小説の部屋


2005/11/20 脱稿    

古墳少女 佑奈1.5 -礼香奪回作戦-

   

その8

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
そのあとは古墳少女佑奈3を読もう。

第7章 海老名サービスエリアに寄れ!

 「ちょっとあんたどういうことよ!」
「そうよ、変更しなさいよ」
「それは…」
25歳くらいの気の弱そうな男がおばさん数人に詰め寄られていた。そこは観光バスの中、都内の旅行社のパックツアーで私鉄の駅からお客さん38名を乗せて1泊2日で伊豆・箱根をめぐるバス旅行へのゆきがけのことである。その男はツアーの添乗員を務める林田明男という。林田が
「最初のトイレ休憩は東名高速の足柄サービスエリア…」
と告げたところ車内の70%を占めるおばさんたちが一斉に反発したのだ。林田としてはUFO騒ぎでバスを止めることができない海老名サービスエリアは最初から休憩地として除外していた。しかしおばさんたちは東名高速を通るツアーなので当然海老名サービスエリアでUFOグッズが買えるものと思っていたのでこの騒ぎになった。
「テレビで見て孫に『海老名サービスエリアでUFO買ってきてやる』って約束したんだからね。海老名で止めてくれなくちゃ困るの」
「そう、うちも子供に頼まれてるんだから」
「でも海老名サービスエリアはいつも混んでいてバスを止めるところがないんです。駐車場が空くのを待っていたら伊豆に何時に着けるか予想もつきません」
「バスを止めるところがないんなら隙間にねじ込んででも止めなさいよ。あんたプロでしょ」
とおばさんたちは運転手につかみかからんばかりの剣幕だがさすがに運転中なのでそれはしない。運転手もどうしたものかとおろおろしている。
「それでは帰りに寄ることに…」
林田は代案を出してなんとかこの場を乗り切ろうとしたが
「何言ってんのよ。帰りになんて疲れておみやげ買う気にならないわ。
「行きに止めなさいよ」
「それは他のお客様のご迷惑になりますから…」
「そうゆう融通の聞かないことをいっているとアンケートハガキに『今日の添乗員は最悪だった。旅の思い出が台無しだ』ってみんなで書くわよ」
「そうよそうよ」
「あたしも書くわよ」
「そしたらあんたはクビよ」
おばさんたちは言うことをまるできかない。おばさんに急所をえぐるような脅しをかけられた林田は
「それでは海老名サービスエリアの駐車場が空いていたら…」
「空いてなくても止めるのよ」
「アンケートに書くわよ」
「……」

 そういった小競り合いが続いたままバスは東名高速を走っている。路肩の電光表示板に海老名サービスエリアの駐車場は大型・小型ともに満車の表示が出ている。本線をまたぐように設置してある電光表示板にも「海老名SA混雑。休憩は他のSA・PAで」と表示されている。林田たちのバスが「海老名サービスエリアまであと1km」の電光表示板を見て林田が
「海老名サービスエリアは混雑のため通過します」
と決断した。バスの車窓には数百メートルに渡って路肩に止まるバスや乗用車の列が見える。ここから海老名サービスエリアまで歩いて出入りしている家族連れもみられて大変に危険である。林田たちのバスが本線を通過する。車窓に見える海老名サービスエリアに「あぁーっ」という悲鳴が上がる。そんななか強行派のおばさん数人が林田に詰め寄り
「あんたなんで通過するのよ。止めろって言ったでしょ」
「とても入れる状態でないのはお客様もご覧に…」
「他のバスは路肩に止めてたじゃないの」
「路肩に止めて高速道路を歩くのは危険です」
「海老名に戻りなさいよ」
「そうよそうよ」
「それは他のお客様のご迷惑になりますからできません」
「だったらあたしを下ろしなさいよ。一人で海老名へ行くわ」
「あたしも下ろしてほしいわ」
「あたしも」
「ここは高速道路です。無理です」
「止めないのなら窓から降りるわよ」
車内が騒然となって楽しいバス旅行が険悪なムードになった。林田は仕方なく運転手に指示し運転手も最初渋ったけれどやむを得ないと判断し本線の脇にある東名厚木バスストップにバスを止めて騒いでいたおばさん達を下ろした。おばさん達は荷物を持ってどやどやと降りていった。車内に平穏がもどりバスに残った人達は安堵の溜め息を漏らした。

