小説の部屋


2004/12/14 脱稿    

古墳少女 佑奈

   

その4

第4章 魔法で彼氏をGET

 佑奈はその日もまた無断で吹奏楽部の練習をサボり一人で下校した。吹奏楽コンクールを控えた大事な時期であるが佑奈が吹奏楽部に顔を出せばみんなに迷惑がかかるし、クラリネットをのんきに吹きたい気分ではなかった。佑奈が本当に火を吹く術を使うことが全校に知れ渡ったのでもう誰も佑奈にはちょっかいを出してこなかった、というか佑奈の事をみんな怖がって避けていた。
「あ〜あ、どうせなら攻撃呪文でなく恋がかなう呪文があればいいのにぃ」
と佑奈がぼやくと脳裏にある呪文が浮かんだ。
「えぇっ」
と佑奈はびっくりした。これって本当に効くのかなぁ。爆発系呪文じゃないだろな。もし効くんなら小学5年生の時から好きな1年2組の古谷君の彼女になりたいと思った。でも人殺しや妖術使いみたいに言われている佑奈のことなんて古谷君は見向きもしないだろうな。でもあれだけの威力があるんだから片思いを実らせるくらい余裕なんでは・・・。佑奈の心は揺れた。
 佑奈は家に帰り自分の部屋に入ると制服から白のスェットの上下に着替え、おやつのドーナツを食べて気分を落ち着かせてから古谷君と同じクラスの高田瑞穂に学年遠足のときに隠し撮りしてもらった古谷君の写真を机の上に置き下校途中に浮かんだ古代日本語の呪文を詠唱し手を複雑に組み替え結印した。その手つきはまるで子供のころから毎日やっていたかのように板についていた。そして「どうか古谷君の彼女になれますように」と手を合わせて祈った。いままでは佑奈が危機に見舞われ腕輪が自動的に発動していたのだが佑奈が自分の意思で呪文を唱えたのはこれが初めてだった。
 呪文の詠唱と結印が完了した。しかし何も起こらない。佑奈は煙とともに目の前に古谷君が現れるものと思っていたので「なんだ、やっぱ恋の呪文なんてないのか。これだけ迷惑しているんだから一度くらい効きなさいよね」と思っているとピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。母親が出て対応している気配が2階の佑奈の部屋にも伝わってくる。
「ゆぅ〜なぁ〜、古谷君って子が来てるわよぉ〜」
と母親が下で叫ぶのが聞こえた。佑奈は「えっ」と耳を疑ったが
「はぁ〜い」
とかわいく返事をして泳ぐようなふわふわとした足取りで階段を下り玄関に行くとそこにはあこがれの古谷君が立っていた。佑奈はどぎまぎしながら彼を見ている。「しまった、スェットのまま来ちゃった。もっとかわいい服に着替えて来ればよかった」と思ったけれど後の祭り。彼は
「あのさ、上月さんもいろいろあって大変そうだよね。みんないろんな事言ってるけど僕は信じてないから。僕は上月さんを守りたいんだ。付き合ってください」
といきなりコクられた。佑奈はペンチがあったらほっぺたをぎゅっとつねりたい気分であった。古谷君のほうから佑奈に告白。こんなのあり? ワケがわからなくなり
「はい、喜んで」
と口走っていた。
「明日から僕が迎えに来るから一緒に学校行こう」
「うん」
そう言うと古谷は帰っていった。佑奈は呆然と玄関に立ち尽くしていた。これって腕輪の効果なのかぁ。
「ありがとう」
佑奈は喜びの涙を流しながら左手首の腕輪をなでさすった。それに答えるように腕輪が緑に光った。
 のどがからからになった佑奈が台所に牛乳を飲みに行くと母親がニヤニヤしながら
「『玄関先で愛を叫ぶ』か。よかったじゃないコクられて」
と言った。
「お母さん盗み聞きしていたのね。ひどい」
「だってかわいい娘に悪い虫がついたら困るじゃないの。だから品・さ・だ・め」
「・・・・」
「よかったじゃない。明日の朝からアベック登校なんでしょ」
「いまどき『アベック』なんて死語よ」
「照れない、照れない」
と言われ佑奈は真っ赤になって自分の部屋に入った。

