小説の部屋


2005/7/12 脱稿    

古墳少女 佑奈2

   

その7

第7章 アメリカへの旅立ち

 佑奈は一度家に帰り私服に着替えてCIAが差し向けたエミリーという日本語を話す金髪中年女性に連れられて黒塗りのリムジンで成田空港に向かった。佑奈の両親はキャサリンを家に迎える都合で成田空港には行けないので玄関先での見送りとなる。リムジンが走り出すと佑奈はふたたびこの海老名の町に戻ってくることができるのだろうかと思った。佑奈はこれが見納めになるかもしれないから海老名の町をしっかりとまぶたに焼き付けた。そしてキャサリンという女エージェントが両親や古谷クン、礼香、瑞穂にいろいろな意味で危害を加えないかと心配した。リムジンは厚木ICから東名高速に入り、首都高速の都心部で少し渋滞でのろのろしたほかは順調に京葉道路、東関東自動車道を走り抜け成田空港第一ターミナルに滑り込んだ。佑奈とエミリーはまずチェックインを済ませて大きなトランクを機内預けにした。身軽になったので時間もあるからターミナル内のショップを冷やかして回る。エミリーはアメリカ政府の公務で来ているので潤沢な経費を使用できるので佑奈に機内で読む雑誌やお菓子、飲み物のペットボトルなどを買ってくれた。ボディチェックと出国審査・税関を通り出発ロビーに出る。パスポートに出国のスタンプを押されるともうそこは日本ではない。佑奈は免税店を見て歩く。女子中学生には無縁な名前しか聞いたことのないようなブランド物や外国のお酒やタバコ、化粧品などが並んでいてうわぁーっと思った。佑奈は帰りに礼香と瑞穂に口紅の1本も買っていったげようと思った。
 佑奈とエミリーが乗るのは17:55発のアメリカン航空AA168便だ。すでにボーイング777がスポットに止まっている。ゲート周辺のベンチにはアメリカ人もたくさん搭乗を待っている。佑奈の搭乗券にはCLASS Fと書いてある。べつに佑奈が2年F組というわけではなくファーストクラスの搭乗券なのだ。やがて機内に入り前方の指定された席に着くとゆったりとしたシートが広い間隔をあけて設置されている。そのシートに小柄な佑奈がちょこんとすわっている姿はかわいらしい。佑奈はふかふかのシートの上でひょんぴょん跳ねながら
「わーい、グリーン車みたい」
とはしゃいでいたが周りの乗客が会社社長みたいな偉そうなアメリカ人ばかりで佑奈が一人で浮いているのに気付きやめた。離陸して水平飛行に入ると機内食が始まる。アメリカ人の客室乗務員が佑奈に海老と鳥肉と豚肉の料理のどれにするか英語で尋ねてきた。交換留流学生の佑奈は
「えっと、あのぉ、そのぉ…」
とおたおたする。エミリーが
「ユーナ、海老と鳥肉と豚肉の料理のどれにするか聞いてます」
と助け船を出した。佑奈は
「えっと、鳥肉を」
と言うとエミリーが客室乗務員に英語で伝え
「シュアー」
と言ってが佑奈の前のテーブルに鳥肉料理のトレイを置いた。そして次に回ってきた飲み物のワゴンでも佑奈はエミリーにコーラを頼んでもらった。佑奈は機内食を食べ終えると「はぁ」とため息をっいた。エミリーが
「ユーナ、どうしましたか?」
「いくら特訓のためとはいえ機内食も頼めないほど英語がだめなあたしがアメリカに行って交換留学生としてつじつまがあわないんじゃないかと思って」
「だいじょぶよ。日本で英会話学校に行くよりもアメリカで暮らすほうがよっぽど英語が身につくわ」
「でも、また学校に戻ったら英語でスピーチしろと言われるかも…」
「それじゃあ英語も特訓することにしましょう」
「そんなぁ」
「帰国する頃にはスターウォーズを字幕なしで見られるようにしてあげるわ」
佑奈は国際線の飛行機に乗り海外旅行気分でうきうきしていたのがしぼみど〜んと落ち込んだ。佑奈はここが太平洋上空でなければ下ろしてもらいたいと思った。やがて機内は映画の時間になり暗くなった。佑奈はいつしか眠ってしまった。

