絵里香の竹子へのいじめは日に日にエスカレートしていった。宿敵上月佑奈と直接やり合っても勝てない絵里香の怒りが弱い竹子に向かうのだ。ある日など逆上するあまり絵里香は竹子が失神するまで殴り付けた。竹子は身も心もぼろぼろになり自殺すら考えていた。練習に出なければいいのだろうけれど竹子は絵里香におどされて吹奏楽部の練習を休むことも許されなかった。休んだりしたらその後が怖い。
またある日、竹子は絵里香に3年1組の教室前の廊下へ呼ばれた。
「いい、これからあることを竹子にはやってもらいます」
「あることって?」
教室の中を指差し
「あそこにいる男子、名前は田中孝二」
「はぁ?」
「これから竹子は田中の所へ行って『好きです』と告白して、唇を奪うの」
「そんな」
「あら竹子、いやならしなくていいのよ」
「えっ?」
「あたし無理強いは決してしないから。竹子が彼のこと本当に好きなら告白して」
と言う絵里香の目が凶悪そうに光る。やらないと後でひどい目に合わされる。竹子はいやいや好きでもない男子に告白することにした。
一足先に絵里香は3年1組の教室にもどって自分の席にいる。竹子はティーンズ小説のように初告白とかファーストキスは大好きな男子とロマンチックなムードでするものだと夢見ていたのに、好きでもない上級生に告白しキスまで強要されるなんて…。でもやらないとまた絵里香にぼこぼこになるまで殴られる。竹子は死にたくなった。竹子は3年1組の教室のドアに立ち
「失礼します」
と言う。3年生たちの視線を集め竹子は身をすくませる。「だめ、 できない」竹子は思った。絵里香の目が「竹子、早くコクってキスしろ」とにらむ。そこへ2年生の泉崎礼香が顔を出した。
「失礼致します」
とても優雅な物腰で礼香は3年1組の教室に入ってくる。
「竹子ちゃん捜してたのよ。こんなところにいるんだもんなかなか見つからなかったわ。ちょっと来てくれる」
「あの、泉崎先輩」
竹子は絵里香の顔色をうかがう。
「いいから来て」
礼香は強引に竹子を連れ出して階段を下り音楽室に入る。そこには誰もいなかった。
「竹子ちゃん最近何か暗いから原先輩と何かあったのかなと心配してたけどあんな風にいじめられてたとは気が付かなかったわ」
そう言われた竹子の目にみるみる涙があふれ
「泉崎先輩」
とだけ言うと礼香のセーラー服の胸に顔を押し当ててわんわん泣き始めた。礼香はただやさしく竹子の頭をなでてやった。竹子の泣き声を聞きつけて佑奈も音楽室に現れた。
「礼香ひどーい。竹子ちゃん泣かした」
「あたしがいじめるわけないでしょ」
「わかっているわ」
佑奈も礼香のとなりにすわった。
竹子はこれまで絵里香に受けた仕打ちをポツリポツリと語り始める。礼香は「あたしが話を聞くので佑奈は黙っていて」と目で制し佑奈もうなづく。
「あたし原先輩にいじめられていたんです」
「ごめんね。もっと早く気付いていたらよかったのに」
「いいんです。最初は原先輩の使い走りだったんですけれど、あたしがパー練で変な音を出したりするとぶつんです」
「なんですって!」
「それだけじゃなくて毎日練習帰りにカバンを持たされ原先輩のマンションに連れて行かれ、原先輩は上月先輩に負けたことが相当悔しいようで『上月佑奈死ね』ってあたしのことを殴ったり蹴ったりするんです」
「それはひどい」
思わず礼香と佑奈がハモる。
「あたし死にたい」
竹子は礼香の胸でわんわんまた泣いた。
「上月先輩」
「なあに?」
「原先輩をまたやっつけて下さい。吹奏楽部から原先輩を追い出してください」
「竹子ちゃんだめよ。暴力を使って解決したら原先輩と同じでしょ」
竹子をたしなめた礼香は佑奈にも
「佑奈も原先輩を殴り倒そうなんて思わないでよ」
「礼香わかっているわ。また佐藤先生に呼ばれるのいやだもん」
「でも竹子ちゃんをいじめるのは問題だわ。なんとかしなくちゃ。部長に相談してみる」
と礼香は言った。
その日3人は一緒に帰ることにした。竹子を一人にすると絵里香に何をされるかわからないので竹子を家まで送ってゆくのだ。竹子は絵里香の言い付けに背くことになり後でもっとひどい目にあわされるのではないかと内心びくびくであった。絵里香のとりまきの男子5人が3人の行く手をふさいで
「お前らちょっとそこまで顔貸せや」
「いやです」
礼香はきっぱりと断る。竹子は真っ青になって礼香の背中にしがみつくようにしてぶるぶる震えている。退路をふさぐように3人の後方にも別の男子4人が立っていた。
「道を開けないとぶん殴るわよ」
佑奈が前に出て行こうとするのをセーラー服の袖を引いて礼香は引き止め
「佑奈、暴力はいけないわ」
「でも礼香…」
「だめっ」
「絵里香さんがお待ちだ。ちょっとそこの公園に来な」
と言われ3人はなりゆきで絵里香の待つ公園に連れて行かれた。そこには絵里香の他とりまき約50人が待っていて3人を取り囲むように輪を作った。絵里香は竹子の姿を見つけ
「竹子、こっちに来なさい。あんた上月佑奈や泉崎礼香に味方したらどうなるかわかってるんでしょうね」
