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礼は3人を家に連れて帰った。門柱の表札には「泉崎」とあり瑞穂が
「やっぱりあの子は礼香じゃないの」
「違いますの。礼香先輩の家はこんなに古くありませんの。礼香先輩のご先祖様ですの」
瑞穂も礼香の家はよく知っているから茜に言われなくともわかっている。礼の家は大きな農家で村の名主をしている。泉崎家は代々大塚村を治めていた名主の家系なのだ。
「礼、その子たちはお友達かい? 見掛けない顔だが」
「えっと、そのぉ」
礼が困っているので茜が
「わたくしたち江戸から平塚に向かっている旅のものですが、どこぞで巾着切りに遭いに遭い難渋しているところをお礼さんに助けられましたの」
「おぉ、そうだったのか、それは物騒じゃなぁ」
「路銀を作るためにわたくしたちを当家に雇っていただけないでしょうか」
「おうおう、そうゆうことなら丁度下働きの娘が足りなくてどこかに紹介してもらおうかと思っていたところだ。今夜はゆっくり寝て明日からしっかり働いておくれ」
茜が機転を利かせてうまいこと3人は泉崎家の下働きに転がり込むことに成功した。
泉崎家の下働きに雇われた3人だが、ふだんから家の手伝いをしてしっかり者の茜は大変重宝がられたが、ふだんから家の手伝いなんてものは全くしたことのない佑奈と瑞穂は飯も炊けず皿や茶碗をいくつも割りドジなことばかりしていた。佑奈と瑞穂は
「なんで江戸時代に来てこんな肉体労働しなくちゃいけないわけぇ?」
「そうよね。電気もガスもないなんて信じらんない」
「夜は暗くて何もできないし」
「テレビが見られないなんて死んだほうがましだわ」
「あぁ、死ぬ前にもう一度古谷君に会いたいなぁ」
と不平を並べている。
その数日後、大塚村に緊張が走った。
「名主さまぁ〜、権三が来るぞぉ〜」
村の男が血相を変え泉崎家に駆け込んできた。名主の尚兵衛も
「なんていうことだ。女・子供は奥の間に隠せ。男共は表と裏の門を固めろ」
「はいっ」
ばたばたと屋敷内が騒がしくなる。佑奈・瑞穂・茜とともに洗濯物を畳んでいた三代と言う娘も恐怖に顔を引きつらせている。
「お三代ちゃん? いったいどうしたの?」
瑞穂が問うと三代は
「むじなの権三というヤクザ者がお嬢様を息子の嫁によこせと何度となく来ては断られた腹いせに村で悪さを働いてゆくんです」
「『お嬢様』ってお礼ちゃんのこと?」
「はい、そうです」
「お礼ちゃんかわいそう」
「佑奈ちゃんたちも早く奥に隠れて」
三代にそう言われて佑奈たちも立つけれど茜の問い掛けに
「佑奈お姉様」
「わかっているわ。そんなごろつきの血を礼香に混じらせるわけにはゆかないわ」
「はい、お礼ちゃんを守ることが礼香先輩を守ることになりますの」
「礼香のために力を貸してくれるわね」
「当たり前ですの。佑奈お姉様のご親友はわたくしにとっても大事ですの」
と答えると佑奈と茜は玄関に向かった。瑞穂も野次馬根性でこわごわついてくる。
玄関では権三が子分たち13人とともににらみを効かせて尚兵衛を威圧していた。
「お礼を倅の嫁にくれる件は考えなおしてくれたかい」
「何度来ようとお礼はお前たちのようなヤクザ者になどやらん」
「なんだと、そんなこと言っていいのか。この村に不幸が起こるぜ」
ニヤニヤ笑いながら権三はすごみを効かせる。尚兵衛の額に冷や汗が浮き出ている。
「ちょっとぉ、名主さんが困っているでしょう」
「そうですの。わたくしの顔に免じて帰りなさい」
「このロリコン親父が」
「これっ、佑奈ちゃん、茜ちゃん、瑞穂ちゃん。危ないから下がっていなさい」
弱そうな少女が3人出てきて何か言い返したものだから権三の子分たちはゲラゲラ笑った。
