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小説の部屋


2005/8/28 脱稿 古墳少女シリーズ 番外1    

礼香の夏休み

   

その3

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

第3章 礼香の初恋

 平磯駅から歩いてきた泉崎礼香と上月佑奈は礼香の祖父母の家の前で隣に住む渡辺浩一と出会った。
「こんにちは、礼香ちゃん。その子お友達?」
「あっ、浩一兄ちゃん」
浩一は佑奈を見て礼香に言った。真っ赤になった礼香は浩一のことをまともに見られず目を泳がせながら
「がっ、学校のおっ、お友達なの」
と言うのがやっとだった。佑奈は
「上月佑奈でーす」
「佑奈ちゃんか、おれ隣に住んでる渡辺浩一。礼香ちゃんとは幼馴染みなんだ。よろしくね」
「よろしくお願いしまーす」
と浩一にめいっぱい愛想を振りまく。その様子を礼香がこわい目でにらんでいる。浩一と別れた後礼香が佑奈に向き合い
「ちょっと佑奈。古谷君がいるんだから浩一兄ちゃんに色目使わないでよ」
「えっ?! ただ愛想を振りいただけだよ」
「それが色目使ってるというのよ。なにが『上月佑奈でーす』よ」
「べつにいいじゃないの。コクってつきあうわけじゃないんだから。ほら『女は愛嬌』っていうでしょう」
「コっ、コクるって佑奈、そんなことまで考えているの?!」
「まさか。あたしはいつだって古谷君一筋です」
佑奈は誇らしげに彼氏の古谷の写真をお財布から取り出して礼香に見せる。
「いい佑奈、浩一兄ちゃんに変なまねしたらあたしが許しませんからね」
「礼香と浩一兄ちゃんってつきあってるの?!」
「ばっ、ばかなこと言わないでよ。浩一兄ちゃんがあたしなんかとつきあうわけないでしょう! 変なこと言うとぶつわよ」
真っ赤になった礼香がオーバーに否定する。佑奈はいつになく感情的な礼香を変に思った。礼香はただ佑奈が浩一に気安く接触するのが許せない。礼香はそれがジェラシーからきている感情だとは自分でも気付いていなかった。礼香は浩一のこととなると心が乱れ自分の感情をコントロールできなかった。
 二人は礼香の祖父母の家に入った。祖母のよねが玄関先に迎えに出た。
「おぉ、あんたが佑奈ちゃんけ。いつも礼香が世話になっとるそうじゃなぁ。まぁ、自分の家だと思ってゆっくりしていってね」
「よろしくお願いします。これうちのお母さんが渡して下さいって」
とカステラの包みを差し出す。受け取ったよねは
「おやまぁこんな気を遣わんでええのに」
と嬉しそうにしていた。
「明日からお祭りだそうですね」
「うちのじぃさんもいま準備に出ておるわい」
「どんなお祭りなんですか?」
「おみこしが出て町内練り歩き、夜は盆踊りがあるわな」
「わーっ、楽しそう」

