小説の部屋


2005/8/7 脱稿    

古墳少女 佑奈3

   

その4

この小説を読む前に前作 古墳少女佑奈古墳少女佑奈2をまず読むと世界観がよくわかります。

第4章 絵里香の横暴

 絵里香vs佑奈の対決は大塚中学校の話題をさらっていた。3年生男子たちは二人の対決をいろいろと論評した。
「原の正拳突きはすごかったよなぁ」
「でも上月は余裕でかわしていたじゃん」
「あれはすごかったな」
「原の拳を上月は完全に見切っていたよな」
「うん」
「上月は余裕で勝てたから原をしばらく遊ばしといて一発で仕留めたんだぜ」
「そうだね」
「原は喧嘩吹っ掛けといて『ぐえっ』とへんな声出してのびちゃったのはみっともないね」
「美形が台無しだよ」
「原が『モデルモデル』と鼻に掛けた態度だから上月が怒ってノックアウトしたんだよ」
「そうだよね。女子たちみんな原のこと嫌ってたもん」
「そうでなかったら上月はノックアウトしないで手加減していたと思うぜ」
「俺、今回の一件で原に完全に幻滅したなぁ」
「俺も」
「ただのわがまま女だもん」
「あれだけきれいなんだから2年生の泉崎みたいに性格よければなぁ」
「ほんとほんと」
「でも原はただやられたままでいないだろうな」
「どうゆうこと?」
「当然上月佑奈に仕返しするだろ」
「なるほど」
「こんどはただでは済まないよ」
「あぁ、血を見るな」
「原は上月を闇討ちするんじゃないか」
「ありえるな」
「あいつは勝つためにならどんな卑怯な手段でも使いそうだもんな」
佑奈にノックアウトされた絵里香の評判はすこぶる悪かった。
 絵里香は校内のあちこちで
「悪いのは上月佑奈であたしはいきなり殴られた」
と負け惜しみを言って歩いていた。絵里香が佑奈にいきなり殴りかかって一発もかすりもせず、回し蹴りまでしたのに返り討ちにあいノックアウトされたことは多くの生徒たちが周りで見ていたから嘘がバレバレで誰も信じず、ますます絵里香の信用を落とした。それでもモデルとつき合いたい男子と絵里香に「芸能人を紹介してやる」と言われ信じた女子生徒たちが絵里香のとりまきとしてついていた。絵里香はちょっかい出した多くの男子の一人にすぎない古谷を手に入れられなかったことよりもみんなが見ている前で佑奈にノックアウトされ恥をかかされたことを根に持ち絵里香は何かと佑奈に突っ掛かってくるようになった。佑奈にノックアウトされ自慢のテコンドーが役に立たなかったのに懲りたので絵里香は直接佑奈に喧嘩を仕掛けてくることはなかったがとりまきの女子生徒を使って佑奈のことをあれこれ悪く校内で言い触らしていた。しかし誰が見ても負け犬の遠吠えなので誰も真に受けなかった。

 「ねぇ礼香」
佑奈は2年2組の教室で礼香に話しかけた。
「佑奈なぁに?」
「原先輩があたしの悪口いろいろと言い触らしてるのよ」
「知ってるわよ。あたしや瑞穂のことまで悪く言ってるから」
「またぶん殴っていいかなぁ」
「駄目よ。そんなことしたらまた生活指導室ゆきよ」
「だってぇ、原先輩ムカツク」
「佑奈の方が明らかに強いんだから手を出しちゃ駄目」
「でもぉ」
「いい、賢明なる大塚中学生たちは誰も原先輩の言う事なんて聞く耳もってないから大丈夫よ」
「佑奈ぁ、また原先輩やっつけるのぉ?」
不意に高田瑞穂がにこにこしながら後ろから声を掛けたので二人はギョッとした。いったい瑞穂はいつの間に来たんだろう。礼香が
「瑞穂いったいいつから聞いてたの?」
「『またぶん殴っていいかなぁ』から」
「佑奈はそんなことしませんからね。変なこと言い触らさないでよ」
「はぁーい」
と言う瑞穂の目は「みんなにしゃべっちゃおー」と輝いていた。礼香は瑞穂が尾ひれを付けて言い触らすのがわかっていたので頭を抱えたい気分だった。
 次の時間は美術。3年生の教室のそばにある美術室に佑奈たち2年2組は移動。スケッチブックを持ち礼香と現れた佑奈を見つけた3年1組の絵里香は
「あっ、暴力女とその友達だ」
と佑奈を挑発する。礼香は佑奈のセーラー服の袖を引き、目で「相手にしてはだめよ」と佑奈を制する。佑奈も目で「わかっているわ」と答える。絵里香は二人に無視されて腹が立った。モデルの性なのか自分が注目されないと絵里香はものすごく頭に来るのだ。絵里香は手近にあった数学の教科書を佑奈に投げ付けるが佑奈はヒョイとそれをかわす。その場にいた一同がまた絵里香と佑奈の乱闘かぁ?!と凍り付いたが佑奈は
「3年生の教室にはでっかいハエが飛んでいるのねぇ」
と礼香に言い礼香は上品にくすくす笑いながら何ごともなかったかのように美術室に消えて行った。絵里香は廊下に落ちている教科書を惨めな思いで拾いながら
「上月佑奈ぁ! 覚えてなさい!」
と歯ぎしりした。

