
小説の部屋
S高吹奏楽部 泥まみれの礼奈
2003/5/2 脱稿
S高吹奏楽部 泥まみれの礼奈
タリカス その3
第4章
絵里香を埋め終えた礼奈と友美子は無言で自転車を押して雑木林を抜け家に向かった。全身泥まみれになっていたが暗いので礼奈たちは気付かなかった。二人は精根尽き果ててただ早く帰って寝たいと思っていた。礼奈は途中にある友美子の家の前で
「それじゃユミおやすみ」
「うん、じゃあね」
とだけ言葉を交わして礼奈は友美子が家に入るのを見届けた。ふだんおしゃべりな二人ではあったがあまりにもショッキングな出来事で疲労困憊していた。礼奈は重い足取りで家に帰り着いた。
「ただいま」
「遅かったね、まぁどうしたのレイちゃん」
「途中で転んじゃって」
「そう、気をつけなきゃだめよ」
と泥まみれの礼奈を見て驚く母を尻目に
「まずお風呂に入るね」
と余計な事を聞かれないうちに礼奈は風呂場に逃げた。
礼奈が脱衣所の鏡を見ると全身泥まみれであった。今まで暗い雑木林の中でずっと作業をしていたから礼奈は全く気付かなかったが紺セーターにスカート、髪の毛に泥がこびりつきひどい有様であった。それが少女を埋めた事を思い出させたので礼奈はだぶだぶの紺セーターを脱ぐとばらばらと細かい土が脱衣所の床に落ちた。白いブラウスは汗まみれになっており制服のスカートは泥だらけで白いルーズソックスは無残にも茶色に変わり果てていたので礼奈はこのルーズソックスは捨てようと思った。礼奈は下着も取り風呂場でシャワーを浴びながら自分たちの犯した罪を洗い流すかのようにボディソープでごしごしと全身を洗った。そうすればすべてが許されるとでも思っているかのように。シャワーを浴びて汚れを落とし湯船に入り人心地着くと礼奈は少女を埋めた時は必死で怖がる友美子を手伝わせて少女の死体を埋めることに成功したけれど自分たちがしたとんでもないことに改めて気付き礼奈は罪悪感がわいてきて目から大粒の涙をぼろぼろと流し声を立てないようにして泣いた。
風呂から上がると礼奈は食欲はなかったけれど不自然に思われないように母親が用意した食事に半分くらい口を付けてから
「ごちそうさま、もう寝るわ」
と2階の自分の部屋に引き上げた。ベッドに入ってもまぶたに埋められてゆく少女の死体がちらつき礼奈はなかなか寝付けずに悶々として何度も寝返りを打った。体は疲れ果てているのに気が高ぶって眠れない。明け方、ようやく浅い眠りに就いた礼奈は怖い夢を見た。
第5章
大勢の男たちが礼奈と友美子を探し回っている。絵里香を死なせて死体を埋めた事が露見したようだ。制服姿の礼奈と友美子は雑木林の中を無我夢中で逃げ回りいつの間にか礼奈は友美子とはぐれてしまった。礼奈は茂みの中に女子高生が入れるだけの空間を見つけたのであわてて逃げ込んでそこに体育ずわりをして膝を抱えるようにしてうずくまっていた。大勢の男達が
「小沢礼奈と上田友美子を探せ」
「いたかぁ」
「そっちも探せ」
と大声で叫びながら礼奈と友美子を探して走り回っている。礼奈は茂みの中で息を殺して男達が去るのをおびえながら待っていた。
それからしばらくして
「上田友美子がいたぞぉ」
「こっちに連れてこい」
「小沢礼奈も探せ」
と言う声が飛び交う。礼奈のいる場所から外の様子はよく見えなかったから友美子が一体どうなっているのかは男たちの話し声から推測するよりなかった。しかし友美子が捕まった。礼奈はどうすべきか迷った。礼奈が飛び出して行ったところで声の数だけでも10人は居るようだから男達から友美子を奪回するなんてできないことだった。みすみす礼奈まで捕まるわけにはいかない。でも親友の友美子を見殺しにするなんて事できない。礼奈の心は揺れた。
「人殺し」
「娘を返せ」
「鬼・悪魔」
「人でなし」
「殺人鬼」
とありとあらゆる罵声が友美子に浴びせられている。友美子は
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
とただただあやまるばかりのようだ。
「やめて下さい。痛い」
