
佑奈の帰国を祝い集会が体育館で開かれた。校長の長い長〜い話の後
「それでは上月さん一言どうぞ」
とマイクを振られたけれどアメリカで鍛えられたので佑奈は出発の時みたいにどーしよ、どーしよとパニクることはなく落ち着いて演壇に立った。そしておもむろに全校生徒を見渡してから口を開く。
「2年2組の上月佑奈です。約半年のアメリカ留学を終えまた海老名の町に帰ってこられてとても嬉しいです。アメリカでは日本にいてはできないような多くの貴重な体験を積んできました。これからは受験に向けてそれをいかして行きたいと思います」
わ〜っと全校生徒が拍手する。親友の泉崎礼香と高田瑞穂だけはすぐにどーしよ、どーしよとパニクる上月佑奈がこれだけ落ち着き払ってあいさつできるなんて意外だと思った。
「つづいて転入生の紹介です」
校長がそう告げると女子生徒一人を従えて演壇に立つ。その女子生徒は身長177cm、腰まであるようなさらさらのストレートヘアーのスタイル抜群の美少女で体育館がどよめいた。男子たちは
「おい見ろよ」
「すげ〜美形じゃん」
「俺タイプ〜」
「ソッコー、ナンパしよっ」
「待て、俺が先だ」
「あのこの好きなタイプはどんなんだろ」
「お前でないことだけは確かだな」
「うるせーっ、お前と大してかわらんだろ」
「背高いよね」
「スタイルもいいし」
「髪もきれいだし」
「彼氏いるのかなぁ」
「あれだけの美形だもん、そりゃいるでしょ」
「だよなぁ」
「しょせん俺達には高嶺の花か」
「そうだよなぁ」
「せめてお友達になりたい〜」
「俺も」
ちょっと前までアメリカ帰りの上月佑奈にみんな関心があったのに、この美少女の登場でごっそり話題を持っていかれた。校長の紹介の後この美少女が演壇に立つ。見られることを意識して完璧に作り上げられた笑顔を浮かべポーズをつけながらきれいな声であいさつする。
「東京都の世田谷区立砧西中学校から転入してまいりました原絵里香です。都内の芸能プロダクションに所属してモデルをやっています。なのでモデルのお仕事であまり学校には来られないかもしれませんがみなさんどうぞよろしくおねがいします」
と言うと軽薄な男子が
「よろしくおねがいしまーす」
とおどけて答えて大爆笑になった。他の男子たちも
「おーっ、モデルかぁ」
「あれだけきれいだもんね」
「いーなー、モデルとつき合いたい」
「あれだけきれいならモデルに向いているわ」
と口々に絵里香についてしゃべった。総じて男子たちは「モデル」の一言に弱かった。一方女子生徒たちは嫉妬と反感を絵里香にめらめらと燃やしていた。
「なにが『モデルをやっています』よ」
「そーよ、そーよ」
「男子たちもモデルと聞いた途端目の色変えちゃって」
「みんなバカじゃないの?」
「モデルと聞いてでれでれしちゃって」
「男子ってなんでモデルに弱いわけ?」
「本当、男子っていやよね」
「あの子もちょっときれいだからって鼻にかけちゃって」
「イヤミよねぇ」
「そうそうわざわざあんなところで『モデルをやっています』って自慢げに言わなくても」
「自慢したかったのよ」
「モデルだもんね」
「男子の気を引こうとしているのは見え見えよね」
「『あたしはモデルなの。あんたらとは違うのよ』と言わんばかりなのが許せないわ」
「言えるわぁ」
とすこぶる評判が悪い。
モデルの絵里香は何かにつけて校内の男子にちょっかい出していた。絵里香は昼休みに校庭でサッカーしようと昇降口から出てきた古谷に目を付けた。
「ちょっと君」
「はい、なんですか」
絵里香は古谷の胸のクラス章をチラと見て
「2年生?」
「はい」
「あたしとつき合わない?」
「いえ、つき合っている人がいますので」
