
「失礼しまぁーす」
と1年2組の泉崎礼香がその日の放課後新聞部室に現れた。部室には編集用のデスクトップパソコンが2台置いてあり部員が次号の原稿を打っている。机の上には次号の記事に使う大塚中学校の先生や生徒の写真がたくさん散乱している。部長の三田香が応対に出た。
「1年2組の泉崎礼香ですが、部長さんは」
「あたしが部長の三田香だけど新聞部に何の用」
「あの、あたしは1年1組の上月佑奈の代理人をしています。今度中庭で恋の魔法大会を開くんです。だから新聞部の独占取材と引き換えに運営に協力してほしいんです。」
「『恋の魔法大会?』そりゃ、おもしろそうね。 一体どうするの?」
「中庭に女子を集めるんです」
「うん」
「上月佑奈が2階の窓に現れます」
「うんうん」
「そして佑奈が中庭の女子たちにいっせいに魔法をかけます」
「それ本当に効くの? インチキじゃないの?」
「佑奈の魔法は本物です。あたしも何度か使うのを見ました」
「ふーん、よしわかった。協力しよう。学校側には新聞部主催のイベントということでごまかしておくわ」
「ありがとうございます」
「他に協力することは?」
「新聞部を申し込み窓口にすることと募集要項を壁に貼ってほしいんです」
と礼香はルーズリーフに書いてきた恋の魔法大会募集要項を香に手渡した。
「わかったわ。恋の魔法大会の前に上月佑奈にインタビューさせてね」
「わかりました」
香は新聞部員に向き直り
「ちょっと、みんな聞いた。次号は記事差し替えよ。恋の魔法大会特集でがーんと行くからね。予定していた先生のインタビューなんて次号回し。幸代はこの恋の魔法大会募集要項を印刷して校内のあらゆる掲示板に貼って回って。麻里と明子は校内の片思いの女子のインタビュー取ってきて。栄子と小林はあたしと上月佑奈インタビュー」
と香が部員に檄を飛ばすと
「はいっ」
と言って部員たちはそれまでやっていたことを放り出して恋の魔法大会特集号にむけてあわただしく動き始めた。
「泉崎さん、新聞部は恋の魔法大会を総力取材するからね」
「よろしくお願いします」
「さっそくあたし職員室に行ってくるから」
と香はばたばたと部室を飛び出していった。
香は学校側と交渉して恋の魔法大会ではなく恋のおまじない大会として7/14の土曜日に開催する了承を取り付けた。よって恋の魔法大会は事実上確定した。
香は佑奈のインタビュー会場に学校の応接室を借りることに成功した。礼香に呼ばれた佑奈はいきなりインタビューと聞いてうろたえた。
「ちょっと礼香。どういうことよ。こんなに大掛かりにやるなんて聞いてないわよ」
「いい佑奈。1回こっきりで全員に納得させるにはこれしかないの。あなたは恋の魔法使いとして堂々としていればいいの」
「そんなぁ、あたし・・・」
応接室に通された佑奈は面接試験のようにこちこちになっていた。インタビュアーは香。唯一の男子部員にしてカメラマニアの小林が自慢の愛機を首から下げ佑奈を撮るべく待機している。香は
「まず宣伝用のポートレートから撮りましょ」
と言って小林に促す。彼は
「はい、じゃあ上月さん。そのソファーにすわって。うーんジャンパースカートがふわっと広がった感じがいいかな」
というと礼香がスタイリストのように佑奈のジャンパースカートをふわっと広げた感じにする。そして白い丸襟ブラウスの襟とジャンパースカートの襟ぐりを整える。
「うん、その感じいいね。かわいい魔法使いって感じで。上月さん行くよ」
と言って小林はストロボをたきシャッターを切る。佑奈は写真写りが悪いと自分では思っているだけに写真を撮りそれを大塚中学校の新聞に載せられるのなんて全国に指名手配されるも同然に感じた。
「上月さん、いーねーその表情」
「佑奈ちゃん、かわいー」
とうまいこと小林のリードに乗せられてそのうちに佑奈もかなりリラックスしていい表情の写真を撮ることができた。
そして香が佑奈のはす向かいにすわってインタビューしている風の写真を数枚撮ってインタビューを開始することにした。テーブルの上では小型のテープレコーダーが回っている。香は
「今度恋の魔法大会行う1年1組の上月佑奈さんに今日はお越しいただいています。こんにちは」
「こんにちは」
「来たる7/14に中庭で恋の魔法大会を開くそうですが、どうしてそのようなことを思いついたのですか」