*****

 礼香が使っている部屋に佑奈は荷物を運び込みとりあえず落ち着く。
「さて、佑奈。夏休みの宿題やりましょ」
「えーっ、着いたばかりなのにぃーっ!」
「夏休みは短いわよ」
「そりゃそうだけど」
「英語のワーク開いて」
と礼香は事務的でつっけんどんな態度で佑奈に指示する。
「そういや礼香」
「何よ」
佑奈は礼香をにやにや見ながら
「おぬし、ほ・れ・た・な!」
図星だったようで言われた礼香は真っ赤になってうつむき何も答えられない。そして礼香は思い直したように
「なっ、何言ってんのよ佑奈。あっ、あたし浩一兄ちゃんのことなんて何とも思ってないんだから」
「へぇーっ、礼香の好きな人って浩一兄ちゃんなんだぁ」
「佑奈が『浩一兄ちゃんにほれたな』って変なこと言うからでしょう」
「あたしはただ『ほれたな』としか言ってないんだけど」
「えっ、そのっ、あのっ」
にやにやしながら見ている佑奈にしてやられたと礼香は思った。まさに語るに落ちるとはこのことだ。いつも論理的で冷静な泉崎礼香も初めての恋の前にはただの恋する乙女でしかなかった。いつも礼香にいろいろと言われっぱなしの佑奈がこのときとばかりに礼香をからかう。
「そういうことなら『恋の大魔法使い』の上月佑奈様にまかせなさい。呪文を唱えて二人をくっつけてあげよう」
「やっ、やめてよ。浩一兄ちゃんに変な術かけたら佑奈とは絶交よ」
「いいじゃないの。あたしと古谷君みたいにラブラブにしてあげるから」
「だめっ、そういうのは本当の恋じゃないわ。勇気を出して告白したんじゃなきゃ…」
「じゃあ瑞穂に電話してこよっと。『礼香が恋をしてる』って。電話借りるわねぇ」
と居間にあった黒電話を目指して佑奈が走る。
「佑奈だめぇーっ!」
礼香が絶叫しながら佑奈を追いかけるべく立ち上がろうとして自分のワンピースの裾を踏んづけて転ぶ。いつもふるまい上品な泉崎礼香とは思えないあわてぶりだ。その間に佑奈は黒電話の受話器を取りジーコロコロと海老名市の市外局番を回している。追いついた礼香が佑奈から受話器をひったくりたたきつけるようにしてがちゃんと切った。そして黒電話を胸にだき抱えはぁはぁ息をしている。
「みっ、瑞穂に知られたら全校生徒に知れわたっちゃうでしょう!」
二人の親友の高田瑞穂は大のおしゃべりで「瑞穂の知ったことは2時間以内に全校生徒に知れ渡る」と言われている。佑奈の腕輪のことでも瑞穂に言い触らされ佑奈はかなり迷惑していたからそれはよく知っている。でもこんな大ニュースしゃべらずにはいられない。
「じゃあいいわよ。外の公衆電話で掛けてくるわ」
「公衆電話もだめぇーっ!」
ヒステリー起こした礼香はもう泣きそうである。
「わかったわよ。瑞穂に電話するのやめるから」
「だからって手紙出したりしないでよ」
「ちぇっ、バレたか」
「佑奈!」
「はいはい、内緒にするから礼香落ち着いて」
いつもやりこめられている礼香をからかって佑奈はおもしろかった。それから約2時間二人は何も言葉を交わさずに黙々と夏休みの宿題の英語のワークと数学のプリントの2つを片付けた。

*****

 水神様の夏祭りの準備で出かけていた礼香の祖父 留吉が一杯ひっ掛けて夕方に帰ってきた。テーブルには天ぷら、鰻の蒲焼、そうめんがならんでいる。留吉は飲んで帰ってきたのに瓶のビールを飲んでいる。
「いやぁ佑奈ちゃん、遠い所をよく来て下さった」
「いえ、特急で来たからはやかったんですよ」
「そうかそうか、でも慣れない一人旅で疲れたじゃろう。ゆっくりしていってな」
「ありがとうございます。この辺は星がきれいに見えそうでいいですね」
「そうかい? そんなもん晴れた夜は毎日出とるけの」
「うちのほうは空が明るいから夜でもあんまり星が見えないんですよ。米軍機は飛んでくるし」
「米軍機はうるさいみたいじゃの」
「うん」
「明日から水神様のお祭りじゃ、二人ともうんと楽しんでな」
「うん」「はい」
二人の返事がハモる。留吉は上機嫌で
「子供が二人もいると賑やかでよいのぉ」
「いつもは年寄り二人きりですからね」
とよねも嬉しそうに答える。留吉は
「佑奈ちゃんと礼香は同じクラスなの?」
「クラスは違うけど吹奏楽部で一緒です」
「佑奈ちゃん吹奏楽部なのけ」
「あたしはクラリネットを吹いてます」
「そりゃすごい。今度おじいちゃんも聴いてみたいな」
「3月に定期演奏会がありますからおじいちゃんも聴きに来て下さい」
「そりゃ楽しみだな」
「佑奈ちゃん恋人はいるのけ?」
「おじいさん、そんな立ち入った事は聞かないの」
とよねがほろ酔い加減の留吉をたしなめる。
「いますよ」
「どんな子?」
「隣のクラスの子で校内で一番カッコいい男子なんです」
思わず礼香は味噌汁を吹き出した。佑奈はそれにかまわず留吉に古谷の写真を見せびらかしている。
「ほほぉ、こりゃ役者みたいな美男じゃの」
「でしょでしょ」
古谷のことをほめられて佑奈は嬉しそうだった。
「礼香には恋人いないのけ?」
と留吉に聞かれ佑奈がにやにやしながら口をはさもうとするので礼香は肘で佑奈の脇腹を小突いた。佑奈の目は「礼香のことをしゃべっちゃおうかなぁ」と告げており礼香は生きた心地がしなかった。礼香は真っ赤になって
「恋人なんていません」
と言うのがやっとだった。
「なんだ礼香は中学生にもなって色気ないのう。隣の浩一なんてどうじゃ」
と祖父に急所をえぐるような事を聞かれて礼香はナスの天ぷらを喉に詰まらせてげほげほと咳き込んだ。
「礼香大丈夫?!」
と言いながら佑奈は背中をさすってやる。佑奈は全身をぷるぷると震えさせながら必死で笑いをこらえていた。佑奈は落ち着いた礼香のことを見ながら目で「おじいちゃんに話まとめてもらいなよ」と告げていた。

