
小説の部屋
お気楽少女 ある日のトモリちゃん
その3
第4章 激闘 バスケット
渡り廊下を通って制服姿の友利未央と体操着姿の長谷川茜が体育館に行くと丁度チャイムが鳴り体育準備室から出てきた体育の田中先生が女子生徒たちを整列させる。田中先生は35歳くらいの男である。友利未央は田中先生のところに行きうつむいて恥ずかしそうな様子で
「あのぅ、先生。あたし今日見学します」
と告げる。田中先生は
「うん、そうか分かった。友利見学ね」
とだけ答え出席簿に記録を付けた。毎月の事ではあるが具体的に口には出さないものの男の先生に乙女の秘密を告白しなくてはならないことに友利未央のような純情な少女はただならない羞恥を覚えるのだ。制服姿の友利未央はスカートの中が見えないように気をつけて体育館の端にすわった。
授業を受ける長谷川茜たちはまず広がってかったるそうに準備体操をする。
「1,2,3,4,5,6,7,8…」
という体育係の号令もやる気なさそう。ラジオ体操第一でピョンピョン跳びはねると女子生徒のポニーテールに結った髪があっちこっちに揺れる。二人一組の柔軟体操になると
「痛い、痛い、それ以上押さないでぇ、あ゛ぁーっ」
という声が体育館のそこここで上がる。今時の中学1年生はあまり運動しないから体が固いのだ。ハーフパンツから伸びる足を全開にして上体を前に倒す運動でもまた体育館に悲鳴が上がる。田中先生は
「お前ら体固すぎ。もっと普段から体動かせよなぁ」
と言う。体育係が倉庫から出してきたカゴから1つづつバスケットボールを女子生徒たちは持ちまずはドリブルの練習。体育館の端から端までドリブルする。ある程度体がほぐれてくると2人1組になってパスの練習。チェストパスやバウンズパスを繰り返す。ボールをやり取りする女子生徒たちは時折取りそこねて体育館の床をボールが転がっていきそれを追っててててーっと女子生徒が他の生徒の邪魔にならぬよう拾いに走る。投げた方も
「純子 ごめ〜ん」
と声を掛ける。そして女子生徒たちはゴールの前にならんでドリブルしながら歩きシュートを放つ練習に入った。長谷川茜は華麗にドリブルしながらシュートを放つが板に当たって跳ね返されてしまい
「くやしー!」
とムキになって言った。やはり直接試合の勝ち負けに関わるシュートの練習ともなるとみんな真剣になるようだ。その次にシュートを放った毛利洋子はリングに当たってボールがどうなるかと思ったがコトリと入って
「やったーっ」
と言って長谷川茜とタッチして喜んだ。長谷川茜は毛利洋子に
「なんであたしのだけ入んないんだろ」
「それはやっぱり普段の心がけでしょ」
「ひどーい! あたしちゃんと神様にお願いしてるもん」
「何の神様?」
「バスケの神様」
「そんなのいるの?」
「いるよぉー。たぶん」
とおしゃべりしていると田中先生は
「やめーっ。こちらに集合」
と言って女子生徒を中央に集める。
「これから試合をします。1班と2班、3班と4班、5班と6班の対戦とします。全員元のカゴにボールを戻して1班と2班の子は試合の準備」
と言うと全生徒がわらわらとカゴにボールを戻しに群がり1班と2班以外の子はコートの脇やステージの上で観戦となった。長谷川茜は4班なので友利未央の隣に来て
「トモリちゃぁーん、一緒に見ようねぇー」
と言ってすわった。長谷川茜はハーフパンツをはいているのでスカートの友利未央のように下着を気にする事なくどっかとあぐらをかいた。1試合は時間の都合で7分1本勝負である。2班に陸上部とバレーボール部がいて吹奏楽部や理科部など文化部の多い1班に比べるとやや有利かという感じだ。
