5月下旬のある日の朝の学活で担任の大山が
「今朝はわが2年2組にとってめでたい話がある。それは上月がアメリカ政府の交換留学生に選ばれたということだ」
2年2組の生徒たちは一斉に「きゃーっ」と言って拍手と喚声で佑奈を祝った。佑奈の前にすわる岩井由里が振り返って
「佑奈よかったねぇ、おめでとう」
左にすわる木村功一は
「上月、おまえってすげーなー」
右にすわる高橋明は
「しばらく古谷に会えなくなるからさびしいんじゃないの?」
高橋の前にすわる米田晴夫が
「何言ってんだよ。アメリカのハイスクールに行けば金髪男がよりどりみどりじゃん」
「そっかぁ、もう古谷はお払い箱かぁ。かわいそうに」
とクラス一同盛り上がっている中で当の佑奈は一人困惑していた。
「あたしそんなの応募してない」
同じクラスの親友の泉崎礼香も
「佑奈よかったね」
とは言ったものの釈然としない顔の佑奈に不信を抱いていた。
学活のあとの休み時間、佑奈は礼香を階段の踊り場に連れていった。
「あたしアメリカ政府の交換留学生になんて応募してない。きっと別の中学校の『上月佑奈』だよ」
「でも『上月佑奈』なんて子めったにいる? 『鈴木恵子』とは違うのよ」
「じゃあ、なんであたしなのよ」
「しいて言えば『大掛かりな罠』」
「罠?!」
「そう、誰が何のために仕組んだかわからないけどね。まぁ大きなトランク持って成田空港に行ったら『じつは交換留学生なんて嘘でした』というどっきり程度ならかわいげがあるけれど、佑奈の場合腕輪があるからなんらかの攻撃を仕掛けられることは間違いないでしょうね」
「じゃあ行かない方がいいわけね」
「そうね。ただでアメリカに行けるのよ。おかしいと思わない?!」
「確かに」
「あたし辞退するわ」
佑奈は納得しチャイムが鳴ったから二人は教室に戻った。大塚中学校ではベル着席を競っているのでみんな大慌てで教室に駆け込んでいる。佑奈たちもぎりぎりセーフであった。
1時間目は数学で佑奈が教科書を開くとぎょっとした。そこにはピンクのカードが挟んであり
「交換留学生は必ず受けること。 マ」
と書いてあった。マとはマーガレット以外にありえない。いったいいつの間に教科書にカードを挟んだのであろうか? 佑奈はこの交換留学生はCIAが仕組んだことだと分かった。アメリカ、佑奈は海外旅行に行きたいとは思っていたけれどそれはあくまで観光でのこと。CIAの謀略で拉致されたいとは思わない。だけど行かなければ恥ずかしい写真を町中にばらまかれてしまう。「はぁ」と佑奈はため息をついた。
佑奈は1時間目の後の休み時間に礼香に
「あっ、あの、礼香。あたしやっぱりアメリカに行くことにしたよ。せっ、せっかくのチャンスだし…」
「佑奈、何かあったの?! 顔色悪いよ」
「そっ、そんなことないよ…」
と佑奈は非常に歯切れが悪い。
「やめなよ。さっきも言ったけどこれは罠だよ」
「だっ、大丈夫。万一のときはこっ、これでなんとかするから…」
と腕輪を見せた。マーガレットから佑奈がCIAのエージェントであることは親や友達に決してしゃべってはいけないと釘を刺されている。佑奈はそれゆえ親友の礼香にも本当のことを打ち明けることができない。礼香は何かあったなと察したけれども佑奈が言う気がないようなのでそれ以上佑奈を追及しなかった。
古谷のクラスは2年1組。佑奈の親友の高田瑞穂と同じクラスだ。2時間目の後の休み時間にトイレに向かう佑奈は古谷と廊下で出会った。
「あっ、古谷クン」
「佑奈、留学のこと聞いたよ。おめでとう。いつから行くの?」
「それがまだよくわからないのよ」
「そう。しばらく会えなくなるね」
「うん」
そう言うと不意に佑奈の目から涙がこぼれた。古谷が心配そうに
「佑奈どうしたの? 何か悪い事言った?」
「ううん、そうじゃなくてただ古谷クンと会えなくなるのが悲しいなぁと思って」
「国際電話で毎日おしゃべりしようよ。アフリカのジャングルの奥に行くわけじゃないんだし」
「うん、そうよね」
古谷の胸に顔を埋めて泣く佑奈を見て2年1組の男子が
「ヒューヒュー、お二人さんお熱いねぇ」
と冷やかしたので佑奈は我に返り真っ赤になって二人は離れた。佑奈はぎこちなく
「古谷クン、それじゃあまた」
「そうだね、佑奈」
とトイレに向かった。
佑奈がトイレの個室に入り用を足していると個室に佑奈がいるとは知らない女子生徒が二人入ってきて鏡を見て髪をいじりながらおしゃべりしているのが聞こえた。
「あの上月佑奈がなんでアメリカにご招待なわけ?!」
「そうよね。上月佑奈って英語話せないじゃん」
「英語話せなくていいのならあたしでもいいじゃないの」
「そうよねぇ」
「顔で選んだのだったら絶対に負けてない」
「顔では選ばないでしょうよ」
「また上月佑奈は怪しい術を使ったんじゃないの?」
「『怪しい術』って?」
「アメリカにただで行ける術とか」
「そうなん? あの子 まぢウザい」
「うん、ウザい ウザい」
佑奈は話を聞いていて頭に来て出ていって蹴飛ばしてやろうかと思ったけれどじっとこらえた。他にも校内では佑奈のアメリカ行きは術を使って決まったものだから無効だと言う生徒もいた。しかしおおむね佑奈のアメリカゆきを祝福する空気が流れていた。
放課後、吹奏楽部の練習にゆく礼香と別れて佑奈は一人で下校し中学校から少し離れたところで待っていた車に乗り厚木基地に向かった。基地で出会ったマーガレットに
「ちょっとぉ、アメリカ留学なんて聞いてないわよ」
「つい最近決まったのよ。いいでしょ、ただでアメリカに行けるんだから。今頃家にも校長から電話で連絡がきてユーナのご両親も知っているわよ」
「うそっ」
「ユーナのかわりにアメリカからの交換留学生がユーナの家にホームステイするから」
「えーっ」
「ユーナの部屋空いてるわけだし」
「ちょっとそんなの勝手に決めないでよ」
「その子もCIAのエージェントなの」
「えっ」
「アメリカでユーナが悪いことをしないようにご両親を見張るってわけ」
「なっ、なにそれ」
「つまりユーナがいない間ご両親はCIAがお世話するってわけ」
「なんでよ」
「ユーナのアメリカ留学に不審を抱かれたら困るでしょ」
「それはそうだけど…」
「ご両親が反対しても『アメリカに行く』って言い張るのよ。じゃないと今夜寝ている間に古谷クンを坊主頭にしちゃうわよ」
「やめて、古谷クンに手を出さないで」
「だったらおとなしくアメリカにゆきなさい」
佑奈はアメリカに行くよりなかった。
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古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
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