という友美子の悲鳴が聞こえる。男達が友美子に暴行を加えているようだ。礼奈は思わず目をつぶってそれを聞いた。
「人殺しを処刑しろ!」
「おーっ!」
と男達がおたけびを上げる。友美子は
「お願いです。命だけは助けて下さい。何でも言うこと聞きますから」
と泣きわめいて命乞いをしているが礼奈は怖くて茂みの中から顔を出すことすらできない。男たちはまったくそれには取り合わないようだ。
「人殺しの上田友美子を処刑する」
と男の一人が宣言した。「わぁーっ」という歓声と拍手が聞こえてくる。
「殺せー」
「上田友美子を処刑しろ」
という男たちの声が聞こえた。そして
「ぎゃーっ、礼奈助けてぇーっ」
という友美子の断末魔が聞こえてくると礼奈はおもわず耳を手でふさいだ。それでもこだまのように「礼奈助けてぇーっ」という友美子の断末魔が頭の中で渦を巻いて礼奈を苦しめた。
「ごめん友美子。あたしは親友のあなたを見殺しにしてしまった。許してね」
と礼奈は声を立てずに涙を流していると
「上田友美子を処刑した。残る小沢礼奈を捜し出し処刑しろ」
「おーっ!」
と大勢の男達が叫び足音が散開してゆく。次はあたしが友美子みたいに処刑される。でも、礼奈は怖くて疲れて一歩も動けない。やがてあたしも見つかって友美子みたいに男たちの前に引き出されて処刑されちゃうんだわと礼奈は自分の末路を予感した。
「小沢礼奈はいたか?」
「いやいない」
「草の根わけでても捜し出せ。まだ遠くには行っていないはずだ」
「俺はあっちを探す」
という怒号が飛び交い礼奈は生きた心地がしなかった。
コツコツコツ
と不意に足音が礼奈の潜んでいる茂みに近付いてきた。礼奈はハッと息を飲んだ。
コツコツコツ
ゆっくりとその足音は礼奈を追い詰めるように近付いてくる。
コツコツコツ
「もうだめっ!」
礼奈は身を固くして目を閉じた。だから誰が来たのかは礼奈にはわからない。礼奈は息が止まるほどその足音に身構えた。しかし礼奈のすぐ近くまで来たのにその足音は礼奈には気が付かずに素通りし礼奈のいる茂みから離れていった。
「よかった」
礼奈は安堵した。すると不意に何かが礼奈の中でゆるんだ。それは礼奈の全身をぶるぶるっという震えになって走ったかと思うとそのままの状態でほとばしり出て礼奈はおもらししてしまった。礼奈は
「あっ」
と思ったけれどおしっこの勢いを止めることはできなかった。おもらししてしまったことに対する嫌悪感とおしっこを出したすっきり感がないまぜになって礼奈を支配していた。そして礼奈はおもらしをするのは幼稚園のとき以来だなと思った。
それからしばらくすると制服のスカートとショーツを濡らした礼奈のおしっこが冷えてきて礼奈の体温を奪い礼奈は寒気がしてきた。そして無性に喉が渇いていた。ここに隠れてから一体何時間が経ったのだろうか。その間礼奈は全く飲まず食わずの状態であった。しかしまだ男達が探し回っているので水を飲みに行くなど論外だった。
「お水が飲みたい」
礼奈はそうつぶやいた。
ワンワンワンという犬の鳴き声が遠くに聞こえる。男達は礼奈を探すために犬まで連れてきたようだ。
「自宅から小沢礼奈が昨日着ていたブラウスを持ってきました」
という男の声がする。いやだわ、あんな汗まみれの汚いブラウスなんか持ってきて恥ずかしいと礼奈は思ったが、すぐに犬に礼奈を探させるためだと気が付いた。さっき盛大におもらしをしてしまったのですぐに犬はおしっこの臭いを嗅ぎ付け礼奈の居所を見つけるだろう。礼奈はもうおしまいだと思った。友美子のように男達に引っ立てられ罵声を浴びせられボロクズのようになるまで殴る蹴るされてあたしは死ぬんだ。そう思うと礼奈は悲しくて涙が出て声を殺して泣いた。ただS高吹奏楽部を守りたかっただけなのに。これで友美子とあたしが処刑されたら今年S高吹奏楽部は吹奏楽コンクールに出られないなぁ。吹奏楽部は廃部になるかもね。みんなごめんね。絶体絶命のピンチなのに礼奈はもっとS高近くの丸月堂のケーキをたくさん食べておけばよかったなと思う自分に苦笑した。遺影にするかわいいプリも残せず処刑されてしまうのが残念だった。