末の資料などなど。
基本的にシャーロッキアン向けの書籍です。ヴィクトリア朝の資料とするならば『第二章 シャーロッキアンたちの『ホームズ物語』』と『第四章 ホームズ研究』、『ホームズあらかると』、そして巻末資料を読めば充分です。特に巻末資料の『ヴィクトリア朝文献リスト』は圧巻です。入手可能なものだけの紹介なのですが、それでも一八七冊もの膨大な資料を紹介しています。
メイドさん関係では『第二章 シャーロッキアンたちの『ホームズ物語』』の『シャーロック・ホームズとその時代』(小林司・東山あかね)で『農家に生まれた娘たちの抱く夢は、どうにかして都会へ出ていき、良家のメイドになることだった。親もそれを願っていたので、地方では一〇歳以上の女性の数が減り、都市へと流出していった。都市には中産階級と呼ばれる、新しく生まれた産業の労働者が誕生していた。そして彼らのステイタス・シンボルはメイドを雇っているということであったため、都市にはメイドの職はたくさんあったのだ。また、教育のない女性にとっては家事労働のほかに働く手段を持たなかった。そのうえ給金は親元へおおかた送ってしまうので、彼女たちはいつまでも楽をできない生活であった』『若者たちの一部は工場労働者として働き、中産階級になる者もあったが、大部分は貧しい下働きやメイドで一生を送らなければならなかった』とある位。やっぱりシャーロック・ホームズ関係では、メイドさんは冷遇されるのね。
小林司+東山あかね『ガス燈に浮かぶシャーロック・ホームズ』立風書房
一体何冊ホームズ研究書を書いているんだ、この夫婦は……因みにこの書籍は、かなり初期の頃に書かれたものです。
初心者向けに書かれたホームズ研究書で、読み易いです。『ホームズ物語』を読者に理解させる為に、その舞台となっているヴィクトリア朝時代のイギリスを『ホームズ物語』から抜き出して紹介しているので、普通にヴィクトリア朝時代を調べたい初心者にも向いている一冊です。とは言え、あくまでも『ホームズ物語』を理解させる為なので情報が偏っていますし、日常生活に関しては殆ど書かれていません。補助的なものとして読むと良いでしょう。
富山太佳夫『シャーロック・ホームズの世紀末』青土社
今度は別の人が書いたホームズ研究書……と思わせて、その実作者コナン・ドイルとヴィクトリア朝の世紀末を論じた書籍。『ホームズ物語』に直接論じた部分に付いては四分の一程度で、残りは作者コナン・ドイルと、彼が生きていたヴィクトリア朝・エドワード朝と言う時代に付いて論じています。
“世紀末”と言う時代の流れを中心に論じているので、歴史的・文学的な側面が強く、あまりメイドさん関連の書籍としては使えません。シャーロッキアンでは無いそうで、その為か文面もやや堅く、微妙に『趣味で学問もどきな事をする』事や人が嫌いな節があちこちで見られます。専門的なので、その分詳しいのですが……日常生活に関する情報は殆どありません。
コナン・ドイル、小泉純/訳『コナン・ドイルの心霊ミステリー』角川春樹事務所(ハルキ文庫)
今回“ホームズ研究書”ネタばっかりなので、今度は作者の“コナン・ドイル”ネタで一つ。第一次世界大戦以後、色々とありまして“心霊”にドップリとハマったドイルさんの、その書籍です。
出版社自体が“アレ”だったりしますが(笑)、それは置いておいて。著者がコナン・ドイルで無かったならば、絶対“トンデモ本シリーズ”で取り上げられそうな、如何にも“オカルトにハマっちゃいました”的な思考で論じられる内容は、主観的かつ感情的な口調で述べられており、読む事が結構キツい。当時の“イギリス紳士”的なアマチュアリズム溢れる様は“素朴で無邪気で善良なジョン・ブル”って感じで、全く以て“カモ、正に上等なカモ”以外の感想が出ません。いや、実際“良いカモ”だったんだろうな。
第十二回(2004.03.22現在)
スティーヴン・ハンフリーズ/著、山田潤+P・ビリングズリー+呉宏明/監訳『大英帝国の子どもたち』柘植書房
副題『聞き取りによる非行と抵抗の社会史』にある通り、一八八九年〜一九三九年に掛けてのイギリスを生きた元“非行少年・少女”達への聞き取り調査から浮かび上がった、当時の労働者階級を取り巻いていた環境をまとめ論じた書籍。内容は、彼等の反抗的な態度や暴力的な行為は、“教育”を建前に労働者階級を支配しようとした中産階級への抵抗であると言う事であり、聞き取り調査の中から数々の証言を取り上げています。
