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小説の部屋


2004/12/14 脱稿    

古墳少女 佑奈

   

その3

第3章 佑奈孤立する

 竹田大地と山下明夫はしばらくすると。全身を包んでいた炎が消え息ができるようになっていた。すでに上月佑奈の姿はその場になかった。腕輪が放ったのは幻の火なので受けた人間は熱を感じ息ができなくなるが何も燃えないので二人は地面をのたうち回ったので制服が泥だらけになってはいたものの不思議とどこも焼け焦げてはいなかった。すすひとついていない互いの姿を見合わせて2人は
「あれはなんだったんだ」
「さぁ?」
と話した。

大塚亀山古墳イメージ  その日、佑奈が亀山の穴の中で魔法を使える勾玉の腕輪を手に入れたという噂を聞きつけて二匹目のどじょうにありつこうとした大塚中学校2年生の田中忠則は体操着で下校途中に学校から持ち出した小さな園芸用のシャベルで亀山を掘っていた。あわよくば田中は自分も魔法を使える勾玉の腕輪を手に入れてやろうともくろんでいた。しかし園芸用のシャベルではなかなか大きな穴は掘れなかったうえに、彼は石室のありかもわからぬまま闇雲に当たりをつけたところをほじくり返していたのだ。彼の体操着は赤土にまみれて
「くそっ、あの1年生は一体どこを掘ったんだ」
と悪態をついていた。大塚亀山古墳の墳丘は全長40m、高さ12.7mもあるのだ。小さな丘といってもいい前方後円墳を闇雲に掘ったところで石室に当たるわけもないことを中学生の彼は知らなかった。
 ぽつぽつと不意に降り出してきた雨が瞬く間に本降りになった。田中は予報では晴れだったので雨具を持っておらずあっという間にずぶぬれになった。
「ついてないなぁ。宝は出ないし雨は降るし。今日はもうやめだ」
とカバンとシャベルをもって墳丘を下りることにした。しかし田中はぬかるみに足を取られつるっと転倒しその際右すねを骨折してしまった。足を骨折してしまい田中は自分では動くことはできず、田中は携帯電話も持っていないので助けを呼ぶこともできず、激痛に見舞われ、しかも雨に濡れ体温が低下してきて意識が朦朧としてきた。
 雨は程なくしてやんだ。先ほどの大雨がウソのように空は晴れた。犬を連れていつもの散歩コースに来た近所の主婦により田中が倒れているのを発見され救急車で病院に担ぎ込まれた。田中は低体温症で一時は危篤状態になったが若くて体力があることと発見が早かったことで命は取り留めた。あと2時間遅かったら田中は冷たくなっていただろうと田中の両親に医師は語った。

   翌日佑奈が吹奏楽部の朝練をさぼりびびりながら学校に始業時刻直前に行くと不良の竹田大地と山下明夫は今朝はまだ登校しておらず、1年生の上月佑奈がこの二人を火だるまにして焼き殺したという噂が全校に飛び交っていた。 その発信源は3年生の安田博美で昨日たまたま佑奈が不良コンビの竹田大地と山下明夫にからまれている現場に出くわしてしまったのだ。博美には2人が佑奈をカツアゲしていて佑奈はおびえながら後ずさっていたように見えた。
「昨日あたしさぁ、不良コンビに中1の上月佑奈がからまれているのを家に帰る途中で見たのよね」
「ふーん、そんでどうなったの?」
「かわいそうだと思ったけれど関わり合いになりたくないから電柱に隠れてなりゆきを見守っていたのよ」
「うん」
「上月佑奈は不良コンビにヤラれちゃったの?」
「やられたのは不良コンビのほう」
「えっ」
「上月佑奈が手を組んで離れていたから何を言っているのか聞こえなかったけれど呪文を唱えてるの」
「そんで」
「そしたら次の瞬間不良コンビが炎に包まれて地面をのた打ち回っているの」
「うそっ」
「怖くなってあたしはその場から逃げ出しちゃったわ」
「ライターかなんかで火をつけたの」
「上月佑奈はマッチ1本持っていなかったわ」
「ということは」
「上月佑奈は噂通り本物の妖術使いだってこと」
「いやーっ」
「不良コンビはどうなったの」
「あたしも気になって今朝教室をのぞいてみたのよ」
「うん」
「不良コンビは来ていなかったわ。上月佑奈に焼き殺されたみたい」
「あんな不良でも焼き殺すなんてかわいそうだよ」
「むごいことするよねーっ」
「人間のやることじゃないよ」
「やっぱ上月佑奈は妖術使いだったのね」
「こわいよぉ」