*****

 夕食後二人は一緒にお風呂に入る。礼香は佑奈に裸を見せるのが恥ずかしかったが礼香一人で入るとその間に佑奈が瑞穂に電話しかねないので恥ずかしいのをこらえて一緒に入って見張ることにしたのだ。二人とも着ている服を脱いで下着も取りタオルで前を隠しながら湯船に入る。
「礼香とお風呂に入るのって久し振りよね」
「そうよね。小学校の修学旅行以来かしら?」
「たぶんそうね。礼香の体ってきれいよね」
「えっ!」
礼香はギョッとして胸を腕で隠す。
「あたしはペタンコだけど礼香はおっぱいも大きいし」
「ちょっと佑奈変なこと言わないでよ」
「おっぱい触っていい?」
「だめよ。女の子同志でしょ」
「ふーん、浩一兄ちゃんならいいんだぁ?」
「なんでそこで浩一兄ちゃんが出てくるのよ」
「礼香は浩一兄ちゃんにこんなことされたいと思ってるんでしょ」
「あんっ」
佑奈は隙を突いて礼香の胸に触った。礼香はムッとしながら
「そんなこと思っているわけないでしょ。佑奈こそ古谷君にそんなことさせているんじゃないでしょうね?」
「古谷君ったらね。二人きりになるとすぐに佑奈のお洋服を脱がせてね、いろんなとこエッチな手つきで触るんだよぉ。あんなとことか、こんなとことか。この前も放課後の木工室に連れ込まれて『いやだ』って言ったのにスカートまくられてね…」
「そんな!」
親友の佑奈が古谷と学校で破廉恥な行為に及んでいるなんて! と礼香は絶句した。
「うそに決まってるでしょ! あたしたちは清らかな関係です。礼香ったらあたしと古谷君をそ〜ゆ〜関係だと思ってたんだぁ」
「……」
礼香は真っ赤になってうつむいている。佑奈は湯船を出て体を洗い始める。
「礼香は美人で上品なんだから浩一兄ちゃんは絶対『いや』って言わないよ。思い切って明日コクんなよ」
「だめっ、絶対あたしできない」
「明日はお祭りよ。神様も味方してくれるわよ。コクるのには絶好のシチュエーションだよ」
「いやよ、そんなの」
「『浩一兄ちゃんあたしを見てみて』って言えばイチコロよ」
と佑奈は洗い場でストリッパーのように身をくねらせた。
「佑奈、裸でそんなはしたないことやめてよ」
「『裸で』ってここお風呂場よ」
そう言われて礼香は何も言い返せなかった。