 東名厚木バスストップにバスを止めて強引に降りていったおばさんたちはバスストップから一般道に降りるとたまたまワンボックスカーで通り掛かった23歳のOL 野沢沙智の前に立ちはだかり強引に車を止めさせた。
「危ないじゃないですか」
運転席の窓を開けムッとした表情の沙智が言う。おばさんのひとりが
「あんたいいところに来たじゃないの。ちょっと車貸しなさいよ」
と有無を言わさず運転席のドアを開け沙智が着ている灰色のパーカーのフードをつかんで沙智を車外に引きずり出して路上に投げ捨てるとおばさん達はその間にワンボックスカーに乗り込んでおり、
「高橋さん、早くはやく」
「はいはい、いま行きますよ」
と沙智を引きずり出したおばさんが乗ると猛スピードで海老名に向かって走り去った。
「ちょっと、車ドロボー!」
沙智は叫んだけれどおばさん達の耳には届かなかった。沙智は本厚木の駅前で彼を乗せ富士五湖にドライブに行く途中おばさん軍団にカージャックされ呆然と路上に立ち尽くした。

 他のバスツアーでもUFOグッズを買いたいがためバスを強引に海老名サービスエリアに立ち寄らせる客が相次ぎ社会問題となった。

*****

 海老名市立大塚中学校の廊下で高田瑞穂と上月佑奈の二人の1年生が話している。
「佑奈すごいね。佑奈のキリンが大評判だよ」
「困るのよねぇ」
「なんで?」
「あの騒ぎじゃ礼香との秘密通信にならないじゃない」
「そうだけど」
「虫取り網振り回してキリンをつかまえようとする人がいるんだよ」
「そうなの?!」
「うん」
「いっそ佑奈がテレビに出て『あたしがキリン飛ばしてます』と名乗り出たら?」
「いやよ。テレビかいっぱい来ちゃうじゃない」
「えーっ、佑奈かわいいしアイドルとしてデビューできるかもよ」
「アイドルかぁ」
佑奈はふりふりのワンピースを着てスポットライトを浴びて歌う姿を想像して一瞬それもいいかもと思った。
「だめよ瑞穂。そしたら古谷君と別れなくちゃいけないじゃないの」
「いーじゃん、親衛隊できるから」
バシッ
「あたし芸能人の友達ほしいのよね」
バシッバシッバシッ
「結局瑞穂の狙いはそこなの?」
「そう」
バシッバシッバシッバシッ
佑奈は瑞穂の頭を連打した。
「瑞穂がそんな子だとは思わなかったわ。あのキリンは礼香との秘密通信なんだから誰にもしゃべるんじゃないわよ」
「わかったわ」
「テレビ生中継の隠密作戦なんてなしだからね」
「んみっ」
「礼香はこっそり助け出すの」
「うん」
「あたしキリンの形を変えようかなぁ?」
「そしたら『海老名に新型UFOあらわる!』ってもっと騒ぎになるわ」
「そっかぁ」
「ねぇねぇ佑奈、マスコミに犯行声明出そうよ」
バシッ
「あたしはテロリストじゃないわよ!」
軍師の泉崎礼香と違って高田瑞穂と上月佑奈の二人ではたいした知恵は浮かばなかった。高田瑞穂はミーハーなことを言っているが親友の泉崎礼香を助けたいというのは本音である。それだけに二人でない知恵絞ってろくでもないアイデアばかり出すのだ。

*****

 大塚商店街の飲食店ではUFOブームがテレビに出たことにより加速し飲食店ではご飯がアダムスキー型UFOの形に盛ってあるUFOカレー、のりがアダムスキー型UFOの形に切ってあるUFOラーメン、葉巻型UFOの形になっているUFOハンバーグなどあやかりメニューがあふれていた。地元のアマチュア作曲家が作ったUFO音頭とピンクレティのUFOが大塚商店街にいつも流され、来月は宇宙人仮装コンテストとミスUFOコンテストが開かれることになった。大塚中学校美術部の考えた「宇宙人エビー」というキャラクターが採用され、海老名駅売店や海老名サービスエリアで宇宙人エビーのぬいぐるみが売られる騒ぎとなっていた。これが神奈川県央地区の女子高生の間でブレイクしマスコットとして通学カバンにつけるのがおしゃれとされた。海老名駅売店に入荷するとすぐに売り切れ、日曜日に親に車を出させて厚木インターチェンジから東名高速に入り路肩で長時間駐車場が空くのを待って海老名サービスエリアまで行って宇宙人エビーのぬいぐるみを苦労して手に入れる女子高生もいた。