  博美のもたらしたセンセーショナルな情報はあっという間に海老名市立大塚中学校を駆け抜けてたちまち全校生徒の知るところとなった。普段は不良コンビを恐れ厄介者としてみている大塚中学校の生徒たちも妖術使いの上月佑奈に不良コンビが焼き殺されたと聞いて大いに同情していた。
 登校してきた上月佑奈が昇降口で上履きに履き替えて教室に向かうと生徒達がひそひそと
「やっぱ『火を吹く』ってのは本当だったのね」
「いくら相手が不良だからって焼き殺すことないよね。残酷だよ」
「なんで人殺しが逮捕されずに登校してくるわけ」
と風当たりが強い。そんな事情を知らずに上月佑奈が1年1組の教室に現れるとそれまでおしゃべりに興じていた生徒達がシーンとなる。そして気まずそうに佑奈をちらと見てからわざとらしく視線をそらす。普段おしゃべりしている山田詠子や鈴木文枝も他人のふりをしている。佑奈はものすごい違和感を覚えた。あたし何かした?
「みんなおはよう」
と佑奈はあいさつしたけれど誰も答えないばかりか意識的に佑奈から目をそらしている。なによ、みんなでシカトなの。佑奈は気分が悪くなった。死者が生徒から出たという噂にそれまで佑奈に同情的だった1年1組の生徒たちもクラスから人殺しが出たということで急速に佑奈から離れていき同じ班の生徒も含め誰も佑奈とかかわりになろうとはしなかった。
 そこへ1年1組の教室の後ろのドアに2組の泉崎礼香が顔を出して
「佑奈、ちょっといい?」
と手招きする。佑奈が廊下に出ると礼香は佑奈を階段の踊り場へ人目を忍ぶように連れて行った。
「ちょっと礼香聞いてよ。うちのクラスの連中ったらね・・・」
「その事で来たのよ」
「えっ」
「佑奈昨日学校の帰りに3年生の不良コンビにからまれた?」
「なんで知っているのよ」
「やっぱり」
「どうゆうこと?」
「佑奈そのとき術を使って火を吹いたでしょ」
「あれはあたしじゃなくて腕輪が勝手にやったことで・・・」
「それを3年生の女子が見てたのよ」
「えっ」
「しかもその不良コンビが今朝はまだ来ていないからその3年生は『佑奈が焼き殺した』って今朝からずっと言いふらしているのよ」
「なんで、あの不良コンビが朝から学校に来ていないのは今に始まったことじゃないでしょう」
「そうだけどとにかく佑奈に不利な風が校内に吹いているの。くれぐれももめごと起こさないでね。ただでさえ『人殺し』って言われているんだから」
「その3年生って誰? あたし文句言ってくる」
「だめよ、佑奈が喧嘩売りに行けばますます騒ぎが大きくなるわ」
「でも」
「耐えるのよ」
「本当にあの不良コンビはあたしに焼き殺されたの?」
「たぶん違うでしょ。そうだったら今頃佑奈は警察署」
「そんなぁ」

  田中の事故を受け、海老名市立大塚中学校では緊急の全校集会が体育館で開かれ田中の病状の説明があった後校長から生徒に古墳のたたりがあるので亀山には近寄らないようという異例の通達が出された。中学校で校長がオカルト話をするのは普通ありえないが、一連の経過を見れば古墳の呪いを信じざるをえない。大塚中学校2年生男子たちは
「田中は亀山に呪われているのかよ」
「亀山に呪われていると言えば上月佑奈だろ」
「あの1年1組の女子か」
「そうそう」
「なんでも田中は上月佑奈の二匹目のどじょうを狙って亀山を掘ってたらしいぜ」
「マジかよ」
「そんで亀山のたたりで死にかけたみたいだ」
「もしかしたらこれは上月佑奈の差し金かもな」
「どうして」
「それは亀山の財宝を独り占めするために邪魔な田中を消そうとしたんだよ」
「でも上月佑奈は現場にいたのか」
「その日は吹奏楽部の練習に出ていないことが確認されている」
「やっぱ上月佑奈がやったのか」
「いや、雨の降るよりも前に家に帰る上月佑奈の姿がご近所の人に確認されているそうだ」
「じゃあ違うじゃん」
「いいか、上月佑奈はただの女じゃない」
「どんな女だよ?」
「妖術使いだ」
「妖術使い?」
「そうだ。妖術使いなら現場にいなくても田中を殺すことができる」
「そんなむちゃくちゃな」
「亀山は上月佑奈のホームグラウンドだ。荒らすやつは殺される」
「理屈はむちゃくちゃだがなんか説得力ある話だな」
「妖術使いに理屈は通用せん」
と噂して単なる事故?なのに、まったく無関係なのに、ますます海老名市立大塚中学校で佑奈の立場は悪くなっていって廊下を歩いていても佑奈に
「人殺し」
「鬼、悪魔、人でなし」
「妖術使いだ」
「焼き殺すなんてひどい」
と非難の声が高まり、わざわざ1年1組まで佑奈を罵倒しに来る3年生女子もいた。佑奈はいたたまれなくなり教室を飛び出し女子トイレの個室に入り鍵をかけて泣いた。腕輪が勝手にしたことであたしは何も覚えてないのに・・・。

