[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」



変わったこと

 シアトルに行った時点で三十半ばですから、かぶれて帰ってきたことはありませんが、わずかに変わったことを。

 肉体的にはまったく変わりがなかったですね。よく「アメリカの食事は高カロリーで甘くて大変だったでしょ?」と聞か れるんですが、基本的に三食自炊でしたから日本と変わらない食事をしていたのと、たくさん食べても太らない体質な ので、渡米前・渡米後で体重・体型の変化はなし。むしろ、渡米前はやせ過ぎで「シアトル行って太って帰るぞ」と思っ ていたので、残念でした(笑)。
 高カロリーな食品が多い+肥満体質の多いアメリカですから、低脂肪(無脂肪)の食品が多く、スーパーでなにげなく 手にとって、料理の前によぉくパッケージを見ると無脂肪だったり。ルームメイトの一人がアマチュア・ボクサーだったの で、栄養学に詳しい彼女に「太る食事を教えて」と言って、いくつか教えてもらいましたが、「短い時間で確実に力にな る」とか「筋肉になりやすい」にフォーカスした、「美味しい」ということを度外視した食事ばかりで、「すまん、やっぱりトン カツにする」と言って、彼女のレシピを採用することはまれでしたね。
 で、食事関連で変わったことは、それまで「煮物でご飯食べられない」と思ったいたのが、年齢のせいもあるんでしょ うけど、薄味のおでんや煮物でご飯モリモリ食べるようになりました。それまで脂っこい中華料理のエキスパートだった 僕が、和食に手を広げて、母や親戚の叔母に「和食の作り方教えて」と手紙を送るようになりました。今や僕は和食の エキスパートでもあります(笑)。

 精神的には、日本では起こりえない様々な辛いこと楽しいこと嬉しいこと心躍ること…色んなことがありました。だか ら、鍛えられたし、毎日毎日「次は何があるんだろう」と思っていましたし、楽しいことだけじゃないけれど、10年間毎日 毎日同じことの繰り返しをした後の僕には、新鮮で楽しかった。
 シアトルでの暮らしで一番神経をつかったのが、治安の問題です。常に「危ない」と思って備え続けなければいけな いので、外を何気なく歩いているように見えて、常に神経を張って四方八方に気を配り、たとえば信号待ちで交差点に 立っている時もバス停でバスを待つ間も自分の周囲の状況を完全に把握して、何か危ない兆候を感じたらサッと動け るようにしておかなければいけないのです。
 ルームメイトに「交差点の歩道で信号待ちする時は、道路際に立つな」と言われて、「どうして?」と聞いたら、「車の 中から手が伸びてきてお前を引きずり倒すかもしれないよ」と言われて、ほぅ、と思いました。別のルームメイトには、 「後ろから走ってくる奴と出会い頭には気をつけろ」と言われて、歩く時には歩道の端を、信号待ちでは歩道の奥に、と 気をつけるようになりました。
 日本とは完全に「安全」の基準が違いますし、いつどこでも犯罪被害者になる可能性が異常に高い(日本が安全すぎ るのかもしれません)街ですから、1年半で心身ともにシアトル風にアジャスト。
 ですから、帰国してもしばらくその癖が抜けず、常に緊張しきって街を歩いてました。欧米並に危なくなった日本でも そういうワザは役立つはずですから、これからもシアトル・スタイルで街を歩こうと思います。

 渡米前には、僕はささいなことにもこだわるしモノゴト・ヒトの好き嫌いも多くいささか神経質ではありましたね。
 シアトルの人々の、骨太というか大雑把というか適当というか、そんな生き方に接した当初は、とてもイライラしたもの でした。掃除しないし、食器などの汚れ物を2〜3日片づけないままだし、冷蔵庫の中に得体の知れない食品がずっと 入っているのを見て、「もぉ…」と思っていました。街に出れば、買い物の釣り銭を放り投げる奴に毒づいたり、買った衣 類にほんの少しほつれを見つけて交換を頼んだら「問題ないよ」と言われてムッとしたり。
 それが毎日毎日ですから、慣れちゃうんですね、人間って。だんだん感化されて、本質に影響しなきゃ細かいことは どうでもよくなってくる(笑)。「ほこりじゃ死なない」って言って部屋の掃除をしなかったら、アレルギーで鼻グズグズにな っちゃったので、掃除だけはしましたし、食器を数日放置するのはやはり衛生面で問題があると思ったので、毎食後キ チンキチンと洗いましたが、変わったのは、対人関係での気持ちの持ちよう。
 シアトルで出会った人々は、幸いなことに大らかで前向きな人が多く、「こんなこと言って迷惑じゃないか」と思いつつ も、言ってみると「ノープロブレム」、「こうしてみたんだよ」と言うと「グレイト!」。褒められておだてられれば天にも昇る 僕も、他人にそうしてみようと思って、シアトル滞在中はずっとそうしてみました。
 子供の頃、4〜5歳上の近所のボンボンが、渡米前は皮肉屋で「俺んち金持だからさ」っていうのが口癖の嫌な奴が アメリカに半年ばかり留学することになり、帰ってくるとすっかり毒気が抜けて、フレンドリーなニイちゃんになってまし た。アメリカって人間をそういう風にさせて帰すようですが、もともとフレンドリーな僕はもっとフレンドリーになって帰って きましたから、そういう大雑把で骨太で適当なアメリカの魔力というか魅力というのは今でも生きているようです。
 幸か不幸か、クラスメイトや学校内外の友人知人は僕よりはるかに若い人が多く、男女を問わず「可愛いなぁ…」と思 いつつも、言葉も勉強もすべて彼らのほうが遙かに実力が上で、すんなりシアトル暮らしになじんでいて、尊敬すべき 存在が多くいました。一応僕は年上で、生活や人生の相談をされることが多く、そういう尊敬すべき若き友人たちに何 か言うべきことがあるとすれば「素晴らしい!」とか「そのままドーンッと行こう」ということで、なんの答えにもなってませ んが、そう言うことで彼らの気が楽になれば僕も幸せな気持ちになれるので、一切否定をしませんでした。友人にそう 言うことで、僕自身も前向きな気持ちでモノゴトに当たれるようになり、今や明るく元気に…バイタリティにはあふれてな いけどさ…生きてます(笑)。

SEATTLEに戻る