

仕事中 ドライブ中 飲んでいる最中 通勤中 ふとした瞬間に思った事をストーリーにしています
楽器
きれいな音が鳴り響いていた。
2枚のガラスから鳴る音だった。
お互いを打ち合わせて鳴るきれいな音だった。
ある日その楽器は砕け散った。
お互いを打ち合わせていた時にバランスがくずれたみたいだ。
砕けたガラスがただばらばらに何の音も出せずに散らばっていた。
再び新しいガラスが出来上がってきた。
バランスを崩さないようにお互いを均等な力で打ち合う。
澄んだ音が響いた。
だが、砕けてしまった楽器と同じ音は鳴らなかった。
現実
初めて来る場所なのに、懐かしく感じる。
それは昔、貴方が旅をしていて好きだった場所だと何度も聞かせてくれたから。
初めて来る場所なのに、ここのことを知っている。
それは昔、貴方が旅をしていて好きだった場所だと何度も教えてくれたから。
初めて来る場所なのに、何故だか寂しく悲しい。
それは今、貴方が隣にいないから。
貴方がいなくなった私には、追うだけの力もなくただ貴方の好きだった場所を巡るだけ。
貴方の聞かせてくれたお話と現実を見ながら一人うなずくだけ。
貴方の姿も残り香も証拠も何もないのに、貴方に近づけた気がするから。
樹木
私はただ立っていた。
私の目の前で今別れを悲しんでいる若い男女がいる。
どうやら、彼の方が何かの都合でどこか遠くへ行かなければならないらしい。
お互いが愛しあっているのに、彼女もついていくことができず、もう一生二度と会えないことになるからと、別れを告げていた。
男は言った。
「僕は君を愛している。だが、どうしてもしなければならないことなんだ。許しておくれ。もし、万が一にもここへ戻ってこれたら君の元へまっさきに行くよ。僕は一生君を愛している。この大きなポプラの木に誓うよ。」
そして、私を見上げた。
「ええ、私もあなたを愛している。ついていくことはかなわないけど、他の人を愛することはできない。この木に誓って言うわ。あなただけを一生愛してる。」
若い女も私を見上げた。
そして、お互いに何も言わず、そしてキスをし別れた。
二人の目からはとめどなく涙が流れていた。
私はただ立っていた。
10年がたった。
私はただ立っていた。
右手の方から10年前に私に誓いをたてた女性が歩いてきた。
その横には知らない男性が一緒に歩いていた。
腕を組み楽しげに歩くさまは、カップルのそれだった。
左手の方から10年前に私に誓いをたてた男性が歩いてきた。
その横には手を繋ぐ小さな子供がいた。
子供のその甘えるさまは、親子のそれだった。
いつ、その男性がこの土地に帰ってきたのかは知らないが、ここにいた。
ちょうどその二人が私の前を通りかかった。
自分が誓いを立てた相手がすぐそばにいるのも気がつかないようだった。
その二人が私に視線を送った。
それは、とても忌々しげな視線だった。
私はただ立っていた。
登山
森を抜けひらけた場所に出た。
青い空に広々とした世界が広がる。
木々に囲まれ暗く不気味で息苦しかった空間からの開放。
とても気持ちがいい、両腕を思いっきり伸ばして伸びをする。
空気がとてもおいしい。
「うん、気持ちいい。こんなに深い森は久しぶりだったな。おかげで迷子になっちゃった。」
誰に言うでもないが独り言が出た。
草原をなでる風が頬を冷やし髪を乱暴に引っ張っていく。
ふと風の来た方向を見やった。
まっすぐに空に向かってそびえたち、左右対称な形を保ち、青々と茂った木々が生える山が見えた。
「あ、ずいぶんきれいな山があるんだ。すごいきれい。他の山とは全然違う・・・。」
なぜだかその山だけがとてもよく見えた。
「よしっ・・・と、次の町に行くまであとちょっとだし時間もあるから登ってみようっと。」
そうして再び山に向けて歩き出した。
登り始めると、今まで見たことのなかった草花や動物達を見つけとても新鮮だった。
とても気持ちがいい。
やっぱり登ってよかったなぁ。
どれほどの時間登っただろうか。
山の7分程まで来ると、それまであった草花がきれ、ごつごつとした岩だらけの殺風景な景色になった。
見晴らしはとてもよかった。
今まで通ってきた森がはるか向こうまで見渡せる。
しかし、自分の歩くこの景色はとてもつまらなかった。
