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☆図書館にでも行きましょうか。☆
☆図書館にでも行きましょうか。☆


 万年金欠な小手鞠萌はよく図書館に行く訳ですが、そこでよく借りる本の中でも、面白かったり資料としてなかなか良い物を紹介するコーナーです(安上がり)。
 因みに基本は“十九世紀”。本物のメイドさんが生きていた時代っすね。でも読んでいる本、かなり偏りあり過ぎです。しかも実はあんまり小説読まない事、バレバレ。大層なもんでは無いけれど、ある意味“裏ヴィクトリアン・ガイド”かも(^_^;)。


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資料をまとめてみました。
→メイドさんに関する資料・一覧表


第百回(2006.04.23現在)
P・G・ウッドハウス/著、森村たまき/訳『ウッドハウス・コレクション 比類なきジーヴス』国書刊行会
 ちょっぴり抜けている良家の子息バーティー・ウースターと、彼に仕える完璧な執事ジーヴスが織りなす、イギリス風ブラックユーモアたっぷりのドタバタ劇。
 メイドさん研究サイト『SPGR』さんの日記で紹介されていた、二十世紀初頭を舞台にした小説。ちょっと詰めの甘い上流階級のバーティーと、彼を取り巻く愉快な親族、そしてバーティーに仕える有能な執事ジーヴスが繰り広げる喜劇の数々。『執事』と言っても、本人は『gentleman’s personal gentleman』を名乗っているヴァレット(近侍、侍従)です。ご主人様と執事のコンビが良い味出していて面白いです。でもジーヴス、何かこっそり腹黒い気が……(笑)。

佐藤よし子『心を癒す 英国流5つのお茶の時間 一日の家事の合間に』同朋社
 家事の合間にティータイムをする事で、頑張った自分を褒めてあげる為の大切なお茶の時間を用意する方法を紹介した書籍。
 第七十七回で紹介した紅茶本と同じ作者が書いた家事と紅茶の本。初っ端から『召し使いにとっても大切な時間だったのです』とある様に、メイドさんと女主人を模倣する事で家事をこなしティータイムを楽しむ事を勧めています。
………………
 英国の家事とティタイムには深い関わりがあるといわれています。十九世紀の英国では家事が大変な重労働でした。その合間をぬってお茶を飲む時間を持つということが上流階級の召し使いたちの間でも大切なことであったようでした。上のクラスの召し使いから下働きのメイドまでお茶の時間やお茶をとる順番までが決まっており、十九世紀の「デューティ・オブ・サーバント」(召し使いの仕事)という本では詳細にそのことについて書き記してありました。  一日、一週間、一か月と召し使いたちの使用する紅茶、砂糖などのお茶の時間のためのものは定められており、それらを大切に大切に飲んでいたといわれています。
 当時は、今のように便利な道具や電気製品もなく、数人の召し使いが家事のいくつかを分担し責任を持ってこなし、数名が集まって一軒の家事を完璧にしていったのでした。そんな中のティタイムは、家事と深い関わりを持ち、次のお茶の時間までがんばろう・・・というような毎日であったのです。
 どんなに大変であったか・・・なのですが、それは例えば、必ず「責任の上において」という言葉がつくのですが、すべてのドアノブをピカピカに磨き、カーテン、ソファカバーなどの季節のチェック、各所のホコリなどをケアするハウスメイド。洋服の汚れ、ボタンがとれていないかのチェックや洋服のサイズを直したり、大切な集まりのための女主人のドレスやヘアースタイルを決める相談にのり女主人のワードローブのすべてを管理する、フランス人が多いといわれているファーストクラスのレディズメイドなど、本当に細かく分野別に分けられ、棚の上のクモの巣ひとつまでもその責任の所在がはっきりしていたので、皆、仕事と現在の地位とを守るために自分の担当の家事は主人の要求以上であるべき、と家事を芸術のように考え、日々の生活の中でこなしていったのでした。
 とても興味深いことにそんな細かい家事学の本の中に、何時からどのクラスの召し使いがどのメイドによってお茶を、どんな食器を使用し、館の中のどの部屋で何のお菓子と共にサービスを受けるか・・・・ということまでが書かれていて驚かされたのです。
 それほどお茶の時間が大切な癒しの時間であったのですね。(『英国スタイルとティタイムの家事学について』の『ティタイムの歴史をひもとくと』の中の『召し使いにとっても大切だったのです』より)
………………
 そこまで詳細に決められると、落ち着かなくて癒しもへったくれも無い気がしますが。まぁ、それは兎も角、メイドさん的には結構お勧めの一冊です。