 成田から12時間半かかってAA168便は同日の17:25にニューヨークのJFケネディ空港に到着した。成田を17:55に出発したわけだから時差の関係で30分時間が逆戻りしているわけだ。佑奈は
「タイムマシーンみたいーっ」
と喜んでいる。荷物を受け取り、税関と入国審査を二人はCIAの公務中ということで簡単にパスして現地CIAスタッフの案内によりターミナルビルの裏口から人目に付かないように出て車に乗り空港のはずれにひっそりと駐機しているエアライン名の書いてない小形の双発ジェット機に乗り換えた。案内のCIAスタッフは二人を下ろすと車で去っていった。他には乗客はおらずこの飛行機はチャーター機らしいと佑奈にもわかった。二人が乗り込むと飛行機のドアが閉まりタラップが機体から離れてゆくのを見て佑奈はそれまでの海外旅行気分も冷めもう引き返せない泥沼にはめられたことに「はぁ」とため息を付いた。佑奈はエミリーに尋ねた。
「この飛行機は貸し切りなんですか?」
「そうよ」
「それってたくさんお金がかかるんじゃ…」
「これはCIAの任務だし、アメリカでは飛行機が日本の観光バスくらいに安くチャーターできるのよ」
「そうなんですか。それでどこへ向かっているんですか?」
「具体的な場所は教えられないけれど、軍の秘密基地に向かっているの。あたしもそれ以上のことは教えられてないわ」
「そうなんですか」
佑奈は軍の秘密基地と聞いてロズウェルに墜落したUFOに乗っていた宇宙人みたいに解剖されてしまうのではないかと不安になった。でもここはアメリカ。泣いてもわめいても誰も助けにこない。こんなことなら恥ずかしい写真をばらまかれても海老名で中学生しているんだったと佑奈は後悔した。
 それから数時間飛行して佑奈を乗せたジェット機はネバダ州の砂漠の真ん中にある軍の秘密基地に着陸した。飛行機が止まりタラップが着けられると銃を持った兵士が機体を取り囲み佑奈が妙な術を使わないように警戒に当たった。佑奈とエミリーがタラップを下り立つとひげを生やした偉そうな軍人がやってきて英語でなにやら佑奈に向かってベラベラと早口でしゃべっている。しかし佑奈には全く理解できなかったのでただおろおろした。エミリーが通訳する。
「この方はウィリアム大佐です。『ここはもっとも近い町まで35キロある砂漠の中です。脱走しても野たれ死ぬか周りに埋めてある地雷を踏んで木っ端みじんになるだけです。だからくれぐれも脱走しようなどと思わないように』とのことです」
そう言われて佑奈はとんでもないところへ連れてこられたと思った。アメリカのジュニアハイスクールでの楽しい留学をイメージしていたのに地の果てのような軍事基地に監禁されるなんて…。これでは逃げ出して日本大使館に駆け込むなんてできやしない。
「あたしはこの飛行機と共に帰ります」
と言ってエミリーはタラップを上ってゆく。
「えっ、エミリーいっちゃうの?! あたし英語しゃべれないし困る」
東洋系の顔をした25歳くらいの男が佑奈に近付いてきて
「ご安心を。あなたの通訳兼世話係のトミー山田です。日系三世です。どうぞよろしく」
「あっ、よろしくおねがいします」
と言っている間に佑奈を乗せてきたジェット機のドアがぱたんと締まりタラップが離れ砂漠の彼方に飛んでいった。あぁこれで日本に帰れない。絶望的な気分になった佑奈は無性に古谷クンに会いたくなって涙をこぼした。

 翌朝から佑奈の軍事訓練が始まった。早朝5時にトミーにたたき起こされた佑奈は時差ぼけもあって寝ぼけていた。半分寝たまま佑奈は黄土色を中心とした砂漠戦用の迷彩色の戦闘服に着替えさせられてまず基地内にある運動場を3キロ走るように言われた。佑奈は学校の体力測定で走る1000m走でも死にそうになるのだ。その3倍なんて走れない。
「えーっ、あたし無理」
「ユーナ、ここでは無理なことでも命令には従わなくてはなりません。だから無理でも3キロ走って下さい」
「そんなぁ」
佑奈の目に銃を持って警戒に当たる兵士の姿も見える。走らないと撃たれるかもしれない。そう思った佑奈はしぶしぶ走り始めた。1周200mのトラックを15周した佑奈は走り終えるとへとへとになってその場にへたりこんだ。佑奈たちに金髪の若い男が近付いてきた。なにか英語で言っているのをトミーが通訳する。この男は佑奈の訓練担当のゴードン少佐だという。普段の佑奈ならイケメンの金髪と大喜びするところだが今の佑奈にその余裕はなかった。
 その後朝食。基地の食堂で多くの兵士たちに混じって食べる。佑奈はなんか自分一人だけ場違いな印象を受けたが基地の兵士たちは佑奈くらいの幼い娘(基地のアメリカ人たちは小柄で幼い面立ちの佑奈を8歳くらいだと思っている人が多かった)を持つ人もいたので「ユーナ、ユーナ」と声を掛けてくれたが何をしゃべっているのか一々トミーに通訳してもらわねばならなかった。佑奈は3キロ走っておながが減ったので、いつもは太って古谷君に嫌われないように腹半分しか食べなかったけれど犬のようにがつがつとたくさん食べた。もっともアメリカ人の標準からすればそれでも少ないほうだが。
 午後は射撃場で射撃訓練。ピストルは厚木基地でも撃ったことはあるが今日は軽機関銃だ。初めはその仕組みをゴードンからレクチャーされ、射撃場で撃つように言われた。佑奈は人型の的に向かって撃つが当たるどころか反動でひっくり返りそうになった。ゴードンからもっと腰を入れて踏ん張って撃つようと指示が飛ぶ。佑奈は軽機関銃が手に負えなくて泣きそうになっている。手足を踏ん張ってすこしでも的に当たるようただただ撃ちまくった。
 一日のハードな訓練を終えると佑奈はへとへとになりシャワーを浴びるとベッドに倒れ込み深い眠りについた。外国人ばかり(佑奈のほうがここでは外国人だが)の基地で気疲れしたこともある。

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古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。

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