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その数日後むじなの権三は子分と助っ人合わせて200人を従えて大塚村に攻めてきた。それを村外れの空き地にて待ち受ける佑奈と茜に権三は
「やい、小娘。よくもこの前は恥をかかせてくれたな。今日はたっぷりと礼をしてやるからな」
「あんた、か弱い乙女を倒すのにこんなに大勢で来たわけ?」
「権三さんは弱虫ですのぉ〜」
二人にバカにされ権三は頭にきた。今回は口の達者な瑞穂はヤクザ200人に恐れをなして参戦していない。
一方権三の要請に応え助っ人に来た連中の間でも
「おい権三、あんな小娘を相手するのに俺たちを呼んだのか?」
「冗談じゃぁない」
「ふざけるのもいい加減にしろ」
「いや、兄弟。そうじゃないんだ。あの小娘たちはかなりの使い手で子分8人をアッという間に殺られたんだ」
「おいおい、弱い子分だなぁ。あんな弱そうな小娘にやられたのかよ」
「冗談だろう?」
と助っ人たちはゲラゲラと下卑た笑い声を上げる。
権三たちは中央を権三一味、左右両翼に助っ人という陣形であり、それ対する大塚村側は佑奈が左、茜が右に立っているだけで他に戦闘要員は誰もいない。佑奈が
「死にたくない人は今すぐこの場から逃げてねぇ〜」
「そうですのぉ〜。逃げる人には手出ししませんのぉ〜」
助っ人たちの間から失笑が漏れる。誰も二人の警告を真に受けていない。
「どうやらみんな命がいらないようねぇ」
「命知らずのとても勇敢な方がたですのぉ」
「そんで、どっからかかってくんの?」
佑奈の挑発に助っ人に来た銀狐の一八が答えて前に出た。もっとも本気で相手をする気もないのであるが。
「銀狐の一八だ。相手になってやる。小娘来い!」
「わたくし長谷川茜ですのぉ」
「あたしは上月佑奈」
二人が名乗りを上げる。佑奈が呪文を詠唱し鉄剣を出し茜も銅矛を呼び出していた。二人がかまえると一八の子分も刀を抜いてかまえる。それを一八は
「ばかやろう。こんな小娘二人におめぇらの助勢はいらん。俺に恥をかかす気か。そこで見ていろ」
「茜、このおじさんまかせていい?」
「はい佑奈お姉様。わたくし一人で十分ですの」
「それじゃおじさん、妹の茜と一騎打ちということで」
「お嬢ちゃん、二人まとめて始末してあげるから遠慮しないでかかってきな」
「それでは公正な果たし合いといえないじゃない」
「そうですの」
「あたし後から『二人掛かりでやったからおじさんに勝てたんだ』なんてケチつけられたくないし」
「そうですの」
「そうゆうことなら一人づつ始末してやる」
一八が下段から茜に斬りかかる。茜は銅矛でそれを受ける。茜は突きを入れるが一八はうまくそれをかわしている。一八は伊達に親分とは言われていない。しかし一八は手数は多いもののまるでヒットしていない。茜は一八の隙をついて逆袈裟に斬り一八を倒した。それを見ていた助っ人たちは息を飲んだ。一八の子分どもは
「おっ、親分」
「ちくしょお」
「よくも親分をやりやがったな」
「親分の弔い合戦だ」
口々に叫びながらてんでに佑奈や茜に斬りかかる。フォーメーションもへったくれもなく怒りにまかせて斬りかかってくる子分どもは次々と二人の手に掛かっていった。フォーメーション組んで二人を攻撃していれば勝機も生まれようが江戸時代には軍団戦という意識はあまり浸透していなかった。各自まちまちに仕掛けては斬られる繰り返しであっという間に7人が斬られ残っている子分も二人を囲みながらなめてかかったことを後悔していた。不様に引くことも出ずどうしてよいかわからず膠着していると権三が
