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神奈川県海老名市にある大塚八幡神社では夏祭りが行われていた。そこへ地元海老名市立大塚中学校の2年生の上月佑奈、泉崎礼香、高田瑞穂と1年生の長谷川茜の4人が浴衣姿でお参りに来ていた。浴衣の色は佑奈がピンク、礼香が紺、瑞穂が黄色、茜が黄緑で4人は吹奏楽部の先輩・後輩である。境内には祭り囃子が流れたくさんの露店が出てにぎわっていた。佑奈はすでにたこやき、わたがし、クレープを食べてすっかりご満悦である。他の3人も何かしら露店で買って食べていた。
「うわぁーっ、佑奈お姉様。こちらにはゲソ焼きのお店がありますのぉ」
茜も嬉しそうに食べ物の露店を見ている。茜は佑奈の押しかけ妹を気取っているので佑奈のことを佑奈お姉様と呼ぶ。瑞穂が佑奈に尋ねる。
「なんで佑奈は古谷君ではなくあたしたちとお祭り来ているわけ? ははーん、フラれたんだぁ」
「バカなこと言わないでちょうだい。古谷君は今日は塾の模擬テストで来られないの!」
「ふーん、そう言ってほかの女の子と来ていたりして」
「古谷君に限ってそんな事はないわよ」
「あっ! 古谷君が1組の女の子とキスしている」
「えっ!」
佑奈がギクリとして瑞穂の指したほうを見ると高校生くらいのカップルがキスしていた。
「ちょっと瑞穂やめなさいよ。佑奈もムキにならないの」
4人のお姉さん的存在の礼香が瑞穂をたしなめる。
「だってぇ瑞穂が古谷君をおとしめるようなこと言うんだもん」
「佑奈お姉様、古谷先輩は佑奈お姉様を裏切るようなことはなさらない方ですわ。だから瑞穂先輩が何を言おうと揺るぎないですの」
不意に空が暗くなってきてゴロゴロいいはじめた。そして大粒の雨がざーっと降り出した。
「瑞穂が古谷君のことを悪く言うから神様が怒ったのよ」
「そんなわけないでしょ」
「いやーん、浴衣が濡れちゃいますのぉ」
佑奈・瑞穂・茜の3人はあわてて杉の大木の下で雨宿りをしようとかけ出した。
「佑奈・瑞穂・茜ちゃん、だめぇーっ!」
礼香が制止しても3人の耳には入らない。雷が鳴っているとき大木の下に駆け込むのが避雷針の下に駆け寄るようなもので一番危険なのだ。次の瞬間
ドカーン バリバリバリバリーっ!
という轟音と共に雷がその大木に落ち辺り一面を真っ白に光らせた。「ギャッ」と言って礼香は反射的に地に伏せたので落雷の影響は受けなかった。
辺りが静まってから泥だらけになった礼香が杉の木を見ると大きく二つに裂けていた。佑奈たちは大丈夫かしらと気が付き
「佑奈ぁ、瑞穂ぉ、茜ちゃーん」
礼香が杉の大木にかけ寄ろうとすると
「木が倒れるかもしれないから近寄ってはいかん」
と大人の男性にだき抱えるようにして礼香は止められた。礼香が見ても杉の木はかなりのダメージを受けているようでそのそばで落雷の直撃を受けた佑奈たち3人ははたして生きているのだろうか? 礼香の証言をもとに救急車が手配され消防のレスキュー隊が杉の木周辺を探したが佑奈たちの姿はどこにもなかった。
「うーん」
気を失っていた長谷川茜が目を覚ます。
「いったい何が起こったんですの?」
周りを見ると上月佑奈と高田瑞穂が白目を剥いて気絶している。茜が
「佑奈お姉様大丈夫ですの? 死んじゃいやーっ!」
と佑奈に取りすがってわんわん大泣きしている声で瑞穂が目を覚ました。
「あれぇ、一体どうしたのかしら」
「瑞穂先輩、佑奈お姉様が死んじゃいましたのぉ」
と茜がびーびー泣いている。
「えぇーっ?! 佑奈死んじゃったの?」
そう話していると
「ふぇー」
情けない声を出し佑奈が気が付いた。
「ゆっ、佑奈お姉様」
「わーっ、佑奈。成仏しろ。化けて出るなら古谷君のところへゆけ」
「なに瑞穂寝ぼけているのよ。茜はなんで泣いてるの?」
「だって佑奈お姉様が動かないから死んじゃったと思いましたの」
「いったい何がどうしたんだっけ?」
「お祭りに来て雨が降ってきて木の下で雨宿りしようとしたら雷が落ちたのよ」
「お祭りはもう終わったの?」
3人が倒れていた場所は大塚八幡神社の境内ではあったが天気も晴れていて雨など降っていなかったように地面も乾いている。お祭りの露店など姿かたちもない。佑奈の問いに3人はその事に気付いた。さらに茜が
「佑奈お姉様、大変ですの」
「何が大変なのよ?」
「ここは間違いなく大塚八幡神社ですけれども、亀山の向こうに大塚中学校が見えませんの」
「えっ」
「ほんとだぁ」