もし生き延びたらダイエットなんて気にせずに丸月堂のケーキをたくさん食べてかわいいプリを撮りまくるんだと礼奈は思ったが、そんな事できるわけないのは礼奈にもよく分かっていた。ただ絶望のどん底でちょっと夢を見ただけ。あたしが今日処刑されると友美子と同じ日が命日になるのね。礼奈はそれもいいかもと思った。だけどちゃんとした墓に埋葬されそうにないからあたしとユミの死体はあの少女のように人知れず埋められちゃって礼奈と友美子は行方不明で終わっちゃうのかな。よく死刑囚に最後の望みをかなえてやるというけれどあの男達は問答無用で友美子を処刑したからそんなやさしさは持っていないわね。あぁお風呂に入りたい。おしっこまみれのままで死ぬのだけは嫌。礼奈はそう思った。
礼奈のお尻の辺りで何かがもぞもぞとうごめく。目をやると緑の蛇が這っていた。蛇に限らず礼奈は爬虫類系が大嫌いであった。「いやぁーっ」と悲鳴を上げて茂みから飛び出しそうになるのを礼奈はすんでのところでこらえた。そんなことをすれば男達に見つかって処刑されてしまう。蛇か処刑かの選択を礼奈は迫られていた。もちろん礼奈には大嫌いな蛇しか選ぶことはできない。「あっち行って」と礼奈は蛇に念ずるけれど蛇は礼奈をもてあそぶかのように礼奈の回りを這い回った。それどころかもう一匹蛇が現れて礼奈の足の甲の上を這っていく。それを見た礼奈の全身にぞわっと鳥肌が立った。蛇は礼奈が身動き取れないのをいいことに舌をピロピロと出し入れしながら礼奈の様子を見ている。礼奈は怖いから蛇を払いのけたり、つかんで遠くに投げるようなマネはとてもじゃないができなかった。それを知っていて礼奈をいたぶるかのように蛇は礼奈のそばを離れなかったので礼奈の顔が血の気を引いて行く。礼奈は大声をあげぬようスヌーピーのハンカチを丸めて口に詰め大声を出せないようにした。これなら不意に蛇が動いても大声を上げられない。それを見透かしたように蛇の数は増えていって礼奈の体を伝い頭の上から落ちてきて礼奈の体にまとわりついてくる。礼奈は
「んぐぅ」
というくぐもった悲鳴を上げて蛇から逃れようとするが茂みの中の狭い空間ゆえそれはできなかったし下手にもぞもぞ動くと茂みがガサガサと音を立てるから礼奈はじっと耐えるしかなかった。礼奈は体中を伝い這い首に巻き付く蛇たちに気絶寸前であった。いっそこのまま気絶できたら礼奈はどんなに楽であろうか。礼奈はそう思ったが蛇たちのキモい感触が礼奈に気絶することすら許さなかった。
茶色い蛇が鎌首もたげシャ〜っという音を発しながら礼奈を見つめ威嚇してくる。礼奈は「来ないで」と念ずるが蛇は威嚇をやめない。礼奈は逃げ出すこともできずこれはまずいと思った。怖いから礼奈の目はその茶色い蛇に釘付けになっていた。蛇も礼奈をにらみ返す。礼奈は左手で犬をしっしっと追い払うようにした。それを蛇は攻撃と見なしたのかすばやく鎌首を延ばし礼奈の左手の甲に噛み付いた。礼奈は「痛っ」と思ったが、蛇は礼奈に噛み付くとすばやく身をひるがえし茂みの奥へと消えていった。礼奈は噛まれた左手の甲を見ると蛇の牙の形がくっきりと付いていて血が出ていた。礼奈はこの蛇毒あるのかなぁ、もし毒蛇だったらこのままあたし死ぬのね。でも捕まって処刑されるくらいならこのまま蛇の毒で死んだ方がいいか、と思った。だんだんと蛇に噛まれたところがずきずきと痛み出してきた。やっぱり毒蛇だったんだ。このまま全身に毒が回ってあたし死ぬんだ、その方がS高校吹奏楽部に迷惑かけなくていいからいいわ。このまま人知れず野たれ死ぬのも自業自得だ。あたしの死体が発見されなければいいのに、と礼奈は考えた。
礼奈の手足の先がしびれてきた。
「あひぃ」
と舌もしびれてろれつが回らなくなってくる。ユミ、あたしもすぐに行くから待っててねと思う間もなく礼奈の意識が遠のいていく。
コツコツコツ