北野佐久子『季節を楽しむイギリスのお菓子』文化出版局
 お菓子からイギリスの季節を感じるレシピ集。
 こちらも第六十九回目と第七十七回目で紹介した同作家によるイギリスのお菓子シリーズ。イギリスの伝統的なお菓子のレシピが満載です。
 イースター前の断食期間である四旬節の第四日曜日にあるマザリングサンデーは、シムネルサンデーとも呼ばれていて、シムネルケーキを焼いて食べる日だそうですが、ちょっとだけメイドさんに関係しています。
………………
 奉公に出た娘たちが、料理の上達ぶりを示すかのように故郷の母親に持ち帰ったのが、このケーキ。シムネルの語源はラテン語のsimila(上質な小麦粉)といわれ、ローマ人征服の時代までさかのぼる古い歴史を秘めたもの。飾りの11個のボールは、キリストに使えた11人の使徒をあらわしているといわれています。(『Easter イースター』の『simnel cake シムネルケーキ』より)
………………
 メイドさんが料理上手かどうかは、このシムネルケーキが美味しいかどうかに掛かっているんですね。


第九十九回(2006.04.23現在)
新井潤美/著『階級にとりつかれた人びと』中公新書
 庭のある、郊外の小綺麗な家に住み、夫は毎日電車で通勤、妻は家事をしながら夫の帰りを待つ。週末は庭いじりかドライブ……『典型的なイギリス紳士の家庭』だと思われている彼等こそ、本書の主人公『ロウアー・ミドル・クラス』の人々である。彼等は、ヴィクトリア時代に社会に根を下ろし、揶揄や嘲笑を浴びながら、近現代のイギリス文化を逆説的に支えてきた。その百年余りの生態をエピソード豊かに綴る。
 ロウアー・ミドル・クラスの生活を通じてイギリスの階級社会を論じた書籍。彼等下層中流階級の人々が如何に野心深く、階級を上昇する事に固執しているかが伺えます。メイドさんに関しても『第七章 階級を超えるメアリー・ポピンズ』の『ロウアー・ミドル・クラスのヒーローたち』で少しだけ取り上げられています。

小泉八雲/著、平川祐弘/編『クレオール物語』講談社学術文庫
 ハーンは日本に来る前にヨーロッパを脱出して、新大陸アメリカや仏領西インド諸島を訪れている。西洋文明に飽きたらず異国文化への関心を深めていったハーンは、クレオールの人々との交流や民話、植民地体験等を感性豊かな文章で書き残した。後の日本での小泉八雲を理解する上で、この時代は注目に値する。素朴で抒情溢れる日本を愛してやまなかった八雲、彼の文学の原典を知る為の必読の書。
 聞き取りから得た民話が主ですが、仏領西インド諸島で暮らした頃を描いた『わが家の女中』がメイドさんの話です。と言うか、殆ど食べ物の話なんですが。無知であるが故に信心深い彼女との会話は、ファンタジーに満ちています。

