その2

第3章 入学式 そして

 二人の仲は直らないまま入学式を迎えた。二人は合奏のときは新入生獲得のために呉越同舟を決め込み小競り合いは起こさなかったが新2年生たちの間に困惑が広がっていた。
 入学式は4/8に行われた。桜が満開の中「N中学校入学式」の看板を前に新入生が記念撮影をしている。そしてクラス分けの張り紙を見て新入生たちはそれぞれの教室に入って行く。
 体育館の下手にはN中学校吹奏楽部の面々が校歌を演奏するために待機していた。新2,3年生だけでは13人しかいないのでここは新入生に吹奏楽部の存在をアピールできる絶好のチャンスだ。さおりはぎらぎらとしたまなざしで入場してくる新入生を見ていた。牧田いずみが隣にいる平野渚に
「平野先輩、あの男子かわいー」
とささやいた。渚は無言のまま。
「あっ、あっちの男子美形」
といずみの男子品定めは続く。
真澄も一本釣りする男子を顔で選んでいた。万一吹奏楽部に入らなくても彼氏にしようと。
 最初に開会の辞があってついで吹奏楽部の演奏にのり校歌斉唱。吹奏楽部の13人は一丸となって校歌を演奏した。新入生たちはそれを緊張した面持ちで聴いている。
 退屈な校長の話や来賓の祝辞が終り新入生退場になる。吹奏楽部はそれに合わせて<ワシントンポスト>を演奏。入学式は終わった。

 その翌日は始業式と対面式で在校生と新入生の初顔合わせとなる。新2,3年生の列のあちこちから
「あの女子かわいー」
「あの男子かっこいいじゃない」
という私語が飛び交っている。在校生と新入生それぞれの口上が読み上げられて対面式は終了。在校生は去り新入生対象にクラブ紹介が行われる。吹奏楽部は設営に時間が掛かるので一番後だ。野球部がスライディング、バスケットボール部がドリブルやパス、サッカー部がリフティングなどを見せた。水泳部が水着姿で登場。男子のもっこりビキニに会場の中学1年生女子からは
「いやーん」
の声。競泳用のワンピースに身を包んだ女子部員は恥ずかしそうに立っていてそれを見た中学1年生男子はぽかんと見つめていた。
文化部の美術部は女子部員が前のほうにいた男子(いずみが目を付けた美形の子!)をステージにあげてさらさらとスケッチブックに似顔絵を書いて客席に本人と並べて見せ、合唱部がとなりのトトロを歌い、文芸部が詩を朗読、囲碁・将棋部が王将と書かれた段ボールで作った将棋の駒に入って現れ場内の爆笑を取った。
 いよいよ吹奏楽部の出番。みんなで手分けして打楽器をステージ上に担ぎ上げ設営しイスを並べる。譜面台も並べて部長の秋田さおりがGOを出すと管楽器の部員が一列になって整然と入場し着席する。吹奏楽部の演目はSMAPの世界に一つだけの花と君の瞳に恋してる。
 司会には部長の秋田さおりと新2年生の牧田いずみが立った。さおりが
「みなさーん、こんにちわぁ。声が小さいぞぉ。もう一度こんにちわぁ。吹奏楽部でーす。私たちは現在2,3年生13人で毎日音楽を作り上げていく楽しさを感じながら活動しています。主な活動は吹奏楽コンクール出場と文化祭での演奏ですが商店街のイベントなどにも呼ばれてゆきます。楽器が始めてという人でも大丈夫。ここにいる部員は全員中学校に入って初めて楽器を触った人達ですから。先輩たちがやさしく教えてあげます」
いずみが
「今日はSMAPの世界に一つだけの花と君の瞳に恋してるを演奏します。君の瞳に恋してるはCMなどで一度は聴いたことのある曲です。ノリノリで聞いて下さい」
と言いマイクのスイッチを切りそれぞれの席に着いた。鈴村先生がタクトを構える。一同楽器を構え演奏開始。さおりが演奏しながら客席を見ると結構中学1年生たちの食いつきはいいようだ。これを聴いて何人が普通に入部してくれるかだわと思った。
 この日から14日間が仮入部期間になる。部員たちが心を込めて書いた手書きの吹奏楽部ポスターが校内のあちこちに張られる。他の部も負けじと貼っているので校内が大変ににぎやかだ。
 この日の放課後、吹奏楽部がパート練習をしているとガラガラガラっと音楽室の扉が開いて中学1年生女子が緊張した面持ちで顔を出す。部員の視線が一斉に集中してその中学1年生は気おされたようであったが
「あのぅ、吹奏楽部に入りたいんですけれどぉ」
とおずおずと申し出た。するとドンドドン チンチンチンと田沢佳代子がドラムやシンバルを鳴らし、トランペットの平野渚はパプーと吹き歓迎した。
 部長の秋田さおりが出て
「どうぞぉ、大歓迎だよぉ」
と言いその中学1年生を空いているイスにすわらせた。
「クラスと名前教えて」
「1年2組の桂木はるかです」
「はるかちゃんはなんで吹奏楽部に入ろうと思ったの?」
「入学式とクラブ紹介の演奏を聴いておもしろそうだなぁと思って」
「そうなんだ。ありがとね。今日のところはどんなことをやるの簡単に説明するから気を楽にして見ていってね」
とまずは1人入った。
 練習の後 さおりのクラス3年2組にラブリー クローの4人は集まった。音楽室で集まるとまた美幸に言いがかりを付けられるからだ。
「いよいよ明日からラブリー クローの活動を開始します。第1回目として作戦名<バンブー>を開始します。その内容はね…」
と3人を近くに寄せてさおりは説明した。
「えぇーっ!」
と渚が難色を示すけれどさおりが
「塩山くぅーん」
と言うと
「わかったわよ。やればいいんでしょ」
とやけくそになって言った。

