その3

第5章 思わぬ拾いもの

 その日は、ラブリー クローの4人で帰る。また美幸と出くわしてケンカになるといけないから渚の発案でさおりを家まで護送するのだ。4人で車一台分程度の幅の住宅街の人気のない道を歩いていると
「やめてください」
という女の子の声がした。ラブリー クローの4人が不審に思って見に行くとN中学校の1年生とおぼしき女子が高校生とおぼしき長ランを着た他校の不良男子3人にからまれていた。不良たちは
「おうおう、君かわいいじゃん」
「そうだよ俺たちのカノジョにならない」
「かわいがってあげるよぉ」
と言いながら下品に笑う。その女子中学生は怖くて泣き出していた。
「俺たちにコクられて涙を流すほどうれしいってかぁ」
と女子中学生の肩を抱きいやらしく体を触る。女子中学生は恐怖で体を震わせていた。
「俺たちとつきあうのが嫌なら金貸してくれよ。持ち合わせが無かったら援助交際の相手紹介するからさぁ、その金でいいから」
「なんなら俺たちがその前に味見してやろうか」
「うんうんそれはいい」
と不良たちは言ってげらげらと笑う。女子中学生は
「い、いやっ」
というのが精一杯だった。

「ちょっと、あんたたちやめなさい」
と鋭い女の声が響いた。
「誰だてめぇ」
「ふっふっふ、誰だと思う」
「ふざけてんじゃねぇぞ、こら。痛てぇー目見てぇーか」
「天知る 地知る 人ぞ知る。悪を倒せと俺を呼ぶ。誰が呼んだか秘密戦隊『ラブリー クロー』」
とさおりがキメのテレビの戦隊もののキメのポーズをする。あちゃぁーこんな時に始まっちゃったよぉ、と渚は頭を抱えたい気分だった。さおりとは中学1年生のときからの付き合いだけれどさおりはすぐに他のものになりきってしまう悪い癖がある。第一ラブリー クローの存在は秘密なのにリーダー自ら名乗ってどうすんだよ、と思っているといずみまでキメのポーズをしている。
「なにが『ラブリー クロー』だ。お前ら頭がおかしいんじゃないのか」
「女の子は多いに越したことはないからまとめて相手をしてあげましょう」
「おじょうちゃん カモーン」
と不良たちは下品な笑みを浮かべてラブリー クローに向かおうとする。
するとさおりは何かの技を繰り出すポーズをしたかと思うと大きく息を吸い
「いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 
たすけてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 
人殺しぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

と大声を上げた。それを見てさおりの意図するところを悟った真澄といずみも
「誰かぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 
警察呼んでぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 
変態ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!」
「きゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! 
おまわりさぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん! 
たすけてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」