ロバート・A・ハインライン『夏への扉』ハヤカワ文庫
 僕の飼っている猫のピートは、冬になると決まって夏への扉を探し始める。家にたくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じているのだ。1970年12月3日、この僕も又夏への扉を探していた。最愛の恋人には裏切られ、仕事は取り上げられ、生命から二番目に大切な発明さえ騙し取られてしまった僕の心は、12月の空同様に凍て付いていたのだ! そんな僕の心を冷凍催眠保健が捕らえたのだが……巨匠の傑作長編。
 SFの巨匠が描くタイムトラベル物。物語の年代が70年ですが、何と初出は1959年! そして主人公が目覚めるのは2000年。そういう時代だったんですねー。何故この小説がメイドさんと関係しているかと言えば、作中に登場する文化女中器ハイヤード・ガールという機械(と言っても全自動式の真空掃除機なのですが)が登場するからです。
………………
 オートメーションのまだ浸透していない最後の領域はどこか? ぼくは考えた。いわずと知れた家庭である。それも、一家の主婦のいる家庭。ぼくは家そのものに自動装置を施したスイッチ式の家などを工夫しようとはしなかった。女はそんなものを望みはしない。彼女らの望んでいるのは、たとえ崖の下の洞窟でも、その中に便利な家具類の備わった家なのだ。ところが、家庭の主婦なるものは、下男女中の類がマストドン同様過去の遺物になってしまった現在も、いまだに、良い女中を置きたいという希望を捨てていない。家庭の主婦で、多少なりとも奴隷所有者の天性を持っていないひとに、ぼくはいまだに会ったことがない。彼女らは、水道屋の手伝いでも苦情をいう程度の賃金で、食事はテーブルからこぼれたパン屑で満足しながら、一日十四時間も床を這いずりまわって働くことをありがたがるような女奴隷が、まだ存在すると信じているらしいのだ。
 ぼくらが、ぼくらの怪物モンスター文化女中器ハイヤード・ガールと名づけた理由も、まさにこれがあるがためだった。この名は、家庭の主婦たちに、子供のころお祖母さんが追い使っていた、セミ奴隷の移民の女を思い出させたのだ。種を明かせばこの怪物の正体は、真空掃除器の改良型で、ぼくらはこれを、ふつうの吸引式の真空掃除器とあまりちがわない値段で市販しようと計画していたのである。(『2』より)
………………
 惜しい! あとちょっと!


第九十八回(2006.04.16現在)
斎藤美奈子『モダンガール論 女の子には出世の道が二つある』マガジンハウス
 “女の子”には“出世”の道が二つある――颯爽としたキャリアウーマンと、優雅なマダム。どっちの人生が魅力的か、両方とも手に入れる良策は無いか。最先端のファッションリーダーであると同時に、世間の顰蹙を買う“不良娘”の代名詞でもあった大正時代の『モダンガール』を軸に、欲望史観で解く日本女性の近代史。
 如何にもなタイトルとカヴァー、読み易い書き言葉とは裏腹に、内容はしっかりとした近代日本女性史。キャリアウーマンの元祖・職業婦人や、『良妻賢母』が実は何もさせて貰えなかった女性達が自分達も何かが出来ると男性に要求した言葉である事、労働婦人と呼ばれた下層階級の女性達の悲惨な生活などが紹介されています。勿論女中に付いても語られており、彼女達が人間扱いされずこき使われ、常に基本的人権を認める様な発言をしていた事が伺えます。又、女給に付いても紹介しており、昨今のソフト・コスキャバ化したメイドカフェに通ずる部分(未来? かつて来た道?)も垣間見れます。

吉田桂二/著『間取り百年 生活の知恵に学ぶ』彰国社
 二十一世紀になって間もなくの今、二十世紀を振り返ってみると、誰もが気付くのは、二十世紀が忍耐生活を強いた戦争の時代で幕を開け、それが終結して後、未曾有の豊かさを獲得してきた時代であったという事である。その二つの時代の接点がこの時代を折半した所、つまり太平洋戦争の終結がその接点を成している。この世紀の前半と後半の違いの大きさを、この時代に生きた人間として、後世の為に書き記した書籍。
 二十世紀初頭から世紀末までの日本の間取りを紹介した書籍。明治・大正時代のお屋敷には殆どの場合女中部屋があった事が伺えます。メイドさん関係の情報は少ないですが、こういう家や間取りといった部分からのアプローチは少ないので、もっと資料が欲しい所ですね。

