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ダラダラ姫と点うち娘 

 ある国に小さなお姫様がおりました。

このお姫様はとてもお話の好きなお姫様でした。
 
いつも家来を集めては、自分の作ったお話を聞かせるのです。
 
ところがそのお話はだらだら、だらだら、とってもながく、

いつまでたっても終わらないのでした。

 たとえば、こんな風でした。
 
 「ある晩に魔法使いのおばあさんが、山から下りてきて、町を歩いていると、
 
むこうからヤギがやってきたので、よーし、あのヤギを少年に変えてしまおうと

 思って、杖を振ると、あーら大変、ヤギは少年に変わったのですが、町の人は
 
みんなまだねていて、そのことに気がついた人がいなかったので、それにやぎも

 急に少年になった自分のことを気がつかないので、これは困ったなあと思って、

 これでは魔法をかけてもだれもびっくりしないなんて、とってもつまらないから、
 
今度は、町のみんなの起きた朝に、魔法をかけてみようと思ったら、朝になって、
 
魔法が解けて少年はヤギに戻ってしまったので、びっくりしたなあと思って、・・・・」


 とまあ、こんな具合なのです。
 
最初のうちはそれでも我慢して家来はお姫様のお話を聞いているのですが、

 一人眠り、二人眠り、みんな最後にはぐっすり寝てしまうのでした。
 
それでもお姫様のだらだら話はおわらず、ひどいときは、ご飯も食べず二日二晩、

えんえんと だらだらだらと続くのでした。
 
いつのまにかお姫様のことを、誰いうともなく「だらだら姫」と呼び、

 家来たちはおそれはじめたのでした。
 
 もちろん王様も后もそのことを知って、頭を抱えておりました。
 
「后や、また姫がだらだら話をはじめようとしている、

最近では家来が皆逃げて、姫は お冠じゃ。

わしに話を聞けと、せがむ有様。困ったことだ」。

 「王様、困っておりますのは、わたしも同様、

一度あの姫のダラダラ話につきあおうものなら、
 
もうなにも手に付かず、ただひたすら、話の終わるのを

いつかいつかと 待つしかございません」。

 「うーん、なにかよい手だてはないものだろうか」。
 
 
二人の悩みを聞きつけた侍女がそっと二人に耳打ちをいたしました。

 「お姫様のお話を聞く相手を募集したらどうでしょう。

いわば、お姫様のお話相手、それなら
 
名誉のことと思って、自分の娘を差し出すものもおるでしょう」。
 
「うん、それは名案かもしれない。さっそくオーディションをやってみよう」。
 
 お姫様と同じ年頃の娘たちが町からたくさん集められました。

オーディションの始まりです。
 
ですが、お姫様がお話をはじめると、次から次と娘たちはぐーぐー、高いびき、

 眠ってしまいます。
 
王様はあきれ果てていいました。
 
「うーん、これは聞きしにまさるだらだら話。姫の力は大したものじゃ」。
 
「あなた、感心している場合じゃありません」。后に怒られる始末でした。
 
 「王様、王様、とてもよい娘を見つけました。

 この娘ならダラダラ姫のお相手ができるかもしれません」。
 
 
王様は連れ出された娘をみました。年頃はお姫様と同じぐらい。

 つれてきた家来がもうしました。
 
「この娘は大変気短かでございます。

なんでも別名『点うち娘』と呼ばれているようで、
 
長いお話を聞くと手にした筆を人はらい、相手の顔に墨で点を打つ

早業の持ち主とか」。
 
娘がじろっと家来をみて、右手を一ふり、
 
すると、手にした筆からパシっと墨が飛び、

家来の額に黒々と墨を打ちました。
 
  そして一言「ながい」ともうしました。
 

 王様は膝を打ちました。

「これだ、この娘だ。この娘を姫の聞き役にしてみよう」。

 后ははらはらしていいました。

 「王様、大丈夫でしょうか。

姫はこの娘とけんかしてしまうのではないでしょうか」。

 「后よ、姫はいずれ婿をとり、この国を継がねばならない。
 
このくらいの試練に耐えられないようでは、先が思いやられる。

 姫の試練じゃ、この娘と姫を引き合わせてみよう」
 
 そして、とうとうその日がやってきました。

だらだら姫と点うち娘が向かい合って座りました。
 
