それから茜は佑奈に寄り付かなくなった。佑奈は安心して吹奏楽部の練習に打ち込んでいた。しかし茜は決してあきらめたわけではなかった。
まず茜は美容室に行き背中まで届く長い黒髪をばっさりと切ってもらい佑奈と同じ肩に届く程度にした。そして手芸店にゆきプラスチックでできた勾玉を買ってきて佑奈の腕輪とそっくりなものを約1時間でこしらえた。茜は佑奈が自分を妹と認めてくれないのは茜が古墳少女ではないからだ。なので形だけでもそっくりまねれば術は使えなくとも認めてくれるのではないだろうか?と考えた。茜と佑奈の身長や体格はほぼ同じなので大塚中学校のセーラー服を着たら後ろ姿を見ただけでは泉崎礼香や高田瑞穂でも上月佑奈と長谷川茜の見分けがつかないだろう。茜は古墳少女になった自分の姿を見て
「佑奈お姉様とそっくり」
と一人悦に入った。
次の日茜が一人で学校に行くと親友の石田莉奈が目を丸くした。
「どうしたの茜ちん。何かあったの?!」
「いいえ、佑奈お姉様と同じにしてみましたの」
とセーラー服の袖口をまくり手製の勾玉の腕輪を見せた。
「えっ! それって術を使えるの?」
「プラスチックでできたニセモノだからそれは無理なの」
「なんだ、茜ちんまで古墳少女になったのかと思ってびっくりしたわ」
話を聞きつけた1年3組のお友達も茜と莉奈の周りに寄ってきて
「えっ! 長谷川さんも古墳少女だったの!」
「うそぉ、術使えるの?!」
「火を吹くんでしょ」
「違うの。これはニセモノなの」
「なんだびっくりしたぁ」
「ほんと」
「古墳少女が二人もいたら困るよね」
「うんうん」
「でもなんで? 長谷川さんが古墳少女のマネするの」
「だって、佑奈お姉様カッコいいじゃないですか」
「『佑奈お姉様』ぁ!」
1年3組一同絶句した。
放課後、茜が昇降口に向かっていると生活指導の佐藤先生に呼び止められた。
「おい、長谷川」
「先生何ですの?」
「なんだ、その腕輪は。まるで古墳少女じゃないか」
「そうです。わたくしも古墳少女なんですの」
「うそつくな。お前に上月のような術が使えるわけないだろ」
「じゃあこの学校を一瞬で火の海にしてみましょうか?」
自信を持って茜が結印に入ろうとする。もちろんこれは茜のはったりである。もしも茜にそんなことができたら耐火障壁を張ることのできる古墳少女の上月佑奈しか焼け残らない。
「まっ、待て。やめろ。それはまずい」
あわてて佐藤先生が茜を止める。まさかとは思ったが茜があまりにも堂々としているのですっかり佐藤は信じてしまった。それに満足げな笑みを見せると
「それでは先生ごきげんよう」
と悠然と茜は去ってゆく。腕輪を没収して反省文50枚を言い渡そうと考えていた佐藤はすっかり毒気を抜かれ呆然と立ち尽くしていた。
*** 茜の日記 *************
今日学校でみなさんからわたくしも古墳少女みたいだと
言っていただいたの。
佐藤先生にも術が使えるものと信じていただいたわ。
これなら佑奈お姉様もきっと妹と認めて下さるはず。
**********************
その翌日1年3組の教室に噂を聞きつけた上月佑奈がやってきた。まなじりをつり上げかなり怒っているようだ。茜は立上がり佑奈に一礼すると
「これは佑奈お姉様。わざわざお越しいただけるなん…」
「ちょっと、あんた。どーゆーつもりよ!」
「はっ?」
「『はっ?』じゃないでしょ!」
「佑奈お姉様、何を怒ってらっしゃるの?」
「その腕輪よ。腕輪」
「あぁ、これですの。佑奈お姉様とおそろいにしようと思いまして手芸店でプラスチックの勾玉を買ってきて作りましたの。よくできてますでしょ?」
「やめてよぉ〜。ただでさえ『今日は妹さんと一緒じゃないの?』ってみんなにからかわれてるんだから。髪形まであたしとおんなじにしてぇ」
「佑奈お姉様と同じにすることてわたしくも佑奈お姉様に一歩でも近付いてゆきたいと思ってますの」
「近付いてこなくていいから。腕輪はやめて!」
「えぇーっ。1時間も掛けて作りましたのに」
「何時間掛かろうとあたしの知ったこっちゃないわ。恥ずかしいからマネしないでよね」
「まぁまぁ、上月姉妹でケンカはよしなさいよ」
「礼香!」
そこへ泉崎礼香が現れた。礼香は佑奈が剣呑な様子で2年2組の教室を飛び出して行ったから様子を見にきたのだ。
「礼香、『上月姉妹』なんて言わないでよ。あたしこの子の姉じゃないんだから」
「1年生相手にムキになるのは大人気ないわよ。『佑奈お姉様』」
礼香が茜の口調をマネして佑奈を諭す。
「礼香までやめてよぉ」
「ひとまずここは2年2組に帰りましょ」
そう言われて佑奈も来たときの勢いを失い帰らざるを得なかった。
そのとき礼香が揶揄の意味を込めて言った『上月姉妹』が佑奈と茜の総称となり全校生徒に広まった。2年生の男子に
「あっ、『上月姉妹のお姉様』だ」
とからかわれたので機嫌の悪かった佑奈はグーでパンチしてやった。(もちろん手加減してであるが…)なので2年生には面と向かって佑奈に『上月姉妹のお姉様』と呼ぶ者はいなくなった。茜は莉奈から
『上月姉妹の妹さん』
とか
『上月茜ちん』」
と呼ばれご機嫌であった。お友達にまわす手紙など非公式の文書には『上月茜』と署名すらしていたから1年生の間では広く『上月茜』の名が通っていた。
*** 茜の日記 *************
今日学校で佑奈お姉様からまねをしないよう怒られたの。
でもクラスのみんなは古墳少女みたいだと言ってくれたわ。
泉崎先輩に『上月姉妹』と呼んでいただいて
とてもうれしかったわ。これからも
佑奈お姉様に妹と認めてもらえるようがんばろうと思うの。
**********************
その12へ
古墳少女佑奈をまず読むと世界観がよくわかります。
タリカス文芸部へ
小説の部屋へ
江東の詩へ
江戸川の詩へ
東松山の詩へ
座間の詩へ
その他の詩へ
掲示板に感想を書く
トップページへ
2002年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2003年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2004年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2005年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2006年吹奏楽部鑑賞レポートページへ
2007年吹奏楽部鑑賞レポートページへ