ロイド・アリグザンダー/作、神宮輝夫/訳、ラースロウ・クービニィ
『木の中の魔法使い』評論社(てのり文庫)

 マロリーは、倒れた木の中に魔法使いを見付けてびっくり。でも、この魔法使いは自由に魔法が使えない。呪文を間違えてガチョウになったり、馬に変身するつもりが鹿だったり。お陰で悪い地主に捕まっちゃった。
 産業革命の頃のイギリスを舞台に、台所女中のマロリーが魔法使いのアルビカンと共に活躍するファンタジー。食堂を営む夫婦の元で台所女中としてこき使われているマロリーが、木の中に閉じ込められていた魔法使いを見付けて出してあげたものの、その魔法使いは偉そうな上、ゴタゴタに巻き込まれてとんでも無い目に。お伽話好きな彼女が自分に降り掛かった火の粉を自分で振り払う程に成長していく過程が描かれています。


第九十七回(2006.04.09現在)
小池滋『ゴシック小説をよむ』岩波書店(岩波セミナーブックス)
 元来は中世の美術・建築に関わる言葉であった『ゴシック』が、十八世紀のイギリスで何故小説と結び付き、そこにゴシック(恐怖)小説と言われる様なものが誕生したのか。又、なぜそれらの作品の中で、ギリシア・ローマ以来の美の概念に大転換をもたらす様な事が起こったのか。ゴシック小説の主要な作家(ウォルポール、ラドクリッフ、メアリー・ウルストンクラフト・シェリーなど)と作品を、クロード・ロランら一世紀前の絵画にも言及しながら紹介し、従来の英文学史では不当な評価を受けてきたゴシック小説の再評価を試みた書籍。
 ゴシック小説からイギリスを論じた書籍。これを見ると、『ゴシック』という概念が建築などに如何に影響を与えているかが分かります。又、メイドさんが家事を担当するからこそ、暇を持て余したレディ達がゴシック小説作家として活躍出来たという話も紹介されています。

エセル・リナ・ホワイト、山本俊子/訳『らせん階段』ハヤカワ・ミステリ
 荒涼とした田園地帯にそびえ立つ〈サミット〉邸。一風変わった家族のみが住む屋敷にメイドとして雇われたヘレンは、不吉な予感に震えていた。近隣の町で若い女が連続して殺されているのだ。次に狙われるのは私かもしれない――ひたひたと忍び寄る殺人鬼の影に怯えるヘレンだったが、屋敷には頼りに出来る人物は見当たらない。そして激しい嵐の夜、ヘレンの耳に聞こえてきたのは、屋敷裏の螺旋階段を歩く何者かの足音だった! ロバート・シオドマク監督が映画化し、その後三度にわたって映像化されたゴシック・サスペンスの古典的傑作!
 メイドさんがヒロインのミステリー小説。1933年に書かれたこの小説は、ウェールズの片田舎を舞台にしています。ヒロインは若いけれどもあんまり可愛くないと書かれていますが、自分が殺されるのでは無いかと不安に思うあまり、殺人鬼の思惑にまんまと乗ってしまい、窮地に陥ります。それは兎も角、二十世紀初頭のウェールズの小さなお屋敷での生活が描かれています。

カレル・チャペック、田才益夫/訳『カレル・チャペックの新聞賛歌』青土社
 新聞人でもあったチャペックの作品から、少し長めの論文的なニュアンスを持ったものを選んだエッセイ集。
 カレル・チャペックと言えば『ロボット』や『山椒魚戦争』などといった作品が有名ですが、こういった論文やエッセイなども書いています。中に『最近の叙事文学、または女中のための文学』というエッセイがあり、メイドさんがロマンチックな三文小説を好んで読んでいた事が書かれています。


