
2009年3月24日。改正学校教育法施行直前に江戸川区立松江第八中学校吹奏楽部定期演奏会が江戸川区総合文化センターで行われた。おそらくこれが最後の定期演奏会になるだろうことは演奏する吹奏楽部のみんなも、観客もよくわかっていた。それゆえ例年は江戸川区総合文化センターの大ホールが半分もうまらない江戸川区立松江第八中学校吹奏楽部定期演奏会なのに今年は見納めということで部員の父兄や地域の方々に加え多くのOB・OGたちもかけつけてホールは立ち見が出る盛会だった。
楽屋のモニターでその様子を見ていた吹奏楽部員たちは
「すごーい。立ち見が出てるよ」
「今まで半分も埋まらなかったのに」
「これで最後だからみんな見ておこうと思って来たのかなぁ」
「なんか緊張してきちゃったなぁ」
と口々に驚いていた。フルートの3年生 宮元真澄が
「みんな、最後の定期演奏会かんばるぞぉ」
「おぅ!」
と気合いを入れそれぞれの楽器を持ってステージ袖へ移動した。セーラー服のスカーフをお互いに直しっこしたりして幕が開くのを待つ。
第1部の幕が開くとステージに冬の制服姿の生徒が並んでいる。<マーチ ベストフレンド>で開演。司会の都立新木高校の制服を着た女子が出てくる。二人ともOGで去年はこのステージに乗って演奏していた女子高生だ。二人は次の曲<アルヴァマー序曲>を紹介。中学校、高校の吹奏楽部定期演奏会と言ったらこの曲。1,2年生のみで演奏する。3年生3人は上手の花道に立ってかわいい後輩たちの演奏を手拍子しながら聴いている。つづいて3年生も入って<春の猟犬>を演奏。第1部最後の曲<エル・カミーノ・レアル>を演奏して休憩となった。
第2部はPOPSステージで部員たちはおそろいの吹奏楽部解散記念の水色Tシャツにジーパン姿で登場しステージが華やかになる。中学生らしい服装で大変にかわいらしい。<ルパン3世のテーマ>で開演。間奏で2年生男子 中村貴志が前に出てカッコいいアルトサックスのソロを聴かせて観客は拍手でこたえた。<エルクンバンチェロ>は多い部員たちが
「クンバンチェロぉ!」
と恥ずかしそうに叫ぶ。冒頭でフルートパートのスタンドプレイがある。後半の盛り上がる部分ではトランペットとトロンボーンが立ち上がり力強く奏でそして全員立ち上がり上を向いてカッコよく終わった。<SING SING SING>はドラムのソロから始まり中盤にドラムと3年生 戸森美奈のクラリネット ソロとのかけあいがあった。ドラムの伴奏にのり戸森美奈のクラリネットがホールに静かに響く。観客はクラリネット ソロが終わると割れんばかりの拍手で二人にこたえた。<世界に一つだけの花>は2003年にはやったSMAPの曲で当時も多くの中学校の吹奏楽部で演奏された名曲で部員たちも子供の頃に聞いた記憶がある曲だ。ホルンをはじめとする金管楽器がきれいな和音を奏でる。演奏しながら目をうるませている女子生徒もおり静かにPOPSステージは幕を下ろした。
第3部は<プスタ>から。吹奏楽部員たちは夏の制服に衣装替えする。白いセーラー服に緑のスカーフの女子生徒たちが目に鮮やかだ。プスタはメリハリのある演奏で観客を引きつけた。<栄光のすべてに>は静かに始まってその後の迫力のある金管の演奏が印象的である。<吹奏楽のための民話>でシブく江戸川区立松江第八中学校最後の吹奏楽部定期演奏会が終わった。ホールを埋める大勢の観客たちが
シャン シャン シャン シャン シャン シャン シャン…
とアンコールを求める嵐のような手拍子をした。部長の3年生 宮元真澄があいさつに下手のスタンドマイクのところに出てきた。真澄は背が低いのでマイクの位置を下げてから話し出す。
「本日は江戸川区立松江第八中学校吹奏楽部定期演奏会にお越しいただきありがとうございました。松江第八中学校吹奏楽部は開校以来絶える事なく活動してきましたが、きたる4月の新年度から改正学校教育法が施行され松江第八中学校吹奏楽部は活動できなくなります。私たち卒業していく3年生はもちろんのこと来年も松江第八中学校に通う1,2年生にすれば国に楽器を取り上げられてしまうことは忍びがたい事です。近い将来改正学校教育法が撤廃されて松江第八中学校吹奏楽部が復活する日を願ってやみません。これで松江第八中学校吹奏楽部の火が絶えるのではなく、くすぶりつづけて焼けぼっくいに火が付くことを期待します」
とあいさつした。客席から割れんばかりの暖かい拍手がわき起こった。2年生の志村まきが出てきて真澄のマイクを受け取る。改正学校教育法が施行されていなかったら吹奏楽部長になっていた女子生徒だ。
「ここで卒業して行く3年生を紹介します」
とまきは宮元真澄、戸森美奈、小林さやかの3人をステージの前に立たせた。そして同じパートの後輩から3年生へ花束が渡される。通常なら卒業するのは3年生だけだが今年は改正学校教育法の施行により1,2年生も吹奏楽部の活動をやめなくてはいけない。ある意味全員が吹奏楽部を卒業すると言っていいだろう。それがわかっているから女子部員たちはみな涙を流している。まきは
「4月から改正学校教育法が施行されるので江戸川区立松江第八中学校吹奏楽部の活動もこれでおしまいです」
とだけやっとの思いで言うとまきはスタンドマイクの下にしゃがみ込みうわぁ〜んと声を上げ大泣きをしてしまった。サックスの石渡千鶴が飛んできてまきの背中をさすって落ち着かせた。客席からは
「まきぃー」
「まきちゃぁ〜ん」
「がんばれ〜っ」
という暖かな拍手と声援が起こった。気を鎮めたまきは
「大変失礼しました。だから私たちはこの定期演奏会のことは忘れないので、みなさんもいつまでも心にとどめておいて下さい。本日は本当にありがとうございました」
と涙声であいさつすると会場から割れんばかりの拍手がわき起こった。客席の父兄の中には
「なにも一生懸命やっている部活まで子供たちから取り上げることないのにねぇ」
という改正学校教育法を批判する声が聞こえた。アンコールは<宝島>でありこれが最後の演奏だと思うと吹奏楽部員たちの胸に万感がよぎる。演奏前から涙を流し続けている女子生徒もいる。顧問の中山先生がタクトを振る。出だしから迫力のあるメロディがホールに流れる。こうして江戸川区立松江第八中学校吹奏楽部37年の歴史は終わった。