「恵美子買っちゃった」
「あー、宇宙人エビーのぬいぐるみ。いいなぁ」
「昨日親に車出させて海老名サービスエリアまで行って買ってきたんだぁ」
「混んでたでしょ?」
「海老名サービスエリアに入るのに6時間待ちよ」
「よく待ったね」
「いいかげん頭にきたから親が路肩で車を止めて待っている間にあたしはサービスエリアまで走って宇宙人エビーのぬいぐるみを買って戻ってきたら2mしか進んでなかった(笑)」
そしてどうしたの?」
「海老名サービスエリアの先は横浜町田インターチェンジまで出口がないからそこまで行って、下道で帰ってきた」
「あたしの分はないの?」
「お一人様1個限りだもん」
「なんだ、自慢だけか」
きゃははと二人は笑い転げた。

 海老名市の商工会議所では海老名駅前に宇宙人エビーの銅像建立を検討し始めた。商工会議所が市議会に請願し市議会は銅像建立のための予算を付けるかどうか審議することになった。海老名駅前では宇宙人エビーの銅像建立を求める署名活動が商店街の人達の手により始められた。小田急海老名駅で宇宙人エビーのパスネット(【注】関東私鉄の共通カード)を発売したら前夜から150人を超す徹夜組が出る騒ぎで発売後5分で完売してしまった。相模鉄道では宇宙人エビーのラッピングを電車に施すことになりかしわ台工機所では10000系電車の車体に大きな宇宙人エビーの姿が描かれ相模鉄道沿線の子供達の間で大人気となり通称「エビ電」と呼ばれ親しまれた。同鉄道各駅には
「何時の電車にエビ電が走るのか?」
という問い合わせが殺到し通常業務に差し支えるようになり改札口にその日のエビ電の運転時刻が張り出される事になった。全国の鉄道ファンもエビ電を放っておかず週末ともなると相模鉄道沿線各所に鉄道ファンがカメラを構えてエビ電の姿をムキになって撮影していた。その月の時刻表や鉄道雑誌の表紙はのきなみエビ電の写真で鉄道雑誌はこぞってエビ電撮影地ガイドを乗せ撮影に来た鉄道ファンが私有地に勝手に入り込みごみを散らかすなどの問題も起こったが、エビ電ブームは全国区になっていった。
 「はしれエビでん」という児童向け絵本が出版され、乗る人が少なくて廃止が決まったローカル鉄道にエビ電が走るようになり乗る人が増えて鉄道の存続が決まるという感動的なストーリーに子供だけでなく多くの人達が涙を流した。そして10月の初めにアニメ映画制作が発表され海老名市内の女子中高生の中から声の出演者を選ぶことになり海老名市立大塚中学校でもその話題で持ち切りとなっていた。オーディションを勝ち抜けば映画の主題歌のCDも出せアイドルとしてデビューできるのだ。夢見る女子中高生がこれに食いつかないわけがない。大塚中学校では海老名市市民会館で開かれるオーディションに備えて発声練習をするために?演劇部に入る女子生徒がにわかに激増しそれまで11名だった部員が80名を越える騒ぎとなり休み時間や放課後ともなれば校内のあちこちで
「あ え い う え お あ お…」
と発声練習をする女子生徒の声が響いた。声優だから顔は映画に出ないのに学校に鏡と化粧道具を持ち込んで授業中髪をいじり怒られる女子生徒も多数いた。オーディション参加資格が海老名市内の学校に在学か海老名市に居住する女子中高生なので海老名市立中学生になるために海老名市に引っ越してきた女子中学生や同様に海老名市在住になるため転居してきた女子高生たちも多く一時的に海老名市の人口の伸びが急激に高まった。UFOブームに輪をかけて映画「走れエビ電」のために海老名市は騒がしいことになっていた。