第4章 作戦名<バンブー>

 ラブリー クローのさおりは1年2組の竹田大樹に目を付けた。同じクラス1年2組に桂木はるかという自発的に入部してきた女子がいるのでさおりは部長の地位を利用しはるかを使っていろいろと竹田の事を調べた。そしてラブリー クローの4人は作戦を立案し役割を決めていた。どうやらターゲットが竹田だからバンブーらしい。
 「えーと、君。1年2組の竹田大樹クンだよね」
と放課後の1年生の教室の前でさおりが竹田に声をかける。竹田が早く帰らないようにはるかにうまいこと言い含めて残させておいたのだ。
「音楽の鈴村先生に音楽室に君を連れてくるように頼まれているの」
竹田は不意に上級生に声を掛けられたので少し固くなっていた。
「ありがとうございます」
「あたしも呼ばれてるの。一緒に来て」
と竹田の手を取りスタスタと歩き出す。竹田はいきなり上級生に手を取って歩かれてどうしていいのかわからず黙ってさおりについて行った。鈴村は1年生のほかに3年生の音楽も教えているから二人で呼ばれても不思議はないわけだ。
「先生、失礼しまぁーす」
とさおりは音楽室のドアを開ける。もちろんさおりは音楽室には誰もいないことは知ってのうえだ。
「あれっ、鈴村先生いないねぇ。少しここで待っていよう。カバンはそのへんに置いて」
と言いさおりはカバンを音楽室前方の机の上に置き、さりげなくブレザーを脱いで白いブラウス姿になった。竹田もそれをならってカバンを置いた。外から見えないように音楽室のカーテンはすべて引かれていた。
「あたし3年2組の秋田さおり。よろしくね」
と竹田を安心させるためにさおりはにっこりとほほえんだ。
「あっ、1年2組の竹田です」
「竹田君はもううちの学校慣れた?」
「いえ、まだ初めての事ばかりで驚きっぱなしです」
「そう、何かあったら3年2組だからいつでも相談に来てね」
「ありがとうございます」
「どこの小学校だっけ」
「K小学校です」
「あたしはT小学校よ」
「そうですか」
「部活は決めたの?」
「まだですが、美術部に入ろうかと思っています」
「絵うまいんだ」
「そういう訳じゃないんですけれど絵を描くのが好きなんです」
「小学校でも描いてたの?」
「美術クラブに入っていました」
「あたしは吹奏楽部なの。入学式で演奏してたでしょ」
「はい」
「毎年吹奏楽部が入学式で演奏するの」
「そうなんですか。それにしても鈴村先生遅いですね」
「じつはね、鈴村先生は来ないわ」
「えっ」
「あたしが竹田君に用があったから来てもらったの」
竹田は上級生が自分に用とはなんだろうと緊張した様子だ。
「あたし、竹田君の事、入学式で初めて見たときから好きになっちゃったの。入学式で校歌の演奏しながらずっと竹田君のこと見ていたんだよ」
「ええっ」
といきなり中学校に入ったばかりでコクられて竹田はこの上級生は1年生をからかっているのか本気なのか見分けがつかず困惑していた。さおりは竹田が逃げられないようしっかりとその手を握り
「あたしと付き合って。竹田君の事が好きなの」
「あの、その、先輩。いきなりそんな事いわれても(むぐぅ)」
竹田はそれ以上のことは言えなかった。なぜならばさおりが唇で竹田の口をふさいだからだ。中学校に入って女子に告白して彼女作るんだと竹田も男子としての夢は持っていたが、中学校に入って数日目にいきなり上級生にコクられてキスまで奪われるとは思ってもいなかった。しかも大事なファーストキスを。竹田は完全に頭が真っ白になった。
「竹田君、あたしのおっぱいをさわって」
とさおりは壁にもたれかかり竹田の手を取りブラウスの上から自分の胸を触らせた。竹田は何も考えられずさおりにされるがままになっていた。
「ほらさおりのおっぱい、やわらかいでしょう」
 音楽室の隣、音楽準備室には渚、真澄、いずみの3人が控えていた。細く開けた音楽室との境のドアから真澄といずみがさおりと竹田のラブシーンを見ていた。
「うわぁ、秋田先輩大胆ですねぇ」
「まさかさおりは最後までやる気じゃないんでしょうねぇ」
「えーっ、音楽室でエッチしちゃうんですかぁ」
と二人はかなり興奮している。渚だけは少し離れてあたしは関係ないわ、という顔をしていた。さおりが
「竹田君、いいわよ、来てっ」
という合い言葉を言った。打ち合わせ通りに