絵里香はにべも無く古谷に断られてムカついた。これまで絵里香はその美貌で交際を申し込んだ男子に振られたことなど一度もなかった。むしろ絵里香とつきあいたい男達を振ることに絵里香は快感を感じていた。美少女の絵里香は欲しい物があれば周りの大人にニコッとほほ笑めばなんでも手に入った。それゆえ絵里香は「モデルをやっている美しい自分」に絶大なる自信を持っていたのになびかない古谷にプライドを傷つけられたような気がした。
「何でぇ?! あたしモデルよ。つき合わないって、あんた頭おかしいんじゃないの?!」
古谷は上級生の絵里香の態度が急に変わったのでおろおろした。
「ちょっと、何とか言いなさいよ」
と絵里香は古谷を詰問する。古谷が上級生に詰め寄られどうしてよいか分からず困惑しているところに佑奈が通り掛かる。
「ちょっと古谷君、何やってんの?!」
佑奈のトーンに軽い嫉妬が含まれている。
「あっ、佑奈。この先輩がはっきり断っているのに『つき合え』って聞かないんだ」
「原先輩、あたしの彼に手を出さないで」
佑奈は古谷を絵里香から引き離すように間に割り込んだ。絵里香は値踏みするように佑奈の全身をしげしげと見た。
「ふーん、この子が彼女さんなのね。随分とちんちくりんな小娘じゃないの。こんな子のどこがいいわけぇ?」
「僕は佑奈が好きなんだ。先輩のように佑奈を悪く言う人とは友達にだってなりたくない!」
古谷がおろおろしながらも言う。
「古谷君」
佑奈は恋する乙女の目で古谷を見た。それに気付いた古谷は思わず口走ったせりふに真っ赤になった。身長177cmの絵里香は143cmの佑奈を文字通り「見くだして」いた。明らかに自分より「美しくない」(と絵里香が判断した)佑奈を古谷が迷わず選んだことに腹が立った。そして明らかに自分よりも格下だと思っている佑奈に「負けた」ことが猛烈に悔しくなり絵里香は佑奈の顔面に向けて正拳突きを繰り出した。絵里香はプロポーション維持のためにテコンドーを習っているのだ。もちろん絵里香は佑奈をびびらせて尻餅の一つもつかせてやろうということなので寸止め(当たる寸前で拳を止めること)するつもりであった。周りで様子を見ていた女子生徒たちは「きゃーっ」と言って手で顔を覆った。見ていた誰もが佑奈が絵里香に殴り倒される姿を想像して目をおおっていた。しかし佑奈は絵里香の拳を見切り大したことなさそうにひょいとかわしたのだ。
「えっ?!」
絵里香の口から思わず言葉がこぼれた。あの正拳突きをかわすなんて。しかし絵里香は「あれはきっとまぐれでよけられたのよ」と思い体制を立て直すべく
「まぐれとはいえ、よくよけられたわね。次はそうはいかないわよ」
と動揺しているのをごまかすと再び佑奈の顔面に向けて正拳突きを放つ。しかしこれも難なく佑奈はかわす。
「うそっ!」
思わず口に出し絵里香は慌てて口を手で覆った。絵里香の美容と健康のためやっているお嬢様芸など半年間米軍で戦闘のための格闘技をみっちりしこまれた佑奈の敵ではなかった。
「佑奈!」
「古谷君心配いらないわ。完全に手を見切っているから」
「でも」
「むしろ原先輩にケガさせないよう祈っていて」
「大口叩けるのも今のうちだけよ」
二人の会話を聞いて頭に血が上った絵里香は矢継ぎ早に正拳突きを次々と繰り出してくる。前に通っていた世田谷区立砧西中学校では絵里香は女王様だっただけにここで佑奈を倒さないと海老名市立大塚中学校でも女王の座を手に入れることができない。なので多くの生徒たちが見ている前で佑奈に一発も当てられないことにイラだっていた。それゆえ絵里香は佑奈のほうが明らかに強いと言う事が見抜けず、勝てない奴とは喧嘩しないという喧嘩の王道を見失っていた。佑奈は踊るようなフットワークで軽やかに絵里香の攻撃をかわしてゆく。素人相手にケガさせたらいけないので佑奈は反撃しない。