とまた足音が近付いてくる気配に礼奈の意識が戻った。礼奈はハッと息を飲み身を固くする。礼奈が意識を失っている間に蛇は一匹もいなくなっていた。いったいどのくらいの間気を失っていたのだろうか? 蛇の毒が全身に回ってきたようで礼奈は熱っぽかった。足音は一人だが礼奈がこの茂みの中に潜んでいることに気が付いているのだろうか? 心臓がドキドキと音を立て礼奈は自分の心臓の音が聞こえてしまうのではないかとすら思った。その足音は時折立ち止まりガサガサと茂みの中を捜しているようだ。今度は見つかるのも時間の問題だと礼奈は観念した。そして蛇の毒で体の自由はきかずもうどうせ逃げられないし友美子も処刑されてしまったから自分一人だけ生き延びても友美子に合わせる顔がない。どうせなら早く蛇の毒で死んでしまいたいと礼奈は思った。不意に礼奈から1mのところに棒が突っ込まれた。礼奈は声を殺して恐怖に目を見開いた。その棒はガサガサと茂みの中を動き礼奈を捜している。礼奈は「ダメっこっちに来ないで!」と目をつぶった。
足音が礼奈の前で止まった。「見つかった、捕まる!」と身を固くした礼奈は怖くて顔を上げることができない。ガサガサと茂みをかき分ける音がする。礼奈はもうダメっ!と目を閉じた。
「小沢礼奈見つけた」
という聞き覚えのある声に礼奈はハッとして顔を上げるとそこには礼奈自身が立っていた。
第6章
礼奈が悪夢から覚めるとパジャマ替わりのTシャツは汗でぐっしょりでぴったりと体にまとわりついていた。あわてて左手の甲を確認すると蛇に噛まれてなどいなかったし、パジャマのズボンもおもらしで濡れてはいなかった。
「よかった。夢か」
と礼奈はつぶやいた。
礼奈がダイニングに2階の部屋から制服 −−−紺のセーターが昨夜泥まみれになってしまったので今朝はブレザーに代えのスカートを着ている−−− で下りていくと普段はテレビ欄しか見ない礼奈は事件のことが載っていないかと新聞の社会面や地域面をじっくりと目を通した。まだ発覚していないのか何も載っておらず礼奈は安心した。それを見た小学6年生の妹の美幸が
「お姉ちゃんが新聞読んでいるなんてめずらしいべ」
「ぅん、ちょっとね」
「何か悪い事でもしたんだべか」
という美幸の何気ない冗談にも新聞を読んでいる礼奈は思わずギクっと全身をこわ張らせてしまった。
「バ、バカ、な、何言ってんのよ」
と言い返す礼奈の声は少しうわずっていた。
この日、礼奈はとてもじゃないけれど自転車に乗る気にはなれなかった。なので母親が
「レイちゃん、今日は自転車で行かないの?」
「うん、またコケそうな気がして嫌だから歩いて行く」
と言って徒歩で家を出た。途中にある友美子の家に寄り友美子と二人で登校するのが礼奈の中学生時代からの習慣であった。
チャイムを押すと友美子が玄関から出てきた。かなりやつれた感じの友美子は一睡もしていないようで目の下にクマができていて辛そうだった。友美子も昨夜着ていた白いカーディガンがダメになったので黒のパーカーをブラウスの上に着ていた。
「礼奈おはよ。昨日眠れた?」
とかなり辛そうな声で言う。
「ううん、やっと寝られたと思ったら怖い夢を見て起きちゃうし」
「そう、あたしは一睡も出来なかった。今朝は自転車やめたんだ」
「うん、ちょっと乗る気になれなくて」
「そーだよね」
「ユミは新聞とかテレビ見た」
「ううん、見てない」
「あたしが見た限りではまだ新聞とかテレビには何も出てなかった」
「ということはまだ見つかってないのね」
「そういうことね」
「親とか警察に届けたかなぁ」
「一晩帰らないくらいじゃないでしょ」
「じゃあこれから?」
「たぶん」
声をひそめながら歩く二人は逃亡者の気分であった。すると前から警官が二人来るのが見えた。まだこの時点で絵里香の両親は警察には捜索願を出していなかったから交通安全のためにパトロールしているだけなのだが、礼奈と友美子には自分たちを捕まえるために来たようにしか思えなかったから警官の姿を見て二人は全身をこわ張らせてその場に固まってしまった。
「逮捕される!」
友美子が目をつぶったが警官たちは礼奈と友美子になど目もくれず通り過ぎていった。
「よかった、行っちゃったね」
「うん、あたし死ぬかと思った」
「本当ね」
