小説の部屋


2005/11/20 脱稿    

古墳少女 佑奈1.5 -礼香奪回作戦-

   

その9

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
そのあとは古墳少女佑奈3を読もう。

第9章 往復書簡その2

 浅井家に捕らわれの身となっている泉崎礼香は隙あらば脱出しようと考えていたけれどそんなチャンスはめぐって来なかった。毎日「雪江、雪江、雪江、雪江…」と呼ばれてそのたびに「あたしは泉崎礼香よ」と思っていたが、気を許すと「このまま雪江になってしまえばどんなに楽だろうか」という悪魔のささやきが耳をよぎる。佑奈と瑞穂からキリンで届く手紙だけがかろうじて礼香の神経を持ちこたえさせていた。テレビもインターネットもない限定空間に閉じ込められ毎日「雪江、雪江、雪江、雪江…」と呼ばれればいくらしっかりした礼香でも神経が変調してくる。雪江の服を着させられ見回せば雪江の持ち物ばかり。この部屋の中には泉崎礼香はまるで存在しなかった。中学1年生の女の子にとってこれはあまりにもつらい事だ。「本当は泉崎礼香なんて存在しなくてあたしは浅井雪江なのではないか?」とすら考えたくなる。そんな時キリンが礼香の両親の手紙を運んできた。

*****
 礼香へ
元気でやっているか? お前のことは佑奈ちゃんと瑞穂ちゃんから聞いている。まずはお前が生きているとわかり安心した。警察にも言ったのだがお前のことを助け出すことができず申し訳ない。時間がかかるだろうが必ずお前のことを助けにゆくのでそれまで気を強く持って待っていてくれ。
                        泉崎尚二

礼香ちゃんへ
 礼香ちゃんがいなくなり鎌倉で捕らわれの身になっていると佑奈ちゃんと瑞穂ちゃんに聞かされて大変に驚いています。警察に言っても取り合ってもらえずお母さんは心が張り裂けそうです。一日も早くそこから助け出して上げるので待っててね。
                        泉崎清香
*****

 礼香はその手紙を読んで張り詰めていたものが緩み声を上げてわんわんと泣いた。礼香はしっかりとした娘とはいえまだ中学1年生である。一人でこの異常な空間で「雪江ではなく泉崎礼香よ」と突っ張り通すのには相当のエネルギーを使っていたのだ。礼香は父母に返事を書いた。

*****
 お父さん、お母さん礼香はご存じのように捕らわれの身となっています。浅井雪江さんというこのお屋敷の亡くなった娘さんの身代わりとして雪江さんのお母さんと暮らしています。多くの使用人たちが見張っていて逃げ出すチャンスがありません。こうして上月さんを通じて手紙のやり取りができるだけでもうれしく思います。
 一日も早くお父さん、お母さんに会えるのを楽しみに待ってます。  泉崎礼香
*****

氷のキリン  キリンが佑奈の元に帰ってくる。首には礼香から両親への手紙が巻いてあるので佑奈はさっそく泉崎家へ持っていった。ピンポ〜ン、呼び鈴が鳴り清香がドアを開けると佑奈がいた。
「おばさん、礼香から返事がきたので持ってきました」
「佑奈ちゃん、本当なの?!」
「これです」
と佑奈が差し出すと清香は礼香からの手紙をひったくるようにして受け取り礼香の文字を見ただけで「礼香ちゃん…」と声を上げて泣いてしまう。清香は涙声で
「お父さん。佑奈ちゃんが礼香の手紙を持ってきてくれましたよ」
と声を掛ける。尚二も出てきて礼香からの手紙を読んで
「礼香…」
と一言うなったきり何も言えなくなっていた。そんな二人の様子を見ていて佑奈まで「れいかぁ〜っ」
とびーびーもらい泣きしてしまった。清香は
「佑奈ちゃんありがとね」
と言い佑奈の背中をなでてやるのがやっとであった。佑奈は礼香の両親とお茶を飲みながら
「やっぱ、あれから警察は何もしてくれないんですか?」
「そうなんだ。礼香はただの家出ということにされてからはまるでとり合ってくれず『鋭意捜索中です』の一点張り」
「ひどーい、礼香の居場所を教えてあげたのに」
「おそらく『佑奈ちゃんが魔法で見つけました』では裁判で証拠にならないからだろうな」
「お屋敷を家宅ソーサクして礼香がいるのを見つければ証拠なんていらないのに」
「やたらめったら家宅捜索はできないんだろう」
「おじさんとおばさんが『礼香を返して下さい』って言いに行ったらいいんじゃないの?」
「それで返してくれるのなら佑奈ちゃんが行ったときにきっと返してくれたよ」
「うーん」
佑奈の頭ではそれ以上の知恵は浮かばなかった。

 その翌日礼香の元へ佑奈と瑞穂から手紙が届いた。

*****
 礼香へ
お父さん、お母さんは礼香の手紙を読んで泣いてたよ。
あたしももらい泣きしちゃった。
なんとか礼香を助け出す方法を考えてみます。      上月佑奈

 れいかへ
礼香が学校に来ないから学校のみんなも心配しています。
また一緒に吹部やろうね。     高田瑞穂
*****

 佑奈は茨城県那郡平磯町に住む礼香の2つ年上の彼氏、渡辺浩一に電話をした。
「もしもし浩一兄ちゃん? あたし佑奈ですけど」
「あぁ、佑奈ちゃん。礼香はどうなってる?」
「鎌倉のお屋敷に捕らわれたままです」
「そっか〜、警察も動いてくんないんだよなぁ」
「はい」
佑奈は浩一兄ちゃんにキリンで礼香と手紙のやり取りをしていることを説明し
「だから浩一兄ちゃんにも礼香に手紙を書いてほしいんです」
「わかった。佑奈ちゃん家に送ればいいの?」
「はい、あたしが責任を持って礼香の元に届けますから。そしたら礼香もきっと喜んで浩一兄ちゃんにまた会えるようがんばろうって思いますから…」
佑奈が涙声で浩一に言う。
「佑奈ちゃん、泣くなよ。すぐに礼香への手紙を書いて佑奈ちゃん家に送るから」
「はい、そしたらすぐに礼香のところに届けますから」
佑奈は電話口で大泣きしてしまった。浩一はやさしく佑奈が泣き止むまで電話口でなだめてくれた。
 その翌日速達で浩一から佑奈の所に礼香宛ての手紙が届いた。さっそく佑奈はキリンで鎌倉の礼香のところへ飛ばす。速達なだけに心なしかキリンの飛行速度が速いようだ。

*****
 礼香へ
君が今どんな状況にいるかはおじさんや佑奈ちゃんから聞いている。この手紙は佑奈ちゃんに言われて書いた。できることならいますぐ礼香を助けに鎌倉まで飛んでいきたい。だけど僕には何の力がないのが悲しい。礼香がどこにいても世界で一番愛してる。必ずまた会えると信じてる。          渡辺浩一
*****

 キリンが運んできた浩一の手紙を読んで礼香はわっと泣き出した。涙でにじむ目で何度もなんども読み返す。浩一兄ちゃんの字を見るたびに自分は一人じゃない。両親、浩一兄ちゃん、佑奈、瑞穂、吹奏楽部のみんながついていると心強く思った。

その10へ

古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

タリカス文芸部へ
小説の部屋へ
江東の詩へ
江戸川の詩へ
東松山の詩へ
座間の詩へ
その他の詩へ
掲示板に感想を書く
トップページへ

2002年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2003年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2004年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2005年吹奏楽部鑑賞レポートページへ