 佑奈はコードレスの子機で高田瑞穂に電話をかけた。
「もしもし瑞穂、あたし佑奈」
「どうしたの。今日も練習サボって。先輩たち心配してたよ」
「あのね、また術を使っちゃった」
「今度は誰を焼き殺したの?!」
「瑞穂のクラスの古谷君」
「マジッ?!」
「焼き殺したというのはウソだけど恋がかなう呪文ってのがあってね」
「うんうん」
「試しに使ってみたの」
「うんそんで」
「そしたらねぇ。何も起こらないの」
「何よそれ」
「がっかりしていたらね」
「うん」
「いきなり古谷君が玄関先に現れてね」
「現れてどしたの」
「コクられたの」
「うそっ」
「マジよ、明日から2人で一緒に学校行くことにしたから」
「いーなー」
「あの腕輪は攻撃呪文だけじゃないみたいよ」
佑奈はうれしさを隠しきれない様子であった。
「瑞穂も好きな男子がいたら佑奈に教えてね。恋のキューピットしてあげるから」
と話して電話を切った。
 そのあと佑奈は泉崎礼香の家に電話をして事の顛末をうれしそうに話した。
「それで佑奈、まさか瑞穂にはこのことをまだ話していないでしょうね」
「えっ、礼香に電話する前に話したけど」
「あーあ、瑞穂はおしゃべりだから明日の朝までに全校生徒が佑奈が恋の魔法を使うことを知ってるよ」
「だから?」
「また1年1組の前の廊下が身動きできなくなるほどの騒ぎになるよ」
「えっ」
「全校生徒が恋をかなえてと押し寄せたら佑奈どうするの」
「えっ」
佑奈はそこまで考えたこともなく青くなった。

 翌朝佑奈と古谷が手をつないで登校すると2年生の女子たちがうらやましそうな顔で見た。昇降口で吹奏楽部の朝練に出る佑奈は古谷と
「じゃあね」
と別れた。
 ちょうどその頃高田瑞穂が白スニーカーの上履きをどたどた言わせて大塚中学校の廊下を音楽室に走る。音楽室に飛び込むととりあえず先輩方に
「おはようございます」
とあいさつすると
「ねえねえ、先輩聞いてくださいよ。昨日佑奈がね、恋の魔法で彼氏をGETしたんですよぉ」
「えーっ」
「うわーっ、いーなー」
「それマジっ」
「あたしも彼氏ほしい」
「相手は誰なの? 瑞穂」
「うちのクラスの古谷くんなんです。1年の女子が全員あこがれているチョー美形なんですから」
「佑奈はどうやったの」
「佑奈が昨日家で恋の呪文を唱えたんですよ」
「うんうん」
「そしたら古谷くんが突然佑奈の家の玄関に現れてコクられたんですって」
「うわーっ」
「すごぉーいっ」
「佑奈は妖術で何だってできるんですよぉ」
と瑞穂は自分のことのように自慢げに先輩方に佑奈のことを熱く語った。そこへニコニコしながら佑奈が現れた。
「おはようございます」
とあいさつすると部室の雰囲気がおかしいことに佑奈は気づいた。佑奈に一同の視線が突き刺さり痛いくらいだ。佑奈はギョッとして固まった。
「ちょっと佑奈。あんた恋の魔法で彼氏をGETしたって本当?」
「それもチョー美形を」
「はぁ」
「なんて言ったのよ。あたしにも恋のかなう呪文教えなさいよ」
と佑奈のジャンパースカートをつかみかからんばかりに吹奏楽部の女子たちが詰め寄って来て佑奈はたじたじになった。佑奈は瑞穂が吹奏楽部のみんなにしゃべったことを悟った。礼香が言ったとおりだ。
「えっ、あのっ、そのっ、あのっ」
佑奈はしどろもどろになって答えられない。恋する女子中学生が必ずかなう恋の呪文があると知れば佑奈を絞め殺してでも聞き出したいのは当然だ。今朝の吹奏楽部の雰囲気からして先輩たちは本当にやりかねない。佑奈は身の危険を感じた。
「失礼しましたぁーっ」
と言って佑奈は音楽室から逃亡した。なんとか追撃を受けずに佑奈は1年1組に逃げ帰った。さすがにコンクール地区大会が近いから先輩たちも練習を中止してまで追ってこなかった。佑奈の魔法騒ぎのせいでただでさえこのところ海老名市立大塚中学校吹奏楽部はまともに練習できていないのだ。もっとも今朝は佑奈の恋の魔法で彼氏をGETしたという話でもちきりであったのだが。吹奏楽部の朝練のあと各部員がクラスで佑奈の恋の魔法の話を伝えたのであっという間に全校生徒に知れ渡った。

