
その翌日大塚中学校のセーラー服のまま瑞穂と佑奈は学校へは行かず海老名駅に向かった。学校をサボるのなんて二人は初めであった。よくないこととはわかっていたが親友の危機なのでやむをえない。二人はそこから小田急線に乗り相模大野で急行片瀬江ノ島ゆきに乗り換えて藤沢に出て江ノ電で鎌倉駅まで来た。二人はもちろん大仏を見にきたわけではない。佑奈は瑞穂が家の人に今日は学校をサボって鎌倉に行くとしゃべり計画が露見するのではないかと心配していたが親に計画を知られたらせっかくの鎌倉行きが中止になるので瑞穂は誰にも言わなかった。おしゃべりな瑞穂も自分に不利益がかかることには無口らしい。それゆえ二人は両家の親からは何らの阻止行動も受けなかった。二人は鎌倉駅からさらにバスに乗って中山町まで来た。佑奈は中山町X番地にある浅井家のお屋敷を見て
「すご〜い、千里眼で見たとおりだぁ」
と感心している。
「じゃあ あのすっごいお屋敷の中に礼香がいるのね」
と瑞穂も興奮している。
普段は礼香が軍師を務めているので佑奈と瑞穂の暴走もある程度抑えられているが、今回は肝心の礼香が捕らわれの身になってしまっている。論理的な礼香とは違い瑞穂も佑奈も単純な頭をしている。まず敵地を斥候して敵の兵力や行動パターン、礼香が捕らわれている正確な地点の割り出し、侵入及び逃走ルートを考えて作戦立案…などという難しいことはこの二人に考えられなかった。二人はとにかくこのお屋敷に泉崎礼香が捕らわれているのだから正面きって返してもらいに行く事に決めた。それゆえ何も考えずに浅井家の正門に回りピンポ〜ンとインターホンを押した。応対に出た女性に
「こちらに泉崎礼香さんお邪魔していますよねぇ」
と佑奈が言うと
「そのような方はお見えになっておりません」
とニベもなく切られた。
「何よ、愛想がないわねぇ」
瑞穂はぶりぶり怒っている。
「瑞穂、ずぇったいこの家怪しいから警察に行くよ」
とバスで鎌倉駅まで戻りその近くの鎌倉警察署の刑事課に行った。とにかく瑞穂と佑奈はその後の展開を考えられず場当たり的な行動しかできないのである。
田沢という刑事が二人の相手をしてくれた。セーラー服を着た女子中学生が二人で平日に海老名から鎌倉までやってきて警察でわーわー要領を得ない話を口々に言うので田沢は困惑した。田沢はまず二人に冷えた麦茶を飲ませ落ち着かせてから佑奈と瑞穂の住所氏名を聞いた上で
「それでどうしました?」
「お友達の泉崎礼香って子が誘拐されたんです」
「ほぉ」
「そして中山町X番地の浅井ってお屋敷に閉じ込められているんです」
「君達はそこの家にお友達がいるところを見たわけだね」
「そうじゃなくてこの佑奈は千里眼が使えるんです。それで見たんです」
瑞穂がどうだすごいだろとばかりに言うと田沢は急速に二人の話から興味が失せたようだ。
「それじゃあだめだよ。警察は証拠がないと動けないよ。ましてやそんなオカルト話では」
「だからぁ、佑奈はこの腕輪で魔法が使えるんです」
と瑞穂が佑奈の左手首の勾玉の腕輪を指し示し大声で言う。そこへ他の刑事がやってきて田沢の耳に何か耳打ちした。あきらかに田沢の態度が変わった。
「確かに泉崎礼香って子が行方不明になり海老名署が動いているようだね。しかし上月佑奈君、君も海老名じゃ相当有名な嘘つきだそうじゃないか」
「えっ?!」
「魔法で火を吹くと自慢したり…」
「佑奈は嘘つきなんかじゃないもん。本当に火を吹くんだもん! 佑奈ここで火を吹いちゃえ!」
と瑞穂が自分のことのようにムキになって反論する。佑奈は
「そんなことするわけないでしょ。火事になるわ」
「それと学校に連絡したところ二人とも今日は無断欠席だそうだね」
痛いところを突かれて佑奈と瑞穂の顔色がさーっと変わる。
「だから、海老名の警察が動いてくれないから佑奈と二人で礼香を助けにきたの」
瑞穂は叫んだ。
「とにかく警察はオカルト娘の言う事をいちいち真に受けるほど暇じゃないんだからね、ご両親に連絡して君達の身柄を引き取りに来るように言ったからご両親とおうちに帰りなさい」
「親を呼ぶなんて卑怯です」
佑奈が言うと
「学校をさぼって鎌倉までオカルト話をしにくる方が問題だ」
「だったら礼香を助け出してください」
