小説の部屋


2005/7/12 脱稿    

古墳少女 佑奈2

   

その6

第6章 キャサリン来たる

 その10日後、海老名市立大塚中学校体育館に全校生徒が集められアメリカに出発する上月佑奈とアメリカから大塚中学校にやってきて上月家にホームステイするキャサリンの歓送迎会が開かれた。吹奏楽部の佑奈に配慮して吹奏楽部がマーチ ベスト・フレンドを奏でる中校長に先導され佑奈とキャサリンが全校生徒の間を通ってステージに上がる。海老名市立大塚中学校制服のセーラー服を着たキャサリンは金髪で青い目。身長177cmと長身であるのでキャサリンを見た生徒達は
「でけぇーっ」
「外人だぁ」
「パツキンだぜ、おい」
「目が青いよぉ」
「美人だなぁ」
「きれい」
「かわい〜」
と噂しあった。佑奈はそんな生徒達の間を歩かなくてはならないのがこっ恥ずかしくて術を使って消えてしまいたいくらいだ。それに比べてアメリカ人のキャサリンは堂々としており生徒達に手を振って答えている。佑奈は吹奏楽部の皆を見た以外は恥ずかしくてずっとうつむいていて同じ14歳には見えない。佑奈とキャサリンは日米両国旗と海老名市立大塚中学校旗が掲げられたステージ上に立った。校長の長いながいあいさつが始まる。その間にとなりに立ったキャサリンが佑奈の耳元で流暢な日本語でささやいた。
「両親の命はあたしが預かるわ。長生きしてほしかったらアメリカでがんばってね」
「な、なにそれ!」
「あたしもエージェントなのよ」
「それは聞いてるけど…」
「あと古谷クンの面倒もあたしが見たげるからね」
「ちょっと、古谷クンに手を出さないでよ」
「いとしのユーナがいないから彼もさびしいでしょ。だからあたしがなぐさめたげるわ」
「古谷クンに手を出したら殺すわよ」
「ユーナが帰ってきた頃には完全に彼はあたしの物になってるわ」
「あなたね…」
「ほら、みんながこっち見てるわよ」
佑奈はキャサリンにつかみかかろうと思ったけれどキャサリンに機先を制されはっと我に帰った。あいさつを終えた校長に
「それではアメリカへ旅立つ上月佑奈さんに一言あいさつしてもらいましょう。上月さんどうぞ」
とふられて佑奈は
「えーっ、なにそれ。聞いてないよぉ」
とパニくる佑奈の背をドンとキャサリンが突き飛ばしたので佑奈はよろよろとステージ中央の演壇の方へ出ていく格好になった。わーっと拍手がわき起こる。体育館で見ている生徒たちからすると佑奈とキャサリンがなにやら英語でおしゃべりしておりキャサリンが背中を押して佑奈を激励しているように見えていたのでじつは佑奈はバイリンガルなんだと生徒たちは皆思った。演壇に棒立ちの佑奈はどーしよ、どーしよと頭の中が真っ白になっていた。とにかく静まり返って耳を傾けている生徒たちに何か言わなくてはいけない。佑奈が
「えーっと、あの、そのぉ、あたしぃ…… どこ行くんだっけ?」
と思わず口走ると場内大ウケであった。佑奈は全校生徒に笑われてこの場から逃れられるのであればアメリカでもアフリカでもゆきたい気分だ。
「アメリカぁーっ」
という男子のヤジでまたどっとウケる。佑奈は真っ赤になってうつむいたまま
「アメリカがんばります」
とだけ言って演壇から逃げ出した。続いて校長が
「アメリカ カルフォルニア州のJSPジュニアハイスクールからわが海老名市立大塚中学校に来てくれたキャサリンさんのあいさつです」
割れんばかりの拍手の中堂々とあいさつに立ったキャサリンは
「キャサリンです。あんまり日本語うまくないです。カルフォリニアから来ました。短い間ですがどぞよろしくです」
とあいさつすると全校生徒がわーっと拍手と喚声で答える。さらにキャサリンのあいさつは続く。さきほど佑奈の耳元でささやいたのとは違いいかにも日本語覚えたばかりですと言わんばかりのたどたどしい発音でキャサリンはスピーチする。佑奈は後ろで聞いていて「この女なによ」とムッとした。初め男子の「かわいーっ」というヤジが飛んだりして女子はキャサリンに反感を持ったが、キャサリンのたどたどしい挨拶はそれでもしまいには全校生徒の心をつかんでいた。キャサリンの演技は日本語が不自由な留学生をかまってあげたいと思わせるのに十分であった。キャサリンのあと海老名市長やらPTA会長やら大塚商店街の理事長やら来賓のあいさつが続く。その間に佑奈はキャサリンに
「ちょっと今のヘタクソな日本語は何よ」
「こういうたどたどしい方がアメリカ人ぽくていいでしょ」
「あなたね、いったいどういうつもり」
「あたしの正体を誰かに話したらいとしの古谷クンやお友達のレイカやミズホが悲しい思いをするわよ。ユーナはアメリカへ黙って旅立ってね」
「きょ、脅迫するつもり」
「NO NO これはお願い」
そう言ってキャサリンはにっこりと笑った。
 歓送迎会を終えると佑奈は飛行機の時間の都合で成田空港に出発するために下校しなくてはならない。佑奈は吹奏楽部が演奏するアメリカ国歌にのり校長に手渡された小さなアメリカ国旗を持たされて恥ずかしいと感じながら体育館を後にした。キャサリンの正体を知っているだけに一抹の不安を残して。

