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ある国の王様が、ある「おふれ」を出しました。

「今後一切この国の住人は、『慣用句』を使ってはならない」という物でした。
「最近の言葉は乱れておる。正しい言葉を使うこと、それが国を正しい道へ導くのだ。このままではこの国は滅びてしまう」というのでした。

『慣用句』というのは、みんなが昔から使っている、ある決まった言い回しのことです。
さあ、国の住人は困りました。何しろ命令に背くと、極刑が待っているのです。
それで国の住人はすっかり無口になってしまいました。
ある日、王様が侍従を呼びつけて言いました。
「このところ国の様子がすっかり静かになったようだ。あの『ふれ』を出す前は、町で若者は騒ぐし、下品な言葉は行き交うし勝手な流行語は作るし、まことに騒がしいものであった。それがすっかり様子が変わった。上品になった。これでこの国の文化も安泰だ」

侍従は答えました。
「さすがは王様です。おっしゃるとおり国の住人はすっかり無口になりました。」
「それでよいのだ。みんなが私の言うことに耳を傾ける。それでこそ国家は安泰なのだ」
「恐れながら王様、今『耳を傾ける』とおっしゃいましたが、それは禁じられた『慣用句』ではないかと思いますが・・・・」

王様は眉をひそめました。
「うーん、なるほど、『耳を傾ける』は慣用句であったか。それは私としたことが飛んだことだった」

侍従が又、口を開きました。
「恐れながら王様、ただいまの『とんだことだった』という言い回しは、これもまた『慣用句』ではなかったかと・・・」
3、 「なに、またか!。うーん、失敗失敗、王たる物が二度も続けて失敗するようでは、全く開いた口がふさがらない」
「あ、王様、それも慣用句で。『開いた口は必ずふさがるもの』で、決して『ふさがらない』というようなことはございません」

王様はむっとしていました。
暫く侍従をにらみつけておりましたが、うまく言葉が出なくなりました。どれが慣用句で、どれが慣用句ではないのか、考えると言葉に詰まってしまうのです。

とうとうたまりかねて、王様はそばにいた侍女に声をかけました。
「腹が減った。食事にしよう」

侍従が「おそれながら」と又声をかけました。
「なに、またか!」
「いえ、
私にもよくわからないのですが、『腹が減った』ということは、厳密に申せば慣用句にふれるように思われます。考えてみれば、実際に腹が減ったり増えたりするわけではありません。正確に言うならば『腹に何か食べ物を入れたい』と、それが正しいことば遣いではないかと」

王様はいらいらしました。
「もういい、わかった。腹に何か食べ物を入れたい!なにか食べ物を持ってこい!、これでいいのだな」
侍従は深々と頭を下げました。

王様は食事をとりながら考えました。
「これは困ったことになった。これではうっかり口を開くこともできん。そうか、国中が静かになったのは私が『慣用句』を禁じたからなのだ。決して国が上品になったからではないのだ。」

王様はほっとため息をつきました。そして肩をすぼめました。
笑いが急にこみ上げてきました。

侍従」と王様は言いました。
「あの『ふれ』はやめることにしよう。私の間違いだった。王たるもの、もっと国民の様子を詳しく、ひとみを凝らして見つめなければならない。言葉をしゃべるのに、このように精も根も尽き果てるようでは、かえって国が滅びてしまう。むしろ文化を豊かにするためには慣用句を奨励するのがいいだろう」

侍従は感動してまた頭を深々と下げました。

明くる日、国中に「慣用句奨励」のおふれが出ました。国に活気が戻ったのは、それからすぐのことでした。

さて、この文章の中に「慣用句」はいくつ出てきたと思いますか?。




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