「ここはどこなの?」
「さぁ? 大塚町だと思うんですがぁ」
茜も煮え切らないことしか言えなかった。
「でも茜ちゃん、よく見るとマンションや鉄筋の家もないわよ」
「ほんとだ、田んぼや畑の中に木造の家があるよ」
回りには高い建物が一切なく豊かな田園風景が広がっている。
「瑞穂どうしよう。よくわかんないところにきちゃった」
「あたしにふられたってわからないわよ。佑奈が変な術を使ったんじゃないの?」
「あたし何もしてないわよ!」
「だったらなんでこんなことになるのよ」
「知らないわよ。瑞穂はあくまであたしが悪いって言うわけ」
「そうよ、佑奈が変な腕輪を拾ってきたからこんな事になったのよ」
「何よ、瑞穂だってあのとき一緒に古墳に入ったでしょ
「佑奈お姉様、瑞穂先輩。仲間割れはやめてください」
「うるさい、茜は黙ってて」
「そうよ、悪いのは佑奈なんだから」
「なんですってぇ」
佑奈は瑞穂は互いに責任をなすり合いはじめた。いまにもつかみ合いが始まりそうなほど事態は剣呑である。それを見て茜はおろおろしている。
「まずここはどこなのか確かめるのが先決だと思いますの…」
茜の提案もケンカしている二人の耳には入らない。茜はハッと気が付いた。
「佑奈お姉様、瑞穂先輩。わかりましたの」
「ほんと?」
「ここどこなのよ?」
「おそらく、わたくしたちはお祭り会場でガスかなにかで気絶させられ大塚八幡神社にそっくりなこの神社に運ばれて来ましたの」
「そして?」
「きっとどこかから望遠レンズで困っている様子を撮影している人がいますの」
「やだっ、じゃあ今のケンカも全部撮られちゃったわけ?」
「きっと全国ネットで放送されますの」
「やだっ、そしたらもう学校にゆけない」
佑奈と瑞穂は周りを見渡したがテレビカメラはないようだ。
「でも茜ちゃんの説には無理があるよ」
「どこがですの?」
「大塚八幡神社にそっくりな神社のそばに亀山によく似た古墳まであると思う?」
「それはブルドーザーで作りましたの」
「あんな大きなもの作ってまであたしたちをだます理由がみつからないわよ」
「じゃあ瑞穂先輩はここがどこだと考えてますの?」
「それは… ともかく佑奈がみんな悪いのよ」
「なんですって!」
また険悪なムードになったところへ一人の少女が声をかけてきた。
「どうなさいました? この辺ではお見掛けしない方ですね」
「礼香ぁ、なに他人行儀な事言っているのよ」
「そうよ」
「『礼香?』あたしの名前は『礼』ですが」
「またまたぁ、礼香までぐるになってあたしたちをだまそうったってそうはいかないわよ」
茜が少し考え込んで
「お礼さん、今年は何年ですの?」
「えっ、元禄11(1698)年ですけど」
「またぁ、平成XX年でしょ」
「『平成』?それはいつの時代ですか?」
「平成元年が1989年だからえっと…」
「佑奈お姉様、およそ300年くらい前です。赤穂浪士が吉良邸に討ち入る4年前ですわ」
「『1989年』?ですか? 『赤穂浪士』?」
「そうよ」
茜はお礼に質問を続ける。
「ここはどこですの?」
「大塚村よ」
「海老名市大塚町でしょ」
「佑奈お姉様は少し黙っていて下さいませんか」
茜にそう言われ口をはさんだ佑奈は渋々口をつぐんだ。
「公方様はどなた?」
「徳田川綱吉公よ」
「佑奈お姉様、瑞穂先輩。やはりここは元禄11年ですの」
「茜まで礼香の嘘を信じるわけ?」
「お礼さんの言うことに嘘はありませんの。おそらく落雷のショックで佑奈お姉様の腕輪かわたくしの銅鐸が誤作動してタイムスリップしてしまいましたの」
「タイムスリップ?!」
「そんなぁ、あたし困る。明日古谷君とデートなのにぃ」
「佑奈お姉様大丈夫ですの」
「何が大丈夫なのよ?!」
「茜ちゃん現代に帰る方法を知っているの?」
佑奈と瑞穂が身を乗り出し茜に問い掛ける。
「いえ、そんな方法はありませんの」
「じゃあ何が大丈夫なのよ」
「今は元禄11年ですからデートまであと300年ありますわ」
「そんなぁ、300年もたったらあたしおばあちゃんになっちゃう!」
「佑奈いったい何歳まで生きる気?」
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古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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