登ることに対しての執着が喪失してきた。
もうこれ以上登っても何もいい発見もなさそうだし、頂上までは見上げるとまだある。
しかし、ここからでも頂上が見えるということは、もう何もないのだ。
そんなとき、ふと見下ろすと、町のある進路方向に小さな山がひっそりとたたずんでいた。
この山がきれいだと思っていて気がつかなかったのだ。
その山は山肌全体に色とりどりの花が咲き乱れ、風が吹くと全体が揺れ、色がちらちらと輝いている。
しばし、そのきれいな景色を見つめていた。
その山のかわいさに見とれていた。
「うん、この山はもう飽きたし、あの山に行こう。あそこならば小さいから時間もそんなにとらないだろうし。」
花の咲き乱れる小さな山は、最初はちゃんとした小道がついていたのだが、登るにつれ花達が侵食しすぎたか道といえる道がなくなっていった。
そして、たくさんの花に群がるたくさんの虫達。
さすがに遠くからは見えなかったこの虫の大群。
花をかきわけながら進むのだが、腕にとげがささったり、虫が顔や腕に張り付いてくる。
「もー! 嫌!! なんなのよ、この山はっ。」
きれいだった髪がぼさぼさになっている。
山の中ほどまでもまだ登っていない・・・・が。
「もう嫌! 最悪よ。下りよう。」
と、下るのも大変なのだが、来た道を戻るしかなかった。
町につくころには夕日が町の向こうの海に沈みかけていた。
疲れきってふらふらな足取りで酒場になだれこむ。
空いていた席はテーブルで相席だったが、すでになんでも構わなくなっていたので、遠慮なく座った。
店の中の一番すみっこ、二人用のテーブル席
先客は幼く見える、ショートカットの小柄な子だった。
だが、手にしているのはずいぶんと強い酒だと匂いでわかり、成人はしているらしいと思った。
自分も酒と少しのおつまみを頼み、そして勝手に今日の山登りの話を始めた。
ほとんどがただの愚痴に聞こえただろう。
だが、嫌な顔せずにっこりとして話しを聞いていてくれた。
そして、最後に口を開いた。
「山はとても大きなものですよね。下から見上げてきれいなもの、そうでもないもの、多々ありますよね。
でも、それの本当の姿は登ってみないとわかりません。美しい山も見かけだけだったり、でこぼこの山でも思わぬ発見があったり。
それに、登っている間は、その山の形が見えなくなってきますよね。それは登っているんですから当然ですが。
どんなに美しく見えた山でも登っている間に飽き飽きして、見晴らしがよければ他の山に目移りすることもありましょう。
でも、頂上まで登って、そして山を見下ろしながら、登ってきたことを振り返るんです。
どんなものにでもいいところもわるいところもあるんです。
疲れてきたり、面倒臭くなってきたりすると、嫌なところばっかりが頭の中を支配してしまうんですよ。
途中であきらめたらり面倒くさがったりしては、その山にも失礼ですし、自分にも得られるものが何かあったはずなのに得られなくて、時間だけがもったいないですよ。
せめて登頂してそして思い返して、それでもいいところが見つからなかったのであれば、それはしょうがないでしょう。
様は自分の気持ち次第ですね。
飽きっぽいのはよくないですよ。」
鉄槌
そこには大小様々なハンマーが至る所に落ちていた。
まわりには、それで破壊されたと思われる物が転がっている。
鏡、テレビ、パソコン、机、ぬいぐるみ、ゲーム、時計、自転車、ピアノ、食器棚・・・等々。
実生活に溶け込んでいる物達が潰されている。
たった一回ハンマーで殴って壊したと思われる物、何度も叩いてまったく形の成していない物。
皆、破壊されつくしている。
家すらも、傾いているものもある。
そして、中には、もうドス黒く固まった血と思われるものがこびり付いたハンマーも落ちている。
僕は、その村だったと思われる中を進んだ。
ふと、目のすみに動く物を捕らえた。
白髪に髭を蓄えた、おじいさんだった。
「おじいさん、この村は他に誰もいないんですか?」
僕は話かけた。
「この村にはもう儂一人じゃよ。」
「この村はどうしてこんなに荒れてしまっているんですか?」