と絶叫した。渚だけがノリについてゆけずその場に呆然と立ち尽くしていた。毎日のロングトーンで肺活量をきたえている女子中学生が3人絶叫したのだからそれはもう鼓膜がキンキンするほどの超音波だ。レベルメーター振り切るに違いない。当然その通りの民家の住人にも聞こえ何事かと住人たちが不安そうに窓から顔を出しこっちを見ている。それに気付いて
「やべっ、逃げろっ」
と不良たちは走り去っていった。
「だいじょうぶ?」
としゃがみ込んで震えている女子中学生の所にさおりが行くと
「はっ、はい」
と答えた。
「あついらが戻ってくるといけないからあたしの家に行こう。すぐ近くだから」
とさおりがその女子中学生の肩を抱き真澄と二人で両側から支えて歩かせる。渚といずみはもどってきた不良たちの尾行に気をつけながら後からついてくる。その女子中学生の胸にはN中学校の校章と1年1組のクラス章が光っていた。
 さおりの家は普通の2階屋でさおりが帰ると母親が玄関に迎えに出てきた。
「ただいまぁ」
さおりの母はただならぬ様子の娘たちを見て
「あらまぁ、さおりこの子はクラブの後輩?」
と中学1年生を見て言った。
「詳しいことは中に入ってから話すね。とにかくみんな早く入って」
と2階のさおりの部屋に上がり5人はひとまずそこに落ち着いた。
「ママ、暖かいココアを入れてくれる」
「うんわかったわ」
とさおりの母は言い台所に向かった。さおりは中学1年生に
「もう大丈夫だから安心していいよ」
と言う。中学1年生は
「はい」
「まずは名前を聞かせて」
「吉田美沙子です」
「そう、あいつらに何か取られたりエッチなことはされたの?」
「いえ、先輩方が助けて下さったので大丈夫です」
「知っている奴ら?」
「いえ」
そこへさおりの母がココアを持って入ってくる。
「ママあのね、この子はさっき近所で他校の不良にからまれていたのを助けたの。これから先生に連絡するからママも出て」
とコードレスホンを取りさおりはまず吹奏楽部の顧問 鈴村の携帯に電話した。鈴村は駅のホームで受けたようで電車の音がする。
「あっ、鈴村先生ですか。秋田さおりです。じつは帰りに1年1組の吉田美沙子ちゃんが他校の不良にからまれてたのを真澄たちと助けてウチで今保護しているんですよ」
「何! でその子は無事なのか?!」
「無事です。先生、担任の加藤先生の携帯を知っていたらウチに電話するよう言って下さいますか」
「うんメモリーに入っているからすぐに電話させる」
「じゃあお願いしますね。あっママとかわるね」
とさおりの母と鈴村が少し話して電話を切った。すぐに鈴村から電話をもらった帰宅途中の加藤からさおりの家に電話があって美沙子が出た。
「おい、吉田。だいじょうぶか」
「はい先生、だいじょうぶです」
「そうか、怖い目にあっちゃったな」
「はい」
「今3年生の家にいるんだって」
「はい、そうです」
「そこの家の人と代わってくれるか」
「はい」
と美沙子はさおりの母と代わり加藤と少しの間話した。今度は美沙子の家に電話した。すぐに美沙子の母が出た。
「あの、お母さん、あたし…」
と母親の声を聞いて気が緩んだ美沙子はわんわん泣き出したのでさおりがコードレスホンを取り
「あっあの美沙子ちゃんのお母さんですか。あたし3年生の秋田さおりと言います。じつは美沙子ちゃん今日下校途中に不良にからまれていてそこを通り掛かったあたしたちが助けたんです。今私の家で保護していますんで迎えに来て下さいますか」
不良にからまれていたという話を聞いて美沙子の母は息を飲んだ。
「娘は、美沙子は無事なんですか」
「はい、美沙子ちゃんは無事です。ただかなり怖かったようなのですっかりおびえちゃっています」
「そうですか。とりあえず無事でよかった」
「だからうちまで迎えに来て下さい」
「わかりました。すぐに行きます。美沙子を助けてくれてありがとうね」
「あっ、いえ。どういたしまして。あっ、あたしのママと代わります」
とさおりの母と美沙子の母がしばらく電話で話しさおりの家まで美沙子の母が車で迎えにくると言う。美沙子はさおりが電話で話している間真澄が背中をさすって落ち着かせていたがひっくひっくとしゃくりあげていた。
 ほどなくして美沙子の母が赤い軽自動車でさおりの家までやってきておびえる美沙子を引き取った。美沙子は母親が現れると
「お母さぁーん」
と抱き付いてわんわん泣いた。美沙子の母は美沙子の頭をなでてやり落ち着くまでしばらく美沙子を泣かせた。美沙子の母はさおりとその母、渚、真澄、いずみに丁重に礼を言い軽自動車に美沙子を乗せて帰っていった。

 「みぃーさぁーこぉーちゃん、がっこ行こう」
と翌朝さおりは小学生のようなノリで美沙子を迎えに家まで行った。美沙子の母がさおりのお迎えに恐縮しきった様子で
「昨日といい今朝といい申し訳ありませんねぇ」
「いえ、かわいい1年生のためですから」
「じつは今朝は車で学校に連れてこうかと思っていたんですよ。助かります」
と頭を下げた。さおりは周りに目を配りながらさおりを連れてN中学校に向かった。こんな朝の人通りの多い時間に不良も仕掛けてはくるまいという読みがあっての上での行動だ。
「美沙子ちゃん、落ち着いた」
「はい、昨日は助けていただきありがとうございました。先輩は命の恩人です」
「『命の恩人』なんてオーバーねぇ。照れちゃうわ」
と言うと美沙子はくすっと笑った。
「中学校は楽しい?」
「はい」
「お友達たくさんできた?」
「まだ、これからです」
と歩いていると路地からいずみが出てきた。
「あっ、秋田先輩。美沙子ちゃん大丈夫だった」
「はい」
「よかったわ。今日学校休むんじゃないかと心配してたの」
「そのつもりだったんですけど、秋田先輩が迎えに来てくれたから行くことにしたんです」
「それは迎えに行ったかいがあるというものね」
「秋田先輩やさしいなぁ。いずみの家にも迎えにきて」
「いやよ、あんたは勝手に学校行きなさい」
三人の間に笑いが起こった。
「楽しそうねぇ」
と真澄が現れる。
「美沙子ちゃんも元気そうで何より」
「先輩ありがとうございました」
4人はN中学校に着き昇降口で別れた。