「でも礼奈、このまま一生逃げ切れるかしら」
「大丈夫よ、きっと大丈夫」
と礼奈は自分に言い聞かせるように言った。
S高校に着く。まだ7時過ぎと早い時間なので部活動の朝練に来る生徒しか登校していないS高校は校庭で運動部の生徒が練習の準備をしているほかは吹奏楽部の生徒しかいなかった。吹奏楽部では早くに来ていた1年生が音楽室の机を片付けて手早く音楽準備室から打楽器を音楽室に引き入れている。
礼奈と友美子は昇降口で昨夜泥まみれになったローファーの代わりにはいてきたスニーカーを脱いで上履きに履き替えた。階段を上り音楽室に行くとすでに何人かの吹奏楽部員が来ていて楽器を出しそれぞれ音出しをしていた。パーカッションの部員は隅で静かに手首の体操をしている。その中で大村麻衣子という礼奈と友美子の卒業したK中学校の後輩の高校1年生が
「ねえねえ先輩、聞いて下さいよ。うちの近所で小学4年生の女の子が昨夜から家に帰らないで町内大騒ぎになっているんですよ」
と話しかけてくる。
あの子かもしれない
という思いが同時に礼奈と友美子の脳裏をよぎり顔色がさっと青くなった。友美子が不安な目で「礼奈どうしよぉー」と訴えかけてくる。礼奈は少しうわずった声で
「へぇー、そうなの。それで警察には届けたの?」
「いえ、朝まで待って帰ってこなかったら届け出るそうだって、うちの親が言ってたから今朝になってから行ったんじゃないんですか」
「ふーん、そうなの。さぁ友美子、楽器を取りに行こう」
と友美子を連れて音楽準備室に礼奈はフルートを取りに行く。音楽準備室に入って二人になると青ざめた友美子は
「ど〜しよ礼奈(むぐぅ)」
とパニックを起こしそうな友美子の口を礼奈はあわててふさいで黙らせた。
「ユミ、落ち着いて。いい、あたしたちは何も知らないし、何もしていないの。だから何があっても堂々としているの。わかったわね」
「でもぉ…」
「今後一切あのことは口にしないこと。誰が聞いているかわかんないんだからね」
と言って礼奈は自分のフルートを持って音楽室に戻り自分のパートを練習した。しかし全然寝ていない友美子はフルート持ったまま舟をこいで楽器を落としそうになってしまう。友美子の前では気丈に振る舞っている礼奈も内心不安に駆られかなり動揺していたので何度も同じところでつかえてしまい麻衣子に
「小沢先輩今日はどうしちゃったんですか?」
と言われるほどこの日の練習は二人ともぼろぼろだった。
エピローグ
その日絵里香の両親が警察に絵里香の捜索願を出し警察が捜査に乗り出した。しおりの証言から絵里香が雑木林の中を抜けて自宅に向かったことが明らかになり警察はしおりの家から雑木林を経て絵里香の家に至る道筋を重点的に捜査した。絵里香の死体を埋めた時礼奈と友美子は絵里香の持っていた手提げを埋めることを完全に失念していた。よって絵里香が礼奈と友美子の自転車にはねられた地点の近くの茂みの奥から絵里香の手提げが警官によって発見されたので絵里香がこの雑木林の中で何らかの事件に巻き込まれたと警察は判断し絵里香や犯人の遺留品を警察犬に捜させると警察犬は絵里香の匂いを嗅ぎ付けて埋められた絵里香の死体が発見された。その後礼奈と友美子にも捜査の手が伸びるがこれは別のお話。
【あとがき】
この作品は駅前大通りで女子高生の自転車に小学生がぶつかりそうになったのを見て思い付きました。本当は吹奏楽部の女子高生が探偵役の推理小説にしたかったのですがトリックを考え付く才能がないので死体遺棄を通じた女子高生の犯罪とその隠蔽の話にしました。
福島の方言についての知識はまったくないので福島の女子高生はそんな言葉づかいはしないなど方言におかしなところや、吹奏楽部的にありえないシーンがありましたらメールでお知らせください。
吹奏楽部に入ったことのない作者のため吹奏楽部の練習風景について教えてくれたFさん、Kさん、Aさんに熱く感謝します。
最後に女子高生のみなさん、交通マナーを守りましょう。
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