「えっ、あのっ、そのっ、あの、あまりに希望が多くて個人的に相手をしていたら大変なんで・・・」
と礼香に言われたことをしどろもどろに佑奈は答える。
「上月さんは魔法で何でもできるんですね」
「何でもっていうわけでは・・・」
「全校生徒の恋の成就が上月さんにかかっているわけですがそのへんどう思われますか」
「大変責任重大だと思ってます」
ここで香はインタビューを中断して席を立ち佑奈の代理人の礼香のところに行った。そして何かひそひそと話しているのを見て佑奈は謀略に巻き込まれるようないやな予感がした。そして戻ってきた香は佑奈に
「では最後の質問です。全校の女子に向かって意気込みをどうぞ」
「えっと、あんまりあたしの魔法に期待しないで下さいね」
「ありがとうございました」
とインタビューは無事に?終わった。
その日の放課後、新聞部員幸代がパソコンを打ち校内のあらゆる掲示板に貼って回ったために翌朝には『恋の魔法大会』参加要綱を全女子が知るところになった。女子がそれに群がってキャーキャー言っている。参加要綱は以下の通りだ。
『恋の魔法大会』参加要綱
「号外、号外、恋の魔法大会特集号だよぉーっ」
と新聞部が恋の魔法大会に向け佑奈のインタビュー記事が載った号外を出したら普段は学校新聞なんて読みやしない大塚中学校の女子たちが肉に群がるピラニアのように新聞部員に殺到し押しこかすようにして号外をひったくったから用意した300部はものの数秒にしてなくなった。その内容は以下の通り。
大塚中学校新聞号外 −恋の魔法大会特集号−
(応接間で撮影された佑奈の顔写真とともに下記の対談が載っている。)
| 新聞部 | 本日は恋の魔法大会を主催される上月佑奈さんにお越しいただきまし
た。こんにちは。 |
| 佑奈 | こんにちは。 |
| 新聞部 | 恋の魔法大会なんですがいったいどんなことをするんですか?
|
| 佑奈 | 亀山に1500年の間封印されていた禁断の恋の魔法を復活させます。
|
| 新聞部 | その恋の魔法とはどのようなものなんですか? |
| 佑奈 | 禁断の秘術ゆえ具体的には言えません。 |
| 新聞部 | なにゆえ恋の魔法は封印されたのでしょうか? |
| 佑奈 | 昔海老名に国中の娘を自分のものにしようとした領主がいて、 そん なことをしたら国が滅びてしまうので高僧が亀山に封印したそうです。 |
| 新聞部 | 恋の魔法大会が1回こっきりなのはなぜでしょうか? 当日来ら れない生徒たちが不満をもらしていますが。 |
| 佑奈 | 禁断の秘術ゆえあたしの魔法力の大半を使うことになります。 まし てや多くの女子を一度に相手にするわけですから。それゆえ1回こっきりなのです。 |
| 新聞部 | そうだったんですかぁ。 恋の魔法大会に来られる女子はまさ に千載一遇のチャンスを手にしたわけですね。 |
| 佑奈 | まさにそのとおりです。 |
| (中略) | |
| 新聞部 | 最後に恋の魔法大会に参加する大塚中学校女子に一言お願いしま
す。 |
| 佑奈 | みんな佑奈の恋の魔法で幸せになってね。 効果が出るかどうかは参 加者一人ひとりの思いの強さにかかっています。 それでは恋の魔法大会でお会いしましょ う。 |
| 新聞部 | 本日はどうもありがとうございました。 |
恋の魔法大会に向けて思いを寄せる男子の写真と生年月日が必要なので大塚中学校の女子たちはいろいろとがんばってそれらを収集しようとしていた。それゆえ休み時間はもとより授業中にいたるまで使いきりカメラや持ち込み禁止の携帯電話のカメラで思いを寄せる男子の写真をこっそり撮りまくっていた。ある男子生徒は
「男子がこんな風に女子を撮りまくったら絶対盗撮とかストーカーって言われるのに女子がやると何も言われないのは差別だよなぁ」
とぼやいた。廊下の角で待ち伏せして好きな男子が角を曲がって現れたところを問答無用でフラッシュをたいて撮影して走って逃げるパパラッチのような女子もいた。そんな白熱する女子たちの様子に大塚中学校の男子たちは少しおびえ気味。パパラッチに狙われるタレントのように不意を衝かれていきなりパチリとやられるのだからあくびもできやしない。恋に目がくらんだ女の子は恐ろしい。目当ての彼の誕生日を聞きだすべく職員室の彼の担任を尋ねる女子もいて職員室は大混雑。期末テストの前でもこんなににぎわうことはない。彼に親しい男子に接近して誕生日を聞きだそうとする女子も多く中には自分が女子にもてていると勘違いする男子もいた。