 その日の放課後、音楽室。吹奏楽部員たちが合奏の準備をしている。がらがらとドアを開けてあたしを見てみてと言わんばかりの雑誌のグラビアのようなポーズで原絵里香が現れる。また佑奈に喧嘩を売りにきたのか!と吹奏楽部一同凍り付いた。重苦しい沈黙の後に泉崎礼香が
「原先輩、何か吹奏楽部にご用ですか?」
「あたし吹奏楽部に入ろうと思って」
「えっ?!」
これには礼香も驚いた。絵里香は手に入部届をひらひらさせているがどうみても佑奈への当てつけにきたとしか思えない。
「先輩楽器できるんですか?」
「あたしフルート吹けるのよ」
「そうなんですか」
「だからあたしが今日からフルートパートリーダーね」
「ちょっと原さん。どれだけ吹けるのかもわからないのにパートリーダーにするわけないでしょう」
と3年生でフルートパートリーダーの田山美香が絵里香をたしなめる。
「もちろんうまいわよ。じゃあ特別に聴かせてあげるわ。あたしのフルートを」
フルートパート1年生の小川竹子の胸の名札を見て
「ちょっと小川。あたしのフルート出してきて」
「えっ」
と困惑して美香の顔色を伺っている竹子の尻に絵里香は軽く蹴りを入れ
「この、ぐずっ。早く持ってくるの」
と怒鳴られて竹子は泣きながら音楽準備室にフルートを取りに走る。礼香は
「ちょっと先輩。1年生を蹴りとばすなんてかわいそうじゃないですか」
「パートリーダーのあたしの言うことをきかないからよ」
「暴力は吹奏楽部で認めませんよ」
「じゃあそこにいる上月佑奈はあたしのこと殴り倒したんだから除名ね」
「あれは先輩が殴りかかってきたんでしょう」
と佑奈が反論していると竹子が予備のフルートをおずおずと絵里香に差し出す。ケースを開けて中を見た絵里香が
「まぁ、古汚いフルートねぇ。モデルのあたしにこんなのを吹かせる気ぃ?」
竹子をにらみ付けると竹子は思わず後ずさる。
「まぁ、いいわ。あたしかどれだけフルートがうまいか聴くがいいわ」
と絵里香はエルガーの<愛のあいさつ>をソロで吹いた。確かに大塚中学校吹奏楽部フルートパートの3人よりも絵里香のフルートは技術的にうまかった。しかし絵里香のそれはあくまでモデルの自分にハクをつけるためのもので自分を良く見せてやろういう意図が見え見えの独奏だった。だから吹奏楽部で美しい音楽をみんなで作り出そうとか聴く人に喜んでもらおうといった意図はまるでなく、どちらかと言えば合奏では聴く人を不愉快にさせる異分子となりうる演奏だった。だから愛のあいさつもどこかとげとげしい物に聞こえた。はっきり言って部長はトラブルメーカーの絵里香の入部を認めたくはなかった。しかし校則で体力的に無理など正当な理由なく入部を拒むことはできなかったので顧問も絵里香の入部を認めた。
 絵里香はなまじフルートがうまいのを鼻に掛けるだけで美香や竹子に教えてやろうなんて考えなかった。それどころか他の部員を見下したようなふるまいをして問題ばかり起こすので吹奏楽部をやめると言う1年生が続出して3年生たちが引き止めに必死だった。なかでもいちばんかわいそうなのはフルートパート1年生の小川竹子で絵里香の付き人というか使い走りにさせられていてドジを踏んだり絵里香の気に入らないことがあると絵里香は他の部員に見えないところで竹子を平手打ちにしたり、蹴りを入れたりしていた。笑顔できゃっきゃ言っていた竹子の表情が日に日に暗くなっていった。