女子生徒たちは
「からまれて佑奈かわいそー」
「原先輩ってやな性格よね」
「ちょっと美人だからって鼻にかけちゃって」
「二言目には『あたしモデルだから』だもん」
「あれじゃ彼氏なんてできないよ」
「佑奈にぼこぼこにされるといいんだわ」
「けんか売られて佑奈かわいそー」
「半年ぶりに再会した古谷君とろうとするなんて」
「原先輩ってひどいよね」
「まるで泥棒猫」
「佑奈がんばれーっ」
「あたしがついてるわー」
「原先輩やっつけちゃえ」
とおしゃべりする。
あとから校庭に来た男子が近くの男子に喧嘩の原因を尋ねる。
「なんであの二人喧嘩してるの?」
「上月が原先輩の足を踏んだらしい」
「そうなのか?」
「いや、上月がアメリカ帰りを嫌味に自慢したらしい」
「『モデルの原先輩よりも自分のほうが美形だ』と上月が言ったらしいぞ」
「モデルの原先輩登場でアメリカ帰りの上月が注目されなくなったのでキレたらしい」
「上月に『ブス』と言われた原先輩が怒ったようだよ」
「『アメリカのモデルは原先輩なんかよりずっときれいだ』と上月が言ったんだ」
「まじで?!」
「原先輩が上月に『ちんちくりんな小娘』って言ってたぞ」
「原先輩が身長を自慢してたのか?」
「そうらしい」
とデマが広がってゆく。総じて男子たちは美人の絵里香に好意的で佑奈が悪者にされていた。
「でも身長が30cmくらい低いのに上月よくがんばってるよなぁ」
「むしろ上月のほうが有利だ」
「原先輩はあれだけパンチを繰り出していて一発もかすってない」
「接近戦に持ち込まれたら上月が断然有利だ」
と男子たちは論評した。
佑奈はムキになって攻撃してくる絵里香に困惑していた。
「上月佑奈! 怖くて反撃できないようね。降参して古谷をよこしなさい」
「い・や・で・す」
「なら手加減してたけど本気出すわよ」
と一発も当たらないことに腹を立てた絵里香は今度は寸止めではなく本気で佑奈を殴り倒すつもりで正拳突きを繰り出してゆくがことごとくかわされる。
「きぇーっ」
と絵里香のような美少女の口から出るとは思えないような叫び声を上げ絵里香は佑奈に殴りかかる。しかしよけて回る佑奈にまったくかすりもしない。三十数発正拳突きを出し続け絵里香の息が上がり膝に手を突いてぜいぜいと肩で息をしている。佑奈は困惑して
「先輩もうやめにしましょうよ」
「うるさい、お前を一発殴らなきゃあたしのプライドがゆるさないの」
「じゃあおとなしく一発殴られるから勘弁して下さい」
「ふざけるな」
佑奈にバカにされたと思い完全に逆上した絵里香は佑奈の不意を突いて膝上15cmに切った短いスカートがまくれるのにも構わず回し蹴りを放った。絵里香は「もらったぁ」と勝ちを確信したが佑奈は間合いを見切ってそれもかわし、さらに絵里香の軸足を軽くひっ掛けてやった。重心が上方に移動している不安定な状態の絵里香は不様にひっくり返りその拍子にスカートがまくれパンツ丸見えになった。モデルの絵里香はOLや女子大生がはくような黄色いレースのセクシーショーツをはいていた。それを見ていた男子たちは
「おぉ黄色だ」
「なんかものすごくいやらしいパンツはいてるぞ」
「さすがモデルははいてるパンツも違う」
「あれもパンツ見せようとわざと倒れたのか」
「きっとそうだぜ。モデルだからみんなに見てもらいたいんだよ」
「いい先輩だなぁ」
「お前どっちが勝つと思う?」
「俺、原先輩」
「そうかぁ? 俺上月のほうだと思うけど」
「原先輩の方が攻撃数多いじゃん」
「でも一発も当たってないぞ」
「上月はよけているだけで反撃していない」
「そうだけど」
「上月はかわすことはできても勝てないと分かっているんだよ」
「そうなのか?」
「だと思うよ」
