小説の部屋


2005/11/20 脱稿    

古墳少女 佑奈1.5 -礼香奪回作戦-

   

その2

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
そのあとは古墳少女佑奈3を読もう。

第2章 礼香がいなくなった

 リリリリリ…
上月家の電話が鳴る。順子が出ると泉崎礼香の母 清香であった。
「あの上月さん、うちの礼香お邪魔していませんでしょうか?」
「いえ今日は来てませんけど礼香ちゃんどうかしたんですか?」
「それが午前中に駅前の本屋に行くと出かけたきりまだ帰ってこないんですよ」
「まぁ、それはご心配ですわね」
「佑奈ちゃんいらっしゃいます?」
「はい」
「代わって下さいますか」
「佑奈ぁ、ちょっと来てぇ」
「は〜い」
と佑奈が二階の部屋から降りてくる。順子は
「礼香ちゃんのお母さんよ。ちゃんとごあいさつして」
と受話器を渡す。
「もしもし佑奈ですけど」
「あの佑奈ちゃん、今日はうちの礼香と一緒じゃなかった?」
「今日は会ってませんよ。礼香がどうかしたんですか?」
「それが午前中に駅前の本屋に行くと出かけたきりまだ帰ってこないのよ」
「えぇっ?!」
「佑奈ちゃん、礼香が行きそうなところ知らない?」
「浩一兄ちゃんのところじゃないんですか」
浩一兄ちゃんとは茨城県に住む礼香の彼氏のことである。
「電話したけれど礼香は来てないし、どこへ行ったかも知らないって」
「佑奈ちゃん、ほかにどこか知らない?」
「う〜ん、わかんない」
「そう、何か思い出したら何時でもいいから電話ちょうだいね」

 泉崎礼香の父 尚二は夜11時を回った時点で車で海老名警察署に出向き礼香の捜索願を出すことにした。いままで夜遊びなんてしたことのないまじめな礼香がこんな遅くまで帰ってこないのは異常だ。ましてや駅前の本屋に行くだけなのでお金も着替えも持っていないのだ。海老名警察署の刑事課に尚二が行くとその夜の当直の林刑事が応対に出た。
「あの〜」
「はい、どうしましたか?」
「中学1年生の娘がまだ帰ってこないんです」
「まっ、そこにすわって下さい」
「はい」
「お嬢さんの写真はお持ちですか」
「これです」
と尚二はカバンから礼香の写真を取り出した。
「なかなかかわいい娘さんですね」
「ありがとうございます」
「まず、娘さんが家を出るような心当たりはありますか?」
「何もありません。まじめで素直ないい娘なんです」
「娘さんを厳しくしかりつけたりとか、娘さんが大事にしている物を無断で捨てたりとかはないですか?」
「ありません」
「ふむそうですか。当然心当たりには電話されたんでしょうね」
「はい、もちろん」
「となると何か事件に巻き込まれたという事が考えられますが、お宅に身代金の要求など不審な電話はありましたか?」
「いえ、何もありません」
「最近娘さんの周りに不審者がうろついていたようなことは」
「それもありません」
「家を出たときの娘さんの服装は?」
「水色の長袖Tシャツにベージュの膝下までのズボンにスニーカーです」
「持ち物は?」
「茶色の小さなトーバッグ一つです」
「ということは着替えなどは持たずに出たということですね?」
「はい、家内に娘の部屋を調べさせましたが服を大量に持ち出した様子はないとのことです」
「ということは計画的な家出ではないと思われますね」
「はい、ちょっと駅前までという感じで出ていきました」
「娘さんに彼氏はいますか?」
「はい、ただし茨城県に住んでいます」
「彼氏のところに行って彼氏と一緒ではないんですか?」
「電話をかけましたが礼香はいないと言ってますし、会う約束もしてないとのことです」
「彼氏が娘さんをかくまってるということは」
「あいつはそんなことをする奴じゃないし、彼は私の父のとなりの家に住んでいますから礼香が行けばすぐにわかります」
「ふむ、そうなると娘さんは自分の意思で姿を消した線は薄くなりますね」
「となりますと?」
「誰かにさらわれたという線が考えられます」
「でも身代金の要求はきてませんよ」
「レイプ目的で連れ去ったのなら身代金の要求はありません」
「うちの礼香は中学1年生ですよ。レイプだなんてそんな!」
「ロリコン趣味の男は世の中に多いですから」
「信じられない。それなら礼香を早く助け出して下さい!」
「お父さん落ち着いて下さい。あくまで可能性の話ですから」
「とりあえず今からお宅にうかがって電話の逆探知の準備をしましょう。身代金の要求があるかもしれない」
 林刑事は尚二の車に乗って泉崎家に向かう。一度泉崎家の前をゆっくりとしたスピードで通り過ぎるよう尚二に指示をする。林は家の周りに怪しい人影が見張ってないかチェックした。誰も見張ってないことを確認してから二人は車を車庫に入れた。玄関に不安そうな顔で出た清香に尚二は
「おい、礼香から何か連絡はあったか?」
と聞いたが清香は力なく首を横に振った。林は手際よく電話に逆探知の機械をセットして電話局に接続を確認していた。