 ある日の練習帰りに絵里香は竹子を昇降口で待ち伏せした。竹子はこわ張った表情で
「原先輩お疲れ様です」
とあいさつした。絵里香は眉をひそめ
「竹子、今日の演奏はいったい何?!」
「えっ?!」
「隣で聴いてて耳が腐るかと思ったわ」
「そんな」
「竹子、今日はあたしの家につき合いなさい」
「えっ?!」
「フルート教えてあげるから」
「えっ?!」
他のフルートパートの部員をさんざんバカにしてきた絵里香が今になってフルートを教えてくれるなんて思えない。だから竹子は
「あの、今日は用事があるので…」
と断ろうとした。
「先輩がフルート教えてやると言うのに嬉しくないわけぇ?」
絵里香にすごまれ竹子はつい
「いえ、その、あの」
としどろもどろになる。
「とにかく家まで来てもらうわ。カバン持って」
と絵里香は竹子に自分のカバンを持たせるとその腕をつかんで強引に大塚中学校から連れ出した。絵里香は大塚亀山古墳とは反対方向にあるワンルームマンションに家庭の事情で一人で住んでいた。絵里香の実家 原家は金持ちなので通いの家政婦がついていて絵里香は家事などせず一人で気ままに暮らしていた。竹子は絵里香の部屋に通されるというか連れ込まれる。竹子は二人分のカバンを床に置いた。絵里香は
「あたしあんたみたいなぐずでのろまを見ているとムカつくのよね」
「そんな…」
予想していたとはいえいきなり罵声を浴びせられ竹子は萎縮した。
「謝りなさいよ」
「ご、ごめんなさい…」
「心が全然こもってないわ。『ごめんなさい』って言えばいいと思っているんでしょ」
「ち、違います」
「そういう上級生をなめた態度が気に入らないのよね」
「いっ、痛い。何をするんですか」
絵里香は竹子の手首をつかむと後ろにひねり手早く両方の手首を縛り上げた。いきなり絵里香に後ろ手にしばられて竹子はものすごく恐ろしかった。これでは絵里香に何をされても竹子は抵抗できない。竹子はいましめから逃れようと全身をもぞつかせる。
「先輩、ほどいて下さい」
「うるさい! ごちゃごちゃ言うとスカート脱がすわよ」
「そんな」
絵里香のことだからスカートだけでは済まないだろう。逆らえば絵里香に全部脱がされて裸にされてしまうかもしれないという恐怖に竹子は包まれ
「わ、わかりましたからぶたないで…」
と涙目で言う。

ばちん

竹子の頬に絵里香の平手打ちが走る。何発も何発も。竹子の口の中が切れ唇からしたたった血が竹子のセーラー服を汚す。
「痛い。先輩やめて下さい」
「うるさい。あんたみたいなぐずでのろまはあたしの人間サンドバックになるくらいしか世の中の役に立たないんだから使ってもらい感謝しなさい」
「ひ、ひどい」
「お礼の言葉は?」
「……」
ふたたび竹子の頬に絵里香の平手打ちが走る。竹子はあわてて
「せ、先輩 あ、ありがとうございました」
と口から血をたらしながらいわれのないお礼を絵里香に言うのであった。
「あたしが悪いんじゃないのよ。恨むんなら上月佑奈を恨みなさい」
そう言ってもう一発竹子を打った。対決しても勝てない上月佑奈への恨みがその後輩の小川竹子に向けられていた。
 絵里香は悪どいことに頬に平手打ちをするほかは痣になっても体育のとき半袖の白丸首シャツとクォートパンツに隠れて見えない部分ばかりに殴ったり蹴ったりして親や先生に竹子をいじめていることがわからないようにしていた。絵里香は
「上月佑奈死ねぇーっ」
と叫びながら竹子を殴りつける。竹子は怖くて身がすくみよけることもできない。「ぐぇっ」という声を上げ血へどを吐いて倒れる。絵里香は血走った目で
「竹子、誰が寝ていいと言った。立て」
と命ずる。竹子は絵里香の言うことを聞かないともっとひどい目にあわされるからあわてて
「も、申し訳ありません」
と言いよろよろと立ち上がる。今度は竹子の尻に後ろから回し蹴りをして竹子は前のめりにふっ飛ぶ。
「先輩もう許して下さい」
「うるさい、あたしに命令するな」
と絵里香は抵抗できない竹子に馬乗りになってぼかぼか殴った。しばらく竹子を暴行したあと絵里香は憂さが晴れたのか竹子の手をほどき
「竹子、今日は帰っていいけれどこのことを誰かにしゃべったらこんなもんじゃ済まないよ」
「は、はいっ」
竹子が恐怖に目を見開き帰ろうとするのを絵里香は後ろ髪つかんで引き戻す。竹子は
「いっ、痛い。先輩、髪の毛引っ張らないで下さい」
と涙声で言う。絵里香は
「先輩に指導してもらってお礼も言わずに帰るわけ?」
「髪の毛放して下さい」
「お礼は?!」
「せ、先輩ありがとうございました」
と竹子は息も絶え絶えにお礼を言う。絵里香が後ろ髪を放すと竹子は目に涙をため転げるように逃げていった。それを絵里香はげらげら笑いながら見送った。

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古墳少女佑奈古墳少女佑奈2をまず読むと世界観がよくわかります。

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