「てめぇらでは無理だ。一旦引け」
と号令し一八の子分どもはこれ幸いとばかりに引いた。見ていた他のヤクザの連中も権三が助っ人をたくさん呼んできた訳を悟った。一同少しビビリ気味なのを悟り権三は
「てめぇら、あの小娘の首を取った者ンには100両やるぞ」
「おーっ」
と小判に目をくらませたおよそ30人が二人目掛けて斬りかかってくるけれど功を焦る余り周りとの連携もなく一人づづかかっては倒されているような状態であった。佑奈は
「おじさん、何度やっても同じ事よ。もう止めにしましょう」
「無益な殺生はしたくありませんの」
二人が何か言う度に権三は逆上してゆく。ここで「はい、そうですか」と兵を退いたら面目丸つぶれだ。小娘二人にこてんぱんにやられたとあっちゃこの界隈でにらみが利かなくなってしまう。だから子分が全滅しようとも権三は佑奈と茜を倒さなくてはならなかった。
「うっ、うるさい小娘。次は総掛かりでゆくから覚悟しろ」
「か弱い乙女二人倒すのに総掛かりぃ?」
「おじさん大人気ないですの」
「やかましい、勝ちゃいいんだ。勝ちゃ」
権三はまるで戦艦大和に片道分の燃料を積んで沖縄に出撃したときのようなやけくそになっていた。
「じゃあしょうがないわねぇ。茜、妖術を使うわよ」
「はい佑奈お姉様。妖術を使いますの」
「何が妖術だ。そんなコケ脅し誰が信じるか」
しかしそれに答えず佑奈は呪文の詠唱と結印に入り術の発動儀式に入っていた。茜も銅矛を銅鐸に変形させカランカランと音を立てながら舞うように振り鳴らしていた。権三以下一味の者は二人が始めた術の発動儀式を理解できずぽかんと見ていた。
茜は風刃の術を発動した。これはかまいたちを起こして敵を倒す術だ。敵左翼前衛に強風がわき起こりそれが収まるとそこにいたヤクザたちが血と肉の塊となって地面に横たわっていた。佑奈は氷結の術で右翼前衛にいるヤクザたちを夏なのに瞬間凍結させていた。二人により引き起こされた異変にさすがのヤクザたちも度肝を抜かれ全身をこわ張らせていた。再び二人が術の発動儀式に入る。こんどの茜は雷電の術で電撃を飛ばし立っているものをなぎ払い、佑奈は真火の術で凍り付いている前衛のヤクザたちを炎上させた。二人の術の発動を見て恐ろしさを体感したヤクザたちはとんでもない妖術使いを相手にしていることにやっと思い至った。後衛で固まっていた子分の一人が恐怖に耐え切れずに
「うわーっ、妖術使いだぁー」
と叫び逃げ出したのをきっかけに助っ人のヤクザたちは
「助けてくれーっ」
「化け物だぁー」
「あいつら人間じゃない」
と口々に叫びながらパニックを起こして逃げ出した。助っ人のヤクザたちは権三に頼まれて渡世の義理で助っ人に来ただけなので妖術使いの小娘相手に命を張るだけの動機付けなんて持っていなかった。ましてやただの小娘としか相手について聞いていなかったのである。話が違う。
それほど広くもない道をパニック起こした群衆が走るものだから足がもつれて転んだ者にけつまづいて倒れた者に後続がさらにつまづく将棋倒しが起こる。転んだ者の上を次々と後続が走り抜け圧死するという二次災害も起きていた。権三が
「おい、お前ら逃げるな。まだ勝負はついちゃいないぞ」
と制止するが誰も聞いてやいない。誰だって命は惜しい。
「どーやらみんな命は惜しいみたいね」
「ここにいらっしゃるのは命知らずのつわものさんですの〜」
佑奈と茜が言う。しかし残っている中には腰が抜けて逃げられなかった者もいたが、ほとんどが権三直属の子分だった。こいつらは親分を置いて逃げられなかったのである。