*****

 キャサリンは2年2組の担任の大山に連れられて教室にゆき佑奈が使っていた机にすわった。キャサリンは教室の前に出て
「キャサリンです。あんまり日本語うまくないです。カルフォリニアから来ました。日本のことをよく知りたいです。どぞよろしくです」
とあいさつすると2年2組の生徒たちは拍手で迎えた。もう2年2組の生徒たちは佑奈がアメリカに旅立ったことなど泉崎礼香を除いてすっかり忘れていた。キャサリンの正体を知っている礼香はステージ上での佑奈とキャサリンのやり取りを見ていてあの二人になにかあったなと直感しキャサリンから距離を置いていた。キャサリンはクライメイト取り囲まれわいわいやっている
 休み時間キャサリンはトイレに行った後2年1組の教室に入っていった。2年1組の生徒たちは話題の交換留学生が入ってきたので何事かと見守っていた。キャサリンは
「古谷クン、どこですか?」
と言うと近くにいた男子はおたおたし無言で古谷を指差した。キャサリンは古谷のところに行くと
「あなた古谷クンですね。あたしキャサリンです。さっきステージの上でユーナからあなたと仲良くするように言われてきました。よろしくです」
「あっ、あのその…」
と古谷はしどろもどろだ。キャサリンは古谷の腕を取って立たせてじっと顔を見て
「あたし古谷クン好きです」
と言って古谷の唇を奪った。古谷は佑奈のことが脳裏をよぎりキャサリンを押し退けようとしたけれどキャサリンのほうが体格がいいのでしっかりと抱き締められ無理だった。2年1組の男子は「おぉーっ」女子は「きゃーっ」と言って2年1組は大騒ぎだった。チャイムが鳴りキャサリンは真っ赤になって呆然と突っ立っている古谷に
「ダーリンまたねぇ」
と手を振りながら2組にもどっていた。この日から古谷のあだながダーリンになった。
 昼休み、古谷とキャサリンの熱いキスは全校の話題になっていた。
「古谷が佑奈からキャサリンにのりかえたって?」
「逆よ。キャサリンが古谷にコクって唇を奪ったんだって」
「えっ まぢ?! 三角関係じゃん」
「大丈夫よ。佑奈が帰ってきたときキャサリンはアメリカに帰っちゃうんだから」
「あっ、そっか。佑奈がいない間のアバンチュールか」
「それよりも佑奈の方がやばいんじゃないの?」
「どういうこと?」
「アメリカで金髪外人に囲まれてやりたい放題かもよ」
「うんうんありがちーっ」
「帰ってきたらまぢ 本場のヤンキーになっているかも」
「向こうに居着いて帰らなかったりして?」
「キャハハ」
「佑奈の腕輪のせいでいろいろと迷惑しているからその方がいいけどね」
「変な術使うしね」
「そうそう」
このキス騒ぎでキャサリンを口説き落とそうなどという不貞な男子は皆あきらめた。