戦前の予想通り2班の陸上部とバレーボール部の子の活躍で2班が8−0と1班に圧勝した。いよいよ長谷川茜の出る3班と4班の対戦となり
「んじゃトモリちゃん行ってくるねぇー。あたしの華麗なるシュートを見ててねー」
と言って長谷川茜は立ち上がる。友利未央は
「あかね、ガンバー!」
と言って応援する。3班のメンバーは鈴木梨香、山田順子、加藤美紀、小島佑香、川崎愛美。4班のメンバーは長谷川茜、飯島小百合、池本理沙、毛利洋子、吉田真由美である。じゃんけんでコートのサイドを決め、4班の長谷川茜と3班の鈴木梨香がジャンプに出た。鈴木梨香の方が長谷川茜より背が10cmも高いのでボールは長谷川茜の手に全くかすりもせず鈴木梨香にはたき落とされ試合が始まった。友利未央はコートの脇から
「あかねー! ファイトー!」
と声援を送る。先制したのは3班の加藤美紀でゴール右からシュートを放つと一度リングに当たってからコトリと入って2−0となって3班リード。加藤美紀は
「やったー!」
と大騒ぎしながらコート中央に戻っていく。4班の飯島小百合がゴール下からボールを投げ入れる。池本理沙がそれを受けてドリブルして敵陣に攻め上ぼる。3班の川崎愛美がディフェンスに出てきたので池本理沙は右前方にいる長谷川茜に
「あかねっ!」
と鋭く叫んでパス。長谷川茜はドリブルで3歩進んだところで毛利洋子、吉田真由美に行く手を阻まれたのでその場からゴール目掛けてシュートを放つ。しかし強すぎてボールは板に当たって跳ね返る。長谷川茜はそのこぼれ球を拾おうとしたけれど吉田真由美に阻止された。しかし池本理沙がキャッチし長谷川茜は
「理沙ちゃん、シュート!」
と叫び、理沙はシュートを放つ。今度はリングに当たってはじかれた。長谷川茜はすごく悔しそうに
「惜しーぃ!」
と叫んだ。こぼれ球を3班の鈴木梨香が拾い反対サイドにいた加藤美紀にロングパス。今度は3班のペースで試合が展開していく。美紀は1歩2歩3歩とドリブルして飯島小百合がカットに入ろうとしたのでそこからシュートを放った。ボールはスコンとゴールに入り4−0となって3班のリードが広がる。美紀は
「キャーッ!」
と大騒ぎしながらコート中央に戻っていく。4班の池本理沙がゴール下からボールを投げ入れるのだが右前方にいる飯島小百合の方を見て
「小百合ー、行くわよぉー」
と言って左前方の長谷川茜に投げ入れるフェイントを見せる。長谷川茜はボールを受け取るとジグザグにドリブルしてゴールを目指す。小島佑香がカットに入ってきたので茜は立ち止まりボールを両手で持ち佑香に取られないように頭の上であちこち動かすがラチがあかないので
「ちぇい!」
と叫んでその場からシュートを打つ。ひょろひょろーっと飛んだ茜のボールはコトリとゴールに入った。4−2に追い上げで茜は
「やった、やった〜」
とぴょんぴょん跳びはねて喜んだ。友利未央も
「あかね、ナイスシュート!」
と声援する。茜は友利未央にVサインしてこたえるが3班の子がゴールの下からボールを投げ入れようとしているので茜も戦闘モードに素早く回路を切り替えるとボールを受けそうな3班の生徒をマークに走った。ボールを奪おうにも3班はなかなか隙を見せず4班のブロックをかわして加藤美紀がドリブルしながら攻め込んできた。毛利洋子が美紀からボールを奪おうとするが美紀はそれをかわしてシュートを放つ。少し遠かったがボールはコトリとゴールに入った。6−2とまた点差が広がった。長谷川茜がボールを拾いコート内を見渡しながら
「4班、みんなカンバー」
と声を掛ける。茜がボールを投げ入れたところで先生の笛が鳴りゲームセットとなり長谷川茜の4班は6−2で敗れた。