 その日の朝礼で美沙子の名前は出なかったものの校長から
「昨日わが校の生徒が他校の不良にからまれるという事件が発生しました。念の為当分の間登下校は一人ではせず、必ず二人以上でするようにして下さい。学校の方も警察と連携してパトロールを強化してもらうなどして注意します」
との話があり生徒たちは一斉にどよめいた。
「場合によっては放課後のクラブ活動を打ち切って早い時間に下校してもらう措置も考えています」
という話にクラブに入っている生徒たちから
「えーっ!」
という声が上がる。
「これはみなさんの安全を考えての措置です」
と校長は強く言った。
「詳しいことは担任の先生を通じてお知らせしますのでそれに従って下さい」

 その日の昼休み。職員室に呼ばれたラブリー クローの4人は吹奏楽部の顧問 鈴村と美沙子の担任 加藤から
「昨日はうちのクラスの吉田が世話になったね。君達の機転を利かせた行動があったおかげで何も被害がなくて済んだ。ありがとう」
「まず私を通じて加藤先生に連絡してきたのは感心したよ。あの状況でなかなかできることではない。さすが秋田は部長をやっているだけのことはあるな」
とほめられた。
「どこの高校生かわかったんですか?」
とさおりが聞くと
「秋田たちの話からF高校生だと思われるのでF高校の校長に事情を説明して調査を依頼してある」
「先生、甘いですよ。自分の生徒の首を差し出す校長がどこにいます。『該当する生徒は本校にはいない』とか言われて終りですよ。乗り込んでいってとっちめるくらいしないと」
「秋田、俺たちは警察じゃない。吉田のご家族も事を荒立てるのを望んでいないのでこの程度しかできんのだ」
「まっ先生なんてそんなもんでしょ」
とさおりは職員室を後にした。他の3人も続いた。
「あれが教師の言う事かしら。信じらんない」
といずみがぶりぶり怒っている。
「まさかF高校に殴り込んだりしないでしょうね。あたしは行かないわよ」
渚は早くも予防線を張った。
「美幸じゃあるまいしそんな野蛮なことはしません。ただムカついただけ」
「ならいいけど」
と渚は安堵した。さおりなら不良高校生相手に大ゲンカしかねない。