*****

 それから3人はまんじりともしないで朝を迎えた。礼香からも礼香の身代金の要求をする犯人からも電話はなかった。

リリリリリリ…

翌朝の7時35分に泉崎家の電話が鳴った。3人はハッと息を飲んだ。清香はおろおろと視線を泳がせ尚二は緊張で固まっている。林刑事は電話局への直通の受話器で
「逆探お願いします」
と逆探知を依頼し尚二に
「なるべく話を長引かせて下さい。あと娘さんの声を聞かせるよう要求して下さい」
「はい」
尚二はおそるおそる受話器を取った。
「もしもし泉崎ですが」
「あたし上月佑奈ですが礼香はもどりましたか?」
尚二は受話器を手でふさぎ
「娘の友達です」
と林に小声で言った。
「佑奈ちゃん、まだ礼香は帰ってきていないけど心配ないから。今日は学校には休むと電話しておくから佑奈ちゃんは安心して学校に行ってね」
と言いくるめるように話して尚二は電話を切った。逆探知の結果も海老名市の上月家から発信されており佑奈は事件と無関係のようだ。

 白スニーカーの上履きをどたどたいわせて高田瑞穂が海老名市立大塚中学校の廊下を走り吹奏楽部の面々が朝練の準備をしている音楽室にかけ込んだ。
「先輩聞いて下さいよ。礼香が家出しました」
「本当なの?」
「あのまじめな泉崎さんが?!」
「いつ?!」
「どこへ行ったの?」
「どこへ行ったかわかんないから家出なんです」
瑞穂は親友の家出なのに得意げに話す。
「なんだ」
「でも彼氏と家出したのは間違いないです」
「彼氏と家出?!」
「つまり、かけおち?!」
「いいなぁ、うらやましい」
「あこがれちゃうわぁ」
「泉崎さんって彼氏いたの?!」
「誰よ、彼氏って」
「ウチの学校の男子?」
「礼香の彼氏は茨城県に住んでいるんですよぉ」
「いいなぁ、遠距離恋愛したい」
「泉崎さん美形だもん。彼氏くらいいるわよね」
「あたしも彼氏と家出したいわぁ」
「あんた彼氏いたの?」
「えっ?! いないけど」
「じゃあ無理じゃん」
「家出するためにも彼を作るわ」
「なによそれ?」