「ありがとうございました」
と礼をして長谷川茜は友利未央の所にやってきて左に座った。
「トモリちゃん、負けちゃったー」
「おー、よしよし。茜ドンマイ」
と泣く真似をする茜の頭を未央はなでてやる。
「あーあ、あと1ゴールくらい入ったらなぁ」
「茜はがんばったんだからいいのー」
5班と6班の試合が始まるので二人はその試合に声援を送る。結局その試合は2−0で5班が勝った。それで体育の授業は終了となり見学のトモリちゃんを含む全員が先生の前に集合し礼をしてから女子生徒たちは教室に戻った。
第5章 茜の午睡
そして4時間目の長谷川茜が爆睡するようなたいくつな社会・日本史が終り給食の時間になり机を男女3人づつ向かい合わせのグループを作りテーブルクロスをかける。1年2組の教室の黒板には4時間目の社会でやった冠位十二階や十七条の憲法など聖徳太子の政治や法隆寺の謎についての板書が書き残されている。これは日直の怠慢ではなく消すとチョークの粉が飛び散るので松波第四中学校では4時間目の板書は給食の後に消す決まりになっているのだ。黒板の端には社会の先生が描いたヘタクソな聖徳太子の昔の一万円札と法隆寺の五重塔のイラストまで残っている。
班ごとに給食を取りにゆくのを渋滞にならぬよう担任の川田先生が混雑状況を見ながら
「はーい、じゃあ次4班行ってぇー」
と指示を出したので4班の友利未央と長谷川茜らが6人でゾロゾロ列をなし給食台に向かう。白いかっぽう着に帽子をかぶった当番が盛り付けをしそれを各自受け取るシステムで今日の献立はパン、牛乳、ラザニア、スープ、サラダで友利未央はトレイを持ち給食当番の男子から牛乳瓶を受け取りパンのところに進む。今日のパン係は池本理沙でパンをはさんだトングを両手に持って踊っている。中学1年生の理沙は大変に元気。未央が
「理沙ちゃーん、パンちょーだーい」
と言うと
「はいなー、未央ちゃん」
と踊りながら左手に持ったトングにはさんだパンを未央のトレイに置いた。そして未央はラザニア、スープ、サラダを受け取って自分の席に戻った。
未央の二人後に並んでいた長谷川茜もトレイを持ち牛乳瓶を受け取りパンのところに進む。パン係は池本理沙に
「理沙ちゃん、パンくでぇ」
と言うと理沙は
「やだも〜ん」
と理沙はトングにつかんだパンを引っ込める。
「あー、ひどいーっ」
と言うと二人は笑い理沙は茜のトレイにパンを置いた。茜も一式トレイにのせると自分の席に戻った。茜の席は未央の後ろなのでグループを作ると茜は未央の左に来るのだ。全員の席にトレイが並んだところで日直が
「いただきまーす」
と号令を掛け一同食べ始める。茜は
「あーお腹すいたぁー」
と言いながら牛乳を口にした。川田先生もクラスで給食を食べている。
給食の後に掃除タイムとなり机を後ろに下げたりして校内がかなりどたばたしほこりっぽい。他の階では廊下でほうきを振り回してふざける3年生男子やまったく掃除をする気のない2年生女子が3人ほうきを持ったまま呆然と制服姿で廊下に座り込み世も末な光景だ。掃除を終えた中学1年生の教室前では男子がクラスメイトにヘッドロックをかけている。
短い昼休みをはさんで5時間目。友利未央と長谷川茜の1年2組は数学。バスケットで疲れお腹いっぱいになった長谷川茜は授業の初めから音も立てずに机に突っ伏し眠りコケている。まじめな友利未央は必死に寝ないようしていた。黒板には
問1 (−3)+(+5)−(−7)−(+5)=
と書いてある。今松波第四中学校では負の数の計算をやっているのだ。数学の佐藤先生は目をつぶって出席簿を指差し
「はい、じゃあ問1を34番の友利、前に出て解いて」