「なんだこの不細工な小娘らは。お礼の代わりのつもりか? お前らになんか用はないわ。お礼を出せ。さもないとひどい目にあわせるぞ」
「ちょっとぉ、こんなかわいい子をつかまえてよくも『不細工』と言ったわね」
「ひどい目にあうのはそっちですの」
「そーよ、そーよ」
と茜と佑奈が怒っている。瑞穂は
「この子たち妖術使いなんだからおとなしく帰らないと痛い目見るわよ」
と権三たちに言ってやる。
「誰が妖術使いなのよ」
佑奈がムッとして瑞穂に言い返す。
「おい、聞いたか。妖術使いだとよ」
権三と子分たちは笑い転げて誰も真に受けていない。
「ちょっと、佑奈お姉様のことを笑うなんて失礼じゃありませんの!」
と茜はぶりぶり怒っている。権三は
「お嬢ちゃんたちこそ痛い目見ないうちにお母さんのおっぱい飲んでなさい」
とまともに取り合わない。
「言ってもわかってもらえないから実力行使しかなさそうね」
「はい、お姉様。仕方がありませんの」
と話しているのを聞いた瑞穂が
「ちょっとぉ〜、この二人本気よぉ〜。早く逃げたほうがいーわよぉーっ」
と権三たちに教えてやるが古墳少女たちの恐ろしさを知らない権三たちはまったく聞く耳持っていなかった。
「茜、相手は少ないから術は使わず斬り合いで正々堂々勝負しましょう」
「わかってますの。一方的なのは公正ではありませんの」
佑奈は呪文を唱え結印に入る。茜も
「銅矛さぁ〜ん、出てらっしゃ〜い」
とおよそ緊迫感のないことをしている。権三一味は何を小娘たちが始めたのか?といぶかしんでる。佑奈が鉄剣を手にして
「支度ができたかから正々堂々勝負しましょう。表に出て」
と言うと権三はげらげら笑いながら最も下っ端の子分に
「お〜い、このお嬢ちゃんが俺たちを斬ってくれるとよ。安」
「ヘイ」
「助」
「ヘイ」
「このお嬢ちゃんたちに世の中の道理ってものを教えてやれ」
「ヘイ」
「そうゆうことだから遊んであげるよ」
「そうそう、背伸びしたことを後悔させてやる」
一同が庭に出る。安と助の二人とも抜いた刀をだらりと手に下げて佑奈と茜に近付く。佑奈と茜は中段にそれぞれの武器を構えている。二人は完全に少女たちをなめてかかっておりうすら笑いすら浮かべている。はらはらと見守っている村人たちに佑奈は
「危ないから村のみんなは下がっていてね」
と言うと人垣が二回り大きくなる。お礼は瑞穂に
「佑奈ちゃんと茜ちゃんが斬られちゃう。あたしさえ権三の言いなりになればいいんだからやめさせて」
「大丈夫。あの二人は大昔の妖術を使えるんだからあんなごろつきどもなんて一瞬でやっつけちゃうわ」
瑞穂が余裕で見ているのがお礼には信じられなかった。
「おじさんには何の恨みもありませんの。だから化けて出ないでくださいね」
「成仏するのは小娘、お前のほうだ」
安が楽勝とばかりに茜に上段から斬りかかる。大塚村の男達は茜が二つに斬られた姿を想像して目を背けた。しかし茜は安が太刀を降り下ろす間合いを見切り第一撃をかわして安の上半身ががらすきになる瞬間を待って銅矛を右に払う。安の首が台の上のスイカが転がり落ちるようにポロっと肩から落ち体は後ろに崩れた。一瞬その場にいる人々は何が起こったのか理解できなかった。そして見ている村人の間からどよめきが起こる。
助も
「てめぇょくも安をやりやがったな。いやぁーっ」
とおたけびを上げ佑奈に斬りかかった。ガキーンと斬り合うその反動で佑奈は後ろに跳び間合いを取り助が二ノ太刀を斬り込んで来る勢いを活し助の心臓に鉄剣を突き立てた。助はぶるっと痙攣を起こし佑奈が剣を引き抜くとぼろくずのように崩れ落ちた。
楽観視していた権三の顔色が青ざめた。
「小娘、よくもかわいい子分をやってくれたな。てめぇら小娘の息の根を止めろ!」
「ヘイ、親分ッ」
「合点でぇ」