「海老名署から要請があればいつでも助けに行くよ。探偵ごっこなんてしないで中学生は学校で勉強していればいいんだ。お前らこの部屋から出るんじゃないぞ」
と少年課の婦人警官を一人見張りに付けて田沢は出ていった。
それから2時間半ほどして佑奈と瑞穂の母が鎌倉署に娘を引取りに来た。二人の母は警察官に
「どうも娘が不始末やらかして申し訳ありません」
とぺこぺこしている。佑奈と瑞穂の二人は正しいことをやったのに(そりゃあ学校サボったのはよくないことだけど)なんでこんな目にあわなくてはならないのかと納得がいかなかった。佑奈の母 順子が
「まったくあんたって子は火ぃ吹いたりしてご町内で散々迷惑かけるかと思えば瑞穂ちゃんをそそのかして学校サボって二人で鎌倉なんかにきて警察のお世話になって…」
「学校サボったのは悪かったけど礼香が…」
「礼香ちゃんのことは警察に任しとけばいいの」
「その警察が当てにならないからこうして捜査情報を知らせに…」
「なにが捜査情報よ。警察のお世話になって内申書に傷がついたら高校受験できなくなるわよ。ただでさえ佑奈は魔法を使うって評判悪いんだから」
「あたし何にも悪いことしてないもん。礼香を助けたいだけだもん」
「探偵ごっこもいいかげんにしなさい」
と順子はバシッと佑奈の頭をはたいた。瑞穂も母親と同様のやり取りをしている。
海老名に帰る電車の中、佑奈と瑞穂の二人は
「なによあれ、親も警察も全然あたしたちの言うことを信じてないよ」
「証拠がないんだから仕方がないわよ」
「佑奈悔しくないの?! 嘘つきとかオカルト娘とか言われて」
「そりゃ悔しいわよ」
二人は知らなかったが浅井家の長男 明久は県の公安委員を務めているので田沢は初めから浅井家がらみのことで調べる気はなかったのだ。調べた結果礼香を発見できなかったら自分の警察での出世にかかわる。瑞穂は佑奈の耳に口を寄せて
「こうなったら自分たちで証拠を探しましょ」
と言った。佑奈はギョッとする。瑞穂はさらに
「礼香を救け出して鎌倉署に連れて行けばあの田沢って刑事も信じるしかなくなるわ」
「でもぉ」
と佑奈は母親の方を見る。
「ふ〜ん、佑奈って親友の礼香が捕らわれの身になっているのに見殺しにしちゃうんだ。すっごい腕輪持ってるのに」
「これはそういうのに使う腕輪じゃないのよ」
「礼香かわいそう。佑奈が腕輪の力を使って助けにくるのを信じて待ってるのに佑奈は何もしないんだよね? 礼香のために」
「それは… だって礼香は腕輪を使うのいやがるから…」
「佑奈ってそんな薄情な子だとは思わなかったわ」
「瑞穂、それはちょっと違うでしょ」
「でも佑奈は礼香を見殺しにして助けに行かないんでしょ」
「……」
「あたしが礼香を助け出したら礼香に『佑奈は礼香のこと親友だと思ってないんだって』て言うからね」
「瑞穂、あたしはそんな事言ってないでしょ」
「言ったも同然じゃないの。親友が捕らわれの身になっているのよ。佑奈はそれを知っているのに何もしないなんて、佑奈は礼香のこと親友だと思ってないとしか思えないじゃない」
「礼香はあたしにとって大切な親友よ」
「じゃあ体を張って親友を救い出しに行きましょ」
「でもやっぱ学校サボるのはよくないし…」
「じゃあいいわよ。あたし一人で乗り込むから。そのかわり捕まって殺されたら化けて出てやるぅ」
「わかったわよ。行けばいいんでしょ。行けば」
「そうよ。あたしたちのこの美しい友情を知ったら礼香はきっとよろこぶわ」
瑞穂は完全に美しい友情の世界に入り込んで一人で浸っていた。
「でもまた怒られるわよ」
佑奈は母親たちの方をまたチラと見た。
「礼香さえ助け出せばすべてが許されるわ。うまくいけば警視総監賞で賞金もらえるかもぉ…」
「でももし失敗したら?!」
「あたしたちの辞書に『失敗』という文字はないわよ」
瑞穂はとっても強気であった。瑞穂は計画通りに事が運ばないことなんてまるで考えていなかった。
その4へ
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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