「ここはな、皆生まれた時からハンマーを持つんじゃ。そして、気に入らない物は壊していくという習慣があったのじゃ。じゃから、皆うまくいかん物を壊しつづけ、結局何も残らなくなったのじゃよ。そして若い者達が、人にまでハンマーを振り上げはじめた。それからは、あっという間じゃったよ。結局は皆ちょっとしたことでも、相手が嫌になり、そしてハンマーを振り上げる。」
「おじいさんは生き残ったんですか・・・・。」
「儂にハンマーを上げる者はおらんかったからの。」
「でも、何もかもを壊して生きていくなんて、どうしてそんな習慣ができたんでしょうね。」
「臭い物には蓋をしろ・・・じゃよ。別に臭いものを嫌々嗅ぎ続けなくてもよかろう。いらないものは壊してしまえばすっきりするぞ。」
そういうおじいさんの杖変わりになっているものはハンマーだった。
そのハンマーは使い古され、様々な染みがこびりついていた。
「でも、嫌なものを避けてばかりいたら何も育ちませんよね。確かに嫌になったものを壊すのは、気持ちいいでしょうけど、それを乗り越えていくのもなかなかいいものですよ。おじいさんが、生き残っているというのは、他人に媚びを売るのがすごくうまいのか、それとも他人にハンマーをあげさせる間もない程の短気かなんでしょうね。」
ふと見ると、おじいさんはハンマーを振り上げていた。
「やはり、短気の方なようだ。僕にハンマーを振り上げて、今は気持ちいいかもしれないけど、大好きな人にだって、たまに嫌な事はあるんだ。いなくなった後には大きな焦燥感だけですよ。」
おじいさんはその後、僕にではなく、自分の頭にハンマーを振り落とした。
ハンマーを持つというこの村の習慣は途絶えた。
「なんでも壊して進めばいいわけではないのに・・・・。我慢することは大切なことなんだ、自分が嫌になっても、それを乗り越えていかなければ、心は成長しない。壊してしまうなんて、そんな簡単なことは逃げなんだ。逃げていてはしょうがない。それをここの人たちにはわかってもらえないんだな・・・・・。」
僕は振り返ることなく、この村をあとにした。
日常
いつも通るその公園には毎年一週間だけ、それはきれいな花を咲かせる木がある。
そろそろその時季が近い。
毎日通りながら木を見上げ、そろそろ蕾がひらきそうなのが日に日にわかる。
そして何日か後、その木は零れ落ちそうなほどたくさんの花を枝につけた。
ピンク色の5枚の花びらからなるその花。
普段通らない人まで、わざわざ見に来る。
その花達は2.3日で満開になり、そして4.5日かけて花びらを散らせていった。
その間も人々はひっきりなしにおしよせ、そして花を見上げ感嘆の声をあげた。
その、花達が主役の一週間が過ぎると、地面に散った花びら達もどこかに消え行き、またいつもの静かな公園に戻った。
わたしは、また来年を楽しみに思い足早に通り過ぎようとした。
「お前さんは、いつもあるものは見ないのか?」
横から突然声をかけられた。
ベンチに座っていたおじいさんだった。
何、この人。
「わしはずっと昔からここに座っていたよ。お前さんがいつも通るのを見ておった。」
いつも通っている公園なのにわたしはおじいさんの存在に気がついたことがなかった。
「ここには、毎日必ず咲いている花達がいるのを知っているかね?」
わたしは首を振った。
「お前さんの足元じゃよ。」
わたしは下を見た。
小さな小さな白い花がそこらじゅうに咲いているのに気がついた。
「お前さんは、あの木ばかりを気にしていて、毎日一生懸命咲いているこの花達には気がついてあげなんだ。たった一時しか咲かぬ花ならば確かに楽しみもあるだろう。じゃが、毎日変わらぬ姿で咲いている花達はもっと立派だと思うぞ。その木が満開になった時、この花達は踏みつけられておった。だが誰も気がつかなんだ。」
確かにあたりに小さな小さな白い花達が見えてはいるが、皆潰れ曲がり折れ枯れ始めていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
そして翌日、わたしはまた公園を通った。
だが、いつもと何か違和感を感じる。
「なくしてみなければ、その価値に気がつかない大事なものというものは、当たり前のように側にあるものなんじゃよ。」
おじいさんの声が聞こえた。
公園にあった白い花は残らず枯れ、殺風景になっていた。
わたしは、いつになくひどい虚無感に襲われたのだった。
汽車
僕は汽車に乗っていた。