「あっ、あの、あたし…」
竹子は怖くて何も言えない。
「竹子ちゃん、原先輩の言う事なんて聞かなくていいからね」
竹子を抱き締め礼香がかばうように言う。礼香は困惑していた。絵里香にではなく佑奈がまた暴力沙汰を起こしたり腕輪の術を使ったりすることを。礼香は絵里香をにらみ
「原先輩、竹子ちゃんを殴ったり蹴ったりしているそうですね」
「できの悪い後輩にスパルタ指導しているだけよ」
「原先輩に指導力があるとは思えないんですけど」
包囲するとりまきの間から失笑が漏れ絵里香はにらみ付ける。
「うっ、うるさい! 上月佑奈勝負だ!!」
「えーっ、なんであたしなのよぉ」
佑奈は困惑する。礼香も冷ややかに
「正々堂々の果たし合いにしてはずいぶん大勢で来ましたね」
竹子は絵里香vs佑奈・礼香の戦いが気絶しそうなほど恐ろしかった。絵里香は
「黙れ! 勝ったら古谷はもらうわよ」
実のところ絵里香はもう古谷のことなどどうでもよかった。あくまで古谷はちょっかいを出した男子の一人にすぎないのだから。モデルの絵里香にとって学校では常に女王様でなくては気が済まない。しかし佑奈に多くの生徒たちが見ている前でノックアウトされ佑奈とそのブレインで生徒たちの人望がある礼香を倒さないことには絵里香の大塚中学校での覇権が危うい。メンツを守るためにも佑奈は許しておけない。
「なによそれ。あたし原先輩に古谷君譲るつもりはありませんから帰ります」
「上月佑奈! 逃げるの?!」
「ううん、相手にしないで帰るだけ」
また包囲するとりまきの間から失笑が漏れる。
「ここから無事に帰れると思って。お前らやっておしまい」
絵里香が号令すると包囲の輪が一回り狭まる。佑奈と礼香は竹子を挟んで背中合わせになり警戒する。佑奈がガンを飛ばすとその部分が後ずさるが佑奈が別の方向を向くとまたせり出してくる。そんなことの繰り返しが続いた。また絵里香が号令すればとりまきたちは一斉に襲いかかってくるのだろう。佑奈は妖術使いと言われるから腕輪の術を使いたくはなかったが戦闘力にならない礼香と竹子を守ってこの場を切り抜けるには腕輪の術を使うよりないと米軍仕込みの戦況分析で判断した。佑奈は礼香に
「腕輪の術を使うわよ」
と小声で言うと礼香は
「だめよ。使っちゃ」
「でも…」
その様子を見ていた絵里香は
「わはははっ、降伏する相談をしているようね。ケガしたくなかったら降伏しなさい。3人で裸踊りをしたら許してあげるわ」
「どっちもイヤです。一人じゃ勝てないからってこんなに大勢で来るなんて原先輩卑怯です」
「うっ、うるさい! 上月佑奈。勝てばいいんだ、勝てば!!」
「あたしまた怒られるのイヤですから。原先輩いい加減にしてくれませんか」
「あなたを倒さないとあたしのプライドが許さないの」
「それで一人を倒すためにこんなに大勢でかかるんですか? 卑怯な方法で勝ってもプライドが許さないんじゃないんですか?」
「あたしは勝つためなら手段を選ばないわ」
「ずいぶん安っぽいプライドですこと」
礼香がぽつりと口を挟む。
「上月佑奈びびって動けないようね」
「あたし帰って宿題しなくちゃいけないのにぃ〜」
「黙れ! おまえの宿題なんかよりあたしのプライドのほうが大事だ」
「ふぇーん、礼香どーしよ、どーしよ」
礼香は何も答えない。
「お前たち、この3人をぼこぼこにしろ」
と絵里香が命じる。さらに包囲が狭まるが誰も仕掛けてこない。とりまきたちみんなも佑奈が絵里香より強いこと、腕輪を使って妖術を使うことを知っているから誰も戦いの火ぶたを切らない。とりまきたちはモデル(原絵里香という少女ではなく)とつき合おうという男子と芸能人を紹介してあげると言われて絵里香に付いている女子だけだから一人として絵里香のために命をかけようなんて奴はいなかった。絵里香は業を煮やし
「お前らひるむな。やっつけろ」
と一人で騒ぐ。50人のとりまきたちはいかにしてこの困った状況から逃れようかと皆思案していた。
近所の人が公園でにらみ合いをしていて大乱闘になりそうな大塚中学生たちを見つけ大塚中学校に電話をした。生活指導の佐藤が自転車に乗って大慌てで公園にやってきて
「こらぁーっ、お前ら何をしとぉーる」
「やべっ、佐藤だ。逃げろ」
一人の男子が逃げ出したのをこれ幸いととりまきの生徒たちは総崩れになって我先にと蜘蛛の子散らすように公園から逃げ出した。絵里香はヒステリックに
「こら、お前ら、まだ戦いは済んでないぞ。逃げるな」
と叫ぶが誰の耳にも入っていなかった。公園には絵里香・佑奈・礼香・竹子の4人だけが残された。佐藤は4人に
「お前ら生活指導室に来い!」
と言い遅れてやってきた他の先生がたと共に4人は大塚中学校に連れてゆかれた。
その6へ
古墳少女佑奈と古墳少女佑奈2をまず読むと世界観がよくわかります。
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