2年3組の武藤久夫は2年2組の有明早苗に
「あのっ、武藤君。ちょっといい?」
と消え入りそうな声で階段の踊り場に呼び出された。早苗は真っ赤になってもじもじしている。その状況は鈍感な武藤にも愛の告白かぁ?!と思わせるほどあからさまだった。階段の踊り場に着いても早苗は何も言えない。武藤は女子に呼び出されて二人きりで向き合っている状況にどきどきした。
「あのっ、武藤君」
「はいっ」
「ずっと前から好きだったの」
武藤は予想通り早苗に愛を告白されて天にも昇るほどうれしかった。こんなこと初めてだ。
「うんっ」
「中原君のことが」
武藤はずっこけた。武藤も早苗のことは気になっていたので早苗は俺の事好きなんじゃないのか?とひどくがっかりした。あーあ、どきどきして損したと武藤は思った。早苗はそんな武藤の胸中にはかまわず
「武藤君って中原君と親しかったでしょ。だから彼の誕生日を教えて」
「あいつ確か7月の19日だったと思ったれど」
早苗はジャンパースカートのポケットからたれぱんだのメモ帳を取り出して中原の誕生日をメモしていた。早苗は
「中原君の写真があったら一枚ちょうだい」
「家に帰れば遠足のとき撮ったのがあると思うけど」
「じゃあそれ早苗にちょうだいね」
「いいよ」
と話が途切れたので武藤は意を決して早苗に言った。
「あのさ、有明さん」
「なぁに?」
「俺、実はずっと好きだったんだ」
「えーっ」
と叫びながら早苗は3歩後ずさった。予想外の早苗の反応に武藤はたじろいだ。早苗は武藤のことをそこまで毛嫌いしていたのか?
「武藤君って男なのに中原君のこと好きだったんだ。ホモぉ、いやーっ、変態ーっ」
と叫びながら早苗は一目散に逃げていった。武藤は
「ちょっと有明さん、俺が好きなのは有明さんのことだよーっ」
と叫んだけれど早苗の耳には届かなかった。こうして武藤の恋はついえた。
「鈴田君って何座?」
3年3組の吉田明代が同じクラスの鈴田勝にたずねた。休み時間音楽室に移動する廊下でのことだ。2人は音楽の教科書とリコーダーを持っている。
「えっ、てんびん座だけど」
「ということは9月後半から10月前半の生まれね」
「9月29日だけど」
「ふーん、9月29日なんだ」
と明代は関心のないそぶりを見せていたが実際は
「やったぁ、鈴田君の誕生日がわかったぁ」
とぴょんぴょん跳びはねて喜びたいところだ。それを不審に思った鈴田は
「何だよいきなり」
「あたし最近占星術に凝っててね。それで勉強しているの」
と口からでまかせを言う。
「じゃあ今度占ってよ」
「いいわよ」
「占うのにいるから写真撮らせてね」
と明代はジャンパースカートのポケットから取り出した使いきりカメラでストロボをたいてパチッとあっけにとられる鈴田の写真を撮った。これだけの行動力があるのなら直接彼にコクればよいものを、それができないのが乙女心なのだ。
中学1年生の教室には4月に入学したときに書いた「私のCM」という各生徒のプロフィールを書いた紙を後ろに掲示してある。それには
白いパーカーTシャツに赤いタータンチェックのスカートを着た泉崎礼香が上月佑奈の家を訪れた。佑奈は水色のちびTシャツにデニムのカプリパンツで出迎えた。佑奈と礼香は恋の魔法大会打ち合わせをするのだ。ピンクのカーテンが引かれた佑奈の部屋には大きなスヌーピーのぬいぐるみがベッドの上にでんと置いてありアイドルの男の子のポスターが優しく佑奈に笑いかけている。そして机の上にはいとしの古谷くんの写真が額に入れて飾ってある。今度のは隠し撮りではなく佑奈が使いきりカメラで撮ったものだ。2人の間にある机の上には礼香が作ってきた恋の魔法大会の進行表が広げてある。
「うひゃぁーっ。よくこんなの作ったね」
「感心している場合じゃないでしょ。主演女優は佑奈、あなたなんですからね」
「うわぁーっこれ全部覚えるの」
「そうよ」
「少しくらいまからない?」
「そういうことならあたし帰るわ」