「なんだそれ」
「俺上月を応援するな」
「じゃあ俺、原先輩」
「賭けるか?」
「おうよ」
「上月に100円!!」
「じゃあ俺は原先輩に100円!!」
「なになに、賭けやってんの?! 俺は原先輩に200円!!」
「こっちは上月に100円!!」
「原先輩に500円!!」
とわーわー賭けが始まった。中には
「上月がんばれーっ! 100円賭けたぞーっ」
「200円賭けました。原先輩がんばって」
「負けるなぁ、上月。100円賭かっているんだぞぉ」
と筋違いな応援をする生徒もいた。
女子生徒たちは
「何あのいやらしいパンツは」
「普通学校にあんなのはいてくるかしらね」
「淫乱女子大生じゃあるまいし」
「見せたいんでしょ。スカートも異常に短く切ってるし」
「露出狂の変態?」
「わざとあーやって倒れてパンツ見て男子の気を引こうという作戦よ」
「そっかー」
「モデルは見られてなんぼの商売だもんね」
「そうそう見て楽しんでもらおうってことでしょ」
「あたしもわざと倒れてスカートまくろうかなぁ」
「むりむり、あんたじゃ誰も見向きもしないよ」
「ひどーい」
「それどころか踏みつぶされるよ」
「ぐしゃっとね」
と絵里香に対して反感をあらわにしている。
まくれたスカートをあわててなおし立ち上がった絵里香は
「よくもモデルのあたしに恥をかかせてくれたわね」
渾身の力で佑奈をぶちのめそうと正拳突きを繰り出す。佑奈はそれを余裕でかわし反射的に絵里香のみぞおちに一発正拳突きをくらわすと絵里香は「ぐえっ」という蛙がつぶれる音のような声を出すと白目を剥いてその場に伸びてしまった。
「あっ、本気出しちゃった。先輩大丈夫?!」
佑奈は「しまった」という表情で口元に手を当てる。倒れた拍子にまた絵里香のスカートがまくれ男子に大サービスとなってしまったが近くにいた女子生徒が飛び出しあわててスカートを直し、
「ちょっと男子たち見るんじゃないわよ」
「原さんだいじょうぶ?」
「気絶してるわよ」
「とにかく保健室に連れてきましょ」
「ほらっ、そこどいて」
と女子生徒6〜7人がかりで保健室に絵里香をかつぎ込んだ。男子たちは
「いーぞぉ、上月佑奈。かっこいー」
「術を使わなくても強いなぁ」
「すごい戦いだったなぁ」
「上月佑奈は大塚中女子チャンピオンだぜ」
「上月佑奈ってあんなに強かったか?」
「原を一発でノックアウトだぜ」
「原は白目向いて気絶してたぜ」
「女子たちもしばらくスカートまくれたまま原先輩を置いといてくれりゃよかったのに」
「そうだよ。あんなにすぐ保健室に連れていくことないじゃん」
「本人気絶してパンツ見られてる事わかってないんだし」
「カメラがあったらなぁ」
「いい写真が撮れたのにね」
女子生徒たちは
「すごい戦いだったね」
「うん」
「K−1見てるようだったわ」
「なんか見ていてスカっとしたね」
「あの嫌味なモデル女が一発で倒されて」
「そうよ、いい見世物よね」
「一発で倒されたって事ははったりで殴ってたのね」
「たいして強くないのよ」
「上月佑奈も手加減してからかってたのね」
「それに気付かずムキになっちゃって」
「バカみたいよね」
「パンツが見えちゃうのに回し蹴りまでして」
「これで『あたしはモデル』って自慢しなくなるでしょ」
「上月佑奈に天狗の鼻をへし折られたしね」
「いいざまよ」
それまで目の前で展開される自分をめぐる激しい女の戦いを怖々見ていた古谷は佑奈が絵里香を一発でノックアウトする様子を目の当たりにして呆然と立ち尽くしていた。
その3へ
古墳少女佑奈と古墳少女佑奈2をまず読むと世界観がよくわかります。
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