バタン

と大きな音を立ててドアを開け音楽準備室から顔を出した真澄が
「ちょっとそこの男子! さおりに何するの!」
と大きな声で言う。竹田ははっと我に返りさおりの胸をなで回していた手をひっ込めた。
「あっ、あの、その、これは…」
と竹田はしどろもどろになってしまう。
「宮山先輩一体どうしたんですかぁ」
といずみが音楽準備室から入ってくる。真澄も無言でついてくる。
「いずみ聞いてよ、この1年生の男子がいやがるさおりを壁に押しつけて胸を触っていたのよ」
「ちっ、違います。これは何かの間違いなんです。先輩の胸なんてさわっていません」
竹田は見ていてかわいそうなくらいにおろおろしている。真澄やいずみはげらげらと笑い出したいのをこらえてさらに竹田を責める。上級生の女子4人に責められては入学したての中学1年生男子にはなすすべもない。
「いやぁ、エッチ、変態、チカン」
「きっと『入部したいんですけど』かなんか言って部長のさおりに近付いて隙を見て襲いかかったんでしょ」
「許せない!」
と真澄といずみに口々にののしられ責めたてられ竹田は泣きそうだった。
「あなた、最初からさおりの事を狙っていたんでしょ」
「うわぁ、女の敵ね。あたし鈴村先生呼んでくる」
「ついでに110番に電話するよう言っておいてね」
と打ち合わせ通りいずみが音楽室から出ていこうとする。先生とか110番とか言われ
「まっ待ってください。これは誤解なんです。先生や警察を呼ぶのだけは許して下さい。なんでも言う事聞きますから」
と竹田は真っ青になっていずみを止めた。ここでずっと黙っていたさおりが口を開いた。
「みんな、誤解しないで。この子はあたしの彼氏なの。あたしが彼にコクって付き合うことにしたの」
「なに、さおりは神聖なる音楽室に男を引っ張り来んでエッチな事しようとしていたわけ! さおりも共犯と言うわけね。許せん!」
と真澄が言うとここで打ち合わせ通りに渚が
「まあまあ真澄、落ち着いて。そこの男子」
「はっ、はいっ」
「君が吹奏楽部に入ると言うのなら部員同士の恋という事で今回だけは見なかったことにしてあげるけどどうする?」
「いえっ、あのっ、ぼく、美術部に入ろうと思っていますんで」
「じゃあ先生と警察呼んでくるねぇ」
といずみが行こうとする。
「まっ、待って下さい。吹奏楽部に入ります。だから先生呼ぶのはやめて下さい」
と竹田は観念し、名探偵に「犯人はお前だ!」と言われた犯人のようにがっくりとうなだれた。

     一丁上がり。

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