*****

 お風呂から上がってしばらくおしゃべりした後二人は電気を消して寝床に入った。横になって気が抜けたのか礼香がぽつりぽつりと口を開く。
「去年までは浩一兄ちゃんと何の気なしに遊んでたのになんで今年の夏は妙にどぎまぎしちゃうのかしら?」
「礼香は浩一兄ちゃんに恋しているからよ」
「そんな! ありえないわ」
「礼香は浩一兄ちゃんのことまぶしくてまともに見られないでしょ」
「うん」
「あたしが古谷君のこと片思いしてるときもそうだったもん」
「そうなの?!」
「コクっちゃいなよ。浩一兄ちゃんは礼香のこと嫌いじゃなさそうだし」
「でも…」
「礼香みたいなかわいい子にコクられて『イヤ』と言う男子はいないって」
「もしだめだったらどうするのよ。おじぃちゃん家に来られなくなるじゃないの」
「その時はあたしと一緒にお礼参りに行きましょ」
「だめよ、暴力は」
「礼香、いつからそんな意気地なしになったの?!」
「えっ」
「いつもの礼香じゃないよ」
礼香も恋する乙女である。好きな男子の前では意気地がない。
「わかったわ」
「えっ?!」
「礼香の言う通りあたし術は使わないわ」
「?!」
「あたし明日浩一兄ちゃんに『礼香が好きだって言ってます』って伝えてくるわ」
「ダメっ! 直接伝えるのもだめっ!」
「言わなきゃ永久に片思いのままだよ」
「いいの、あたし遠くからそっと見てるから」
「昭和の時代じゃないんだからね! そんな古風なのは21世紀にははやんないよ。それにぐずぐずしてると他の女の子に浩一兄ちゃんをとられちゃうよ」
「でも自信ないし…」
「コクる時はだれだって自信ないの。あたしだって古谷君がつき合ってくれるなんて思いもしなかったもん」
礼香はふとんをかぶり寝たふりをして答えなかった。
「浩一兄ちゃん! 好きです」
と佑奈が言うと礼香の手がふとんから伸びて佑奈をパシッとたたく。佑奈は
「いてっ!」
「また変なこと言ったらもっと強くたたくわよ」
「『浩一兄ちゃん』って?」
「もぉ、佑奈のバカ!」

 佑奈の一人芝居が始まる。
「浩一兄ちゃん! 好きです」
「礼香、前から僕も君のことが好きだったんだ」
「うれしーっ」
「礼香もっとこっちへおいでよ」
「あっ、いやっ、恥ずかしいわ」
「大丈夫だよ。誰も見ていないから」
「あんっ、やだ。そんなとこさわんないで」
「礼香のこと好きなんだ。いいだろ?」
「だめよあたしたちまだ中学生なのよ。」
「礼香は僕のこと嫌いなのかい?」
「浩一兄ちゃんのことは好きだけど…」
「ならいいだろ」
「そこはだめっ…」

 部屋が暗いうえに礼香は聞くまいと布団かぶっていたから佑奈にはわからなかったが礼香はゆでたように真っ赤になっていた。なまじ真っ暗な部屋で布団かぶって佑奈の一人芝居を聞いていたものだから脳裏に浩一が自分に迫ってくる様子がありありと浮かんできてしまった。こんな風に浩一に迫られたら果たして礼香は貞操を守るため拒み切れるだろうか? 浩一兄ちゃんになら仕方がないか、無理やりエッチなことされちゃったんだもんね…、佑奈の一人芝居を聞いて礼香はエッチな妄想に入りかけていたがハッと我に返った。いけないわ、浩一兄ちゃんとあたしはただの幼なじみなんだから。佑奈が変なこと言うからこんな事考えちゃうのよ、と思い直しふとんから手を伸ばしまた佑奈をバシッとたたくと一人芝居を夢中で続けていた佑奈は
「いたっ」
と言った。

 うぶな礼香は佑奈のからかいをいちいち真に受けて神経が高ぶってなかなか眠れなかった。その夜は遅くまで恋バナが続いた。

その4へ

古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。この作品のあとは古墳少女佑奈2古墳少女佑奈3を読もう。

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