4人ずつ向かい合って座る型の汽車だ。
僕は一人、席に座り窓から過ぎていく景色を眺めていた。
「何かおもしろいものでも見えるかい?」
突然男が話し掛けてきた。
いつの間に座ったのだろう。
僕の正面に座り、同じように窓からの景色を眺めていた。
「この景色は流れる時間と同じだと思わないかい?」
「流れる時間・・・・?」
「君から見るこの景色は、先に見えていた景色を後ろに流して消えていく。
君の位置からでは振り返るのもたやすくない。
私の位置では、これから見える景色がわからず、過ぎた景色だけが、遠のいて行くのが見える。
私からでは先が見えない。」
「ずっと見ていたい景色ならば振り返れば良いではないか。」
「じゃあ、私は振り返ったままなのかな。」
正面の男はわからないことを言う。
「私がなぜ、君と同じような位置で景色を見ないかわかるか?」
僕は首を振る。
「私は過去を振り返っているのだ。
君はずっと、先を見ている。そして、過ぎたことは振り返らない。
私は先を見ない。」
汽車はずっと、草原の中を駆け抜けていた。
景色に変化はなかった。
「見ていたいものがあるのならば、そこで降りて立っていればいい。」
僕が言い放つと、男は少し悲しそうな顔をした。
「それでは意味がないではないか。人はみんな進んで行かなければならないのだよ。
いつまでもそこにこだわりつづけても仕方がない。だが、過去は大事だ。
すぎてしまったものはすでに取り戻せない。
私は過去を見つづけながら、その瞬間を過ぎていっているのだ。」
「僕は過去にこだわってないと言いたいのか?」
「そうではないよ。先を見つづけることも大事だ。
だが、過ぎてしまったことに悔やむことをしないのが一番だ。」
僕はどきっとした。
「君は、無理やり過ぎ去ったことを見ようとしていないのかな?
後悔・・・とは、後で悔やむ事、
先に悔やめるなんて事はできはしない。過ぎてしまったものをふりかえらなければ後悔はしない。
でも、後悔するほどの出来事というものは自分を成長させてくれているはずだ。
なかったことにするのではなく、また振り返り、そして先を見ればよいのだ。」
景色に変化が見え始めた。
男はいつのまにかいなくなっていた。
鍵穴
男は突然僕に言った。
「君の胸にはどうして『鍵穴』がついているんだい?」
僕は自分の胸と、目の前の男の胸を見た。
僕の胸には鍵穴があった。
いつからあったのだろう。
「鍵を探しているんです。持っていませんか?」
僕の口からそういう言葉が出た。
「なくしてしまったのかい?」
男は哀れそうな目で僕を見た。
「その鍵を探すのは大変だろうに。」
男は去って行った。
小さな女の子が僕を見上げて言った。
「お兄ちゃん、なんで『鍵穴』があるの?」
ぬいぐるみを抱きしめ、女の子は僕の胸をじっと見つめた。
「お兄ちゃんはね。大事な鍵をなくしてしまったんだよ。」
僕の口は相変わらず勝手に言葉を紡いでくれた。
「鍵を見つけたらどうするの?」
女の子は興味があるといわんばかりの目で言う。
「鍵を見つけたらここを開けてみるんだよ。」
僕は少ししゃがんで女の子に語りかけた。
「そこには何が入っているの?」
そこには何が・・・・・。
「それは、開けてみてからのお楽しみ。」
そう言うと女の子はつまらなそうに去って行った。
「おやおや、若いの、どうしたんだね。」
声をかけられ、ふと見ると、杖によりかかっておじいさんが立っていた。
「鍵を探しているんです。」
おじいさんは、僕の胸を見、そして、僕の顔を見た。
「そのまえに、どうして鍵をかけてしまったんだね?」
「え?」
僕の口でも戸惑う事を初めて聞かれた。
「それがわからなければ、鍵も探せまいよ。」
鍵をかけてしまった理由・・・・・。
「そこには、何が入っているのかもわかっておらんのじゃろうて。」
鍵を開けたらそこには・・・・?
「そこには、おぬしの『心』が入っているのじゃよ。」
『心』が・・・・。
「心に鍵を掛けた理由もわからずに、開ける鍵が見つかるわけがなかろう。
他人に鍵を見つけて貰おうと思わずに、自分で鍵を見つける努力をしなければならぬぞ。」
おじいさんは去っていった。
そして、僕は、歩き出した。
自分から、歩き出すことを決めた。
それが、鍵を見つける第一歩だった。