“ヴィクトリア朝”から少し時代が下りますが、メイドさんを供給していた“労働者階級”が、当時の中産階級からどの様な扱いをされていたかを知るには良い一冊です。彼等の言動が、全て中産階級への抵抗と見ると言うのは少し乱暴な気もしますが、数多くの生き生きとした証言は、成る程と言わしめる程の説得力があります。まあでも、暴力的な支配に対し暴力で返すっつうのは、どっちもどっちなよーな気が。
メイドさん関連では『第二章 宗教・帝国・競争』『第五章 悪ふざけ』『第六章 生活をつなぐ犯罪』『第八章 矯正施設』があります。第二章では、進学すれば家族の経済が破綻すると思い、わざと奨学生試験を不合格し、本当は先生になりたかったのに、十四歳でメイドさん奉公に出なくてはならなかった女性の証言があります。第五章では、女性がふざけ回れるのは工場労働だけで、個人の行動が極端に規制される家内奉公は、自立心のある活発な女性は嫌っていました。第六章では、疑い深い雇用者がわざとメイドさんを試す様な事をして、彼女達の自尊心を傷付けた事、一九〇〇年代以降はメイドさんの需要が多く、結果失業の恐怖が無くなっていた事などです。第八章では、矯正施設は職業訓練の場であり、特に女性はメイドさんの為の訓練が主体である事、しかし労働者階級の女性の間では不人気で、十世紀末以降次第に避けられていた事、矯正施設で訓練されたメイドさんは陰気で礼儀を弁えず、よく盗みを働いていたと、非難の対象になっていた事が挙げられます。
ジョン・フェザー、箕輪成男/訳『イギリス出版史』玉川大学出版部
五百年間におけるイギリス出版業界の歴史を詳しくまとめて論じた書籍。十五世紀以前は写本頼りであったものが、この頃ヨーロッパで発明された活字印刷により流通と販売面において書籍が周囲に広まった事、この頃は印刷と出版は同等の力関係にあった事、十七世紀頃には検閲として許可制が取られていた事が分かります。十八世紀頃になると検閲が廃止され、地方販売が盛んになり、又技術革命により印刷物が爆発的に普及していきました。十九世紀には高速印刷術が確立され、文化の産業化が進み、今まで『文芸的財産』を独占していた出版社の権利が、この頃の小説人気の中で漸く著作権の形で著者のものとして変化し、同時に職業としての作家が誕生していきました。二十世紀にはブッククラブの誕生と衰退、図書館の強化による貸本屋の衰退などが挙げられています。
十九世紀における出版には、かのディケンズが、職業的な作家や著作権の誕生に大きく関わっている様です。又、この頃の関心事であった道徳の普及が、教科書・啓蒙書・学術書の印刷を膨大なものにしていった事や、一八五〇年の公共図書館法により多くの町に公共図書館が生まれた為に、一八九四年の夏頃には多くの貸本屋が経営難になった事なども挙げられます。十九世紀中葉の小説は三巻仕立てが多いのですが、これは実は『エマ』一巻に登場した貸本屋ミューディーズの影響だったりします。
清水一嘉/著『挿絵画家の時代 ヴィクトリア朝の出版文化』大修館書店
ディケンズと彼が書いた作品を中心に、それにまつわる挿絵画家のエピソードをまとめた書籍。『はしがき』の冒頭の『十九世紀は小説の時代である』が印象的なこの書籍は、十九世紀中葉まで“挿し絵有りき”であり文章はそれに付随する形で添えられていた事、現在の様な“小説が出来た後で挿し絵を描く”と言う方法は(どうやら)ディケンズの影響が大であった事を教えてくれています。
ここでもディケンズの名前が登場しますね。ある意味では非常にこだわりが強く我が侭であった事が、後の印刷・出版業界や書籍の形態に影響を与えた事になりますね。恐るべし、ディケンズ……。
水野雅士『シャーロッキアンへの道』青弓社
副題に『登山口から5合目まで』とある様に、この書籍はシャーロック・ホームズのマニア初心者向けに書かれたものですが……実際には“資料本を集めた資料本”といった感じのものです。第1章から第3章までありますが、第1章は戦後販売された邦文の文献リスト、第2章はシャーロック・ホームズ・シリーズに付いての簡単な紹介と解説で、本文の約2/3を占める第3章はリスト内の文献の中で取り上げられている対象を五十音順に並べたリストになっています。