 1年1組の教室に佑奈が逃げ帰る。壁一枚しか隔てていないとはいえ古谷と隣のクラスなのが悔しい。教室に入ると昨夜高田瑞穂から電話で話を聞いたらしい1組の女子たちが佑奈を取り囲んだ。
「ねぇ佑奈、その腕輪に恋をかなえる力があるんだって」
「腕輪で古谷君GETしたんでしょ」
「お願い、あたしの恋もかなえて」
それまで佑奈のことを妖術使いと言って忌み嫌っていた女子まで佑奈を取り囲みワーワー言っている。1年1組のクラスメイトがこうなんだから他のクラスの女子も言うに及ばず瑞穂から噂を聞きつけて1年2組の女子が1年1組の前の廊下にやってきた。佑奈は礼香の言ったとおりの展開になりうろたえた。朝の学活で担任の大河原が教室に入ってきて
「ほら、お前たちは自分の教室に戻る」
と女子たちを駆逐してくれたからそれで済んだものの放課後までには2.3年生も来るだろう。あぁ気が重い。授業中も佑奈の元に

「吉田君が好きなの。お願い、佑奈協力して」
「佑奈の力であたしを本橋君の彼女にして」
「甲本君と付き合っているあかりを別れさせて」

といった恋の注文が7通も来た。女子たちはオカルトは嫌いでも恋の魔法だけは別らしい。佑奈はこの授業が終わったら騒ぎに巻き込まれないうちに逃げようと思った。
 1時間目が終わり佑奈は荷物をまとめカバンを持って廊下に出た。廊下が1年生女子が全員来たような騒ぎになっていたから家に帰ることにしたのだ。佑奈は礼香を見つけると
「騒ぎになったからあたし帰る」
「だから言ったでしょう」
とさめた調子で礼香は言った。佑奈は瑞穂を恨めしげに見た。しかし1年生の女子たちに阻まれて階段にすら行き着けない。
「ほら、上月、教室に戻れ」
と2時間目の授業に来た大河原に教室に戻されてしまった。

