小説の部屋


2005/8/7 脱稿    

古墳少女 佑奈3

   

その3

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈古墳少女佑奈2をまず読むと世界観がよくわかります。

第3章 あたし悪くないです

 佑奈は生活指導の佐藤先生に生活指導室に呼び出された。絵里香が佑奈にいきなり殴り倒された、と言いつけたのだ。
「こらっ、上月。帰国早々乱闘騒ぎとは何事だ」
「だってぇ、原先輩がいきなり殴りかかってきたんですよぉ」
「向こうはお前がいきなり殴りかかってきたって言ってるぞ」
「そりゃ先生嘘です」
「そもそも発端はなんだ」
「原先輩があたしの彼の古谷君にしつこく言い寄っていたんです」
「それで殴ったのか」
「ち、違いますって。嫌だと言うのに原先輩がしつこく古谷君に言い寄っているので…」
「ノックアウトしたわけか」
「先生! あたしの言う事ちゃんと聞いて下さい」
「わかったよ、それで」
「それでぇ、あたしが間に入ってやめるように言ったら原先輩がいきなり殴りかかってきたんです」
「全然話が逆だな」
「たくさんの生徒が周りで見ていましたから聞いてみて下さい」
「うむ」
「あたしはケガさせたらいけないと思ってひたすら反撃しないでかわし続けていたんですよ。『もうやめよう』とも言ったのに原先輩は回し蹴りまでしてくるし…」
「だからといってノックアウトすることないだろ。えっ」
「反射的に手が出ちゃったんです。そしたらたまたま当たりどころが悪くて…」
「たまたまじゃないだろ。原はモデルやっているんだぞ。顔に傷でも付いたらどうすんだ」
「向こうが仕掛けてきたんです。あたし悪くない」
「お前自分がどれだけの不始末やらかしかたわかってないな。反省文原稿用紙20枚」
「ひぇーっ」
「『ひぇーっ』じゃない」
「上月は反省がまだまだたりないとみえるな。50枚に変更」
「やだ、もぉーっ」
 そこへがらがらと扉が開いて
「佐藤先生失礼します」
と泉崎礼香が入ってきた。
「なんだ泉崎。とりこみ中だから後にしろ」
「今回の一件は佑奈は悪くないですわ。あたしも一部始終を見ていましたが原先輩がいきなり佑奈に殴りかかり、佑奈は反撃しないでかわし続けていたんですが原先輩が回し蹴りをしまして、佑奈は原先輩にやめるよう説得したんですが完全に逆上した先輩が佑奈に殴りかかったんで仕方なく佑奈はノックアウトしたんだと思います」
「しかし原は上月がいきなり殴りかかってきたって言ってるぞ」
「それは嘘です。裏付け捜査をすれば多くの生徒が周りで見ていましたからすぐにわかりますよ」
「うーむ今泉もそう言うのであれば原が嘘をついている可能性はあるな」
「ちょっと先生、何で礼香が言うと同じ話で納得するんですか?!」
「上月は火を吹いたり電撃飛ばしたりといろいろと問題起こしていたからな」
「そんなぁ」
「上月、帰っていいぞ。泉崎の言う点調べてみるわ」
「ありがとうございます」
「あのっ、反省文は」
「書かんでよい」
「やったー」
「いいか、上月。あまり騒動起こすなよ」
「はーい。礼香ありがとうね。助かったわ」
「それでは佐藤先生、失礼致します」
物腰優雅に礼香が生活指導室を出る。佑奈もやけくそな調子で
「失礼致しやしたぁ」
と言い礼香の後を追った。
 廊下で歩きながら佑奈は礼香と話す。
「佑奈も帰国早々災難ね」
「そうなのよぉ。キャサリンがいなくなったと思ったら今度は原先輩でしょぉ。イケメンの彼を持つと苦労が絶えないわぁ」
「はぁ、助けるんじゃなかった」
「えっ? なんか言った?」
「ううん、何でもない」
「そう」
「それにしても佑奈はいつあんなに強くなったのよ」
「あぁ、アメリカでね訓練受けたから」
「佑奈も苦労したのねぇ」
「礼香」
佑奈がアメリカでの苦労話を始めそうだったので
「ほら佑奈、誰が聞いているかわかんないからここではよそうね」
「あっそうよね」
礼香の意図に佑奈も気付いた。
「古谷君にも話さない方がいいわよ」
「どうして」
「彼も巻き込む気?」
「あぁ、そうよね」
「もちろん瑞穂にもね」
「うん」
二人は昇降口に向かった。