「権三さ〜ん、次はあなたを狙いますの〜」
と茜が嬉しそうに言いながら銅鐸を振り始めようとする。権三は茜の予告に顔を真っ青にして
「まっ、待ってくれ。お礼はあきらめる。大塚村にも手を出さない。約束する。だから命ばかりは助けてくれぇ」
と泣きそうな顔で茜に懇願する様子は普段怖い顔をして威張り散らしている威厳もくそもなかった。
「だめっ、その場しのぎに口でなら何とでも言えるわ。どーせ次は1000人連れてくるんでしょ。だから後腐れのないように今ここで死んでもらうわ」
佑奈も本気だ。権三はもはやこれまでと思い
「おのれぇ、小娘死ねぇーっ」
と叫びながらやけくそで佑奈に斬りかかる。なかば佑奈が予想していた通りの展開なので佑奈は全く驚く様子もなく佑奈が権三の太刀を払いのけると茜が銅矛で権三の心臓を一突きにした。権三は血飛沫を上げてその場にバッタリと倒れピクリともしなかった。固唾を飲んで佑奈と茜の戦いを見ていた村人たちがら大歓声が上がった。
その後権三以下佑奈と茜に倒された連中の死体は佑奈が村外れに土門の術で深い穴を掘り村の男達に運ばせた死体をぽいぽいっと穴に落とさせ佑奈が術を使って埋め戻した。20世紀の末にマンションを建てるときこの人骨が掘り返されて大騒ぎとなるのは後のお話。
逃げていった連中が広めた相州海老名・大塚村の妖術使いの小娘の話は瞬く間に相模国はもとより江戸中の話題となった。それ以来大塚村に悪さしようという悪人は居なくなったのだが、噂が広まってゆく過程で妖術を使うのが「名主の家で奉公していた娘」から「名主の娘」にすりかわってゆき、後になかなかお礼を嫁にもらってくれる人がいなくなるという事態が発生した。泉崎家の娘は昔も今も上月佑奈に迷惑を被っているのだ。海老名地区を統括する代官から悪党どもを殲滅したご褒美に佑奈と茜は3両づつもらい瑞穂をうらやましがらせた。
江戸では想像で描いた佑奈と茜の浮世絵が発行され(これが実物以上の美少女として描かれている)、二人の活躍を主題にした「相州神通力乙女」という芝居は連日満員の盛況となった。
それからしばらくしたある日お礼と佑奈・茜・瑞穂が田畑の中の道を歩いていると上空に銀色に光り輝く物体が現れた。瑞穂が
「あっUFO」
「UFO?」
「UFOっていうのは他の星から来た人が乗っている舟のことなんですの」
とUFOを知らないお礼に茜が説明してやる。佑奈も
「本当だぁ、あたし初めて見た」
「きっと宇宙人が乗っているのよ」
と娘たちが話していると娘たちのところへUFOが降下してくる。キャーっと4人は走って逃げるがUFOは行く手を阻むように4人の前に着陸するとハッチが開いて中から銀色の消防士のような格好をした人が出てきた。茜が
「江戸時代にはUFOの消防車がありましたの」
と言っているがそんなものはない。謎の消防士は佑奈たちに
「我々はタイムパトロールだ。23世紀から来た」
「本当ですの?」
「そうだ」
「何でそんな変な格好しているのよ」
「この時代のこの国にない病気を未来から持ち込まないためだ」
「ふーん」
「上月佑奈・長谷川茜・高田瑞穂。お前たちのせいで世界の歴史が目茶苦茶になってしまったんだぞ」
「どーゆーこと?」
「明治維新が約100年早まり、日本は太平洋戦争で勝利して世界の大半を植民地にしてしまったのだ」
「すごーい」
「お前たちをこの時代から取り除き歴史を修復する」
「いったいあたしたちをどうする気?」
「タイムマシンを利用して故意にこれだけ歴史を目茶苦茶にしたら死刑は免れないところだが、21世紀にはタイムマシンはまだ発明されていなかったので偶発的なタイムスリップと断定し、お前たち3人を時空漂流者と認定し保護してタイムスリップの記憶を消した上で21世紀に戻す」
