小説の部屋
逃亡少女『愛』
2003/10/14 脱稿
逃亡少女『愛』
その3
第三章 ヤマーワ幹部会議
山奥にある古びた企業の研修所を装ったヤマーワの秘密基地では定例の幹部会が開かれていた。首領の上田鮎子が上座に着き以下13人の幹部がテーブルに着いている。鮎子以下列席者はすべて中学生か高校生で詰め襟やブレザー、ボレロ、セーラー服などまちまちの学校の制服を着ていた。一同杉田愛逃亡し今もって見つからない問題で鮎子に叱責されるのを恐れてピンと空気が張り詰め鮎子の第一声を待った。
「逃亡者 杉田愛の捜索状況について。秋子、報告なさい」
指名され捜索責任者の秋子が杉田愛が逃亡問題について中間報告を行う。少し声が恐怖に震えているようだ。
「現在にいたるもまだ逃亡者 杉田愛の発見には至っておりません。二個中隊を投入し見失ったQ山中心に引き続き捜索に…」
首領の上田鮎子は秋子の報告をさえぎるように
「杉田愛の居所なら知っているわよ」
としれっと言う。一同はどよめいた。
「どこに?」
「ではさっそく『回収』の手配を…」
「まだ生きているのですか?」
「警察などに駆け込まれては話がやっかいにことに…」
と幹部たちは口にする。鮎子は首を横に振り
「今逃亡中の杉田愛を泳がせています。<目>を張り付けて本人の気付かぬよう監視は怠りなくつけてあります。だから安心して下さい。杉田愛は現在男をつくって同棲中です」
鮎子はと驚くようなことを告げた。
鮎子がその気になればヤマーワの暗殺者がすぐに久美子を『消去』できる状態に置かれていることに久美子は全く気付いていなかった。鮎子は久美子が気付かぬうちに久美子本人はもとより亮、美沙子、両親にも<目>と呼ばれる監視役をつけていて吉田屋の人々動向を常に把握していた。<目>は常に気配を絶ち周囲に溶け込む術にたけた間者なのですぐ隣に立っていても誰の印象にも残らず有能なテロリストの久美子ですらすぐ近くにいても気が付かなかった。時には吉田屋の天井裏に実を潜め久美子と亮が愛し合う様子すら黙って監視していたのだ。<目>には<つなぎ>という連絡係が複数つき鮎子の下へ頻繁に吉田屋の人々の様子を報告していた。
一同は
「男と同棲」
「一体どんな男なんですか?」
「我々の秘密を愛が話したかもしれない」
「危険な存在だ。早く『消去』しなくては」
と口々に言う。鮎子の報告に一同驚いて声も出なかった。
「相手は高校生で親も承認のうえ夫婦のように同じ部屋に住み毎夜のように枕を並べています」
「杉田愛は我らの秘密を漏らしたのですか?」
「まだ確認できていません。しかし毎夜のごとく枕を並べて寝ていれば話していても不思議はないですね」
「杉田愛の始末はどうつけるおつもりですか?」
「やはり『消去』ですか?」
「いきなり『消去』したりするほどあたしは野蛮じゃないですよ。ただ杉田愛がその男と一番いい状態になったら引き裂いて『回収』するつもりではいますけれどね」
「『回収』して『消去』ですか?」
「杉田愛は近年まれに見る逸材だわ。だから『調整』してまた使います」
と鮎子は言う。ヤマーワの掟では脱走した者は『消去』が基本なのでヤマーワ幹部たちは異例の鮎子の見解に驚いていた。
「あれだけの人数を投入して『回収』できなかった逸材をどうしてむざむざと『消去』できるでしょうか。『回収』して『調整』すべきでしょう」
『調整』という言葉の意味は再び洗脳し命じられた通りに行動するテロリストにすることだ。鮎子はそれだけ杉田愛の能力に入れ込んでいた。鮎子に
「みなさんいいですか杉田愛に関しては<目>が監視しております。決して横から手を出さぬよう願います」
と言い席を立つ。一同起立して深々と鮎子に頭を下げた。誰も責任を問われなかった事に張り詰めた空気が緩んだ。鮎子は
「それではごきげんよう」
と言い残して去っていった。
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