 久し振りに佑奈は礼香と二人で帰る。佑奈がアメリカでの苦労話ができないのは辛かろうと礼香の家に佑奈を招いて話を聞くことにしたのだ。佑奈を部屋に通すと礼香はセーラー服を脱ぎ白いタートルネックセーターとチノパンに着替えた。そして台所にゆき紅茶を入れクッキーを菓子器に盛って部屋に戻ってきた。
「佑奈もアメリカではいろいろ大変だったみたいね」
「そうなのよ、礼香聞いてよ。楽しいジュニアハイスクール暮らしが待っていると思ったら具体的な場所を言えないところにある軍事基地にニューヨークのJFケネディ空港で乗り換えた飛行機が着陸してね、そこでずーっと軍事訓練を受けさせられたのよ」
「そうなの? 佑奈ってアメリカ政府の交換留学生じゃなかったの?」
「あれは表向き。あたしをアメリカに連れ出すための方便よ。まさかどっかの国みたいに拉致するわけにはいかないでしょ」
「そうだったの。まさかそこまでひどいとは思わなかったわ。てっきり学校に通う合間に訓練かと思ったわ」
「違うのよ。最後の1か月間だけカルフォルニアのキャサリンの家にホームスティして現地のジュニアハイスクールに通い、キャサリンのご両親にディズニーランドや大リーグの試合を見に連れていってもらったけどね。おみやげや記念写真は全部そのときに撮ったんだから」
「そこだけはよかったじゃないの」
「よかったのはそこだけね。パラシュートで森の奥に降下して英語で書かれた地図を一枚渡されて20キロもあるリュックサックを担いでその日のキャンプ地点まで30キロも歩くのよ。礼香信じられる?」
「あたしには想像もつかないわ」
「でしょう?! キャンプ地に着かないと森の奥で一人で野宿しなくちゃいけないのよ。電気を消すと真っ暗な森で」
「でも佑奈はその訓練でアウトドアの達人になったんじゃないの?」
「まぁね、今度礼香と瑞穂の3人でキャンプに行こうよ。アメリカ軍事込みのアウトドア術教えてあげるから」
「遠慮しとくわ。英語で書かれた地図を一枚渡されて森を歩くなんて嫌ですからね」
「礼香ひっどーい。でも究極の英語勉強法よ。英語が分からないと確実に遭難するから」
二人は顔を見合わせて笑った。
「それに瑞穂もまずいわ」
「どうして?」
「瑞穂を入れたら佑奈がアメリカで何をしてきたかわかっちゃうじゃないの」
「あっそっか。じゃあ礼香と二人で行こうね」
「だから、そうじゃなくて佑奈のアウトドア術は家族旅行にでも役立てて頂戴」
「はーい」
「佑奈が原先輩を倒した格闘術も米軍仕込み?」
「そうよ。毎日3キロ走らされた後大柄なアメリカ人相手にトレーニングしたの。戦場では誰も助けてくれないからあのくらいできないと死んじゃうの」
「軍隊ってきびしいのねぇ」
「そうよ。ほいほいアメリカに行ったあたしがバカだったわ」
「佑奈…」
その場の空気が少し重くなったので礼香は努めて明るく
「原先輩とやりあったとき佑奈は結構余裕みたいだったわね」
「うん、完全に手を見切っていたからかわすのは余裕だったわ。素人にケガさせちゃまずいでしょ。だからなるべく穏便に済まそうとしたのに原先輩がムキになってかかってくるのでつい手がでちゃったのよ」
「原先輩も困ったものね。あたしたちを目の敵にして」
「ノックアウトしちゃったのを完全に根に持ってるし」
「また何かしかけてこなけりゃいいけど」
「まぁ、あたしのことぶちのめすまで原先輩は許してくれないでしょうよ」
「いい、佑奈。原先輩がまた何かしかけて来ても相手にしちゃだめよ。佑奈のほうが断然に強いんですから」
「礼香わかってるわ。また生活指導室はいやだもん」
「わかっているならいいわ」
「でもどうしよう。正直いって原先輩迷惑なんだけど」
「うまく受け流すしかないわね」
「そうかぁ、それしかないか。」
「我慢するのも時には必要よ」
「うん」
「あんな先輩に振り回されず佑奈は吹奏楽部の活動に専念して」
「礼香わかったわ」
佑奈は誰にも言えなかったアメリカ留学の真相のすべてを親友の礼香にぶちまけすっきりした顔で帰っていった。

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