 上月佑奈が海老名市立大塚中学校に登校すると昨夜礼香の家出にパニクった礼香の両親がするに事欠いておしゃべりな高田瑞穂の家にも電話で問い合わせた。「高田瑞穂が知ったことは2時間以内に全校生徒に知れわたる」と言われていることを知らなかったようだ。その後で瑞穂があちこち電話して回り昨夜のうちに全校生徒の大半が礼香の家出というか駆け落ちについて知っていた。瑞穂は礼香が浩一と示し合わせて家出したのに違いないという根拠のない確信から礼香と浩一が手に手を取って家出したというストーリーを制作して流布していた。将来瑞穂はいい作家になることだろう。
 上月佑奈が音楽室に現れる。瑞穂が礼香が浩一と示し合わせて家出したというデマを飛ばしているので
「ちょっと瑞穂、デマを飛ばさないでよ。浩一兄ちゃんは礼香と会ってないってよ。あたし昨日電話で話したもん」
「ふ〜ん、っていうことは礼香は新しい男作ったんだぁ〜」
バシッ
佑奈が瑞穂の頭をはたいた。
「瑞穂のバカッ、礼香はそんなふしだらな女の子じゃないわ。浩一兄ちゃん一筋なんだから」
「ねえねえ高田さん、『浩一兄ちゃん』って誰なの?」
「中学3年生の礼香の彼氏なんです」
後から話題に加わった女子生徒に瑞穂はどうだすごいだろとばかりに答えた。
「えーっ、泉崎さんって中学3年生と付き合ってるんですかぁ?」
「いーなー、うちの学校の生徒?」
「礼香は茨城県の彼と遠距離恋愛しているんだよ」
「わーっ、遠距離恋愛なんてあこがれちゃう」
吹奏楽部の女子部員たちは恋バナに盛り上がる。瑞穂は
「じゃあ、礼香は誘拐された後殺されて山奥に埋められちゃったのかもぉ。家には『お前の娘は預かった』って電話がきてね…」
バシッバシッ
佑奈が瑞穂の頭をはたいた。
「あんたね、それでも礼香の親友?!」
「じゃあ、礼香は妊娠3ヶ月で親に『おろしなさい』と言われたけど礼香は『産む』って言って家出したの」
バシッバシッバシッ
佑奈が瑞穂の頭をはたいた。
「今度変なことを言ったらマレットでなぐるわよ」
「上月さんいったいどういうことなの?」
「先輩、いま瑞穂の言ったデマを信じないで下さいね。じつはですね…」
とれまでのいきさつを佑奈はかいつまんで吹奏楽部の仲間たちに説明した。瑞穂のように脚色はせずにである。
「要するに理由はわからないけれど泉崎さんは行方不明なのね」
「はい、今朝も礼香の家に電話しましたけど礼香は戻ってないそうです」
「もしかして誘拐とかぁ?」
「Q国に拉致されたのかもよ」
と浮き足立つ部員たちを前に佑奈は
「とにかく礼香が戻ってくるのを待ちたいと思います」
と言った。その日の朝練習は結局礼香失踪の話題でパー練もせずに終わってしまった。

 その日放課後の吹奏楽部の練習を終えて帰宅した佑奈は制服のまま風呂場に直行して裸になりシャワーを浴びて体を良く洗い清めて禊(みそぎ)をした。佑奈は新しい下着を付け灰色のスェットの上下を着て部屋にこもり、以前もらった礼香からの手紙を読み返し礼香のことを考えながら心を静めて古代日本語の呪文を詠唱し複雑に指を組み替えて結印する。佑奈は千里眼の術を発動させたのだ。もやもやとしていたビジョンがくっきりと像を結んでゆくと礼香の姿が見える。よかった、礼香は生きている。瑞穂が言うように殺されたりはしていない。しかしふりふりのいっぱいついたロリータ趣味のピンクのワンピースを着ている。いつから礼香はあんなに服装の趣味が悪くなったのかしら? 天蓋があるお姫様の寝るようなベッドのある豪華な調度の部屋に礼香はいる。なんで礼香はそんな所にいるのだろうか? 第一まじめな礼香が無断で学校をサボるなんておかしい。もしかして礼香はこの部屋に閉じ込められているのか?! いったいこのお屋敷はどこなのだろうと佑奈は視点を建物の外にズームアウトするとバッキンガム宮殿のような広い庭のあるお屋敷である。いったいこの広いお庭に佑奈のお家が何件建つだろうか?と佑奈は卑屈な気分になってしまう。佑奈はさらに視点をズームアウトするとお屋敷の敷地を出て門柱に「浅井」の表札と鎌倉市中山町X番地の文字を読み取れた。あっ、礼香は鎌倉にいるのかと思った瞬間佑奈の意識は遠のいた。

 「佑奈ぁーっ、ごはんよぉーっ」
と母親の順子が一階から呼ぶ声で佑奈は気が付いた。いつの間にか気を失い机に突っ伏していたのだ。時計を見ると30分近く気を失っていたようだ。とりあえず千里眼の術で見えたことを忘れないうちにメモした。今回初めて使った千里眼の術はかなり体力を奪うらしく佑奈はなんだか一日中遊びまくったかのように体が重くけだるい気分であった。一階に降りる時も足元がおぼつかず佑奈は階段から転げ落ちそうになった。