点うち娘の傍らには墨のいっぱいはいった壺がおいてあります。
 
姫はといえば、「なーに、このなまいきそうな娘」とでもいわんばかりに、

 娘をにらみつけておりました。
 
后と王様は、物陰からそっと二人の様子をうかがっています。

 やはり、そうとう心配なのでした。
 
「后や、そろそろ始まるようだ、どうなるか、胸が躍るようだ」。

 王様が身を乗り出した、そのときです。姫が口を開きました。
 
 「これはある晩のことで、
山からある魔法使いのおばあさんがおりてきて・・・」。

 ああ、なんということでしょう、

ダラダラ姫はもっとも得意としている別名「ダラダラ一番」の話を

 はじめたのでした。
 
点うち娘も「きたな!」とばかり身構えて、筆にたっぷり墨を付け、

頃合をはかっておりました。
 

 「やあ!」。

ついに点うち娘の腕がいっせん、

空を切ると筆先から墨の固まりがほとばしり、

 姫に向かって飛んでいきます。
 
すると、姫もその危険を察したのか、

すばやく、手にしたセンスで顔を隠したのでした。

 そして、にっこり笑ったのでした。
 
さらに「そのおばあさんは町でヤギを見つけたので、

そのやぎを少年にしてやろうと・・」と、
 
「ダラダラ一番」のお話をまたはじめたのでした。
 

 それからはもう大変です。

すこし話が進むと「やあ!」と点うち娘が筆をふり、とんできた墨を

 姫ははっしとセンスで受け止め、その繰り返し。
 
王様と后はその二人のやりとりに感動しながら見つめるばかりでした。
 

 1時間ほどバトルは続いたでしょうか。

姫の息は乱れ、あたりは墨のあと、
 
点うち娘も肩でおおきく息をついて、力も尽きそうな有様でした。
 
そして、ついにいったのです。「よし、この続きはまた明日じゃ」。


 后が喜びの声を挙げました。
 
「王様、姫が、姫がついに自分でダラダラ話をやめました」。

王様の頬にも涙が流れました。

 「うん、明日が楽しみじゃのう」

 
そして、その明くる日がやってきました。
 
昨日と同様、ダラダラ姫と点うち娘が向かい合います。

 昨日は点うち娘がまんまと姫にしてやられました。

ですから点うち娘も必死です。
 
姫はまず肩で大きく息を吸い、
 
ゆっくりとあの恐怖の「ダラダラ一番」の続きをはじめたのでした。
 

 「やあ」、点うち娘が筆を振るい、姫がさっとセンスで受ける。

 戦いは昨日と全く同じ状況で続きました。
 
30分も姫のダラダラ一番が続いた頃でしょうか。

満身の力を込めて、点うち娘が筆を払い、
 
ひときわ大きな墨の固まりが姫のセンスめがけて飛んでいきました。
 
と、どうでしょう、点うち娘の放った墨の一滴が

みごとに姫のセンスをうち破り、
 
姫のかわいいおでこに バシン、

見事に点を打ったのでした。

 お姫様はショックで口をあいたまま目をむいておりました。

 「この続きは・・・・また明日じゃ!」。
 
姫はようやくそれだけ口にすると、席を立っていきました。

 物陰からみていた王様と后は手に手を取って大喜びでした。

 「姫が、姫の話が30分でとぎれたぞ。快挙だ、珍事じゃ。」
 
 
明くる日も、その次の日も点うち娘とダラダラ姫の戦いが続きました。
 
そのバトルのすさまじさを聞きつけた家来たちも、一人来て、二人来て、

 ついには城中の家来が集まってくるようになったのです。

 「今日の戦いは、どっちが勝つだろうか」
 
「昨日は姫が優勢だった。だから今日は点うち娘も必死だろう」。

 「俺は姫の勝ちにかけるぞ、おまえはどうする」。

賭け事が始まる有様です。
 
 
さて、それから一月たちました。

ダラダラ姫と点うち娘の争いはどうなったでしょう。

 なんと、点うち娘が筆を払おうとすると、

姫がとっさに話を区切るようになりました。

 自分で点や丸を打つようになったのです。
 
それをみた点うち娘も、にやっと笑って筆を置きます。

 ダラダラ姫も、にっこり笑い、また「だらだら一番」を、

いえ、もうそのときには魔法使いのおばあさんのお話は

「魔法つかいと少年」という立派な題名がついておりました。



 めでたし、めでたし。

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