   午前中の授業は佑奈にとって針のむしろだった。廊下ですれ違う生徒達がみな佑奈のことを「人殺し」と噂するからだ。しかし4時間目の理科の授業中1年1組の教室の窓際にすわる男子が窓の外を見て
「あっ、不良コンビだ」
と大きな声を上げるので1年1組の生徒たちは窓辺に鈴なりになった。竹田大地と山下明夫が校庭を横切って校舎のほうに向かってくる。そして1年1組の生徒たちは佑奈の顔を見る。2人が佑奈に殺されたと言う噂はデマだったと全員が理解した。佑奈に合わせる顔がなくてクラス一同困惑した。
「なんでぇ。死んだんじゃないの?」
「足ついているよ」
「本当だぁ」
「上月さんが焼き殺したってのは?」
「デマだったんでしょ」
「ひどーい」
「佑奈、ごめん」
「佑奈ごめんね。デマに惑わされて」
「あたしははじめから佑奈のこと信じてたよ」
「上月、お前をいろいろと悪く言った俺の事殴ってくれ」
「誰だよ、上月が不良コンビを焼き殺したなんて言ったのは」
「3年生の女子らしいよ」
「ひでぇうそつき女だなぁ」
「あーあ、上月泣いちゃったよ」
とみな口々に佑奈に謝った。1年1組のクラスメイトが周りでワーワー言うので佑奈は泣き出した。1年1組の女子たちが佑奈の頭や背中をなでてやり佑奈を落ち着かせようとしたが佑奈はひっくひっくとしゃくりあげるばかり。授業にならぬままチャイムが鳴り4時間目が終わった。

  竹田と山下の不良コンビは給食の用意をしている3年1組の教室にふらりと姿を現した。死んだはずの2人が現れたので、女子の一人が幽霊でも見たような顔をして
「きゃーっ」
と悲鳴を上げ給食のトレイを落とす。その他のクラスメイトもギョッとして3年1組の教室が凍りついて食器が散乱する音だけが静まり返った教室に響いた。今日も竹田大地と山下明夫は授業をサボっていたが腹がすいたので給食の時間に合わせて登校したのだ。もちろん食後はまた姿を消すつもりだ。男子の一人が我に返り2人に
「お前らなんで来たの」
と尋ねる。それをきっかけに
「あれっ、お前ら上月佑奈に焼き殺されたんじゃないのか」
「えーっ、やっぱ幽霊」
「いやーっ、なんまんだぶ、なんまんだぶ」
と3年1組の教室はパニックになった。竹田が
「誰が幽霊だよ」
と言うと山下も
「そうだよ、足あるぜ」
と足をはたく。クラスメイトが
「上月佑奈が妖術を使うってウソだったんだ」
「いや、あの1年生は妖術使いだよ」
「えーっ」
「俺と山下は炎の術で焼き殺されそうになったんだ」
「やっぱ『火を吹く』って本当だったんだ」
「おうよ、根性で炎の熱さに耐えてこの通り奇跡の生還って奴よ」
「どうだ、おどろいたか」
「あの1年生は俺様たちに火を吹きやがったけどよ。軽ーく撃退してやったぜ」
「本当、本当、チョロかったよなぁ」
「あの1年生はどうやって火を吹いたの?」
「マッチで火をつけたとか?」
「何かよぉ、わけのわからない事ぶつぶつ言ってお祈りしてんのよ」
「そしたらこう火がバーっと出てな」
「えーっ、やっぱ上月佑奈って火を吹くんだぁ」
「そーよ、被害者の俺様たちが言うんだから間違いない」
と自慢げに火を吹き暴れる上月佑奈を撃退したというかなり創作を交えた武勇伝を校内いたるところで熱く語り、普段は全校生徒から恐れられ疎まれていた竹田と山下の不良コンビが一躍時の人となり注目を浴びてとても嬉しそうであった。給食を食べ昼休みに武勇伝を語りつくした不良コンビは5時間目が始まるチャイムとともに下校していった。
 2人が3年生の教室に現れたとの情報が校内を駆けめぐり佑奈の殺人疑惑は晴れた。しかし2人が武勇伝を大げさに語ったので佑奈が本当に妖術を使い火を吹くことが全校に知れ渡った。

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