*****

 大山に案内されてセーラー服のキャサリンが上月家にやってきた。迎えにでた佑奈の母順子は緊張の面持ちで対面した。キャサリンが
「お母さん、今日からお世話になるキャサリンです。あんまり日本語うまくないです。短い間ですがどぞよろしくです」
とたどたどしくあいさつすると順子は話には聞いていたけれど本当に日本語をしゃべったので順子はほっとした表情を見せ
「ここが自分の家だと思ってくつろいでね」
「はい」
「それじゃあお母さん私はこれで」
「大山先生、ありがとうございました」
と大山が去って行く。順子はキャサリンを佑奈の部屋へと案内し
「ここがあなたの部屋よ」
「かわいい部屋ですね」
「娘の佑奈の部屋なの」
「今日学校で話しました」
「そう。落ち着いたらリビングにいらっしゃい。お茶にしましょ」
「はい」
とキャサリンは佑奈の部屋に入り大塚中学校のセーラー服から白いTシャツにジーパンに着替えた。制服のときには余り目立たなかったがTシャツ一枚になるとキャサリンの大きな胸がとても目立つ。佑奈の机の上には古谷と二人で撮った写真が写真立てに入れて置いてある。壁には去年の吹奏楽コンクールの写真が画鋲で貼ってある。キャサリンは古谷の隣に写る佑奈に指でピストルの形を作り「バーン」と撃つ真似をした。
 キャサリンは一階の居間に降りて順子とお茶を飲むことにした。
「キャサリンちゃんは日本茶飲めるのかしら」
「はい、アメリカでも飲んでました」
「よかったわ」
と順子はこわごわ持っていた湯飲みをキャサリンに差し出した。キャサリンは一口すすって
「お母さんとってもおいしいです。『キャサリン』と呼んで下さい。『キャサリンちゃん』なんて他人行儀で嫌です」
「わかったわ、キャサリン。アメリカじゃみんなそうだもんね」
ちょっと順子は呼びづらそうだった。
「そうです。お母さん」
「キャサリンは食べ物の好き嫌いなんてあるの?」
「ありません」
「お刺身とか大丈夫?」
「サシミおいしいです。スシもOKです」
「そうなんだ。じゃあ食べ物に気を遣わなくていいわね」
「はい」
「これからお夕飯の買い物に行くの。キャサリン一人で待っていてくれる」
「お母さん、あたしも行きたいです。日本のお店見たいです」
「そう、疲れているのに悪いわね」
「いえ、大丈夫です」
 2人は連れ立って大塚商店街へ向かった。佑奈のに代わって「ようこそキャサリン大塚町へ」の横断幕が掲げられている。キャサリンは金髪で青い目をしており身長が177cmもあるから嫌でも連れて歩くと目立つ。主婦に連れられた小学生たちが
「あっ外人だ」
「背高いなぁ」
「目ぇ青いよ」
「何人だろう?」
「アメリカ人じゃないの」
「フランス人かもよ」
とキャサリンの噂をしている。噂の的を連れて歩く順子はちょっと恥ずかしかった。順子は大塚中学校の佑奈の同級生の母の森洋子に出会った。
「上月さんこんにちは」
「あっ、森さん」
「その子ねぇ、ホームセンターの外人さんって」
「違うわよ、ホームセンターじゃなくてホームステイ」
「そのホームなんとかよ。ハッ、ハロー」
とこわごわとキャサリンに英語で話しかける洋子にキャサリンは
「こんにちはキャサリンです。どぞよろしくです」
とたどたどしくあいさつすると洋子は
「日本語できるのねぇ。えらいわぁ」
と感心した。
「あたし森のおばさん。よろしくね。いつから来たの?」
「今日からです」
「そうなんだぁ。佑奈ちゃんもいいわねぇ。アメリカ留学なんて」
「そんなことないのよ。行くかどうかでお父さんと大げんかしてしまいには口も利かなくなったんだから勘当も同然なのよ」
「まぁ、佑奈ちゃんもよほどアメリカ行きたかったのねぇ」
「なんだかよく分からないんだけど、佑奈はアメリカのことになるとものすごくかたくなだったのよねぇ」
「そうなの。佑奈ちゃんは英語ペラペラなんでしょ」
「それが違うのよ。だからもう心配で心配で」
「お母さん、ユーナ大丈夫です。私の両親優しいです」
キャサリンは笑いたいのをこらえて言った。
「キャサリン心配してくれてありがとう」
「なんか二人は本当の親子みたいね。それじゃあね、キャサリン」
とあいさつして洋子と別れた。
 順子はなじみの魚屋に行くと
「奥さん、らっしゃい! その子だね、佑奈ちゃんと入れ替えにやってきたってのは」
「キャサリンです」
「キャサリンってのかい。今日はキャサリンが来たお祝いに安くしとくよ」
「キャサリン、何が食べたい?」
「マグロの刺身が食べたいです」
「じゃそのお刺身下さいな」
「これはご祝儀だよ」
と魚屋は鯛の刺身も一パックサービスでつけてくれた。
「ご祝儀?!」
「ようするにお祝いのプレゼントってことだ」
「ありがとうございました」
キャサリンはにっこりと笑った。
 ついで八百屋へ行けば
「よっ、君がキャサリンだね」
「はい、よろしくです」
「こちらこそよろしくね」
「その茄子を一山とキュウリも一山下さい」
と順子が頼むと主人は
「これはキャサリンへのプレゼントだ」
とブドウを一パックサービスしてくれる。大塚商店街は人情味あふれる商店街なのでキャサリンが顔を出すと他の店でもお祝いにといろいろサービスしてくれた。順子は少し恥ずかしかったけれどキャサリンを連れてきてよかったと思った。
 買い物を済ませキャサリンは
「お母さん、あたしも持ちます」
とビニール手提げをいくつか持った。
「キャサリンありがとね。うちの佑奈なんか家の手伝い一つしないのよ」
「そうなんですか」
「いつも吹奏楽部の練習とかで帰ってくるのも遅いし」
「ユーナは吹奏楽部なんですか」
「クラリネットを吹いているのよ」
「それで部屋に楽団の写真が貼ってあるんですね」
「そうなの」
 家に帰るとキャサリンは荷物の整理と称して佑奈の部屋に戻った。キャサリンは佑奈の机の引き出しを開けると古谷・礼香・瑞穂からの手紙が入っていて一通づつ目を通した。佑奈たちは携帯電話を買ってもらえないので手紙でやり取りをしているのだ。表紙に「DIARY」と金文字で書かれた鍵付きの日記帳が引き出しの奥に隠すように入っていた。キャサリンはニンマリすると荷物の中からピンを取り出して鍵穴をちょいちょいといじりカチッという音とともに鍵を開けた。日記には佑奈の古谷への思いが面々とつづられていてキャサリンは大笑いしそうなのをこらえるのに苦労した。それでも時折背中が笑いでぴくぴくと引きつる。キャサリンは最後まで読み終えると再び日記帳に鍵をかけて元通りにしまった。キャサリンは本棚にある漫画や文庫本、アルバム、CD、キャラクターグッズなどを調べ佑奈の好みを把握した。クローゼットも開けて佑奈の残していった服を調べる。もちろん大柄なキャサリンに小柄な佑奈の服が入る訳もないが佑奈のファッションセンスがこれでわかる。