 海老名市立大塚中学校の3年2組の前の廊下で休み時間に2人の中学3年生がおしゃべりしている。
「ねえねえ、聞いた?、聞いた?」
「何をよ」
「あの上月佑奈が『恋のかなう魔法』も使うんだって」
「うそっ」
「またこの前の『不良コンビを焼き殺した』みたいにウソじゃないの」
「本当よ。上月佑奈はそれでカッコいい彼氏をGETしたんだから。今朝二人で登校して来たの見たもん」
「いーなー、あたしにも『恋の魔法』をかけてくれないかなぁ」
「頼みにいこっか」
「えっ」
「あたしたちにも『恋の魔法』をかけてって」
「いいわねぇ」
「1年1組に行こう」
といった会話が大塚中学校のあちこちで交わされていた。上月佑奈に『恋の魔法』をかけてもらいたい女子たちが1年1組の前の廊下を埋めた。
「佑奈ちゃーん、あたしに『恋の魔法』をかけてぇ」
「上月さん、お願い。恋をかなえて」
「上月佑奈、出て来なさいよ」
「自分だけずるいわよ」
「そうよ、『恋の魔法』を使えるからっていい気になってんなよ」
「佑奈ちゃん『キモイ』とか言ってごめんね」
「あなたは妖術使いなんかじゃないわ」
「そうよ上月さんは恋の魔法使いよ」
「あたしはあなたのこと悪く言ったことないわ。だからあたしにだけお願い。この恋本気なの」
「自分一人だけ取り入ろうったってそうはいかないわよ」
「なによ、『あの女は妖術使いだ』って上月さんのこと散々悪く言ってたのは誰よ」
女の子は恋のおまじないが大好きだからみんな必死だ。それまで散々『キモイ』とか『妖術使い』とか言っていた大塚中学校の女子たちが今度は手のひら返したように『佑奈ちゃん』だ『恋の魔法使い』だ言って佑奈に取り入ろうとしていた。礼香が言ったとおり瑞穂に話すんじゃなかったと佑奈は思った。2組の礼香に相談しようと思い佑奈は後ろのドアから教室を出ようとする。それを見た女子たちはアイドル歌手のおっかけのように
「きゃーっ」
と言って1組の後ろのドアに殺到する。佑奈はそんな女子たちにもろにつかまってもみくちゃにされた。佑奈は髪の毛を引っ張られジャンパースカートのベルトをつかまれる。
「痛い。やめてください。髪の毛つかまないで」
と佑奈が泣きそうな声で言うけれど、『恋の魔法』に目がくらんだ女子たちには聞こえていなかった。佑奈は前にいる2年生の女子を押しのけ、3年生をひじでかき分けるようにして前に進み強引に1年2組の教室を目指したが引き戻されそうになる。佑奈は泣きそうな声で
「みんな、やめてぇ!」
と叫ぶと佑奈をつかんでいる女子たちはピリッと電気を感じていっせいに手を離したので佑奈はその隙に1年2組に逃げ込んだ。腕輪が佑奈を守るためにまた自動的に発動したのだ。
「わっ、妖術使った」
「いま、ピリッときたよ」
「あたしもしびれた」
「こぇーっ」
「いやぁーっ」
と佑奈に恐れをなした一部の女子たちはクモの子を散らすように逃げていったが、恋に目がくらんだ多くの女子たちはその場を動かなかった。それでもひるんだ隙に佑奈は1年2組の教室に入り込むことができたので助かった。
「術を使うなんて卑怯だわ」
「どうせ術を使うなら恋の魔法をかけてよ」
「そーよ、そーよ」
と1年2組の教室の戸口から女子たちはワーワー言っている。佑奈は泣きたい気分だった。2組の生徒たちもその騒ぎを見ていたので女子たちは佑奈に近寄ろうともせず遠巻きに見ていた。佑奈は古谷君に
「やぁ」
と手を上げてあいさつすると今のお目当ては礼香なので泉崎礼香のところに行った。廊下の女子たちが
「ずるーい」
「ちょっとあんた抜けがけぇ」
「あたしが先よ」
「自分だけ汚いわ」
と礼香に非難の声を浴びせる。礼香はそんな女子たちを冷ややかな目で見る。そして佑奈に
「だから言ったじゃない」
と静かに言った。佑奈は
「礼香、お願い。あれを何とかしなくちゃあたし学校に来れない」
と廊下の女子たちを見て言った。礼香は冷ややかに
「妖術使いなんだから妖術で解決すればいいじゃないの」
「そんな呪文ないよぉ。それにあたし『妖術使い』なんかじゃないもん」
「火を吹いて焼き殺しちゃえば」
「あたしそんなむごい事できないよ」
礼香は「はぁ」とため息をついた。
「わかったわ。なんとかしましょ」
「礼香ありがとう」
「その代わり何でもあたしの言うこと聞く?」
「聞く聞く」
「じゃあ手始めに裸になって校庭3周して」
「礼香ぁウソでしょ」
「それができなきゃこの話はなかったことに・・・」
と礼香は開いた教科書に目を落とした。佑奈はどうしていいのかわからず
「わかったわよ」
と言ってジャンパースカートの左肩のスナップをはずして制服を脱ごうとする。1年2組の男子たちが目を丸くしてそれを見ている。
「冗談よ。それくらいの覚悟がなけりゃこの局面は乗り切れないってこと」
「なんだびっくりしたぁ。本当に裸で校庭3周しようかと思ったぁ」
「それ見たかったなぁ」
と礼香はくすくす笑う。
「礼香!」
「はいはい。ちょっと耳を貸して」
佑奈が礼香に耳を差し出し、 ささやこうとして礼香はふぅーっと佑奈の耳に息をかけてしまったので佑奈は感じてしまい身をくねらせて
あぁ〜ん
と男子が喜びそうな声を上げてしまった。1年2組の男子たちが「おおぉーっ」という顔で佑奈を見た。佑奈は恥ずかしくて
「礼香、何するのよ! 変な声出しちゃったじゃない」
「ごめん、ごめん。あのね、こうするの」
と礼香は佑奈に耳打ちした。