 ある日の昼休み、海老名市立大塚中学校2年生の範子と妙子が廊下でおしゃべりしていた。
「あたし走れエビ電のオーディション出るんだぁ」
「あたしも出るよぉ」
「そっかぁ、範子ごめんね」
「なんで妙子が謝るの?」
「だってぇ、あたしが出たら絶対グランプリ取るから範子の出る幕ないわぁ」
「あらあらずいぶんと強気の発言ねぇ。妙子の家に鏡ないの? あたしの方がかわいいからグランプリ取るに決まっているじゃないの。妙子ごめんね」
「範子のほうこそ自意識過剰よ。その顔でよく表を歩けるわぁ」
「ふんっ、あたしに勝てないからって逆恨みするのやめてよね。妙子の顔が不細工なのは妙子のお父さんとお母さんのせいでしょ。あたしに当たらないでよね」
「その顔でそうゆうこと普通言う? 範子のこと見損なったわ」
「そっちこそいつも男子に色目使ってこの色魔!」
「なによあんたこそ男子の前ではしなしなしちゃって」
「いつあたしが男子の前ではしなしなしたっていうのよぉ」
と範子と妙子が廊下で髪の毛つかみ合いの大喧嘩を始めた。アイドルとしてのデビューがかかっていたので親友だった二人ももうライバルでしかなかった。周りにいた生徒たちはわーわー言いながら二人を取り囲みどっちか勝つかわくわくしながら見ている。お互いに相手の冬服のセーラー服のスカーフを引きちぎりゴムで結った髪の毛をつかんでのはたき合い。激しいビンタの応酬に二人とも口の中を切り唇から血を滴らせ髪を振り乱し周りで男子が見ていることなど目に入らない様子で相手をたたきのめそうとしている。そのすさまじい殺気に女子生徒たちも止めに入ることができない。下手に手を出したら自分まで殴られかねないからだ。範子が両手をグーにして妙子の腹を殴る「ぐえっ」と言いながら妙子は範子の腹に膝蹴りをする。
「このこのぉ〜」
「あんただけは許さないから! 絶対に許さないから! オーディションに出れない顔にしてやる!」
範子はそう口走りながら妙子の頬に爪を突き立てた。そして妙子の顔にひっかき傷を作った。
「よくも美しいあたしの顔に傷をつけてくれたわね!」
逆上した妙子が範子と間合いを取り廊下の壁に掛けてある消火器を取りピンを抜いてノズルを範子に向け力任せにレバーをにぎると白い消化剤の粉末が放出される。それを見た野次馬が我先にと狭い中学校の廊下でてんでんばらばらに逃げようとしたので将棋倒しが起こった。野次馬が周りを囲んでいるので範子も逃げ場がなく消化剤の至近直撃を受け昭和の時代のコントのように全身真っ白になった。
 騒ぎを聞きつけた生活指導の佐藤先生が2年生の廊下に現れ
「お前ら、なんだこの騒ぎは。誰か説明しろ!」
と怒鳴っても誰も口をきく気にもならなかった。この将棋倒しで野次馬の大塚中学校の生徒6人が救急車で病院に搬送される騒ぎとなり範子と妙子は反省文原稿用紙50枚を言い渡された。幸いに病院に搬送された生徒たちも軽傷でその日のうちに帰宅した。妙子の顔の傷も跡が残ることはなかった。この事件で海老名市立大塚中学校では走れエビ電のオーディションに出ることを禁ずるというお触れが生徒に出されたが女子生徒たちは誰一人として従うつもりはなかった。消化剤を妙子にかけられた生徒たちは家で体を洗うよう言われ帰された。

 その少し後大塚中学校1年1組の教室の隅で上月佑奈と高田瑞穂がおしゃべりしている。
「ねえねえ佑奈、あたしも走れエビ電のオーディションに出るのぉ」
高田瑞穂がうれしそうに言う。
「あのね瑞穂、礼香がさらわれているのによくそういう事できるわね」
「それはそれ、これはこれよ」
「なにが『それはそれ』よ」
「実はこれも作戦のうちなの」
「作戦?!」
「そう、あたしがアイドルになってテレビで涙ながらに礼香の救出を訴えるの。そうすれば世の中の人達の同情が集まって礼香の救出もできるというわけ」
「ふーん、でもアイドルになれなかったらこの作戦はだめじゃない」
「あたしがオーディションに落ちると佑奈は思っているわけ? こんなにかわいいのに落ちることなんてありえないわ」
「はいはい、その時はサインちょうだいね」
「ちゃんと『上月佑奈さんへ』って入れてあげるからね」
「……」
佑奈は一人で盛り上がる瑞穂に何も言い返せなかった。

その9へ

古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

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