*****

 翌日の放課後上月佑奈と高田瑞穂は泉崎礼香の家を訪ねた。玄関には礼香の母 清香が応対に出た。
「あっ、佑奈ちゃんと瑞穂ちゃん。まだ礼香は帰らないのよ」
「佑奈が千里眼で礼香の居所を見つけました」
「えっ、礼香を見つけたの?!」
「そうなんです、だからお知らせしようと思って」
「とにかく入って」
清香は二人を家に上げた。居間には林刑事がいたので礼香の部屋で聞こうと思ったが話を聞きつけた林刑事が顔を出し
「私もその話を聞きたいのでこちらで話しませんか」
と言うので居間で話すことになった。
「佑奈ちゃんと瑞穂ちゃん、こちら海老名署の林刑事さん。こちらは礼香のお友達の上月佑奈ちゃんと高田瑞穂ちゃん」
と清香が紹介した。
「ども高田瑞穂です」
「こっ、上月佑奈です」
と二人はあいさつした。瑞穂が切り出す。
「あのね、佑奈が礼香の居所を見つけたんです」
「本当?!」
清香が身を乗り出す。
「でもどうやって?」
「佑奈が昨日千里眼の術を使って礼香の居所を探したんです」
「千里眼の術?」
佑奈が
「そしたら鎌倉にいることが分かりました」
「鎌倉?! 佑奈ちゃん、礼香は生きてるの?!」
「生きてます」
「よかったぁ」
「礼香は大きなお屋敷に閉じ込められているようです」
「それは一体どこにあるの?」
「鎌倉市中山町X番地です。表札は『浅井』って書いてありました」
「しかし君が千里眼で見たと言うだけでは信じられないな」
林刑事は女子中学生の言う事を一瞬でも信じたのがバカだったと言わんばかりのがっかりした顔で冷ややかに言った。
「でもあたし、見たんです。広いお庭があってこう…」
「とりあえず鎌倉署にその住所にそんなお屋敷があるかどうか一応聞いてみよう。もしなかったらこの話はおしまいだ」
とうんざりした顔で鎌倉署に電話を掛けた。しかしその住所に浅井家は実在すると言われ
「えっ、本当にあるんですか…」
と絶句し林の顔色が変わった。佑奈の言う通り大きなお屋敷だという。電話を切った後でも林は信じられないという顔をしている。しかし体制を立て直そうと
「信じられないな。本当に浅井というお屋敷があるなんて。しかしそこに礼香ちゃんがいるとは限らないだろ」
「そーさく礼状を取って浅井というお屋敷を家宅捜索して下さい。礼香は3階の部屋にいますから」
「無茶を言うな。『女子中学生が千里眼で見つけたので家宅捜索礼状を発行して下さい』なんて言ったら気が狂ったかと思われる」
「それならあたしが一緒に行って『千里眼で見た』って言いますから」
「そんなの誰が信じる。たまたま浅井家が実在したからって無茶を言うな」
と林に佑奈と瑞穂は捜査の邪魔だ。あっち行けシッシッとばかりに泉崎家から追い出された。警察と言うものはえてして市民の協力を求めているようなポーズを取っているが有益な捜査情報に対しては聞く耳を持たないものである。民間人に事件を解決されたら警察のメンツに関わるとでも思っているのだろうか。佑奈と瑞穂は家に向かって歩きながら
「なによあの刑事。あたしたちの言う事全然信じてないじゃない」
「そうよ、せっかくあたしが千里眼の術で礼香の居所突き止めたのに」
「お屋敷があることまで確認しておきながらなんで警察は動かないわけ?」
「頭が固いのよね」
「だからあたしたちが教えてやるまで礼香の居場所を突き止められなかったじゃないのねぇ」
「瑞穂、明日学校休んで鎌倉行かない?」
「えっ?」
「間違いなく礼香がそのお屋敷にいる証拠をつかんであの刑事をギャフンと言わせてやりましょ」
「いいわねぇ、僕らは少女探偵団〜って感じで」
「いい明日は学校に行くような顔をして制服で家を出て海老名駅に集合よ」
「わかったわ、お菓子たくさん持ってくるわね」
「瑞穂!、遠足に行くんじゃないのよ」
瑞穂はてへっと舌を出した。
「でも帰りに大仏寄ろうね」
瑞穂は全然わかってない。
「あと誰にもこのことは内緒よ。親に知られたら無理やり学校に行かされるからね」
「わかってるわよ」
「瑞穂の場合おしゃべりだから信用できない」
「だいじょぶよ。あたしは大塚中学校で一番口が固いんだから」
嘘つきのオリンピックがあったら瑞穂はぶっちぎりで優勝すること間違いないだろうと佑奈は思った。あーあ瑞穂がしゃべって親に知られて鎌倉行きを阻止されるかもしれないと思い佑奈は目の前が真っ暗になった。

その3へ

古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

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