
海老名市立大塚中学校1年生の上月佑奈は自分の体よりも大きな?バッグを肩に掛けて母親の順子と海老名駅の階段を上っていた。今日の佑奈は黄色いちびTシャツに膝上5cmのデニムミニスカート、学校で禁止されているルーズソックス、スニーカーという服装をしている。どこへ行くかといえば茨城県那珂郡平磯町にある祖父母の家で過ごしている親友の泉崎礼香が佑奈と高田瑞穂を平磯町のお祭り合わせて呼んだので礼香を訪ねるのであった。残念ながら高田瑞穂は塾の夏期講習に行かされていたので佑奈の一人旅となった。初めての一人旅で佑奈は大人になったような気分でどきどきわくわくだったが見送りにきた母親の順子は心配そうな顔で佑奈に
「いい佑奈、向こうのお宅ではちゃんといい子にしているのよ」
「うん」
「上野で常磐線の特急に乗るのよ」
「うん」
「上野駅はホームがたくさんあって各方面に電車が出ているから間違えないのよ」
「うん」
「ちゃんと勝田駅で特急を降りて乗り換えるのよ」
「うん」
「礼香ちゃんのおじいさん・おばあさんに会ったらちゃんとあいさつするのよ」
「うん」
「わがまま言うんじゃないわよ」
「うん」
「あまりがつがつと物を食べないのよ。みっともないから」
「うん」
「変な人に『お菓子買ってやる』と声をかけられてもほいほいついて行くんじゃないわよ」
「あたし小学生じゃないんだからついて行くわけないじゃないの」
「中学1年生なんて小学6年生に毛が生えたようなものよ。ただでさえ佑奈は落ち着きがないんだから」
「……」
「佑奈いい、向こうの町では火ぃ吹いたりしないのよ。礼香ちゃんのおじいさん家にご迷惑がかかるんだからね」
「うん」
「雷電飛ばすのもだめよ」
「わかってるわよ。あたしだってしたくてそうしているんじゃないんだから」
上月佑奈は大塚中学校の近くにある大塚亀山古墳の石室で手に入れた古代の魔力を秘めた腕輪を持っていて火を吹いたり雷電飛ばしたりできるのだ。だから母親の順子としては年頃の娘の佑奈が変なことをされることよりも佑奈に変なことをしようとした人に娘が火を吹いたりして危害を加えないかそっちの方が心配だった。
「はいはい、電車来るからあたし行くね」
と佑奈は母の小言にうんざりしてそれを振り切るようにして小田急の自動改札にパスネットのカードを入れて駅に入った。次の新宿ゆき急行は海老名で空の車両を増結するため佑奈はすわることができた。大きなバッグを網棚に載せようにも身長143cmの佑奈には手が届かないので隣にすわった大学生ふうの男性が見兼ねて載せてくれ
「ありがとうございます」
と佑奈はお礼を言った。急行は相模大野や新百合ヶ丘で各駅停車を追い抜いてゆく。
新宿ゆき急行は登戸を出て多摩川を渡り東京都に入る。神奈川県海老名市に住む佑奈にとって東京都内に出るのは昨年の冬以来のことであった。終点の新宿では近くにいたおじさんにバックを網棚から下ろしてもらい小柄な佑奈は人混みに埋没しながら改札口にたどり着き自動改札にパスネットを入れてJR線の矢印に沿って歩きJRのみどりの窓口に行くとすでに数人が並んでいた。新宿駅だけあって特急あずさやかいじのきっぷを買う人が多いようだ。佑奈の番がくる。海老名市立大塚中学校に入って初めて発行してもらった学割証と礼香からもらっていたメモを窓口のお姉さんに差し出して
「すいません、勝田ってとこまできっぷをください」
「学割1枚ですか?」
「はい」
「特急券もですね?」
「はい」
「指定にしますか?」
「はい。あるのなら」
「禁煙にしておきますね」
「はい、お願いします」
お姉さんはコンピューターを操作して東京山手線内→勝田の学割乗車券と上野→勝田の特急スーパーひたち号禁煙指定席の特急券を発行し佑奈は代金を支払ってなくしたら礼香のいる町まで行けなくなってしまうからそれを大事にお財布に入れた。
「このきっぷでここから乗れますよ」
「ありがとうございました」
お姉さんに見送られて佑奈はみどりの窓口を出た。佑奈は学割乗車券を自動改札に通し中央線快速のオレンジの電車に乗り神田まで行き、そこで山手線の黄緑のラインの電車に乗り換えて上野駅に着いた。
上野駅は1−12番線が高架ホームで13−17番線が地平ホーム、新幹線の19−22番線が地下にある構造になっている。(18番線は廃止され欠番)
「あれぇ17番線はどこなんだろ」
佑奈が乗る特急スーパーひたち号は地平ホーム17番線から出発するが佑奈は幼い頃上野動物園にパンダを見にきて以来の上野駅で、そういう上野駅の構造を分かっていなかったので17番線がどこにあるのかわからず10分近くコンコースをまごまごしていた。
「あっ、17番線あった。よかったぁ」
