小説の部屋

学問所の少女たち


2004/7/7 製作中    

学問所の少女たち

   

その1

プロローグ

「では、そういうことで」
「今後もどうぞよろしくお願いします」
虎ノ門の文部科学省の一室でスーツ姿の商人然とした男と文部科学大臣 大村が密会していた。商人然とした男の名前は佐藤公昌といい全国に教室を展開する大手学習塾チェーンの社長にして新日本学習塾連合会の会長であった。佐藤は大村の元へ好物の山吹色の菓子を持って陳情に来ていた。大村はそれを嬉しそうな顔で受け取ると密約通り大村の立ち上げた私的諮問機関への佐藤の登用と国会で新日本学習塾連合会の有利になるような答弁を約束したのだ。

第1章 ゆとり教育の反動

 2008年の初夏、文部科学大臣 大村は『未来の教育を考える会』という私的諮問機関を立ち上げた。これは21世紀にふさわしい学校教育を考え国民に問うという目的を持った会だ。メンバーは大学教授、経済団体の大物、私学連の会長、教育評論家などに加え新日本学習塾連合会の会長である佐藤がしれっとした顔で加わっていた。未来の教育を考える会は2002年度から始まった学校5日制とゆとり教育で公立と私立の格差が顕著になり保護者の公立離れ=私立人気につながっており、難関国公立大学や有名私立大学へトップ合格するのはほとんどが私立高校出身が占めマスコミは「公立学校の崩壊」や「明日の日本を担うのは私立高校出身者」と報道した。未来の教育を考える会はこれを懸念しゆとり教育路線を180度転換しガリベン路線を推し進めようというものであった。
 未来の教育を考える会は国会議員たちに水面下で接触して根回しをして回った。当然そこには山吹色の菓子が飛びかったことはいうまでもない。ガリベン路線に基づく改正学校教育法案が大村の議員立法で衆議院に提出され野党の「受験勉強の激化につながる」という批判を与党は安定多数という数の暴力で踏みにじり強引に裁決に持ち込み野党の牛歩戦術もむなしく改正学校教育法は成立した。意外なことにPTAなどからはこの改正学校教育法は「子供が勉強するようになる」と好意的に受け取られ学校での反対はほとんどなかった。
 これは単なる学校6日制の復活ではなくほかにはゆとり路線廃止、3割削減の前のカリキュラムへの復古などが挙げられる。とりわけ波紋を呼んだのは高校野球などメジャーな一部のスポーツを除いた部活動が一切禁止となりそのかわりに朝や放課後の補習の推奨し公立高校からの難関国公立大学や有名私立大学合格者を激増させることを目指した。学業の妨げになると部活動が目の敵にされ違反して部活動を続ける学校を摘発するために教育査察官、通称教育Gメンを設立しガリベン路線を子供達に押しつけた。教育Gメンは全国の私立を含む学校を見回り隠れて部活道をしている学校を摘発して回る。教育Gメンに摘発されれば部活の道具は国に没収され顧問の先生は停職6ヶ月、関係生徒は俗に学問所と呼ばれる教育少年院で改心するまで勉強づけの生活を強いられる。
 改正学校教育法により全国の文芸・手芸・茶道・華道・書道・イラスト・漫画・マンドリン・合唱などの部活が廃止された。ほとんどの学校にあるであろう吹奏楽部も例外ではない。生徒が学問所に連れていかれるのもさることながら改正学校教育法違反で停職6ヶ月になれば教師としてのキャリアに傷が付くから先生たちも保身のためこれに抵抗する人はいなかった。部活動が禁止されたから吹奏楽コンクールなどの大会もすべて中止に追い込まれた。開催されたとてのこのこ出場すれば教育Gメンに摘発される。その実態がわかってくると改正学校教育法は誰言うとなく『ガリベン法』と呼ばれ多くの非難を浴びた。教育少年院は人権侵害と叫ぶ人権団体もあったが子供に「勉強しないと教育Gメンが来て教育少年院に連れていかれるよ」と脅かせば勉強するので子供が勉強するようになって助かるという親もいた。

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