と礼香が静かに席を立つ。
「礼香ちゃぁーん、礼香ちゃぁーん。わかったから、全部覚えるから佑奈のこと見捨てないで。お願いよぉ」
と佑奈は礼香のパーカーTシャツのフードをつかんで引き止めた。礼香は息がつまり
「佑奈、くっ、苦しい。手を離して」
と言うと佑奈はわれに返りフードから手を離した。礼香は涙目でごほごほと咳き込んだ。
「礼香大丈夫? ごめんねぇ。わざとじゃないの。つい、つかみやすかったので・・・」
「もう佑奈の前ではフードのついた服を着るのやめるわ」
と礼香は涙目で言った。
礼香の進行表に従って佑奈は恋の魔法使いを演ずるべく練習する。ゼネラルプロデューサーの礼香は佑奈の振る舞いやセリフの読み方に細かい指導をしていく。
「ここがクライマックスなんだからしっかりと呪文唱えて」
「はいっ」
佑奈が再び呪文を唱える。
「まだ棒読みな感じするよ。しっかり呪文を読み込んで」
「はいっ」
「恋の魔法使いなんだからイベントの最中に佑奈、絶対に笑わないでね信憑性が薄らぐから」
「礼香、わかっているわ」
「佑奈はすぐに笑い転げるくせがあるんだからしっかりと自覚してね。恋の魔法大会の一番盛り上がるところで大笑いしたら全部ぶち壊しだからね」
「大丈夫よ」
翌日も佑奈の部屋で2人は練習する。礼香の細かい演技指導に佑奈はムカついてきて「あたしは吹奏楽部なのよ。演劇部じゃないわ」と思ったけれどここでゼネラルプロデューサーの礼香に降板されたら恋の魔法大会は失敗に終わり、佑奈は海老名市立大塚中学校の全女子生徒に百回は殺されかねない。佑奈はムカついたけど礼香の演出プランに乗った。
「佑奈そこっ、動きがセコいよ。おもむろに振舞わないと威厳があるように見えないよ」
「はいっ」
「今のセリフはっきりと聞こえないよ。もっとスタッカート効かせて」
「はいっ」
「手の上げ方が自信なさそうに見える。恋の大魔法使いなんだからもっとパリッとやって。ここでセリフがクレッシェンド!」
「はいっ」
「そのセリフはfff(フォルティティティシモ)で叫ぶの!」
「はいっ」
2人は吹奏楽部なので音楽用語がバンバン飛び出す。
「佑奈、あなた何度言ったらわかるの。ここはそうじゃなくてこう」
「はいっ」
「佑奈は大女優なんだからアカデミー賞物の大芝見せてよ」
「はいっ」
「今度は通しリハーサル行くよぉ」
と礼香の演技指導はかなり厳しい。佑奈は礼香には演出家の才能があるので恋の魔法大会が終わったらきっと演劇部が礼香をスカウトに来るぞと思った。
2人の練習は当日まで毎日続けられた。
そのころ大塚中学校校内では女子たちは恋の魔法大会の話題でもちきりだった。しかし募集要項にあったように誰も相手の男子については口にしなかった。水面下で互いに腹の探り合いをしている姿が目に付いた。恋の魔法使い佑奈に女子たちは声はかけなかったが校内ですれ違うとき2.3年生たちまで佑奈に会釈するようになった。それまで上級生たちには
「妖術使いは学校来るな」
「キモイあっちいけ」
と散々虐げられてきたのがウソのようだ。ゼネラルプロデューサーの礼香に言われたとおりそれに対して佑奈は鷹揚に目礼を返すのみにしていた。上級生たちにそんなえらそうな態度で接していいのかと佑奈はびびっていたけれど誰もそれに対してクレームつけてこなかった。むしろ佑奈の威厳を増す効果を出していて誰も恋の魔法について疑う女子はいなかった。
窓口となっている新聞部には恋の魔法大会に向け女子たちからさまざまな質問が寄せられていたので新聞部は壁新聞という形で答えた。
Q.同じ男子に二人が希望した場合どうなるのか?
A.一番思いの強い女子と恋に落ちる。同じくらいだと三角関係になる。
Q.当日までにその男子とどう接すればいいか?
A.普通に接していればOK。恋の魔法大会を待たずにコクるのもOKだが恋の魔法大会で結ばれた女子にとられる可能性あり。
Q.当日親の戚結婚式で出られません。何か救済策は?
A.当日1回こっきりなので来られない人には対応できません。
Q.彼女のいる彼なんですがこの場合どうなるの?
A.あなたの思いが彼女より強ければ二人は別れて彼はあなたと付き合います。
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