と言われ未央は
「はい」
と答えてノートを持って前に出た。未央はまず
=−3+5+7−5
とカッコを外す作業をした。そして
=+5+7−3−5
と正の数と負の数を分け
=+12−8=+4
と答えを導き出した。そして未央は
「出来ました」
と佐藤先生に言って席に戻った。その際茜の様子を見るとまだくてっと机に突っ伏していたので未央がツンと背中をつつくと「えっ」という顔をして長谷川茜は起きた。
佐藤先生は赤いチョークで大きな丸を付けて
「友利正解! まずカッコを外して、正の数と負の数を分けて整理するのがこの式を解くポイントだね」
と未央の解き方をほめた。この時間も暑いので1年2組の教室の窓は全開になっていた。ご多分に漏れず西川区は赤字なので区立中学校の冷房化にまでお金が回ってこないのだ。不意に窓から突風が教室に吹き込み生徒の机に載っていたプリントをピューッと舞わせた。長い髪の子は校則通りにゴムで結っていたので大した事はなかったがセミロングの子が風に髪がはためき
「いやーっ」
と悲鳴を上げた。あわてて席を立ちプリントを拾いに行く生徒たち。窓際の女子生徒が自分の所の窓を閉めた。生徒たちの集中が突風で途切れたところでチャイムが鳴り佐藤先生は授業を終えた。
「起立、礼」
でこの日最後の授業が終わった。生徒たちはもう帰る気満点でスポーツバッグに教科書やノートをしまい始める。長谷川茜が友利未央と
「あぁー、今日も一日終わったねぇ」
「茜よく寝てたねぇー」
「なんでいい気持ちで寝てるのを起こすのよぉー」
としゃべっていると帰りの学活で担任の川田先生が来る。がやがやする生徒たちに向かって
「先生にヘソを向けて下さい」
と言って生徒を集中させる。茜は荷造りを終え上履きの靴紐を結び直し帰る体制万全だ。伝達事項でまず担任が
「明日は内科検診がありますので体操着の白丸首シャツとハーフパンツを忘れないように」
と話す。
「もし忘れたらどうするんですかぁー」
と質問する男子に
「そしたら裸」
と言うと生徒大ウケ。女子生徒には「いゃーっ」と言う子もいた。
ここから学級委員が進め各教科の係から後ろの黒板に書いてある明日の持ち物、宿題の確認をひとつづつしてゆく。女子生徒の中には忘れないようにか手のひらにマジックで書いている子も見られた。
最後に担任が
「来週から中間テストが始まりまーす」
と言うと
「うわぁー」
「いゃーっ」
という声が生徒たちから上がる。
「中間テストなんてものは普段からきちんと勉強していれば出来る内容の問題です。今『うわぁー』とか言った人はよほどサボっているのですね。点数の低い人には楽しい補習が待っていますのでこのクラスからは何人来てくれるか先生楽しみです」
「うわぁー」
「いゃーっ」
「きゃーっ」
「ぎぇーっ」
「げげぇーっ」
「卑怯だぁーっ」
「ひでぇーっ」
「そんなの聞いてないじゃん!」
と生徒たちはパニックに陥る。
「せいぜいがんばってね、日直っ」
と先生が促し
「起立、気をつけ、さようなら」
と終礼をして友利未央は教室を出て長谷川茜と昇降口に向かった。
fin.
【あとがき】
この小説は2002年の夏に書き上げましたがその後しばらくフロッピーディスクの中に眠っていました。約1年の時を経て発表します。この小説を書くために東京都区内のある中学校にリサーチをしていますのでリアリティには自信があります。ですから映画化するときはその中学校でロケしたいです。
普通の女子中学生の普通の学校生活が伝わればいいと思います。
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