
その翌日ふたたび佑奈と瑞穂は学校をサボって鎌倉市の浅井家の前に来た。昨日はろくに敵地の状況を偵察しないでピンポンを押し警察署に押しかけたので今日はまず二人は浅井家周辺の偵察から行った。浅井家の敷地は広く道路に沿って100mくらいにわたって塀が続いている。二人は塀に沿ってどこかに侵入できる場所がないが見て回ったけれどさすがにそんな場所はなかった。しかも塀の上にはトゲトゲのついた針金が張ってあるので乗り越えるのは不可能だ。それではどこか敷地内が見渡せる場所はないかと探せば浅井家の門前に2階建てのアパートがある。
「佑奈、ここの2階の通路から中が見えるんじゃないかしら?」
「でも勝手に入っちゃまずいでしょ」
「誰も見てないからへーきよ」
反対はしたもののほかに適切な場所もなかったので佑奈も階段を上り門前にあるアパートの2階通路から双眼鏡で浅井家を偵察することにした。
「うわーっ、広いお庭ね」
「このお屋敷って大塚中学校より広いんじゃないの?」
「お庭でサッカーと野球が一度にできるわ」
「礼香がいるかどうか双眼鏡で見てみるね」
佑奈が千里眼で見た礼香の部屋の位置は3階の右から3つ目の窓であった。その窓へ佑奈はカバンから出した双眼鏡の焦点を合わせてゆく。その窓の中に少女の姿が見える。泉崎礼香だ!
「瑞穂、礼香がいた」
「うそっ! あたしにも見せてよ」
「ちょっと引っ張らないで」
「いいから早く」
「瑞穂苦しい」
瑞穂は佑奈がストラップを首にかけたまま双眼鏡をひったくろうとしていて佑奈の首がしまっていた。佑奈はやっとの思いでストラップから首を抜いて瑞穂に双眼鏡を渡し
「3階の右から3つ目の窓」
「すご〜い、本当に礼香がいる。佑奈の千里眼って本物だったんだね」
「何よ、瑞穂は信じていなかったの?」
「そういうわけじゃないけれど…」
「どういうわけよ?」
「ほら、論より証拠っていうじゃない」
「なんか違うような気がするけどなぁ」
「とにかく礼香がいたからいーの!」
瑞穂が興奮して言う。本来ならすぐに110番に電話するところだろうが昨日の今日でまた親を呼ばれたりするのは困る。なんとか警察が動くだけの証拠をつかまなくては。
佑奈は双眼鏡を見ている瑞穂の脇でカバンから鏡を取り出して太陽の光を反射させて礼香に合図を送ってみた。
「あっ、礼香がこっちを見たよ。礼香ぁーっ」
と瑞穂は手を振るけれど礼香に双眼鏡はないので気が付くわけがない。
「なんとか礼香とお話できないかしら」
「テレパシーの術はないのよね」
「なんて佑奈って子は役立たずなの。せっかく連れてきてあげたのに」
「瑞穂がゴネたからいやいや来たんでしょう。そういうこと言うんなら海老名に帰るわよ」
「ふ〜ん、佑奈は礼香を目の前にして怖じ気付いて帰るのね。こういう薄情な友を持った礼香は不幸だわ。礼香にとって親友と呼べる存在はこの世に高田瑞穂ただ一人なのね」
瑞穂は自分の世界に浸っている。佑奈も帰るとは言ったものの礼香の姿を目の前にしてやはり帰れなかった。
「時代劇みたいに弓矢で手紙を飛ばすとかはできないの?」
「うーん、弓矢はないけど手はあるわ。瑞穂、礼香にお手紙書きましょ」
「さすが佑奈、持つべき友は使える子だねぇ」
と瑞穂は言いながら佑奈の頭をなでたが佑奈はうれしくもなかった。ひとまず二人はアパートから出て近くの道端にしゃがんで佑奈がカバンから出したスヌーピーのルーズリーフに二人で手紙を書いた。
*****
礼香へ
佑奈だよぉ〜、そんなお屋敷で何やってんのぉ?
お父さんやお母さんが心配してるよぉ
吹部の先輩たちもどうしたんだろって言ってるし
返事を書いたらこの白鳥の首にしばって窓から出してね
上月佑奈
Dear Reika
浩一兄ちゃんを捨ててそんなお屋敷に住む
セレブと付き合っているなんて
礼香も隅に置けないわねぇ。
そういうセレブの家では毎日ステーキ食べてるの?
太らないように注意してね
高田瑞穂
*****
二人は再びアパートの2階通路に戻り佑奈は古代日本語で呪文を詠唱し複雑に指を組み替えて結印して<氷刃の術>を発動させた。本来これは空気中の水分を凍らせて氷の刃を作りそれをウルトラセブンのアイスラッガーのように佑奈の意思で飛ばして敵を切り刻むという攻撃呪文であったが佑奈は氷で白鳥像を作った。それを見て瑞穂は
「なにこれ? 足のないキリン?」
「白鳥です!」
「白鳥には見えないわ」
佑奈の造型センスはそんなものである。当然1学期の美術の成績は悪かった。
「いーの!」
と佑奈はムッとしながら二人で書いた手紙を白鳥の首にしばる
「本当にこんなのが飛ぶのぉ?」
と瑞穂が言うと佑奈は無言で瑞穂をにらんだ。ふたたび佑奈が古代日本語で呪文を詠唱し複雑に指を組み替えて結印してキリンもどきの白鳥を礼香の部屋へと飛ばした。白鳥はふわふわとたよりなさげに飛んでいった。
その5へ
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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