いわゆる“シャーロッキアン”初心者には便利なのかも知れませんが、“ヴィクトリア朝”を調べるには全くの不向きな書籍。只単に十九世紀を調べたいだけだったら、第1章のリストと第2章の『二合目――ホームズ物語の魅力』内の『4 時代背景の魅力』をチェックするだけで充分ですが……それでも簡単に書いてあるだけなので、他のホームズ関係の文献を調べた方が良いと思います。
そう言えば、第3章『シャーロッキアンの話題』内に『使用人』の項があるのですが、シャーロッキアンの中では話題に上らない様で、取り上げているのは『ミステリ・ハンドブック シャーロック・ホームズ』とちくま文庫版の『詳注版シャーロック・ホームズ』の数巻のみ(因みに前者は読んだ事がありますが、必要最低限の事しか紹介していませんでした)。この事に付いては、第2章『シャーロッキアンへの道』の『登山口――シャーロッキアンについて』内の『1 シャーロッキアンとは?』の文章中にある『……ホームズの世界になじめない人もいるのだ。それはたとえばホームズの――ということは作者ドイルの、という意味と同じ場合が多いのだが――ブルジョア的な目線の高さ、すなわち大衆を見下したような言動に反発を感じる人……』と言う一文の中に、その由来が垣間見られる気がします。まあ、当時のブルジョワ的顕示欲と現代のメイド萌えは、相容れない考え方なのかも知れませんが。
松村昌家/編『『パンチ』素描集』岩波文庫
副題の『19世紀のロンドン』から見て分かる様に、一八四一年に創刊され、一九九二年に惜しくも廃刊した風刺週刊誌『パンチ』から、創刊より三十年間に出た風刺画百四枚を紹介した書籍。内容はそれぞれ『飢餓の一八四〇年代』『鉄道マニアとバブル』『ロンドン万国博覧会と水晶宮』『繁栄の裏側――病めるロンドン』『テムズ川汚染――飲み水の危機』『子どもの情景』『女性解放への道――ブルーマー旋風』『ファッションの季節――クリノリン・スタイル』の八つです。
十九世紀をネタにするならば、矢張り『パンチ』は知っておくべきでしょう。あちこちの書籍にもこの風刺画が使われているのは、この手の資料を見た事がある人ならばお馴染みかと思います。皮肉を巧みに凝らした風刺画は、今でも見ていて楽しいです。
第十一回(2004.03.15現在)
長島伸一『大英帝国』講談社現代新書
題名通りの書籍。イギリスが『七つの海の支配者』として世界に君臨していた“大英帝国”の時代、つまり十九世紀中葉から世紀末に掛けてのヴィクトリア朝時代の歴史を、非常に豊富な参考文献を元に、詳しく丁寧に幅広く書いています。因みに、話の枕がナイチンゲールだったりします。
初心者向けの新書では、一番お勧めの一冊。まずこれを読んでから他の資料を探し、目を通すと宜しいです。
メイドさん関連では、『二つの国民・三つの階級』でM・ハイリー『ヴィクトリア朝の働く女たち』から雑役女中ハナ・カルウィックの『日記』を引用していたり、『大衆社会化現象と庶民生活』で当時の使用人に付いて軽く紹介した後、彼女達の様な存在は、家事労働をサーヴィス労働として“商品化”した結果である様な事を述べています。
小池滋『ロンドン』中公新書
副題は『ほんの百年前の物語』で、初版は一九七八年。副題通りに、産業革命頃に増殖し始めた“ロンドン”と言う都市の十九世紀を論じた書籍です。
若干古めの新書ですが、初心者が十九世紀のイギリスを知るには丁度良い一冊と言えます。直接メイドさんに付いて述べた所も無いし、取り上げられている年代が十九世紀初頭から中葉に掛けてなので、その点は少々片手落ちな気もしますが、それを差し引いても知っておくべき部分はちゃんと書いてあるので充分です。
小池滋『もうひとつのイギリス史』中公新書
同じく小池滋氏の書籍より、上記の『ロンドン』の続編に当たる書籍。題名にある『もうひとつの』よりも、副題の『野と町の物語』こそが内容を表しています。教科書的な歴史観では教えられる事の無い『イギリスの』歴史を、簡単かつ分かり易い形で論じています。前回とは違い、『ロンドン』が『ロンディニウム』と呼ばれていた頃から近代に掛けての、田舎と都市部との対立を中心とした発展の歴史を分かり易く書いてあります。とは言え、著者の経歴とネタの内容から、十八・十九世紀頃の近代が半分を占めています。
十九世紀の事もしっかり書かれてあり、当時の事を理解するには手頃な一冊。新書である為、あまり詳しい事は書かれてはいませんが、どの様な歴程を通って現在に至ったかを理解するにはもってこいです。上記『ロンドン』の補足用として読むと吉。