第九十六回(2006.04.02現在)
クローディア・クーンズ/著、姫岡とし子/監訳、翻訳工房「とも」/訳
『父の国の母たち ―女を軸にナチズムを読む― (上)』時事通信社

クローディア・クーンズ/著、姫岡とし子/監訳、翻訳工房「とも」/訳
『父の国の母たち ―女を軸にナチズムを読む― (下)』時事通信社

 体制協力者、キリスト教徒、抵抗者、ユダヤ女性とナチズム下で様々な運命を生きた女性達が包括的に取り上げられ、彼女達の役割と選択を通じて新たな角度からナチズムを読む事を試みた書籍。本書はこれまでの男性中心の考察では決して見えて来ないナチズムの新しい側面を明らかにし、ナチズム理解に新たな一ページを付け加える事になった。
 ナチズム政権下のドイツで女性がどの様な選択をし、どの様に暮らしていったのかを論じた書籍。ナチ政権は家族イデオロギーを前面に出していたが、それは民衆を支配する為の方便であり実際はその政策により家族が分断されていた事、主にナチ政権協力者の女性達が、男女が分離した世界での“生存圏”なるものの支配権を主張し、互いにその権利を巡って争っていた事、そうして争っていた古参の女性達は家族イデオロギーを強く有する下流中産階級であり、ナチ政権は熱烈過ぎる彼女達よりもより御し易い上流階級の女性をドイツの女性のリーダーとして置いた事などが紹介されています。
 メイドさんの情報に関しては少しだけ。
………………
 主婦が「職業」であることを意識してきた彼女たちにとって、最大の目標は家事使用人組合の破壊にあった。主婦連盟では「家事の尊厳」とか「主婦の神聖なる責務」などという大げさな言いまわしで家事使用人の労働条件や労働時間、賃金の改善に反対し、彼女たちの私生活にも監視の眼を光らせ続けていた。マリア・イェッカーはヒトラーの政権獲得以前からずっと、家事使用人の社会保障、失業保険、健康保険の給付、最低賃金法、有給休暇に反対している。ナチが主婦連盟に対抗して家事使用人を組織するかもしれないなどということは彼女も同僚もまったく考えていなかった。
 けれどもヒトラーを支持していた家事使用人は多く、彼女たちの方でも第三帝国が新時代に導いてくれるものと期待していた。無階級社会の達成と「アーリア人」の団結への訴えがヒトラーの公約の中核を成していたため、家事使用人は女主人とはまったく異なる社会の建設を夢見ていたのである。メリタ・マシュマンは、ヒトラー勝利の知らせを聞いたときの住み込みのお針子の反応を回想している。
 私の知っている限りでは、彼女は上着の衿の折り返しの下に、浮き彫り細工を施した鈎十字章をいつもつけていた。その日、彼女は初めてその鈎寿時章を堂々と着用した。ヒトラーの勝利について話すとき、彼女の黒い瞳はきらきらと輝いた。(中略)家事使用人が台所のテーブルで食事をしなくてもすむような時代が間近に迫っている、と彼女は語った。私の母は眉をひそめた。母は教育のない者が政治に関心を持つなど生意気だと思っていたのだ。
 その家事使用人は、国民社会主義の「社会主義的」な要素が彼女の低い地位を高めてくれるだろうと考えていた。
 一九三三年の秋になると、イェッカーと主婦連盟は気がかりな知らせを耳にした。ロベルト・ライが、すべての家事使用人はナチ労働戦線に加入しなければならないと命令したのである。「何ですって?」とヒンデンベルク=デルブリュックも叫んだ。「家事使用人が私たちと同じように労働前線に所属してしかるべきですって!」彼女にとって、労働戦線は賃金値上げや労働条件の改善を要求する労働組合と同じようにうさん臭いものに思われた。
 ヒンデンベルク=デルブリュックは党の全国本部と労働戦線に抗議し、労働戦線の集会場にスパイを放った。スパイの報告によると、家庭で低賃金の内職をしている女たちの「群れ」が、マリア・イェッカーの言うところの「共産主義者たちよりもたちが悪い」ナチの演説家の話を聞くために集まっていたという。けれども労働戦線には国家の後ろ盾があったので、短期的な意味での結果はあきらかだった。家事使用人は政府後援の組合の支配下に置かれ、女主人の管轄から外れることになった。主婦連盟とナチ国家の蜜月期間は終わった。
 イェッカーは、主婦が仕事場を統括する手工業者と同じような形でその勢力範囲をとりしきる世界を作り上げようとしていた。そのような世界が実現すれば、プロの主婦たちは中世のギルドの組合員のようにみずからの利益のための陳情活動ができるはずだった。ところがナチの政策は主婦にその勢力範囲での一定の権限を与えるどころか、家事使用人を彼女たちの影響から引き離して労働戦線に加入させてしまった。イェッカーはだまされていたのだ。彼女と同僚たちは、すでに自律を放棄して古参のユダヤ人会員を除名し、「アーリア人」会員にはナチ組織に加入するように勧めるようになっていた。彼女たちは長期的な利害の獲得を期待して組織の保全策を捨てたのだが、結局それは無駄になった。
 計算違いに気づいても、彼女たちはしばらくのあいだは自律を主張し続けた。しかしやがて、二者択一を迫られていることにおそまきながら気がついた。残された道は全面的な服従か解散かのどちらかしかなかったのである。彼女たちは前者を選び、あらゆる国家プログラムに協力することを誓った。
 そして政府も譲歩する形になった。その後の数年で政府は家事使用人のための社会保障計画を縮小し、主婦連盟の会員をショルツ=クリンクの部局の職務に任命した。最終的には家事使用人は給付金を失い、使用人たちが味方とばかり思い込んでいた労働戦線も、労働時間を増やして仕事に感謝するようにと告げた。主婦は結局戦いに勝ち、勝利を祝い合ったのだった。(『第五章 新国家の「古顔たち」』の『主婦連盟のナチ化』より)
………………
 メイドさん達は厳しい生活の中で、政府と主婦達との思惑に振り回されていた事が伺えます。

