小説の部屋

学問所の少女たち


2004/7/7 製作中    

学問所の少女たち

   

その4

第4章 入部希望者

 2009年4月。江戸川区立松江第八中学校の入学式は吹奏楽部による校歌の演奏ではなく音楽の先生によるピアノ伴奏で行われた。元吹奏楽部員たちは悔しい思いで自宅で過ごした。授業が始まり部活のなくなった松江第八中学校の生徒たちははやばやと帰宅してゆく。元吹奏楽部員たちは悔しい思いを仲間にぶつけるべく放課後誰が呼びかけたともなく音楽室に集まっていた。改正学校教育法施行により吹奏楽部は活動はできないし、生徒が勝手に楽器を使用しないよう音楽準備室には厳重に鍵がかけられていた。
「あーあ、この扉の向こうにあたしのフルートがあるのになぁ。なんで吹いたらいけないんだろ」
新3年生の山村明日香がつぶやいた。
「しょうがないわよ。ガリベン法により学生は勉強しなくちゃいけないんだから」
「またティンパニードカドカたたきたいなぁ」
と新3年生の岩田礼子がマレットを振るしぐさをする。
「吹奏楽やりたいよぉ」
と涙ぐむ女子生徒もいる。志村まきが
「はぁ」
と溜め息。楽器をガリベン法で取り上げられた今、音楽室は元吹奏楽部の溜まり場でしかなかった。

 そこへがらがらっと音楽室のドアを開けて三つ編みを結って真新しい制服を着た新1年生の女子生徒が顔を出す。1年2組の二見英子である。
「あの〜、吹奏楽部に入部したいんですけどぉ〜。ここでいいんですかぁ?」
と言う。例年なら大歓迎であるが今年度からはもう吹奏楽部は全国どこの中学校にもないのだ。間の抜けた入部志願に一同どうしてよいかわからず黙って英子を見ていたが志村まきが立ち上がり戸口までゆき英子に
「あのね、この学校にはもう吹奏楽部はないんだよ」
と言う。英子はガリベン法を知らなかったようで
「うそっ」
と絶句した。そして静かに大粒の涙を流し始めた。やがて英子はうわ〜んと大泣きになり元吹奏楽部員一同困惑したが、英子は泣きながら
「あたし、中学生になったら、吹奏楽部で、フルート吹こうと、思って、楽しみにしていたんですぅ。それなのに、それなのに…」
ととぎれとぎれに吹奏楽部への熱い思いを語った。まきは歩み寄って英子の背中をなでさすりながら
「あたしたちだって吹奏楽やりたいの。でもねガリベン法っていう法律があって中学生は部活しちゃいけないことになったの。勝手に楽器を吹いたら国に没収されてあたしたちも学問所という恐ろしいところに連れていかれて無理やり勉強させられちゃうの。ごめんね」
と言う。それを英子はひっくひっくとしゃくり上げながら聞いている。まきも目から大粒の涙を流しておりそれを見た泣き虫の高橋久美子と中野はるかがびーびー泣き始めた。そんな英子の姿に打たれあきらめムードだった元吹奏楽部員たちの吹奏楽への情熱がよみがえる。
「また吹奏楽やりたいね」
と山村明日香がぽつりと言うとうなづく女子生徒たち。高橋久美子と中野はるかが引き金になり女子生徒たちは大粒の涙を流して泣いている。

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