 礼香は佑奈を廊下に誘い出す。他の女子たちが
「ちょっと、2人でどこ行くのよ」
「抜け駆けはゆるさないわよ」
「何とか言いなさいよ」
と口々に礼香を非難するが礼香はがんを飛ばしただけで何も言わずに佑奈と教室を後にした。さっきしびれたのにこりて佑奈たちに手を出しては来なかったけれど2.3年生の佑奈目当ての女子たちがついてくる気配を見せたので二人は体育の時女子の着替えに使う学習室に逃げ込んで礼香が鍵をかけた。2.3年生たちは曇りガラスをがんがんたたいて
「上月佑奈、開けなさい」
「まさかその子にだけ恋の魔法かけるつもりじゃないでしょうね」
「ひいきするなんて汚いわよ」
「ここを開けないよ」
「先輩の言うこと聴けないの」
「このドアをぶち破ろうよ」
「ちょっと誰かドアを開ける道具借りてきて」
「わかったわ、木工室からトンカチもってくる」
「そうよ、上月佑奈を引きずり出せ」
と叫んでいる。ここでうっかり開けたらリンチされかねない。
「礼香どうしよう。2.3年生たちがこわいよぉ」
「佑奈がおしゃべりな瑞穂に恋の魔法のことを得意げに話したからでしょう」
「だってこんなことになるなんて思わないよ」
「自業自得よ」
「そんなぁ、みんなに恋の呪文をかけないといけないのかなぁ」
「佑奈が本当に『恋の魔法』が使えたとしても使うべきではないわね」
「どうして?」
「そんなことしてごらんなさい。海老名じゅういや、日本中の恋する女子中高生が大塚中学校に来るわよ」
「まさか」
「だからね、佑奈は希望者を中庭に集めるの」
「そんで」
「火炎の術があったでしょ」
「うん」
「集まったところで全員焼き殺す!」
「そんなぁ」
「うそよ」
「じゃあどうするの?」
「うそよ」
「だからぁ」
「うそよ」
「えっ」
「うその呪文を唱えるの」
「『うその呪文』って」
「なんでもいいからそれらしいことを唱えるの」
「それって効くの?」
「ばかねぇ、効く訳ないじゃない」
「それでみんな納得するのかなぁ」
「うまいことごまかすの」
「どうやって?」
「まずは相手の写真を用意させるの」
「なんで?」
「用意できない子は自動的に脱落でしょ」
「あっ、そうか」
「そして彼の生年月日を写真の裏に書くように言うの」
「どうして?」
「調べられなかった子は自動的に脱落」
「そっかぁ」
「佑奈がウソの呪文唱えるでしょ」
「うん」
「唱え終わったあと『みなさんに魔法をかけたから彼にコクればOKでます。万一だめでも3ヵ月経つと運気が満ちるからもう一度チャンスがあります』って言うの」
「3ヵ月経ってもだめだったらどうするのよ」
「そのころにはみんな忘れてるって」
「こんな大事なこと忘れないよ」
「じゃあ『呪文を唱えている間彼の事だけ考えてください。邪念が入ると魔法が失敗します』って言うの」
「そんで」
「うまくいった子は魔法が効いたと思うし、だめだった子は『邪念が入ったから魔法が効かなかった』と言うの」
「それならどっからも文句が来ないね」
「そんで『恋の魔法は魔法力の消耗が激しいのでこれっきりにします』って言ってもう二度とやらない」
「そうか1回限りでごまかせるわけか」
「他校生が来ても断る口実になるし」
「礼香あったまいー」
と佑奈は抱きついた。こういうときには単におしゃべりなだけの高田瑞穂より理論的な泉崎礼香のほうが役に立つ。泉崎礼香プロデュースの恋の魔法大会が決定した。

 学習室の曇りガラスをまだがんがんたたいている2.3年生の前にドアを開け佑奈と礼香が姿を現す。
「ちよっと上月さん。ぬけがけしてその1年生に恋の魔法かけていたんじゃないでしょうね」
と礼香につかみかからんばかりに聞く。
「そんなことしてませんよ」
「じゃあここで今まで何してたのよ」
「それは・・・」
と佑奈が礼香を見る。廊下には噂を聞きつけて来た他の女子たちもたくさん耳を傾けている。礼香が前に出て
「今佑奈と相談していたのは個別に対応すると大変なんで今度『恋の魔法大会』を開いて全校生徒の恋を一気に実らせようと相談してたんです」
「そっ、そうなんです」
「『恋の魔法大会』ですって」
「『全校生徒の恋を一気に実らせる』ってほんとうかなぁ」
「ならあたしの恋もかなうのね」
「うれしーっ」
「つき合うようになったら彼とどこでデートしようかしら」
それを聞いた女子たちはざわついた。礼香が
「詳しいことは新聞部の号外で発表します」
と言ったところで休み時間が終わりチャイムが鳴り女子たちはそれぞれのクラスに帰っていった。

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