鈴木博之『建築家たちのヴィクトリア朝 ゴシック復興の世紀』平凡社
 『世界の工場』と呼ばれ、太陽の没する事の無い大帝国を築き上げたヴィクトリア朝時代の英国。しかし、偉容を誇る大都市の陰には延々とスラムが広がっていた。そうした矛盾をはらんだ繁栄の中で、建築家達は、何を理想とし、どの様に時代を乗り越えようとしたのか。十九世紀英国の代表的建築家15人の様々な生き様を辿り直す〈列伝〉スタイルの建築エッセイ集。
 ヴィクトリア時代に活躍した建築家を通じて、当時のイギリスがどの様な時代であったかを論じた書籍。近代でありながら、建築学に関しては非常に保守的な時代に於いて、建築家がどの様な思想で以て建物を建築していったかが分かります。
 でも個人的に気になったのは、父親がかの『我が秘密の生涯』の作者だというチャールズ・ロバート・アシュビー(というか、その父親)だったりしますが。

小池滋+荒木安正 他『紅茶の楽しみ方』新潮社(とんぼの本)
 イギリス人にとって、毎日のティー・タイムはとても大切なもの。そんな紅茶の奥深い魅力を歴史的に辿りながら、茶葉や茶器に付いての基本知識やロンドンの紅茶事情などを紹介した書籍。
 『ヴィクトリア時代のイギリス』四天王(←勝手に命名)の一人(残り三人は小林章夫氏、長島伸一氏、松村昌家氏)、小池滋氏が紅茶の本を書いていた、という事で紹介。こんな本を書いていたんですねぇ。紅茶の歴史を中心に、ヴィクトリア時代のイギリスが紹介されています。


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