子分たち11人が安と助の弔い合戦とばかりに佑奈と茜を取り囲む。二人は背中合わせの陣形を取りそれに対峙する。村人たちもさっきはまぐれで子分を倒したが今度ばかりはもう二人はおしまいだと思った。子分たちは有利な陣形を敷いているのだが先程安と助を一撃で倒した二人の腕前を見ているだけに牽制するだけで誰も仕掛けてこない。特にリーチの長い銅矛を持った茜と対峙している子分は間合いをつかみ兼ねているようである。長い間にらみ合いが続いた。焦れた権三が
「てめぇら、小娘二人に何をビビっていやがる。二つ重ねて四つにしろ」
権三が叫んだのをきっかけに子分の一人平次が佑奈に
「このアマ〜っ」
と斬りかかった。太刀と鉄剣が激しい火花を散らす。そして佑奈は平次を袈裟掛けに斬り倒す。敏も茜に斬りかかっていた。茜は銅矛を振るって周りの子分を威嚇しながら敏の心臓を一突きにした。佑奈が上段から振り下ろした鉄剣を仙吉は横にした太刀で受けるのだが太刀が折れ脳天を直撃された。本来であれば古墳時代の鉄剣など江戸時代の太刀に比べればはるかに強度は弱いのであるが、佑奈の鉄剣と茜の銅矛は術で強化されているのでなまくら刀では文字通り太刀打ちできない。
佑奈と茜は10分掛からずに子分6人を斬り倒していた。権三もここにきて不利を悟り
「えーい、てめぇら。引け、引けぇーっ」
と合図をして斬られた子分の死体はそのままに負傷者だけを連れてほうほうの体で逃げていった。息を飲んで見守っていた大塚村の住民たちはやんややんやとはやし立てて大喜びし瑞穂は
「おととい来やがれーっ」
と逃げて行く権三一味に罵声を浴びせた。この戦闘で権三側は子分8人死亡、重傷3人、軽傷2人で無傷なのは斬り合いに参加していない権三だけという一方的な負けであった。一方大塚村側は佑奈と茜の着物は所々破れたもののかすり傷程度しか負っていない。名主の尚兵衛はだけは権三がこれだけの大敗を喫してただで済むわけはないと渋い顔をしていた。
その夜大塚村は季節外れの祭りのようなにぎわいであった。男達は酒を飲んで佑奈と茜の戦闘について口々に語り合った。
「おい見たか茜ちゃんが矛を振るうと、権三の子分の首がポロッだぜ」
「佑奈ちゃんだって剣を振るっての大活躍だったしなぁ」
「そこらのヤクザなどこの二人にかかっちゃ赤子同前よぉ」
「佑奈ちゃんと茜ちゃんは『大塚村の用心棒』じゃあ」
「『言ってもわかってもらえないから実力行使しかなさそうね』『はい、お姉様。仕方がありませんの』ってカッコいいよなぁ」
と似てない佑奈と茜の口マネをして盛り上がっている。
「あの二人がいる分にはもう権三もお嬢様に手ぇ出したりしないだろ」
「あぁ、連れてきた子分の半数をあっという間に斬られたんだから権三も恐れを成してもうこの村には二度と来ないだろう」
「それにしてもあの二人は強いなぁ」
「まるで神功皇后の再来だ」
「お前ら間違っても佑奈ちゃんと茜ちゃんに夜這いかけるなよ」
「まったくだ。そんなことしたらまっ二つに斬られちまう」
「わっはははーっ」
男達の下卑た笑い声が響いた。
一方女達も
「茜ちゃんと佑奈ちゃんは強いわねぇ」
「どこで剣術習ったのかしら?」
「どこかの武家の出なのよ、きっと」
「ヤクザ者をあれよあれよという間に斬り倒しちゃったもんねぇ」
「ふーん、そうなのかなぁ」
「それにしても普段はあんなにおとなしい子たちなのにね」
「それって世を忍ぶ仮の姿ってやつなのかも」
「わぁ、カッコいいわぁ」
と盛り上がっていた。その日の大塚村は名主以外のものはみなうかれていた。
その3へ
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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