 やがて佑奈の父利夫が帰宅して夕食となる。利夫も緊張の面持ちでキャサリンと対面した。
「キャサリンです。お父さんお帰りなさい」
「おっ、君かキャサリンか。よろしくね」
「お父さん、大事なユーナがいなくなってさびしくありませんか?」
「いやぁ、あの騒がしい佑奈がいなくなって静かでいいよ」
「そうなんですか?」
「キャサリンのように礼儀正しい子がうちに来てくれてうれしいよ」
「まぁ、お父さんったら」
とキャサリンと利夫は父娘のように打ち解けた。3人は食卓を囲み刺身を中心とした夕食をとる。キャサリンは利夫に
「お父さん、今日もおつかれさま」
とビールをお酌した。
「うれしいなぁ、うちの佑奈は中学生になってから全然父親なんてかまってくれないんだよ」
「信じられません。アメリカでは違いますよ」
「小学生の頃は『お父さん、お父さん』ってどこへゆくにもくっついてきたのに」
「キャサリンはどんな町で育ったの?」
「あたしはカルフォルニア州のフォギーという小さな町で生まれ育ちました。両親はベーカリー兼ケーキ屋をやっています」
「ふーん、そんなんだぁ」
「だからあたしもパンやケーキを作るのが得意です」
順子が
「それじゃあ今度キャサリンのケーキを食べたいわ」
「いいですよ。学校のお友達を呼んでホームパーティーしてもいいですか?」
「いいわよ」
「ホームパーティーなんてアメリカ映画みたいねぇ」
「日本ではやりませんか?」
「あまりやらないわねぇ」
利夫が
「キャサリンはなんで日本に来たいと思ったわけ?」
「日本のアニメを見て日本に興味を持ち日本語勉強しました。だからユーナの部屋にたくさん漫画があって嬉しいです」
「うちの佑奈は漫画ばっかり見て全然勉強しないのよ」
「交換留学生に選ばれる位だから見てないところでやっているんですよ」
「キャサリンはえらいわねぇ。うちの佑奈は向こうのご両親とうまくやれるのかしら?」
「大丈夫です。今日学校でユーナにも話したけれどやさしい両親ですから」
「それならいいんだけど」
利夫が
「そうだ、今度の日曜日に3人でどっかへ行こう。ディズニーランドがいいかな」
「あなた、ディズニーランドはアメリカが本場でしょ」
「あそっか。キャサリンはどこか行きたいところある?」
「うーん、鎌倉の大仏が見たいです」
「そうか、鎌倉の大仏と江ノ島に行こう」
「江ノ島?!」
「鎌倉の近くの小さな島だよ」
「わぁーっ、行ってみたいです」
「あと、動物園と美術館にも行きたいです」
「じゃあそれは別の日にね」
「キャサリンとてもうれしいです」
とすっかりキャサリンは佑奈の両親に取り入ったのであった。

その7へ

古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

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