ようやく17番線を見つけて16・17番線は特急専用ホームなのでその入口にある中間改札を特急券を見せて通る。すでに17番線に特急スーパーひたち号が真っ白い車体を横付けにしていた。佑奈は鉄道ファンでもないのにバックから使いきりカメラを取り出して1枚スナップした。佑奈は2号車のドアから乗り込み指定された6Dにすわる。隣の6Cは一人旅らしい茶髪のOL風の女性でかったるそうにファッション雑誌を読んでいたが意外に親切な人で背が低い佑奈のために網棚にバッグを載せてくれた。佑奈の席は窓側なので外を見ているうちに特急スーパーひたち号が走り出した。この電車は上野を出ると水戸に着くまで1時間以上止まらない。特急スーパーひたち号は次々と駅を通過しながら走る。取手駅を出て次の藤代駅に差し掛かる頃クーラーが止まり車内の蛍光灯が一部を残して消える。昼間なので真っ暗というわけではないが車内アナウンスによれば電力の切り替えのためだという。(【注】常磐線の取手−藤代間で直流1500Vから交流20000V 50Hzに電源が切り替わり、その境目は絶縁のため電気が流れていないのでこのような現象が起こる。なお車両が新しい特急フレッシュひたち号はバッテリーでバックアップするためクーラーは止まるが蛍光灯は消えない)水戸に電車が着き隣のOLは降りる際に佑奈のバッグを網棚から自分が座っていた席に下ろして
「それじゃ気をつけてね」
と降りていった。佑奈は
「ありがとうございました」
とお礼を言った。
水戸から5分で次の勝田に着き佑奈も降りる。うっかり乗り過ごすと福島県まで連れていかれてしまう。勝田駅3番線に着いた佑奈は茨城鉄道乗り場を探すと1番線の脇に小屋がありそこできっぷを買うらしい。佑奈は勝田までのきっぷを出して
「すいません、平磯まで1枚ください」
と佑奈は小屋にいるおじさんからきっぷを買った。これで礼香に会える。20分程待ってやってきたのは1両きりのディーゼルカーであった。
「やーん、1両しかない。かわい〜」
と佑奈はまた写真を撮った。ワンマン運転の車内に入ると整理券発行機と運賃箱があり佑奈はバスみたいと思った。ローカル線ながらクーラーがきいていて車内は快適だ。車内で待っていると運転士が乗り込んできてドアを閉めガガガーッとエンジンをうならせて走り出した。車内放送もテープでバスみたいにボタンついてないかしらと佑奈は車内を見渡したけれど降車ボタンはなかった。1両きりのディーゼルカーは田んぼの中をことことと走ってゆき途中駅で対向列車との行き違い待ちをしながら平磯駅に着いた。
平磯駅は単線の線路の片面にホームがあるだけの開業当初から使用している木造の古めかしい駅舎の無人駅だった。平磯駅はかつては平磯海水浴場への玄関口としてにぎわい多くの駅員が勤務して海水浴の時期になると上野から常磐線経由の「海水浴急行 ひらいそ」が毎日3往復乗り入れてきて臨時改札口を設ける盛況で、指定券がとれない人々で自由席は通勤電車並の混雑をしていた。だが時代の流れとレジャーの多様化により今では海水浴に来る人が減り、列車ではなくみんなマイカーで来るようになったため急行は廃止され平磯駅は無人化され列車も整理券を抜いて乗る1両きりのワンマンカーになった。
ホームにサックスブルーのシャツワンピースを着た泉崎礼香が迎えに来ているのが佑奈に見えたので手を振った。佑奈が運転士にきっぷを渡して前のドアからホームに降りると他に乗降客はなくディーゼルカーはドアを閉めガガガーっと走り去った。
「礼香!」
「佑奈よく来てくれたわね」
「特急で来たから意外と早く着いたわ」
「そう、こんな遠くまで来てくれてありがとうね」
「初めての一人旅でどきどきしちゃった」
「佑奈と会うのってコンクールの前以来だっけ?」
「そうね。この辺はたんぼ多いのね」
二人は駅を出て踏切を渡り緩やかな坂を上り礼香の祖父母の家に向かって歩く。
「礼香、あの山古墳よね」
「えっ、そうなの?!」
礼香は古墳と聞いていい顔しない。
「腕輪が反応してるわ」
「お願いだからこの町で火を吹いたりしないでね」
「わかっているわ」
礼香にまで母親と同じことを言われて佑奈はうんざりした。礼香も佑奈の母と同じく佑奈が腕輪の術を使ってトラブル起こすのだけを心配していた。
「この辺は横穴墓も多いみたいだし」
「ふーんそうなの?」
礼香はもう古代の墳墓はこりごりだ。まさか平磯町にも佑奈のような古墳少女はいないでしょうねと思った。
その3へ
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。この作品のあとは古墳少女佑奈2、古墳少女佑奈3を読もう。
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