 その日の放課後ラブリー クローのさおりといずみは1年1組の教室の前で終礼を終えて出てくる美沙子を待っていた。今日は吹奏楽部の練習があったが新入生勧誘のためと理由を付けて2人は休んだ。美沙子を出迎えがてら吹奏楽部に引きずり込むためにやってきた。渚に言うと絶対反対するから真澄にしかこの事は話していない。
「起立、礼、ありがとうございました」
と終礼が終り1年1組の教室から生徒が出てくる。廊下に2,3年生が立っているのを見て1年生たちはぎこちなく会釈して散ってゆく。美沙子が出てくる。
「あっ、秋田先輩、牧田先輩」
とぺこりと頭を下げた。美沙子のクラスメイトたちは美沙子と上級生たちが何を話しているのかなと思ったが帰ってゆく。
「美沙子ちゃん、いっしょに帰ろう」
「わざわざ私を迎えにきてくれたんですかぁ?」
「そうよ。また危ない目に遭うといけないから」
「そう、先輩たちが守ってあげる」
「ありがとうございます」
と3人で歩いていく。昇降口で外ばきにはきかえて校外に出る。さおりといずみは昨日の不良が待ち伏せしていないか目を配るがいないようだ。
「美沙子ちゃんはクラブ決めたの?」
「文芸部に入ろうかと思っています」
「そうなんだ。詩や小説書くのがうまいんだ」
「うまいってほどじゃないんですけれど書くの好きなんです」
「吹奏楽部に入る気はないの?」
「そうだよ、美沙子ちゃん入りなよ」
「せっかくこうしてお友達になれたんだし」
「文芸部がいいなと思ってますんで、先輩ごめんなさい」
と美沙子は断った。まっとうな勧誘で美沙子が吹奏楽部に入る気がないことがわかったので二人は裏の作戦に切り替えた。
「ねえねえ美沙子ちゃん、文芸部に入るのなら浦島太郎の話は知ってるわね?」
「はい」
「助けられた亀はお礼に浦島太郎を竜宮城に連れていったわよね」
「秋田先輩、鶴の恩がえしって話もありますよね」
「そうそう『猫の恩がえし』って映画もあったし」
「犬は三日飼ったら一生恩を忘れないって言いますし」
「……」
「ふ〜んあたしたち吹奏楽部って美沙子ちゃんの『命の恩人』だって今朝言ってたよね。でも美沙子ちゃんは助けられたのに吹奏楽部に入ってくれないんだ。部員が足りなくてとても困っているのに」
「あんた亀以下ね」
「桃太郎の猿やキジもきひだんごをもらったお礼に家来になったわね」
「そうそうきびだんごの恩を忘れず体を張って鬼と戦いましたよねぇ」
「吹奏楽部に入るは鬼と戦うのよりも安全よ」
「楽器のことはいずみが教えてあげる」
「昨日あたしたちが体張って助けなかったら美沙子ちゃんは今頃どうなっていたかしらねぇ」
「きっと不良さん達にボロボロにされているでしょうねぇ」
「無理やりエッチなこともされてるわね」
「いゃーん、先輩エッチぃ」
やさしい先輩たちと思っていたさおりたちが本性を現し美沙子は泣きそうになった。確かにさおりたちに美沙子は恩を感じているけれどもこれではさおりたちは昨日の不良の上前をはねているようなもので美沙子にすれば虎から助けられたと思ったら今度は狼の群れに襲われている訳だ。まさに弱り目にたたり目だ。
「秋田先輩、昨日の不良さん達に『昨日はごめんなさい。この子あげるから勘弁ね』って差し出して手打ちしましょう。じゃないとあたしたちまでお礼参りされちゃうわ」
「そうよね、いずみの言う通りだわ。昨日の不良さんそのへんにいないかしら」
と二人で言うと『お礼参り』という言葉に美沙子は真っ青になりブルブルと震えていた。
「美沙子ちゃんが吹奏楽部に入ってくれれば守ってあげられるけど文芸部じゃねぇ」
「秋田先輩、今度美沙子ちゃんがからまれていても手を出さないで見てることにしましょうね」
「そのほうがおもしろいかも」
「どうなるか見物ですねぇ」
と二人はくすくすと笑いながら話している。美沙子は顔を引きつらせていた。
「あっ、あそこに昨日の不良さんがっ」
と美沙子の後ろをさおりが指差すと美沙子はギクッとして振り向いた。その拍子に足がもつれ転びそうになるのをいずみが支えた。さおりは
「今のはうそ。本当に来ても知らんぷりするからね」
「……」
「美沙子ちゃんが吹奏楽部の1年生だったら守ってあげられるのに残念だなぁ」
「不良にからまれているところを助けたのはどこの部の先輩だったけ?」
「文芸部じゃないですよね」
「野球部だっけ?」
「先輩、違いますよぉ」
「どこだっけ?」
「えーと、『吹奏楽部!』」
とさおりといずみの陰湿なやり取りが続く。美沙子は正論だけに反論することができない。ましてや相手は上級生だ。気の弱い美沙子は泣きながらついに言った。
「先輩、吹奏楽部に入ります。だから許して下さい」
「えっ?何?聞こえなかった。もう一度大きな声で言ってくれる」
「吹奏楽部に入ります」
「うわーっ、本当ね。入ってくれるのね」
「文芸部は?」
「入りません」
とうなだれ消え入りそうな声で美沙子は言った。

     二丁あがり

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