鈴木博之『ロンドン』ちくま新書
こちらの副題は『――地主と都市デザイン』。副題の通り、現代のロンドンを基盤に、その歴史的側面を語る書籍。著者は西洋建築学史を専攻している様で、建築の方面から、とても丁寧に解説しています。新書なので、手軽で読み易く書かれているのも嬉しい限りです。
直接メイドさんとは関係はありませんが、ヴィクトリア朝やロンドンを取り沙汰するのならば、一度は目を通しておくと良いです。ロンドンの町並みは、十七世紀頃に起こったロンドン大火で一度焼け落ち、産業革命が起こった十八世紀頃から少しずつ巨大化し、そして現在に至っているので、今のロンドンは近代に産声を挙げたと言っても良い位です。なので、ロンドンの歴史を紐解く事は、近代を論ずる事にもなる訳ですね。
そーいや『5. ジョージアンからヴィクトリアンへ』の最後で、『我が秘密の生涯』がネタとして出されていますな(爆)。いや、何だかワロタ。
川成洋+石原孝哉『ロンドン歴史物語』丸善ライブラリー
“ロンドン”ものが続きますが、お次は三つの章毎にテーマを設け、その中でロンドンの歴史を語ると言う書籍です。その為、順序立てて歴史を紹介している訳では無いので、その点は少々見難い感じがします。一応、一世紀から二十世紀までを幅広く紹介していますが、中世・近代を中心に書いています。
軽く読むには良いけれど、資料として使う場合にはいまいちかも。歴史に詳しくない初心者向けの新書です。より詳しい事が知りたい場合には、巻末の参考書籍を紐解けって事かも知れませんな。
長谷川如是閑/著『倫敦! 倫敦?』岩波文庫
時代は下りますが、一九一〇年に単身シベリア鉄道経由で渡欧した『大阪朝日新聞』特派員のロンドン紀行本。彼が滞在していたのは五ヶ月程ですが、ロンドン中あちこち出没して様々なものを見聞きし書き留めた書籍です。その中には、エドワード王の崩御と国葬や女性解放運動などもあります。特派員だけあってか、生き生きとした文章の中から、当時のイギリス人の生活ぶりが垣間見られます。やや女性蔑視的な部分が見られますが、これが当時の日本人(とイギリス人)のものの考え方なんだよなぁ。
メイドさん関連では『清浄なるケンシントン・ガーデンス』の『二 有難過ぎたるアルバート記念像』で『緑深い木蔭に、真黒な衣服に純白の前垂を着けて白い袋で頭髪を包んだ下婢が乳母車を押したり、小児の手を引いたりして無数に押し掛ける』とあります。文章中の“白い袋”とは、おそらくモブ・キャップの事でしょう。又、『往来から見た倫敦』の『七 場末の往来』では『多くは二階家で、三階のあるのも屋根裏で、下女部屋に使う位のものだ』ともあります。
しかし一番資料となるのは『倫敦女房』の項でしょう。その中の『二 骨の折れた貴族主義』では、下宿宿の女将が自分の所で雇っているメイドさんに付いて悪口を言うシーンがあります。引用しますと『妾はジッとしているのが嫌いな質で、一つ用が済むとそれからそれへと止度なく働いて行て倒れるまで夢中なのです、どんな高等な生活をしていても、家の事で働くのが貴女の義務です、下女任せにして置けば第一家の中が不潔になって、経済上にも大変な損です。けれども家の下女は、田舎者で言語使いが悪いのと行儀を知らないのが瑕ですが、働く事は能く働きます、倫敦でも今は下女が払底で給金ばかり欲しがって碌ろくな者は来ません、目見えだといって一週間も喰い倒した上、給料を貰うと直ぐ何処へか行ってしまいます、家の下女のようなのは倫敦には珍らしいのです。日本でもそうでしょう。その代り任せッ放しにして置くと滅茶々々な事をします。今いるクックもひどい女です、クックなどといいながら、黙っていると怖ろしい物を喰べさせます、ほんとに一時でも気が許せやしません、オオ忙しい。けれども、そんな事は貴婦人の関う事じゃないといって、済ましているような女は、女の義務を欠いているのです』。因みにこの女将ミセス・オストは、自分の事を『貴女』と称していますが、この『倫敦女房』を見る限り、実の所は中産階級の下の方の様です。家庭教師に付いても言及しており、彼女の言動を見てみると、当時の中産階級の暮らしぶりと考え方がよく分かります。
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