「やった茜、21世紀に帰れる。古谷君にまた会えるわぁ」
「はい佑奈お姉様、よかったですの」
「よかったぁ、テレビのある暮らしがまたできる」
と3人はそれぞれに喜んでいるがお礼一人だけ事態が飲み込めていない。タイムパトロールはフリーズガンで佑奈たち3人を瞬間凍結させると記憶を消す機械で江戸時代にいた除去してUFOことタイムマシンに積み込んだ。
「佑奈ちゃんたちをどうするんですか?」
怖々質問するお礼にタイムパトロールは
「元の家に帰してあげるのさ」
「そうなの。よかった」
そしてタイムパトロールはお礼を筆頭に大塚村の人々の佑奈たち3人についての記憶を消し去り21世紀へと飛び去った。
タイムパトロールは21世紀の大塚八幡神社境内に佑奈たち3人を降ろすと23世紀へと去っていった。
佑奈が目を覚ました。
「あっ、お礼ちゃん。むじなの権三は?」
「『お礼ちゃん?』、『むじなの権三?』 誰よそれ? あたしは礼香よ」
「お礼ちゃんじゃないの?」
「佑奈頭大丈夫?」
「う〜ん」
瑞穂が目を覚ました。
「瑞穂大丈夫?」
「あっ、礼香。あたし…」
「落雷があってびっくりした瑞穂と佑奈・茜ちゃんがそろって目を回したのよ」
「ここは?」
「大塚八幡神社の社務所よ」
礼香と瑞穂が話していると茜も目を覚ました。
「あっ? お礼さん大丈夫でしたの。よかった」
「茜ちゃんも佑奈と同じ事を言っているわ。あたしは礼香よ。泉崎礼香」
「えっ?! 礼香先輩?! 今何世紀ですの?」
「21世紀に決まっているじゃない」
「元禄11年じゃありませんの?」
「はぁ? 今年は平成**年よ」
茜は佑奈と向き合い
「佑奈お姉様、現代に帰ってこられましたの」
「茜、よかったわ。これで古谷君とデートにゆける」
と二人で手を取り合って喜んでいるのを見て瑞穂が
「何二人で訳わからないことを言っているのよ。落雷で頭おかしくなったんじゃないの?」
「なに言っているのよ。瑞穂だって一緒に元禄11年にタイムスリップしたじゃないの。むじなの権三というヤクザがなぐりこんで来てぇ…」
「はぁ? 『むじなの権三?』 礼香、この二人頭がおかしくなっちゃってるよ」
茜が佑奈の浴衣の袖を引いて耳打ちする。
「佑奈お姉様、瑞穂先輩はタイムパトロールにきれいさっぱり記憶を消されていますの」
「なんであたしたちだけタイムスリップのことを覚えているわけ?」
「きっと銅鐸さんと佑奈お姉様の腕輪が守ってくれましたの」
茜の想像通りそれぞれの魔神具(茜の銅鐸と佑奈の腕輪)が障壁を自動的に展開して主を守ったのである。
社務所を出ると雨は止んでいた。境内には佑奈と茜が見たことがない石碑が建っていた。[千人供養塔]と彫ってあるのが読める。碑文を読むとなんでも元禄11年に大塚村にならず者千人がなぐりこんできた際に勇敢なる庄屋の娘が村人たちを守るため単身矛と剣を振るい神通力を用いならず者どもを次々と斬り倒し村を守ったことを称え、斬られたならず者どもを供養するという趣旨のことが書いてある。
タイムパトロールは村人たちの記憶を消したが二人の活躍はかなり変形した伝説として後世に伝わり、この供養塔が建てられたのである。佑奈と茜は顔を見合わせただただ困惑するのであった。
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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